ファンタジーを歌うeddaが抱える、日常を歌うことへの罪悪感

「物語音楽」というカテゴリがある。古くはオペラやミュージカル全般がそれにあたり、J-POPのフィールドではSound Horizonが標榜している。1つの楽曲やその連なりを通してファンタジックなストーリーを描いていく表現で、たとえば最近のSEKAI NO OWARIが試みているのもそういう類の音楽だと筆者は捉えている。

福岡出身のアーティストeddaは、そういう「物語音楽」の新しい旗手になりえる才能の持ち主だ。初の全国流通盤となるミニアルバム『さんかく扉のむこうがわ』をリリースする彼女。YUI、絢香、家入レオ、chayなどメジャーフィールドで活躍する数々のスターを世に送り出してきた「音楽塾ヴォイス」出身なのだが、それらの女性シンガーソングライターと彼女の表現の原動力になっているものは大きく異なる。歌の主人公は等身大の女子ではなく、不老不死のバケモノや人魚のようなファンタジー世界の住人たちだ。

以下のインタビューでも語っているように、彼女がルーツに挙げるのはヤン・シュヴァンクマイエルやティム・バートンなどの映像作家。曲を書いて歌うだけでなく、イラストやジオラマなどのビジュアル表現も自ら手がける。彼女の特異な作家性と、その目指すところを語ってもらった。

最初は人前で歌うのなんてイヤだった。

―eddaさんは音楽だけでなく、イラストやジオラマも作っていますよね。それらは、分野は違えど、創作の根っこにあるものは共通している感じがするんです。ダークファンタジーというか、どこか幻想的、あるいは悪夢的な要素がある。そういうものに惹かれるきっかけになった記憶はありますか?

edda:小さな頃からダークファンタジーに惹かれる部分はあって、最初は『不思議の国のアリス』だったと思います。そこからティム・バートンさんやヤン・シュヴァンクマイエルさんとか、コアなほうに流れていって。ファンタジー作品は好きで、いろんな作品を見ます。もちろん明るいファンタジーもすごく好きなんですけど、ダークな要素があればより嬉しいなって(笑)。

イラストをedda自身が手がけたシングル『半魚人』ジャケット
イラストをedda自身が手がけたシングル『半魚人』ジャケット

―『不思議の国のアリス』はいろんなバージョンがありますけど、どれが出会いでした?

edda:たぶんルイス・キャロルの原作の和訳だったと思います。そこからディズニーのアリスも、実写版のアリスも、ヤン・シュヴァンクマイエルさんのアリスも見ました。あとはゲームもいろいろプレイしたんですけれど、なかでも『歪みの国のアリス』(2006年に発表された携帯電話向けホラーテキストアドベンチャーゲーム)がすごく好きでしたね。

edda
edda

―ヤン・シュヴァンクマイエルの作品には、どう出会って、どういうところに惹かれていったんですか?

edda:私、コマ撮り映像を見るのも好きなんですけど、「アリス」か「コマ撮り映像」のどちらかで検索したんです。最初にデザインを見て「可愛い!」って思って、見てみたら面白くて、という感じでのめり込んでいきました。ちょっときつすぎるのもあったんですけど、全体的にすごく好きな世界観です。

ヤン・シュヴァンクマイエルによる『不思議の国のアリス』

―ティム・バートンはどうでしょう?

edda:ティム・バートンさんは『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(1993年)がきっかけですね。それもすごく可愛くて、そこからいろいろ見ました。

―音楽の入り口はどこにあったんですか?

edda:小学校3年生のときにギターを習い始めたんですけど、好きで始めたっていうよりは、なんでもいいから習い事がしてみたい時期で「ギターやってみる?」って親に言われたんですね。そこからギター教室には高校1年生くらいまで通ってて。中学では吹奏楽部に入って3年間みっちりやって、その頃には音楽が日常になってました。

―歌手やシンガーソングライターになる自分をイメージするようになったのは?

edda:私、ギターだけをずっとやってて、中2くらいまで歌を歌ってなかったんです。その時期になってギターの先生に「弾いてるだけじゃつまらないから歌も一緒にやりなさい」って言われて。最初は人前で歌うのなんてイヤだったんですけど、だんだん褒められて嬉しくなって。高校を卒業する頃には日常的に歌を歌うようになりました。

その頃には将来音楽の関係する仕事に就くんだろうな、ってふわっと考えていたんですけど、絵を描くことももの作りも好きだったので、じゃあ音楽を作る人になったらやれるんじゃないかな? って思ったんです。それで「音楽塾ヴォイス」に入塾して音楽を作ることを学び始めました。

ひとりぼっちで寂しいって思ったことも一度もなくて。本を読めば新しい世界はあるし、どこにだって行ける。

―「音楽塾ヴォイス」はYUIさん、絢香さん、家入レオさんなどメジャーで活躍する女性シンガーソングライターを輩出していますが、そういう系譜に連なるような意識はありました?

edda:入ったときは全然そういうふうには思っていなかったです。自分が実際に人前に立って歌うというのはリアルに想像できてなくて。作るのが楽しかったし、物語を構築するのも楽しかったので、曲を作れる人になりたいというのが最初にあったんです。それができなくても編曲を勉強したり、なにかしらしがみついて音楽をやりたいというイメージでした。

―自分がステージに立つというより、裏方というか、世界観を作るほうに興味が向いていた。

edda:そうですね。いまだに歌うことより作ることのほうが楽しいので。

edda

―eddaさんの表現って、YUIさんや家入レオさんのような「ヴォイス」の先輩にあたる人たちとは対照的ですよね。基本的には、日常生活を生きる等身大の女の子たちが、自分を重ね合わせて共感することができるような歌を歌っている。一方で、eddaさんの歌は非日常で、等身大ではない。幻想的な物語を元にしている。ダークファンタジーのルーツが音楽よりも先にあって、ある種の物語を表現する手段として音楽があるという。

edda:そうですね。自分が思ってることをそのまま音楽で表現するのは、すごく難しいことで。それをやろうと思っても全然出てこないんです。

―それはどういうときに実感しましたか?

edda:「ヴォイス」で、あるキーワードに関係するワードを出しなさいっていう授業があったんです。たしか「宝物」だったかな。私は「王様」とか「冒険」を出したんですけれど、同じ授業を受けてた男の子は「彼女」みたいな日常的なワードを出していて。

そういうこともあって、「日常系の歌詞を書いてきなさい」って言われたんですけど、2週間くらい悩んで一言も出てこなかったんです。リアルじゃないというか、ウソばっかりになっちゃうなっていう罪悪感が芽生えて。でも、物語を書くときにはそういう気持ちが全然ないんです。なぜかわからないけれど、それが全て真実だって思える。

―たとえばeddaさんと同じくらいの世代の10代とか20代の人は、TwitterやLINEでコミュニケーションをとりあっていたりすると思うんですが。そういう毎日を描くのがリアルじゃない、そこを歌詞にするのは違うという感覚でしょうか?

edda:そういう日常は私にないんです。基本的にTwitterも見るだけで、リプライを飛ばしあうとかないし、人と遊ぶこともなくて。頻繁に会う友達もいないし、ゲームの世界で生きてることが多くて……だから人と関わるのもある意味ファンタジーの世界であって、それが私にはリアル。人がLINEでどんなやりとりしてるのかわからないからそういう歌詞が書けないのかな。

edda

―話してくれた感じからすると、eddaさんは友達がたくさんいて、わいわいガヤガヤするタイプではないわけですよね。でも、たとえば孤独とか息苦しさを感じることもなく、むしろのびのびとひとりの世界を満喫していたようなタイプだった?

edda:昔から友達はいなかったんですけど、ひとりぼっちで寂しいって思ったことも一度もなくて。本を読めば新しい世界はあるし、どこにだって行けるし。ずっと楽しく生きてきました(笑)。

妖怪やバケモノの子って、姿形も住んでる世界も違うけれど、共感できる部分があるのが面白いと思う。

―今は音楽を作ることで社会とつながるというか、外の世界と関わっているみたいな感覚はありますか?

edda:こういう物語に共感してくれる人がいることもそうですし、ミュージックビデオをアップしたり、CDが出ることで、今までは作って自分の部屋に置いていたものが、人の手に渡って浸透しているのを感じるので、外に出た実感はありますね。そういう意味では外の世界とも関わってるのかなって。

―共感というのはポイントとしてある。

edda:妖怪やバケモノの子って、姿形も住んでる世界も違うけれど、共感できる部分があるのが面白いと思うんです。叩かれたら痛いし、いじわるされたら悲しいし。全く共感できないっていうよりは、そういうところをピックアップしてやっていけたらいいなって考えています。

―今回のミニアルバム『さんかく扉の向こう側』のリード曲“不老不死”もそうですよね。死ぬことができない異形のバケモノが主人公であるけれど、焦点があたっているのはある種の切ない感情である。この曲の着想はどういうところから生まれたんでしょう?

edda:最初に、サビの頭の<私のことを ねえ殺してくれるでしょ>っていうフレーズが出てきたんです。このフレーズを言うのは不老不死の子以外ありえないと思ったから、そういう曲にしようと思って。

edda:どの曲を書くときもそうなんですけど、この子の曲にしようと思ったら、その姿形を細かく考えるんです。髪の毛はこれくらいで、こういう服を着ていてという細かい設定を決めてしまえば、あとはその子が勝手に物語を進めてくれる。それを私が追って書いていくと、曲になるという感覚がいつもあって。

―じゃあ、曲ができ上がったときは、主人公の造形や顔は詳細にある。

edda:そうですね。ただ「曲の主人公はこういうイメージです」って自分で言うのは違うかなって思っていて。細かいビジュアルは出したくないんですけど、自分のなかではありますね。

幼稚園の頃に、『オズの魔法使い』の劇をやったときも、私はみんながやりたくなかった西の魔女がどうしてもやりたくて。

―“半魚人“に関しても、マーメイドの主人公が最初にいた?

edda:そうです。“半魚人”は他の曲とは違って、私のそのときの感情や立場を混ぜながら、自分のなかなかうまくいかない現状を、海から出てこれない半魚人に重ねて書きました。

―舞台設定とキャラクター設定は幻想の世界だけど、感情の部分は自分自身の現実と重なっている。

edda:そういう視点でも見られると思います。なので他とは違うかもしれない。他の曲は、その子の話を聞いて書くんですけど、“半魚人”は「わかる! そうよね!」って思いながら一緒に書いたイメージです。

―対話があるんですね、架空のキャラクターと。

edda:そうですね。この曲は「あなたはそうだったのね」っていう部分と「わかるわかる」って部分が半々です。

―“エッセンシャルパレード”や“ベルベット”はどうでしょう。

edda:この2曲は、もともと曲があって、それを頂いて歌詞を付けるっていう形で作ったので、私の曲のなかではかなり異色ですね。ゼロから生み出したというより、大人になった人がやってきて「この人はどういう人でしょう?」って感じで歌詞を書いたので、難しかったです。物語を外から見てなぞるような形ですね。

―“はちゃめちゃアイランド”はどうですか?

edda:この曲は主人公の女の人が、相手のなかに棲んでる悪魔に恋をするストーリーをもとに書いたんです。その人が更生して心の悪魔を消そうとすると「ちょっとちょっと! 目を覚ましてよ!」って言う、どっちが狂ってるのかわからないような話で。だから狂った曲にしたくて、曲調も明るくてはちゃめちゃで、音も飛んだりするし、バカ騒ぎな感じを表したいと思って書いたんです。

edda

―曲の話を聞いていると、やっぱり最初におっしゃったダークファンタジーの影響はありありと出ているし、単なる幻想より、そこに呪いや死のような、なんらかの毒や退廃的なエッセンスが入ってきていますよね。自分の創作にそういうものが出てくるのは、改めてどういう由来なんだと思いますか?

edda:やっぱり毒のあるものに昔から惹かれるところがあって。幼稚園の頃に、『オズの魔法使い』の劇をやったときも、私はみんながやりたくなかった西の魔女がどうしてもやりたくて。その頃から魔女とか毒のあるものに惹かれるんです。

―どういうところに惹かれるんでしょう?

edda:ほんとは悪い人じゃないのに、悪いふうにしかできない不器用さですかね。いい子にすればわかりやすくみんなに受け入れてもらえるのに、それができない不器用さが可愛いなと思っていて。そういう、どんくさい部分に惹かれますね。

―だから異形のものや、はみ出したものに慈しみのような感覚がある。ヤン・シュヴァンクマイエルやティム・バートンにもそういう視線がありますよね。

edda:そうですね。はみ出し者ですよね。不器用なんだな、可愛いなって思います。

物語を曲にしていくことは、たぶんきっと変わらないと思う。

―僕が思うに、eddaさんの音楽をどう紹介するかということを考えると「物語音楽」というカテゴリが一番しっくりくると思うんですね。ジオラマやイラストのようなビジュアルも含めて1つの世界観を構築している。どうでしょう?

edda本人による自作のジオラマ

edda:たしかに「物語音楽」というのは、私としてもしっくりくるなあと思いますね。それに、eddaって存在も、私ではあるんですけど、物語にいるんです。私が書いているのはその子(edda)が旅をして、出会った子たちのお話なんです。

―では、『さんかく扉の向こう側』というタイトルはどういう象徴なんでしょうか。

edda:物語を集めて曲や絵や作品にしていく旅をしている、その1ページというか。この世界のどこかに「さんかく扉」という扉があって、それを見つけて向こう側に行けたら、その世界には「半魚人」も「不老不死」もいるというイメージで、このタイトルとイラストになりました。

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edda『さんかく扉の向こう側』ジャケット。イラストはedda自身が手がけている(Amazonで見る

―この作品は本で言うなら、最初の章のような感じ?

edda:そうですね。物語を曲にしていくことは、たぶんきっと変わらないと思うので。

―物語の作り手として、その受け止められ方についてはどういうふうに思いますか?

edda:いつも思うのは「私もわからない」って感じですね。「こう思いました」とか「こういう解釈です」って言われると「そうだったのかもしれないな」って思うくらいなので。私が見えなかったその子(主人公たち)の部分を教えてもらったみたいで嬉しいんです。だから、私がその子のことを詳しく言って、それが答えになるのはイヤなんですね。「私はこう思ってる」くらいしか言いたくない。いろんな解釈があると嬉しいです。

―長い目で考えて、eddaさんが5年10年かけてやってみたい、一番大きなことってなんでしょうか?

edda:やってみたいことの1つとして、eddaっていう人がどうして物語を集めているかが気になっていて。「なんでこの子(edda)はそんなことやってるのかな?」って。その話が作れたらなって思っています。それは、1つの曲にまとまるのか、もしかしたらいくつかの物語にわかれてちょっとずつわかっていくのか、私にもわからないんですけど。

―すごくメタ的で面白い話ですね。語り部である「edda=自分の物語」が気になると。

edda:そうですね。それが曲を作っていくなかでわかっていけたら面白いのかなって思います。

―あとは、たとえば何十億もお金を使えたら、ディズニーランドのようにeddaさんの頭のなかにある箱庭的な世界をもとにした街を作るところまで夢は広がるかもしれないとか、そういうことを考えたりしません?

edda:そうですね。それができたらすごく楽しそうです(笑)。

リリース情報
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『さんかく扉のむこうがわ』(CD)

2017年7月19日(水)発売
価格:1,620円(税込)
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1. 不老不死
2. 半魚人
3. エッセンシャルパレード
4. ベルベット
5. はちゃめちゃアイランド

プロフィール
edda
edda (えっだ)

1992年、福岡県出身。音楽塾ヴォイスにて軸となる音楽性を形成。世の中に埋もれているあらゆる感情や声達を人々に伝えたいという想いから、「物語を語り継ぐ」という意味を持つ言葉「edda(エッダ)」をアーティスト名に2017年より活動を開始。音楽による表現だけに留まらず、イラストやジオラマなどを創作することで、独自の世界観を追求。5月31日に地元・福岡限定となるシングル『半魚人』を自主レーベル・Erzahler RECORDSよりリリース。



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