きゃりーぱみゅぱみゅ、ゲスの極み乙女。など、先鋭的なアーティストを数多く集めているレーベル「unBORDE」から昨年11月にデビューした、弱冠21歳のシンガーソングライター、あいみょん。デビュー時には、自身が編集長を務めるフリーペーパー『東京バージン』を、クラウドファンディングで制作費を集めて作ってみせるなど、音楽だけに縛られないクリエイティブな活動を展開している。
そして5月3日には、2ndシングル『愛を伝えたいだとか』をリリースする。アートワークは、1stシングルのジャケットで表現した「花束にパンツ」が鮮烈だった気鋭のクリエイター、とんだ林蘭が引き続き担当。「あえて予想の逆をいった」という今回の楽曲とアートワークに、二人が込めた思いとは。そして、なぜ20代のスタッフだけを集めてアートワークを制作したのか? あいみょんととんだ林蘭の二人に語ってもらった。
ギタ女でもないし、メンヘラでもない、ということははっきりさせたかったです。(あいみょん)
―ニューシングル『愛を伝えたいだとか』のアートワークも、前回に引き続き、とんださんが担当されたということで。
あいみょん:そうですね。今回はまた、前回とは違う意味で、面白いチームでやらせてもらって……ヤバかったです(笑)。
とんだ林:うん、楽しかったよね(笑)。
―前作『生きていたんだよな』のアートワークは、とんださんの作品をモチーフとして、新たに撮影したものだったんですよね?
とんだ林:前回は、打ち合わせの場で、なぜかみんなが私のInstagramを見始めて……それで、「この花束にパンツのやつがいいんじゃない?」という話になったんですよね。
あいみょん:そう、曲に合うんじゃないかって話になって。偶然なんですけど、歌詞のなかに「下着」と「花束」という言葉も入っていたんですよね。
とんだ林:そうそう。
あいみょん:このジャケットは、リリースしたあとのリアクションも結構すごくて。ライブのとき、ファンの子からお花をもらったりするんですけど、このシングルを出してから、パンツを履いた花束をいただくようになって(笑)。
とんだ林:そうなの? それは……未使用の?
あいみょん:もちろん(笑)。あのジャケットには、それぐらいのインパクトがあったんちゃうかなって思います。
―それを受けつつ、今回の『愛を伝えたいだとか』のアートワークは、どんな感じにしようと考えたのでしょう?
あいみょん:まずは、とんださんに制作途中の曲を聴いてもらって。私としては、とんださんから、どういうものが返ってくるか楽しみに待っていたという感じでした。
―この曲は、前シングルとは異なり、かなりグルーヴィーな曲調だし、歌詞も男性目線のものになっていますが、とんださんはどのように受け取ったのでしょうか?
とんだ林:今までのあいみょんとはちょっと違うし、「こうくるとは思ってなかった」という感じでしたね。だからアートワークも、なにかそういうあいみょんの新しい一面を出したいなって思いました。
あいみょん:この曲は、2ndシングルを出すって決まってから作った曲なんですけど、やっぱり前作のイメージが強くて、「死について歌っている人」と思われるのが、すっごい嫌で。私はいろんな音楽を聴いてきているし、いろんな音楽をやりたいという意志もすごく強いから、「ここはもう、あえて予想を裏切っていこう」と思って作った曲だったんです。
―いわゆる「ギター女子」という呼ばれ方を絶対にされたくないって、前回のインタビュー(歌を歌うだけじゃない、新世代アイコン「あいみょん」を知る) でも言っていましたよね。
あいみょん:そう。「ギタ女」って、すごいダサい言葉じゃないですか? それに、別に死について歌ったからって、メンヘラでもないし。ギタ女でもないし、メンヘラでもない、ということははっきりさせたかったです。
とんだ林:わかる。自分のイメージを世間に決めつけられたくないっていうのは、私も思っていることで。そこに収まっちゃうのが怖いというか、窮屈になっちゃうんだよね。
あいみょん:そうなんです。でも、とんださんの世間的なイメージって、どんなんやろ? 「作品に毒がある」とか、そういう感じですか?
とんだ林:うーん、それもあるかなあ。今は多分、いろいろやっている人だって知ってくれている人が多くなったから、すごく気が楽にはなったけど、そこにいくまでは「コラージュの人」とか「絵を描く人」とか、いろいろ括られた。だからあいみょんも、「“生きていたんだよな”みたいな曲を歌う人」って括られるのは、絶対に嫌だろうなって思ってたよ。
あいみょん:うん、嫌ですね。
女の子が好きそうなポップな色使いとかを、やめようと思ったんです。(とんだ林)
―そんな予想を裏切るような曲をもとに、とんださんは、どんなふうにアートワークのイメージを固めていったのですか?
とんだ林:これまで、ジャケット以外にも、アーティスト写真を何回かやらせてもらっているんですけど、それは結構ポップというか、私が普段作っている世界のなかにあいみょんをポッと入れ込んだようなものが多かったんです。ちょっと女の子っぽいというか、女の子が好きそうなポップな色使いだったり、少し変だったりするようものが多かった。でも、それを一回やめようと思ったんです。今回はクールというか、あいみょんのかっこいい部分を出したいなって。
―とんださんが思う、あいみょんのかっこよさとは?
とんだ林:「両方持っている」ということですよね。少女っぽさと女性らしさ、あと、女の子のかわいらしさと、男の子っぽいクールさ、そういう両方があいみょんにはある。だから、今回はクールな部分にフォーカスを合わせられたらいいなって思いました。今回の作品って、あんまり私っぽい感じとも違うと思うんですよね。
あいみょん:とんださんの作品って、確かに色使いとかも含めてポップなイメージがあるけど、今回は色を引き算した感じになっていますよね。だから、とんださんの作品を知っている人も、これを見て「とんださんの作品だ」とはわからないんじゃないですか?
とんだ林:そうだよね。でも、それでよかったんだよ。
あいみょん:でも、それは私も同じです。今回の曲は、私の曲ですって言わないと、多分「誰?」って感じの曲になっていると思うから。
とんだ林:今回のアートワークは、撮影現場で結構実験的にやらせてもらったところがあって。
あいみょん:そうですね。いろいろやりました(笑)。
とんだ林:今回、デザイナーで入ってくれた沖山(哲弥)くんっていう子が……沖山くんは、あいみょんより年下だよね?
あいみょん:えっと……1歳下かな?
とんだ林:彼は若いけど、すごくセンスのいい男の子で。今回のジャケットのグラフィカルな感じは、結構彼のアイデアも反映しているんです。アーティスト写真の三角形も、ジャケットの目が隠れた線とかも、あとから写真にグラフィックを乗せたとかではなく、現場で色を映し出して撮りました。
たとえば、色使いとかも、当日私が感覚でやっていたら、沖山くんが「紫と緑って、逆の色だから、わざとやったのかと思いました」って言ってきて。「これは対比の色だから」って。
あいみょん:あ、色相環で言うところの?
とんだ林:そうそう。それで他の部分もいい感じになっていったんだけど、そこはあくまで感覚で選んだものだった。だから、偶然生まれた要素も多かったんですよね。
あいみょん:とんださんの現場は、基本的にいつも実験的ですよね。みんなの化学反応を待つみたいな。枚数も、めちゃくちゃたくさん撮るし。でも、とんださん、撮った写真のなかから「これ」って選ぶのは、めっちゃ速いんですよ。そこがすごいと思います。
プロとアマの差がなくなってきているよね。それがすごい怖いところもある。(とんだ林)
―今回のアートワークに関わったスタッフは、全員20代なんですよね。デザイナーには、先ほど名前が挙がった沖山哲弥さん、ヘアメイクには菅谷征起さん、そしてスタイリングに奥冨直人さん、というチームです。
とんだ林:今回のスタイリングは男の子がいいと思って、まずスタイリストを決めたんです。トミー(奥冨直人)はもともと私の友達でもあるんですけど、普段は古着屋さんをやっていて、頼まれたらスタイリングの仕事もやる、という子で。
私は彼の感覚がすごく好きなんですよね。ちょっと変で、一歩間違えたら「超やばい」みたいなものになりそうだけど、「ギリギリのところでアリ」という衣装を彼は持ってくるんです。一つひとつのアイテムは変だけど、全体の組み合わせでかっこよく見せるのが上手いというか。
―今回の衣装も、よくよく見ると、かなり変わってますよね。
とんだ林:そう。で、ヘアメイクは、私が普段髪を切ってもらっている菅谷くんにお願いしたんですけど、彼のヘアメイクは結構抜け感があるというか、ナチュラルで作り込まない感じなんだけど、すごくセンスがある。
あと、カメラマンは熊谷勇樹くんっていう、私が雑誌『GINZA』で、なぜかモデルの仕事をやったときに撮ってもらったカメラマンなんですけど、彼もまた、すごく変わっていて。めっちゃ面白い人なんですよね。
あいみょん:面白かったです(笑)。打ち合わせのときとかすごい無口だったのに、撮影になるといきなりテンションが上がって……(笑)。
とんだ林:私は撮影のときのあのテンションを知っているから、「絶対この人は暴走してくれるだろうな」って打ち合わせのときから思っていたんですけど、そしたら当日、やっぱりすごいことになって(笑)。ポージングの要求とかが、すごいんですよね。
あいみょん:翌日、筋肉痛になりましたもん(笑)。
とんだ林:今回はそうやって、私の周りにいる友達だったり、一緒に仕事をして面白かった人たちを集めてみたんです。みんな20代で、私もアートディレクターとして関わるのは初めてのメンバーばっかりだったから、実験的なところもあったんですけど……結果的にはすごくよかったよね。
あいみょん:自由で面白かったし、全員20代の人たちのなかでやるのは、刺激になる部分がありました。20代の力とか発想って、やっぱり面白いなと思ったし。別に若い人にこだわっているわけではないし、いろんな年代の方とやってみたいとは思ってるんですけど、自分と同じ世代の人たちの考えに触れる機会が最近あまりなかったので、今回の撮影はすごく楽しかったですね。
―今回のスタッフに限らず、今の20代のクリエイターの力や発想って、どんな感じなのでしょう? 上の世代とは、なにが違うと感じますか?
あいみょん:みんな、とりあえずいろいろなことをやっていますよね。ひとつのことをやっているだけではないというか。いろんなことにチャレンジできる時代になっているんだなって思う。興味持ったことを、とりあえず楽しんでやってみてる人たちは、かっこいいなって思いますね。
とんだ林:プロとアマの差がなくなってきているよね。でも、それがすごく怖いところもあって。プロとかアマとかに関わらず、「この人、かっこいい」っていうのが、わかる人にはわかってしまうから。世間の見る目はすごく厳しくなっていると思う。
あいみょん:確かに。音楽とかもそうですよね。流行り廃りみたいなものも、すごい速くなっているし。たとえば今、「シティポップが流行っている」とか言われたりするけど、すぐにグルグル回っていきますもんね。
とんだ林:あいみょんは、そういうの気にしてるの?
あいみょん:私、めっちゃ気にしますよ。
とんだ林:そうなんだ。ちょっと意外だね。
―でも、“愛を伝えたいだとか”も、ちょっとシティポップっぽいところがあるような……。
あいみょん:いやいや、絶対そう思われるじゃないですか。でも、私としては「違うぞ」って言いたいんですよね。やっぱり流行りだけで音楽を見るのは、すごく悲しいことだなって思っていて。
J-POP全盛期だった時代の曲を超えられへんのは、やっぱり悔しいんです。(あいみょん)
あいみょん:結局、20年、30年残る音楽を作られへんかったら意味ないと思っているんです。たとえば、テレビの音楽特番とかを見ていても、結局そこで歌われているのは、昔の名曲ばっかりじゃないですか。J-POP全盛期だった、1990年代とかの曲が多いですよね。
とんだ林:確かに、カラオケとかに行っても、みんなその年代の曲を歌うよね。
あいみょん:そう。それって、どうなのって思ってしまうんです。新しい音楽が盛り上がっているような気もするけど、名曲としては、ほとんど残っていないのが悔しい。あの時代の曲を超えられへんのは、やっぱり悔しいんです。だから、絶対に残る名曲を作りたい。流行りだけで終わってしまうのは、嫌やなあって。
―世間の見る目が厳しくなっているなかでも、多くの人の記憶に残るものを作っていきたいと。
あいみょん:プロとアマチュアの差がわからなくなったというのは、音楽でいうと、メジャーとインディーズの差も、ほとんどないということじゃないですか。結局、残るものが強い。
そういう意味でも、『生きていたんだよな』のジャケットは、ホント最強だと思うんですよね。「花束にパンツを履かせる」というアイデアは、この先誰も奪えないし、もう誰もできないんじゃないかな。だから、あれはホントにいいジャケットだったなって思うんです。とんださんは、自分の作ったものを、作品として、ちゃんと残したいっていう気持ちがありますか?
とんだ林:最近、センスのいい古本屋さんに行って、それはちょっと思ったかな。その店には私の欲しいものがいっぱいあったんだけど、どれも古いものばっかりで。やっぱり、こういうふうに残る状態でなにかを作るというのは、すごく重要なんだと思った。
作品を作って、それをSNSとかに垂れ流すだけでも、まあ残ると言えば残るんだけど、本とかCDみたいに形として残すというのは、私のことを知らない人とか、自分が死んだあとに生まれた人も、偶然手に取る可能性があるわけで。
あいみょん:やっぱり、残したいですよね。
とんだ林:でも、あいみょんの場合は、CDになった時点で、一応残っているんじゃないの?
あいみょん:そうなんですけどね。でも、曲として残していきたいっていう思いが、やっぱり強くあります。
とんだ林:それは、大ヒットさせたいってこと?
あいみょん:名曲として歌い続けられるっていうのは、結局そういうことになりますよね。というか、音楽をやっている以上は、やっぱりそこを目指さないといけないと思う。「微妙に知られて、微妙に残る」というのは嫌です。
もちろん、ジャケがかわいいとかおしゃれって言ってもらえるのはすごく嬉しいけど、やっぱり曲があっての私だし、曲があってのジャケットだったりCDだったりすると思うから。そこはやっぱり、頑張りたいと思っています。
とんだ林:うん、じゃあ世に残る名曲が出てくるのを楽しみにしてる(笑)。
あいみょん:はい、頑張ります(笑)。
- リリース情報
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- あいみょん
『愛を伝えたいだとか』(CD) -
2017年5月3日(水)発売
価格:1,080円(税込)
WPCL-126061. 愛を伝えたいだとか
2. ハッピー
3. MIO
- あいみょん
- イベント情報
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- あいみょん
『愛を伝えたいだとか“SPECIAL LIVE”』 -
2017年5月2日(火)
会場:東京都 代官山 UNIT
- 『「愛を伝えたいだとか」発売記念“ミニライブ&サイン会”』
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2017年5月3日(水・祝)
会場:愛知県 名古屋 パルコ西館 1F特設イベントスペース2017年5月4日(木・祝)
会場:福岡県 キャナルシティ博多 B1Fサンプラザステージ2017年5月4日(木・祝)
会場:福岡県 HMV BOOKS HAKATA 店内イベントスペース
- あいみょん
- プロフィール
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- あいみょん
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1995年生まれ。兵庫県西宮市出身のシンガーソングライター。2015年3月4日、タワレコ限定シングル『貴方解剖純愛歌~死ね~』をリリースし、19歳でデビュー。過激な歌詞が話題となり、各局で放送NGとなりながらもオリコンインディーズチャートでトップ10入り。2016年11月30日、1stシングル『生きていたんだよな』(テレビ東京ほかドラマ『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』オープニングテーマ)で、ワーナーミュージック内レーベル・unBORDEよりメジャーデビュー。2017年、初の書き下ろしとなる映画『恋愛奇譚集』(2月4日公開/全国順次上映)の主題歌を担当。そして、5月3日にはメジャー2ndシングル『愛を伝えたいだとか』リリースが決定。
- とんだ林蘭 (とんだばやし らん)
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1987年生まれ、東京を拠点に活動。コラージュ、イラスト、ぺインティングを中心に幅広い手法を用いて作品を制作する。猟奇的で可愛らしい刺激的なビジュアルは、幅広い層のファンを持つとともに、名付け親である池田貴史(レキシ)をはじめ、音楽アーティストやファッションブランドからも高く評価されている。
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