奇妙礼太郎、Sundayカミデ、テシマコージの三人からなる天才バンドが、約1年半ぶりとなるニューアルバム『ロミオとジュリエット』をリリースする。新曲に加え、今年2月に行ったワンマンツアーから厳選したライブ音源CDと、映像監督の番場秀一によるライブ映像を収録したDVDの2枚組となる本作。そこには、何が起きるかわからない、天才バンドの破天荒なライブの魅力をもっと多くの人に知ってもらいたいという、彼らの願いが込められている。
そもそも、ソロとしても活躍する奇妙礼太郎、自身のバンド・ワンダフルボーイズを率いるSundayカミデの二人が、天才バンドを立ち上げた理由とは何だったのか。そして、彼らがこのバンドでやろうとしていることとは、果たして何なのだろうか。
結果的に、当初想定していた予算を大きくオーバーしてしまったという本作のリリースに寄せて、クラウドファンディングを実施するなど、他のバンドとは異なる独自の活動を展開し続けている天才バンドの三人に話を聞いた。
毎回「わ、こんなことになるんや」っていう驚きがあるようなライブになってきたんです。(Sunday)
―今回のアルバム制作は、そもそもどなたがイニシアチブを取って動き始めたのですか?
奇妙:去年の終わり頃に、天才バンドのマネージャーが、「2月に東名阪でライブを入れようと思ってるんですけど、どうですかね?」っていう話を持ってきて。で、「そのあと、アルバムいけますよね?」っていう話になって……。
Sunday(Cho,Pf):そうそう、半ば誘導尋問みたいな感じでね(笑)。マネージャーは、いろいろアイデアがある男なんです。彼が天才バンドの今後のことを、ふわーっと僕たちにグループメッセージで投げ掛けてくるっていう(笑)。そこから「俺はオーケーやけど、奇妙くんはどうかな?」っていう話をして。
奇妙:僕も同じですね。「Sundayさんが良かったら、やりますけど」っていう。
Sunday:テシマは……ごめんね(笑)。
テシマ(Dr):いやいや(笑)。
―で、実際今年の2月に、東名阪のライブをやったと。
Sunday:その前から、ライブのやり方自体がすごく変わってきていたんです。今もまだ、変わっている途中みたいな感じなんですけどね。
―というと?
Sunday:ある程度セットリストを固めた上で、毎回どこまで違うライブができるかっていうことをやり始めたんです。そしたら、「わ、こんなことになるんや」っていう驚きがあるライブになってきたんですよね。各々の呼吸とか視線をちゃんと見ておかないと、次どうなるかわからない部分を多く含んだライブというか。
―今回のアルバムに入っている東名阪のライブテイクとライブ映像も、そういった驚きがあると。
奇妙:そうですね。Sundayさんが言ったように、ライブがどんどん変わっていっているので、「ライブ音源とか、どうですか?」みたいな気持ちは、結構前からありました。
僕はステージに出ている間は、二人に迷惑をかけることに専念しているところがあって。(奇妙)
―今の話を聞いていても思いましたが、天才バンドというバンドの在り方自体、そもそも非常にユニークですよね。
奇妙:何なんでしょうね。それが結構謎というか。スタジオにも、ほとんど入らないし。
Sunday:スタジオ、入らないねえ。このバンドを始めて、もう何年か経ちますけど、多分5回ぐらいしか入ってないです。
―スタジオに入らずに、どうやって曲を作っていくのですか?
奇妙:1stアルバム(『アインとシュタイン』)は、すでにあったSundayさんの曲を、この三人でやってみようって録って。2nd(『アリスとテレス』)は、それを踏まえて、何度かスタジオに入って、もうちょっと自由に思いついたことを入れてみながら作っていきました。
―そして今回は?
奇妙:今回は、スタジオで録った新曲も入っているんですけど、ライブの音源を聴いてもらいたいという気持ちが強かったです。あと1曲だけ、僕が作った曲が入ってます。“ロミオとジュリエット”っていう表題曲なんですけど。
Sunday:そう、奇妙くんが、2日ぐらいで作った曲。
―天才バンドは、もともとSundayさんの曲を奇妙さんが歌うというのが、基本コンセプトでしたよね?
Sunday:そこから始まったんですけど、三人でやっていくうちに、「あれもいける」「これもやってみたい」とか、いろいろ出てきたんです。前回のアルバムのときも、奇妙くんが「Sundayさん、ベース弾きません?」って言ってきて。それから僕は、ピアノだけではなく、エレキベースを弾くようになりました。
二人がうまいこと、僕のいいところを見つけてくれる。なので僕にとって天才バンドは、とにかく自分の最大限を引き出される場所なんです。最近も、ウッドベースを10年ぶりぐらいに弾いてみたり。天才バンドをやっていると、とにかくスキルが向上します(笑)。
―奇妙さんにとって、天才バンドというのは?
奇妙:僕はステージに出ている間は、基本的に二人に迷惑をかけることに専念しているところがあって……。
Sunday:そういう感じなんや(笑)。
奇妙:というか、僕がどんなに変なことをやっても、Sundayさんが見事に回収してくれるんですよね。
Sunday:ああ、奇妙くんがいろいろ散らかしていったやつを、僕が全部拾っていくっていうね(笑)。
奇妙:そう(笑)。自分ひとりだったら、多分ライブを観ている人たちが「何やよくわからんもん観せられたな」ってなってしまうようなことも、Sundayさんがすごくポップに変えてくれて、「観てよかったわ」って思ってもらえるところに、ちゃんと着地するんです。別のバンドのときは、あまり変なことをしないんですけど、天才バンドは、そのときに思いついたことをやっても大丈夫っていう感覚なんですよね。
やっているほうの都合だけで進んでいくライブが嫌なんですよ。(奇妙)
―思いつきをかたちにできたり、それをしっかり回収したり、そういう生のやりとりが、ソロでも活動されている三人にとっての、天才バンドの醍醐味というか。
奇妙:まあ、テシマくんは、基本的におるだけなんですけど(笑)。ただ、そこにおること自体が、すごいことなので。
Sunday:僕たちと一緒にやるということだけで、すごく大変だし、ほとんど苦行だと思いますよ。
テシマ:いやいや、そんなことないです(笑)。Sundayさんと奇妙さんは特殊な人たちなので、この二人をそばで見ることができるのは、すごく幸せです。ライブでも普段でも、「まさか」みたいなことがいっぱい起こるから、楽しいんですよね。
―いずれにせよ、天才バンドは、ある種即興性が高いというか、その場で思ったことを、自由にやれてしまうようなバンドなのですね。
Sunday:まあ僕もそうですけど、人ってその場で思いついたことをやると、あとで「やっちゃったな」って後悔したり、たかが知れてるじゃないですか。でも、奇妙くんの場合、普通の人の思いつきのレベルより、相当上をいっていて。それに対する返しも、同じクオリティーを求められる。
だからこそ、僕らのライブはショーになっていると思うんです。脱線に次ぐ脱線がすごいドラマを生んでしまう僕らのライブを、マネージャーが横で見てくれていて、「どう伝えていくのが良いだろう」って、ずっと考えていたんだと思います。
―奇妙さんは、ステージに上がると、何か別のスイッチが入ってしまうタイプなんですかね。
奇妙:ああ、そうですね。
Sunday:ただ、奇妙くんは、同じスイッチを持たない人だと思うんですよね。常に新しいスイッチが入る(笑)。だから、予想だにしていないことが起こるというか。
奇妙:(笑)。やっているほうの都合だけで進んでいくライブが嫌なんですよ。自分たちのライブが、エンターテイメントとして完成した状態じゃないからこそ、何とかしよう、じゃあ、何ができるだろうって、お客さんを見ながら毎回その場で考えて、即興しているんです。
奇妙くんは、生きづらそうな反面、すごく生きてる感じがします。(Sunday)
Sunday:でも、「奇妙くんは生きづらそうやな」って思うときもあるんです。同じスイッチを持っていないからこそ、ずーっと面白いんだけど、常に新しいスイッチを押すことってすごく大変だと思うから。
―大変というと?
Sunday:やっぱり、ちょっとストックしておきたいじゃないですか。これは良いなと思ったら、もう1回使ったり。奇妙くんは、それをしないから、生きづらそうな反面、すごく生きてる感じがします。自分から出た良いものも、Amazonで買ったものも、とにかく捨てていくよね。
奇妙:あ、こないだぶら下がり健康器捨てました。
Sunday:そもそも、なぜそれを買ったのかっていう(笑)。
奇妙:や、ある日、どうしてもぶら下がりたいと思ったんですけど、近所に適度な鉄棒のある公園とかなくて……。
―なるほど、こういう感じなんですね(笑)。
Sunday:(笑)。こういう人と一緒に、2時間くらいのステージをお客さんの前でやるのは、毎回ゼロから始まるような潔さがあるんです。そういう意味で、僕がやっているワンダフルボーイズとは、まったく別物なんですよね。
―奇妙さんが、さっきおっしゃっていたように、Sundayさんとテシマさんに迷惑をかけることに専念できるのも、メンバーそれぞれが天才バンドを楽しめるポイントがあることや、Sundayさんとの信頼関係があってこそですね。
奇妙:僕、基本的に、この人のこと、好きなので……。
―どのへんが?
奇妙:全部ですかね。ははは。
Sunday:何これ(笑)。
奇妙:Sundayさんって、自分のことを全然守らないんですよね。すごく難しいことだと思うんですが、自分のことを大きく見せようとしない。それなのに、掘れば掘るほど延々何か出てくる人でもある。
あと、すごくポップだし、勇気がある人なので、見ていて元気が出るんですよ。曲や歌詞にもそういうところがにじみ出ていて……。
―奇妙さんは、天才バンドを始める前から、Sundayさんの“君が誰かの彼女になりくさっても”をはじめ、他の人が作った楽曲もいろいろと歌っていますよね。他の人の曲を多く歌っているという点でも、それをすごく良いものにしてしまうという点でも、普通のシンガーソングライターと、ちょっと違うと思っていて。奇妙さんご自身は、自分でたくさん曲を書かなくてもシンガーソングライターとしてやっていけるのってなぜだと思いますか?
奇妙:何なんでしょうね……まあ、才能かな(笑)。
Sunday:(笑)。
奇妙:まあ、何も考えてないですよ。自分でもできたらいいんですけど、僕には楽曲や歌詞を書く能力がないと思っていて。友だちが書く曲のほうが好きですし。というか、僕、シンガーソングライターでも、ロックンローラーでもないんですよ。ただ、目立ってちやほやされたいだけっていう。
―(笑)。
奇妙:だから、曲を渡されて、それを全力で歌うっていう、たとえば郷ひろみさんみたいな取り組み方に憧れていたりします。でも、自分で曲を書かないとまずいみたいな雰囲気もあって……。
Sunday:まずいっていうより、書いてほしいなっていうことですよ。奇妙くんは、書けるから。
―で、今回は、先ほど言っていた“ロミオとジュリエット”を書き下ろしていて……。
Sunday:すごく良い曲ですよね。
奇妙:やった(笑)。あれは、ライブのときに、その日のライブが何かこのままでは足らん気がするなと思って、苦し紛れに「ミュージカルごっこ」みたいなのをやってみたら、すごく面白かったんですよね。それを歌にしました。
Sunday:まさか、あれが曲になると思ってなかったけどね(笑)。
ライブ中に突然、奇妙くんが「君はどうしてSundayカミデなんだい!」って、大きい声で言い始めたんです。(Sunday)
―「ミュージカルごっこ」とは何でしょう?
Sunday:ライブ中に突然、奇妙くんが「君はどうしてSundayカミデなんだい!」って、歌よりも大きい声で言い始めたんですよ。「何考えてんやろな、この人」と思いながらも(笑)、それにすごく圧倒されてしまって。あのくだりが歌になったら、こうなるのかって思いました。
―奇妙さんはなぜ突然そんなことをし始めたんですか?
奇妙:子どもの頃って、ドラマのセリフを友だちと言い合ったり、テレビの真似をよくしたじゃないですか。でも、大人になってから、やったことないなあと思って。ちょっとその延長というか。
―そういうことを奇妙さんが突発的にやり始めても、Sundayさんは受け止めてくれると。
Sunday:0.01秒くらい頭の中で考えましたけど(笑)。
奇妙:絶対に人のことをフォローするっていう、Sundayさんの生き様みたいなものを感じました。
Sunday:(笑)。
奇妙:僕はフォローしないんですよね。むしろ、フォローする人をじっくり眺めるタイプ。そういえば、Sundayさん、この間も救急車を呼んでましたよね。
Sunday:うん。道端でおじさんが倒れてたので、救急車を呼んだんです。っていうか、僕、知らない人のために救急車呼んだこと、3、4回あります。
奇妙:僕、ないですもん。
―ある意味、正反対なところがある二人というか、そのへんのバランスが絶妙なんですかね。テシマさんは、そんな二人を後ろで見ていて、どうですか?
テシマ:そうですね。ホントに対照的と言えば対照的なところがあって……。
Sunday:まあ、この二人の後ろでドラムを叩くのは、すごく難しいと思います。ときどき、ドラムを無視したりとかしますから(笑)。
テシマ:はははは。
―ただ、テシマさんのこういう感じもまた、ひとつバランスになっているような。
Sunday:そうですね。これでテシマが僕たちの間に入って肩を組んでくるような人だったら、やりにくかったかもわからないです。
奇妙:それはめんどくさいな(笑)。
―誰かひとりは冷静な人がいないと。
奇妙:や、案外みんな冷静ですよ。ライブ中も僕はなるべく冷静であるようにしています。
Sunday:奇妙くんは、冷静だからこそ、すごく怖いんですよね(笑)。だんだんテンションが上がっていって、大きな声を出したりするのが普通じゃないですか。奇妙くんの場合、普通のテンションなのに、突然「どうして君はSundayカミデなんだい?」って始まる。
奇妙:やっぱり、ライブを見終えたあと、お客さんに良かったって思ってもらいたいじゃないですか。そのために、何ができるだろうっていうことを僕なりに考えて……。
―それが、まわりまわってアルバムタイトルになり、さらに書き下ろしの新曲になり……つくづく不思議なバンドですね。
Sunday:そうですね。でも、音楽をやる上で、すごく真っ当な取り組みをしていると思います。自分が生きてきた、生まれてこの方やってきたことを、全部引っ張り出しながらやっているので。
最初、いろんな人から資金を募るっていうのが、ちょっと不思議な気持ちやったんですけどね。(奇妙)
―そんな天才バンドのライブの空気感を楽しめるのが、アルバム『ロミオとジュリエット』だと。
奇妙:そうです。DVDがホント面白いんですよね。自分でもう、何回も見てる。
Sunday:そうそう、自分たちで副音声もつけちゃってね。
―確かに、これまでの話を聞いていると、ぜひライブの映像が見たくなりますよね。
奇妙:やっぱり、映像あってこその感じがあるというか。
Sunday:うん、映像がないと……というか、カメラがすごい台数入っているんですよ。以前、“ロックジェネレーション”と“Joy to the world”のミュージックビデオを撮ってもらった番場秀一さんにお願いしたんですけど、いざ現場に行ったら、アシスタントも含めて10台くらいカメラを用意してくれていて。
奇妙:年末の『笑ってはいけない』シリーズ(日本テレビ『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』の特別番組)みたいに、もうあらゆるところにカメラがあって。すごかったですよね。オフショットも、いろいろ撮ってもらいましたし。
Sunday:ただね、そんなことをやっていたら、明らかに予算をオーバーしてしまったんです(笑)。
―なるほど。それで、クラウドファンディングを使うことになったわけですね。
Sunday:そうなんです。これもマネージャーが「こういうのがあるけど、どうだろう?」って。こういうやり方は、今の時代にすごく合っているんじゃないかと思ったんです。
奇妙:最初、いろんな人から資金を募るっていうのが、ちょっと不思議な気持ちやったんですけどね。でも、だんだん、これは物販が増えたみたいな感じなんやなって思うようになって。
「天才バンド、3rdアルバムをあの番場秀一監督と、応援してくれる皆とで作りたい!」(サイトを見る)
―今回のクラウドファンディングは、リターンの種類がやたらと多いですよね。
Sunday:そこが大事やなと思ったんです。リターンがしっかり準備できたら、クラウドファンディングってかたちはありなんじゃないかって。だからね、僕のブロマイドを作ったり、僕が提唱している「サンデートレーニング」が受けられる権利がついていたり、このリターンは、かなり自信があります。
―ライブのMC集やらトレーニングチケットやら、だんだん音楽に関係なくなっているところが最高ですね(笑)。
奇妙:ホントそうですよね(笑)。この機会に「なるべくみなさんの思い出になるようなものを」と思いながら、みんなで考えていって。
―サービス過剰な感じも含めて、実に天才バンドらしいクラウドファンディングだと思いました。
Sunday:もちろん予算云々の部分もあるんですけど、やっぱり、ライブと同じでみなさんに楽しんでもらうのが一番大事だと思っていて。というか、それが天才バンドの存在意義だと思う。なので、気になった方は、是非参加してほしいですね。
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天才バンド、3rdアルバムをあの番場秀一監督と、応援してくれる皆とで作りたい!
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- 天才バンド (てんさいばんど)
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奇妙礼太郎、Sundayカミデ、テシマコージの3人からなる天才バンド。それぞれの活動と並行して2013年始動。2ndアルバム『アリスとテレス』をunBORDEから2015年11月4日にリリースしメジャーデビュー。2017年2月に東名阪ワンマンツアーを大盛況の中敢行。2017年6月21日に3rdアルバム『ロミオとジュリエット』をリリース予定。それに伴う全国ツアーも発表されている。
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