最初は戸惑った?bonobosがクラウドファンディングの是非を語る

昨年発表した現体制初のフルアルバム『23区』が高い評価を獲得したbonobosが、実に6年ぶりとなる日比谷野外音楽堂でのワンマンライブを8月12日に開催。現在、この公演をライブDVDとして残すため、クラウドファンディングを使った映像化プロジェクトが実施されている。15年以上の活動歴を誇り、これまで様々な環境に身を置きながら歩みを進めてきたbonobos。近年はインディペンデントな姿勢を強め、ファンとの密接な関係性を築いてきただけに、クラウドファンディングとは好相性を見せるはずだ。

しかし、蔡忠浩をはじめとしたメンバーは、最初からクラウドファンディングを全肯定できたわけではないそうで、今回のプロジェクトについて「学びの一環でもある」と語る。クラウドファンディングの認知が広まりつつある今だからこそ、そのリアルな意見は改めて耳を傾けるべきものであろう。蔡忠浩、森本夏子、田中佑司の三人に話を訊いた。

(クラウドファンディングについて)相いれない部分も多少あるかなって思ってました。(蔡)

―日比谷野音でのワンマンは6年ぶりになりますね。公演を映像化すべく、クラウドファンディグをスタートしました。

蔡(Vo,Gt):今の五人になって2年近く経つんですけど、アルバムを録って、ビルボードでライブをして、いい積み重ねをしてきているんですよね。それで今回、その状態を映像として残そうってなったときに、もちろん人も機材も必要で。

クラウドファンディングはマネージャーが提案してくれて、あれよあれよという間にやってみることになったので、やるやらないで迷うということはそんなになくて。ただ、せっかくやるんだったら、個人的にやってみたかったことも全部乗っけてみようと思ったんです。

左から:田中佑司、蔡忠浩、森本夏子
左から:田中佑司、蔡忠浩、森本夏子

―リターンのひとつとして、歌詞集本を作るそうですね。

:何年も前からまとめたいと思ってたんです。『ULTRA』(2011年)に入っていた“あなたは太陽”で絵本を作りたいと思って、友達に相談したこともあったんですけど、そのときはタイミングを逃しちゃって。でも、自分の歌詞は何か形にしたいとずっと思っていたので、今回上手く実現すればいいなって。

―クラウドファンディングに対しては、どのようなイメージをお持ちでしたか?

:スタートアップのときに資金が足りないから、クラウドファンディングでお金を集めて、製品化されたものを支援してくれた人に渡すっていうのは、何年も前からいろんな国でいろんな人がやっているのを知っていたので、いい仕組みだなって思ってました。

それこそ、『ULTRA』や『HYPER FOLK』(2014年)を録ってるときに、アレンジがオーケストラな方向にいってたんですけど、弦はチェロとバイオリンとビオラの3人に、何回も弾いてもらって厚みを出してたんです。管も最高4人で同じやり方だったんですけど、欲を言えば、ちゃんとしたオーケストラで、声楽も入れて、ホールで録音したいと思って。

蔡忠浩
蔡忠浩

―昨年インタビューした際に、『ULTRA』『HYPER FOLK』と三部作になる1トラックアルバムを作りたいっておっしゃってましたよね(解散の危機を乗り越え、生まれ変わったbonobosと時代の関係)。

:そうそう、それがやりたくて、そのためにはクラウドファンディングかなって思って、いろいろ調べてみたんです。ただ、当時はほぼ自分たちだけで動いてるような状態だったから、とても手が回らないと思って、諦めたんですよね。なので、クラウドファンディング自体は、いつかやってみたいと思ってました。ただ、バンドマンとして、自分の好きなものを好きに作って好きに売るってことを考えると、相いれない部分も多少あるかなって思っていて……。

―というと?

:自分はわがままに作品を作ってるわけで、お金が足りないなら、自分でお金をためて、わがままを突き通した方が、気持ち的には楽というか。それを人のお金でってなると、自分の作るものに対して、わがままを突き通せないんじゃないかって思ったんですよね。

橋に布をかけたりする美術家のクリスト(ブルガリア生まれの美術家)っているじゃないですか? クリストは作品のプロジェクトがめっちゃでかくて、島一個丸々布で覆ったりするから、何千万とかかるんですけど、そのために自分でドローイングを描いて、それを売って、資金にしてるんです。俺もそういう方が気が楽だなっていう想いはありました。

―森本さんはクラウドファンディングに対してどんなイメージをお持ちでしたか?

森本(Ba):さっき蔡くんが言ってた「オーケストラで録音したい」っていう話のときに、クラウドファンディングって言葉自体を初めて知りました。それが6年くらい前ですね。でも、当時は実態を知らなさすぎたし、しかも、その頃は3人だけでやってたから……。

:前の事務所をやめて、マネジメントも自分たちでやってるような状態だったんです。

森本:「これからどうしていいかわからない」っていう時期だったので、さらに新しいことをするのはちょっとって感じで。

森本夏子
森本夏子

:そういう時期もあったので、お金、バンド運営、作品作り、アーティストとしての見え方……いろいろ考えざるを得ないっていうのはありましたね。

森本:でも、その後に蔡くんの友達のダンサーがクラウドファンディングをやっていて、実際支援もして、これはアリだなって思いました。プロジェクトが達成されたら、私もすごく嬉しかったし。

―田中さんはいかがですか? クラウドファンディングのイメージについて。

田中(Key):はっきり言っちゃうと、僕は蚊帳の外の話だと思ってました。ネガティブでもポジティブでもなく、自分にはあんまり関係ないことかなって。

個人的な考えですけど、ミュージシャンとお客さんの関係性ってパブリックな方向にベクトルが向いてるイメージがあったんですけど、クラウドファンディングはそれがパーソナルな部分に向けられるから、「どうしてそうなるんだろう?」って思って。

田中佑司
田中佑司

―本来開かれているはずの関係が、クローズドになってしまうのではないかということ?

田中:そういうイメージがちょっとありました。僕はわりと、「どのあたりにどういうボールを投げるのか」って考えながら音楽を作ってきたので、急に「あなたとわたし」っていう直のボールのやり取りが始まると、「あれ?」っていう。

でも、クラウドファンディングについての話を聞いたり、自分で調べたりしてみると、楽しいプランを作ったり、やり方次第で変わるものなのかなって思って、今は「これは体験してみないとわからないぞ」って感じてますね。

最初に人様に金をくれっていうのが、ちょっと意地汚いことのように思えたんですよ。(蔡)

―さきほどの田中さんの話の通り、クラウドファンディングってお客さんとの関係性を新たに構築する場所だっていう側面は確かにあると思うんですね。

:そういうことで言うと、bonobosはお客さんのアンケートを活動の参考にすることも多くて。一度、PAシステムまで全部車に積んで、お寺や教会、映画館、幼稚園とか、100人前後の会場で演奏するツアーをやったんです(2011年に行われたツアー『Let's go 3匹!!!tour ~東日本編~』)。

そういうお客さんからの声が如実に反映されやすい、距離の近い活動をしてきたので、それってクラウドファンディングともちょっと近いというか、いろんなプランを考えながら、「この感じ、知ってる」って感覚はありましたね。

『Let's go 3匹!!!tour ~東日本編~』ツアーより

―そういうお客さんとの親密な関係を築いているバンドにとっては、クラウドファンディングはすごく有効な手段だと思います。

:一方で、グッズを作るのも、会場を借りたり機材を揃えるのも、全部自分たちへの投資だと思って、全部自分たちでお金を出してきたから、それが当たり前だっていう感覚が強いんですよね。なので、自分たちが何かを始めるときに、最初に人様に金をくれっていうのが、ちょっと意地汚いことのように思えたんですよ。

―これまで自分たちだけでやってきたがゆえに。

:バンドの運営と共に、事務所機能も自分たちで運営してきたので、大きいお金のやり取りも自分たちでしてきて、それができちゃってたんで……必死でしたけど(笑)。

蔡忠浩

―クラウドファンディングの広がりって、つまりは業界の構造変化の表れだと思うんですね。これまでは大きい会社に所属をするか、インディペンデントでやるか、ざっくり言うとその二者択一だったけど、bonobosのようにその中間に立って、自分たち主導で活動するバンドが増えてきて、だからこそ、クラウドファンディングのようなサービスが広がってきた。

:そうですよね。だから、自分の考えは遅れてるなって思うんですよ。言ってもキャリア長いんで(笑)、最初は事務所やメジャーメーカーに所属してたし、そういうやり方も染みついてる。インディペンデントにみんなを巻き込んだ、新しいお金の集め方、作品の作り方にまだ馴染めてないっていうのも正直感じます。なので、まだ勉強することはたくさんあると思うし、今回も学びの場でもあるなって思いますね。

音楽だけは他の追随を許さないレベルで作っていく。そこさえぶれなければ、何とかなるなって。(森本)

―「6年前に一度クラウドファンディングを考えた」とのことでしたけど、それって世間一般で言うとすごく早くて。そこから徐々にクラウドファンディングが浸透して、去年の『この世界の片隅に』でさらに認知度が高まった。そういう中で、bonobosが実際にクラウドファンディングを使うことによって、様々な議論も含めて、また新たな可能性が見えてくるように思います。

bonobos「日比谷野音ワンマンを映像化プロジェクト!」ビジュアル
bonobos「日比谷野音ワンマンを映像化プロジェクト!」ビジュアル(プロジェクト詳細を見る

:もの作りの工程がまた変わってきてるんでしょうね。古いやり方とは明らかに違う、別のもの作りの流れみたいなのができつつあるんだなって。

あんまり分析的なことはわからないですけど、そこから出てくるものはまだ見たことのないような新しいものだと思うから、それは俺も見てみたい。bonobosを続けてる理由って、自分が聴きたい音楽を作るっていうのが基本だから、今までと違う方法で新しいものができるなら、それは自分も積極的に取り入れたいと思います。

左から:田中佑司、蔡忠浩、森本夏子

田中:僕、『この世界の片隅に』のサントラに参加してるんですよ。音楽を担当したコトリンゴは昔からの知り合いなので、マリンバで何曲か参加させてもらって。で、クラウドファンディングどうこうよりも前に、『この世界の片隅に』って、めっちゃいい作品だったじゃないですか? 僕らもああいうことがやりたいっていうか、まずはいいライブをして、それがパッケージされるってこと自体が大事かなって。

森本:やっぱり、大事なのは常に音楽なんですよね。とにかく、音楽だけは他の追随を許さないレベルで作っていく。どんな時期でもホントそれだけを考えてきて、そこさえぶれずに達成できていれば、何とかなるっていう思いがありました。

逆に言うと、それが達成できていなかったら、bonobosってとっくのとうに終わってるバンドで。でも、音楽をちゃんと更新し続けてきたからこそ、周りの環境が変わろうが、助けてくれる人が出てきてくれたりして、続けてこれたし、揺るぎなくいられたんだと思います。

森本夏子

:何にも知らないアホなおっさんではないから、システムとかお金の話もできるけど、そればっかりになっちゃうのは好きじゃなくて。音楽と、気持ちと、システムと、お金と、全体を見たときに、「楽しいね。最高だね」っていうのが一番の理想なんです。

(野音は)単純に「いいライブができた」じゃなくて、その一歩上を実現させてくれる場所。きっと何かミラクルが起きる。(田中)

―では、野音のライブに向けての話をしたいと思うのですが、日比谷野音はみなさんにとってどんな場所なんでしょう。

:野音に関しては、「絶対に今やらなきゃ」ってことではないんですけど、でもバンドがずっと続くかなんて誰にもわからないし、できるときにやっておいた方がいいなって。あのステージで演奏するのって、俺は特別だと思っているので、あれを今の五人で経験したい。

森本:やりたいときにできる場所ではなくて、ホントにバンドの調子がいいときにしか回ってこないんですよね。振り返ってみると、毎回の野音が節目節目になっていたなと思います。

森本夏子

現体制になって再録されたbonobosの代表曲

―田中さんにとっては、初の野音ワンマンですね。

田中:「アーティストがかっこよく見える会場」っていろいろあると思うんですけど、野音はその中のひとつで、そこに自分が立つとなると、楽しみでもあり、プレッシャーもあって、「かっこいいね」って思ってもらえるように、努力しないとなって気持ちです。

でも、単純に「いいライブができた」じゃなくて、その一歩上を実現させてくれる場所のような気もしていて。神頼みじゃないけど、僕らが一生懸命やれば、きっと何かミラクルが起きるとも思ってるんで、その意味では、ものすごく期待もありますね。

田中佑司

―ちなみに、過去に野音で観たライブで思い出深いものってありますか?

田中:1998年か1999年くらいに観たTHEATRE BROOKですね。ROVOがずっと野音でやってる『MDT FESTIVAL』も何回か行ってます。あとPolarisが2004年に野音でやってて、DVDになってるんですけど、そのときのライブPAが、いつもbonobosのPAをやってくれてる西川一三さんで。しかもそのDVDをドラムの梅ちゃん(梅本浩亘)も持ってて、「あそこに立つんだね」って話をしました。

―蔡さんも「野音は特別」とおっしゃいましたが、「野音マジック」とも言われるあの特別な雰囲気って、何が一番の要因なんでしょうね。

:最近は野外フェスも増えましたけど、演奏時間は40~50分で、時間帯も選べないじゃないですか? でも、野音は全部あるっていうか、明るいうちに始まって、徐々に日が暮れていって、完全に夜になる。天気がよければすごくいいし、雨が降っても別のよさがあったり、どうなろうとも全部が味方をしてくれる場所というか。あとはスタッフと一緒に照明とか飾り付け、舞台セットも作れるから、野音公演ってバンドのキャラクターがはっきり反映されやすいっていうのもあるんじゃないですかね。

左から:田中佑司、蔡忠浩、森本夏子

野音ではまた五人に戻って、「さあ、何ができるか?」っていう、それが楽しみでもあり、挑戦でもあるので、ぜひ見届けてほしいです。(田中)

―昨年はアルバム『23区』のリリースとツアーを、そして今年6月にはビルボード公演を行いました。この一連の流れを経て、6年ぶりの野音公演はどんなものになりそうでしょうか?

:バンドってでかい音で演奏する方が気持ちいいんですけど、いざ人様からお金をいただくとなると、自分たちが気持ちいいだけではダメじゃないですか? だからビルボードでは、クオリティーの高い演奏をするために、中音をどんどん下げて、7~8分くらいの音量で、高品質な演奏を2時間キープするのを目標にしていたんです。

ただ、野音はまたちょっと別で、その日は単純に楽しんでほしい。夏祭りっぽい感じがいいなって思います。「集大成」みたいな感じじゃなくて、お祭りとして、お客さんと一緒に楽しめたらなって。

森本:野音の何がいいって、音量制限がないんですよね。野外のライブでどこまでも広がるような音が出せるような環境って、他にないと思うし、一番気持ちいいと思うから、それをみんなにも体感してもらいたいし、時間の移り変わりも楽しんでほしいです。

森本夏子

田中:ビルボードは武嶋(聡 / サックス)さんと川崎(太一朗 / トランペット)さんに入ってもらって、あの二人が入ることでの効果を改めて思い知らされたんです。でも、野音ではまた五人に戻って、「さあ、何ができるか?」っていう、それが楽しみでもあり、挑戦でもあるので、ぜひ見届けてほしいです。

―野音だから大編成でやるというわけではなく、あえてメンバーのみなんですね。

:そうなんです。そこは潔癖な理由があって、いまのメンバーになってからの初の野音ワンマンなので、この五人だけでやりたい。4年くらい経ったら、「どっちでもよかったね」ってなるのかもしれないけど(笑)、今この瞬間はそこにこだわりたいなって。

左から:森本夏子、蔡忠浩、田中佑司

プロジェクト情報
bonobos、現体制初の日比谷野音ワンマンを映像化プロジェクト!

クラウドファンディングプロジェクトの支援募集は2017年9月10日 23:59まで。

イベント情報
bonobos 日比谷野外音楽堂 ワンマンライブ

2017年8月12日(土)
会場:東京都 日比谷野外大音楽堂

プロフィール
bonobos
bonobos (ぼのぼ)

レゲエ・ダブ、エレクトロニカ、サンバにカリプソと様々なリズムを呑み込みながらフォークへと向かう、多彩なアレンジと卓越した演奏能力にボーカル蔡の心に触れる歌声が混ざりあう、天下無双のハイブリッド未来音楽集団。



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