昨年11月、エンジニアにtoeの美濃隆章を迎えた1stアルバム『NEWTOPIA』でデビューを飾った名古屋発の4人組・The Skateboard Kidsが、配信シングル『Dreamend』を発表した。現役の大学生を含む若いバンドながら、主に海外のアートロックから影響を受けたサイケデリックなサウンドと、日本語詞で歌われるポップなメロディーからは高いポテンシャルが感じられ、地元に残って我が道を進もうとする姿勢からは、OGRE YOU ASSHOLEのような純音楽的なスタンスが見て取れるのもいい。
宅録からスタートし、デモ音源をBandcampで配信リリースを行う一方でカセットテープを制作、インターネットを介してメンバーと出会うなど、非常に現代的とも言えるバンドの成り立ちと、これから先の未来について、日置逸人と花井淳巨に話を聞いた。
父親がレコードコレクターでプログレが大好きだったんです。(日置)
―二人が大学で知り合ってThe Skateboard Kidsを結成したとのことですけど、日置くんも花井くんも音楽に興味を持ったきっかけは家族の影響が大きいそうですね。
花井(Gt,Cho):僕はもともと、父親がギターをやっていたこともあって、小学校のときから近所のクラシックギターの教室に通っていました。あと2つ上の兄がいて、ちょっとだけ一緒にバンドをやったこともあったり。
日置(Vo,Gt,Syn):僕の場合は、父親がレコードコレクターでプログレが大好きだったんです。家ではGenesisとかKing Crimsonとかが流れていて、Asiaの来日公演に連れていかれたりして、そういう幼少期からの経験を通して自分も楽器をやってみたいと思うようになりました。僕の兄もギターをやっていて、兄の影響でオールディーズとかもよく聴いていました。
―プログレやオールディーズが好きだった日置くんが、The Skateboard Kidsの音楽性のような、現行の海外インディーミュージックに触れるようになったきっかけは?
日置:ずっと古い音楽のほうがいいと思っていて、プログレとか、1970年代から80年代の音楽ばかり聴いていたんですけど、大学に入ってから2000年代以降のバンドを聴くようになって、それがすごく新鮮に感じたんです。特にサイケデリックなものが好きになって、DeerhunterやBlonde Redheadとか……完全に「4AD」(イギリスのインディーレーベル)のバンドなんですけど(笑)、その周辺を聴いたのが影響としては一番大きいと思います。
―花井くんの影響源を挙げるとしたら?
花井:僕はデビュー作(『NEWTOPIA』)のエンジニアをやってもらった美濃さんがギターを弾いているtoeがめっちゃ好きです。ドラム、ベース、ギター、それぞれが主張しつつ、上手くかみ合ってるところがすごく気持ちいいと思っていて。なので、僕らも曲を作るときは、音数をただ増やすということはせずに、ちゃんと1音1音が聴こえて、全部の音がかみ合っているということを大事にしています。
自分たちがいいと思って作ったものが、結果的に、みんなからいいって言われるものになる。その順番が一番大事。(花井)
―今のバンドの音楽性はプログレではないですけど、The Skateboard Kidsには「音楽をアートとして捉える」という感覚が背景にある気がして、そこはプログレ譲りなのかなと。
日置:僕はそう思っています。日本のロックバンドにおいては、あんまり「音楽=アート作品」っていう見方をされていないように感じるんですけど、僕らはそういう意識を強く持っているので、自分たちの音楽を芸術作品として捉えてもらえたらなって思っています。
―それこそBlonde Redheadとかは「アートロック」とも言われたりしていますよね。それに今、The Skateboard Kidsに通じる感覚を持ったバンドは増えているように思うんです。最近メジャーで活躍しつつあるバンドで言うと、雨のパレード、LILI LIMIT、mol-74とか、彼らは同時代の洋楽の影響を受けて、サウンド面では冒険をしつつ、でもあくまで日本語のポップな歌ものであろうとしている。彼らのようなバンドにシンパシーを感じたりしますか?
日置・花井:……どうなんでしょう?
日置:単純にあんまりちゃんと聴いたことがないんです。ただ、僕らはサウンドで攻めたことをやりたいと意識しているわけではないし、ポップが正義だとも思ってなくて。自分たちが演奏したときに、「いいやん!」って思えるものをやれていたらそれでいいんです。結果的に、「これ、攻めてるね」みたいに思うことはあるけど、そういうマインドではやってなくて。
―シンプルに、自分たちが楽しいと思う、気持ちいいと思う音楽を追求している?
日置:最近、野心みたいなものが欠けてるんだなって思うんです(笑)。でも、周りのことや受け手のことを気にし過ぎても音楽を作る上ではノイズになるだけなので。「こういう曲にしたら、もっといろんな人が聴いてくれるんじゃないか」とかも考えるし、それはそれで大事なことだと思うんですけど、四人で曲を作ってる段階では、そういうことを頭に入れたくなくて。
花井:「こう言われたから、こうしよう」じゃなくて、自分たちがいいと思って作ったものが、結果的に、みんなからいいって言われるものになる。その順番が一番大事なのかなって。
日置:それが一番健全なやり方なんじゃないかと思います。
東京にはかっこいいバンドがいっぱいいるじゃないですか? そういうバンドが近くにいたら、絶対気になっちゃうと思うんです。(日置)
―自分たちの出身とバンドのアイデンティティーには何か関係があると思いますか?
日置:東京は人が多くてすごく疲れちゃうので、上京したいとは今のところ思ってないです。時間の流れも地元とはちょっと違うというか。東京はちょっと急いでる感じがするけど、僕らは田舎でダラダラ過ごしてきたので(笑)、そういうところは音楽にも影響しているのかなと思います。
―BPMや音像に関係してそうですね。
日置:東京に来たら絶対BPMが速くなると思います(笑)。あと、これは名古屋にいる理由の1つとも言えるんですけど、東京にはかっこいいバンドがいっぱいいるじゃないですか? 僕、Tempalayとかすごく好きなんですけど、ああいうバンドが近くにいたら、絶対気になっちゃうと思うんです。
バンド同士で切磋琢磨することも大事だとは思うんですけど、僕らは距離的に離れていて、情報もネットでしか入ってこないから、変に感化されないで済む。そういうことも自分たちには大事だったりしますね。
―「名古屋のインディシーンに属していた」みたいな感じでもないんですよね?
日置:そもそも名古屋に僕らが属せるようなインディシーンがないというか……。
僕らは曲を作るとき、早ければ5分とかで大体できちゃうんです。(日置)
―東京を意識しつつもどこか距離を取っているところもあると。周りに感化されず、自分たちのペースを保つことを大事にしているとのことですが、曲作りはどのように行っているんですか?
日置:曲作りは、だいたいゼロから四人で、せーので合わせて作り始めるんですけど、早ければ5分とかでできちゃうんです。それは自分たちでもすごく不思議で(笑)。もちろん、できないときは全然できないんですけど、できるときはホントに5分でできて、あとはリズムやコードをちょっと調整するぐらい。最近は「何でそうやってできるんだろう?」って考えてるんですけど、考えちゃうとできないんですよね。
―「名曲」と呼ばれる曲には、頭をひねって作った曲よりも、実はスッとできたものが多いって話もありますよね。もちろん、それはそこまでの積み重ねがあった上での、「作曲時間5分」ってことなんだと思いますけど。
日置:僕らは田舎のスタジオをすごく自由に使わせてもらっているので、長い時間入ってることが多いんです。集まってダラダラと話をして、音作りの延長でドラムのパターンに適当に合わせているうちに、曲になったり。僕ら、コードの知識とかは乏しいので、音楽的にどうこうっていうのはそんなに気にしてなくて。だから四人で経験したことが曲作りに直結してるのかなって思うんですよね。
日置:もともと、曲作りのために集まっても結局ほぼゲームをしてる、みたいな感じで活動がスタートしたのもあって。「昨日楽しかったね」とか、そういう会話からスタジオが始まるので、そこから自然と曲につながるというか。
―言ってみれば、スタジオでダラダラ話してる時間も、曲作りの一工程だと。
日置:そうなんじゃないかなって思いますね。
自分がよく見る夢の記憶と曲の感じがリンクした。(日置)
―『NEWTOPIA』というアルバムは、シンプルに自分たちがいいと思う曲を作り、それを集めた作品だったと思うんですけど、リリースから半年が経って、今振り返ると自分たちにとってどんな意味のある作品だったと思いますか?
花井:最近スタジオに入って作る曲は、『NEWTOPIA』とは全然違う感じの曲が多いんです。1枚出したことによって、また次の違うものが見えてきた気がしていて。
日置:『NEWTOPIA』に入っている曲は、家で遊んでるときに作った曲もあれば、レコーディング直前にできた曲もあって。7曲ですけど、気持ち的にはフルアルバムで、結成からデビューまでの集大成だと思っています。あの作品を出したことによって、バンドの基礎がしっかり固まったので、それを踏まえて今新しいところに踏み込もうとしてるのかなって。
―今回リリースされた新曲“Dreamend”はまさにそんななかで生まれた1曲?
日置:これは前作のレコーディングが終わって、リリースされたくらいから作り始めた曲なので、『NEWTOPIA』と今のちょうど中間くらいのイメージです。
花井:もともと今のアレンジじゃなくて、1回あったものを練り直して作っていて。
日置:今までだと、5分とか短い時間でできないとボツにしていたので、『NEWTOPIA』の収録曲はマックスでも15分で原型はできてるんですけど、“Dreamend”は2週間くらいかけて作った曲で。そういうことは初めてでした。
この曲はイントロのリズムとAメロまではすぐできたんですけど、その先に進まなかったので、1回ボツになりかけたんです。でも持ち帰って聴いてみたら、「これはもうちょっと頑張ってみよう」と思って。そういう作り方を経験したことが、最近の曲作りにも活きているなって感じます。
―なぜ、「これはもうちょっと頑張ってみよう」と思ったのでしょうか?
日置:もう少しやってみようと思ったときのことはすごくよく覚えていて。バスに乗っていたときに未完成の音源を聴いて、それが10曲くらいあったんですけど、この曲だけ妙に引っかかったんです。リズムが気持ちよかったし、自分がよく見る夢の記憶と曲の感じがリンクして。
最近は、勉強みたいな感覚で曲作りをしている。(日置)
―「よく見る夢の記憶」というのは?
日置:高いところからピストルで狙われて、誰か知らない人の手を引いて逃げるんですけど、弾が当たる瞬間に目が覚めるっていう夢で。何回も見ているからすごく印象に残っていて、それがデモとリンクしたんです。それで、そのイメージを基にBメロやサビの構成を作りました。
日置:あと『NEWTOPIA』のレコーディングが終わってから、聴く音楽がちょっと変わって、ビートが強いものが好きになってきたんです。PortisheadとかThe Chemical Brothersみたいに少しダウナーなんだけど、気持ちいい浮遊感をこの曲は持っていたので、この感じを曲に落とし込めれば、違う方法論を身に着けられるはずだって。最近はそういう、勉強みたいな感覚で曲作りをしているところもありますね。
―ギターに関しては、より音数を絞ったアプローチになっていますね。
花井:曲を作ってるときに、ベース、ドラム、シンセ、あと仮歌もすでにあったので、「俺、別に弾かなくてもいいんじゃないか?」って思ったんです(笑)。なのであくまで味つけというか、イントロとかAメロはホントに最小限の音数で、ギターっぽくない音を表現しようと思って弾きました。
―ギタリストは我の強い人も多いけど、花井くんは「曲が一番よくなるように」っていう考え方ですか?
花井:そうですね。我の強いタイプとは真逆だと思います。
日置:最近の曲もギターっぽい感じでは全然弾いてないもんね。「とりあえずトレモロ」みたいな(笑)。
―トレモロを効かせたゆらぎのあるギターサウンドは、すでにThe Skateboard Kidsの代名詞になっていますよね。“Dreamend”を経て、現在作っている曲はどんな方向性になっていますか?
日置:僕のなかでは、前までは淡い色のイメージだったというか、淡い青とか、抽象的な感じだったのが、今はモノクロというか、白黒はっきりした音作りになっていると思います。ビートも強くなって、よりサイケデリックな方向に自然と向かってるような気がしますね。
10人中9人が嫌いでも、そのうちの1人が心酔してくれたらすごく嬉しい。(日置)
―シングルには表題曲の他に、森大地さん(Temple of Kahn / ex.Aureole)のリミックスが収録されています。二人はもともとAureoleの大ファンだったそうですね。
日置:バンドを始めた頃、Aureoleは二人の音楽的な共通点だったので、森さんにやってもらえたのは感動しました。美濃さんもそうですけど、森さんも憧れの人だったので、ホントに嬉しかったし、実際リミックスを聴いて、すごすぎるなって。
The Skateboard Kids『Dreamend』ジャケット(iTunesでダウンロードする)
―最後に、バンドの続け方について話をしたいと思って、それこそ森さんはバンドをやりつつ、レーベルやライブハウスを運営していて、美濃さんはエンジニアをやっている。もちろん、大きな事務所に所属して、メジャーのレコード会社からリリースを続けている人もいっぱいいるし、つまりはバンドの続け方がすごく多様化していると思うんですよね。そういう状況にあって、デビューをしたばかりの二人は、どんなことを考えてるのかなって。
花井:正直、まだ先のことはそんなに考えていないというか、とにかくいい曲を作って、それをみんなに聴いてもらいたいというのが大きいです。どう続けるかはあんまり考えてなくて、「いいものを作ってさえいれば大丈夫」っていう気持ちです。
日置:僕もまだそこについては深く考えてないというか……考えないようにしているのかもしれないです。でも、自分が最高だと思っている音楽がどこまで届くのかは興味があるので、今の四人で行けるところまで行きたいと思っています。だから今はいい意味で「やるしかない」というか、自分たちがいいと思うものを、名古屋からどんどん発信していきたいっていう気持ちですね。
―やっぱり「名古屋から」っていうのは大きい?
日置:現状、僕らは名古屋に居場所がないんですよね。たとえばアメリカだと、地域によってサウンドが違うじゃないですか? それが面白いと思っていて、僕のイメージだと、日本は東京にかっこいいものが集まってて、大阪も面白いなと。今の名古屋はメロコアなんだと思うんですけど、そこに僕らの居場所も作っていきたいんです。
近いところで言うとcinema staff(岐阜県出身)に影響を受けた同世代のバンドってやっぱり多いし、僕らも名古屋に何かを残せたらなっていう想いがあって。でもそのためには全国で戦う必要があるというか、いろんなところに行って得たものを名古屋に持って帰ってきたいなって思っています。
―花井くんはどんな目標がありますか?
花井:極端に言うと、届く人にちゃんと届けばそれでいいと思っています。僕、Aureoleの“Leave”(2012年発表の『REINCARNATION』に収録)って曲が大好きで、一時期その曲を毎日のように聴いていたんですけど、自分も誰かにとってのそういう曲を作れたらなって思います。
―音楽の届き方は、狭く深くでもいいと。
日置:確かに、僕もDeerhunterとかをずっと聴いてきて強く思うのは、ああいう自分たちにしか作れないものを確立したいっていうことで。10人中10人に「結構いいね」って思われるよりも、10人中9人が嫌いでも、そのうちの1人が心酔してくれるほうが嬉しい。「このバンドにしかない」ってものを感じてもらえて、その人にとって替えの効かないバンドになりたいです。
―そういう点でも、やはり名古屋を拠点とすることには意味があると言えそうですね。
日置:そうですね。やっぱり近くにいっぱいバンドがいると、感化されちゃうと思うし、流行りを変に意識しちゃうと思うんです。でも、今はそれがまったくないので、そこは地方のバンドのいいところだと思うし、だからこそ、「自分たちにしかできない音楽」っていうのを作ることができるんじゃないかと思うんですよね。
- リリース情報
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- The Skateboard Kids
『Dreamend』 -
2017年6月16日(金)に配信リリース
1. Dreamend
2. Bonfire(Remix)
3. 1994(Remix)
- The Skateboard Kids
- イベント情報
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- 『PEOPLE AND ME #2 "Dreamend" Release Party!』
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2017年7月17日(月・祝)
会場:愛知県 名古屋 ell.SIZE
- 『The Skateboard Kids ワンマンライブ』
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2017年12月10日(日)
会場:愛知県 名古屋 CLUB UPSET
- プロフィール
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- The Skateboard Kids (ざ すけーとぼーど きっず)
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2015年に結成。オルタナティブやエレクトロを背景にした、ドリーミーな音像に深いこだわりを持つ4人組。2016年11月、美濃隆章(toe)をエンジニアに迎えてレコーディングした『NEWTOPIA』をリリース。2017年6月、配信シングル『Dreamend』を発表、12月10日(日)には地元・名古屋 CLUB UPSETでワンマンライブを控える。
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