あなたには、いくつ「ホーム」があるだろうか? 1つか、2つか、はたまた思い出の数だけか? 幼少期からアメリカで過ごしてきたTHE CHARM PARKと、同じく物心ついたときからアメリカで暮らしてきたMichael Kaneko。
日本とアメリカ、二つの場所に「ホーム」を持つシンガーソングライターの二人が、日本を拠点に音楽活動をすると決心したのはなぜか。そのほか、バイリンガルなりの歌詞への取り組み方や、日本のアーティストに共通する「日本らしさ」についてまで、作品を最近リリースしたばかりの二人に語り合ってもらった。
自分のことをアメリカ人と思っていて、アジア人と思っていなかった。(Michael)
―CHARMさんは8歳から24歳まで、Michaelさんは4歳から15歳までアメリカで暮らしていたそうですが、その頃はどんな音楽を聴いていたのでしょうか。
CHARM:僕はアメリカにいながら日本の音楽を聴いていましたね。LAって東京みたいにさまざまなカルチャーが集まっているので、日本の音楽も聴けたんです。それと、兄の影響が大きいかもしれません。僕が小学生の頃、兄の友人で日本人だった方が、当時、日本で流行っていた楽曲が入ったミックステープをくれて。親の運転する車の中でずっと聴いていたんですよ。
Michael:僕もカリフォルニア州のLAに住んでいたんですけど、LAって車社会だから、車の中で聴いていた音楽の影響は大きいですよね。うちは、父がクラシックロックのファンで、常にThe Eaglesやモータウンの楽曲が流れていました。
左から:Michael Kaneko、THE CHARM PARK
―アメリカで暮らしていたときは、家の中では何語を話していたのですか?
CHARM:基本的には英語でしたね。そもそも僕の両親は韓国人なので、日本語を話す機会はほとんどなかった。ただ、母方の家族は大阪育ちで、おばあちゃんは日本語が話せます。
Michael:僕は4歳でアメリカに移住していたので、物心ついたときには周りが英語だらけという状態でした。大抵の日本人は日本語を忘れないよう、土日に「日本人学校」へ通うんですけど、僕は当時サッカーに夢中になっていたからまったく行ってなくて。
―日本語のレベルが4歳の頃で止まったまま、と。
Michael:そう。15歳で日本に戻ってから、初めてカタカナを勉強したんです。漢字なんて全然書けなかった。アジア人としてのアイデンティティーもまったくなくて、自分のことをアメリカ人と思っていたんです(笑)。
―アメリカ人と思いながら、サッカーをしていた。
Michael:そうなんです。当時は「サッカーこそ自分の人生だ!」と思っていて、アメリカ代表の一歩手前までいったこともあるくらい。でも、日本に戻ってから、環境に順応するのがものすごく大変で。文字も言葉もわからないからカルチャーショックも大きかったし、電車の乗り降りひとつ取っても戸惑う毎日。それですごく落ち込んで大変な時期がありました。
それでしばらく家に閉じこもっていたんですけど、母から「何かやったほうがいい」「何にもやらずに10代を過ごして欲しくない」と言われて。それでギター教室に通って、本格的にギターを習い始めたんですよね。
2年くらい前かな、もう音楽をやめようかと思ったこともあります。(Michael)
―CHARMさんは、アメリカに住んでいた頃から日本のレコード会社にデモを送っていたそうですね。
CHARM:はい。当時、自分一人で作っていたデモ音源を友人に聴かせると、「これ日本で受けそうだよね」と言われることが多くて。それで実際に送ったらすぐ反応はあったんです。そのときは嬉しかったですね。
アメリカに住んでいた頃は、韓国のアイドルに楽曲提供をしたり、ギターで客演したりして生活費を稼いでいたんですよ。でも、韓国でやろうという気持ちは特になかった。やっぱりそれは、「仕事」っていう意識が強かったんでしょうね。
Michael:CHARMさんと違って、僕はしばらく音楽活動もなかなか上手くいかなくて。たまに声がかかっても、「歌声はすごくいいから、もっとJ-POPらしい曲を日本語で歌って」と言われるんです。でも自分の中にその表現方法はなかった。やっぱり「自分のやりたい音楽をやらなきゃ意味がない」って思ってたんですよね。
2年くらい前かな、もう音楽をやめようかと思ったこともあります。「自分のやりたい音楽は日本じゃ無理なのかな」って。そしたら偶然にも、いまの所属レーベルであるorigami PRODUCTIONSと出会うことができて、ようやく光が見えて来た。最近、日本でも洋楽を取り入れた音楽が徐々に人気を得始めている点も大きいですね。
―CHARMさんは、大橋トリオのサポートメンバーに抜擢されたのが、キャリアのターニングポイントなのかなと思ったのですが。
CHARM:まさしくそうですね。日本に来てまず思ったのは、「日本人って音楽をしっかり聴いている人が多いな」ということでした。リスナーとしてセンスのいい人がたくさんいて、常にいい音楽を探している。そういう人たちの耳に、ようやく自分の音楽が届き始めたのかなって気がしています。そのキッカケは間違いなく大橋トリオのサポートをさせてもらったことでした。
「自分の中にアーティスト性はあるのか?」がコンプレックスだった。(CHARM)
―最近、CHARMさんはフルアルバム『THE CHARM PARK』を、MichaelさんはデビューEP『Westbound EP』をリリースしました。それぞれの作品のテーマやコンセプトについて聞かせてもらえますか?
CHARM:今回、全部で11曲入っているんですが、それぞれちょっとずつ違うジャンルの音を入れようと思いながら作りました。「これ、本当にTHE CHARM PARK?」って思われるぐらい振り幅を大きくしたつもりが、僕が歌うと僕の音楽になるんですよね。それで結局、統一感が出せました。
CHARM:僕はずっと、職業作家として楽曲を作る仕事をして来たので、「自分の中にアーティスト性はあるのか?」っていうのがコンプレックスだったんです。アーティストというと「自分の色がしっかりある人」というイメージが強いので。でも、今作で統一感が出せたということは、「少しは自分の色もあるのかな?」と思えて自信にもつながりましたね。
THE CHARM PARK『THE CHARM PARK』ジャケット(Amazonで見る)
―どんなにスタイルを変えようと思っても、最後まで変わらない部分こそがオリジナリティーであり、アーティスト色なのかもしれないですね。
CHARM:そう思います。昔、「なるほどな」と思ったのは、「誰かの模倣を一生懸命やってみて、真似できなかったところが自分のオリジナリティーだ」という言葉で、それは制作時に実感しましたね。
それに、今作では所縁のあるミュージシャンに参加してもらいつつ、骨子の部分は全て僕が一人で作り込み、ミックスダウンまで行なっているので、そういう意味でサウンドの質感みたいなものが統一されたのかもしれません。
―Michaelさんもソロシンガーですが、今作『Westbound EP』には多くの方が関わっていますよね?
Michael:origami PRODUCTIONSのメンバーたちがサポートやプロデュースで関わってくださっています。このEPを出す前って、僕のイメージは弾き語りっていう人が多かったと思うんですね。でも今回はバンドっぽさを目指しました。
Michael:あと、生楽器へのこだわりも僕にはあって。もちろん打ち込みの音楽も好きなんですけど、今回はできる限り生っぽさを出したかった。誰かがレビューで「モダンヴィンテージ」と評してくださったんですけど、確かにそういうところはあるなって思います。
Michael Kaneko『Westbound EP』ジャケット(詳細を見る)
英語と日本語では歌声が変わるんですよ。(CHARM)
―歌詞では、どんなことを書かれているんでしょうか?
Michael:僕は、性格的にはハッピーなんですけど、歌詞は結構ドロドロで(笑)。悩んでいる自分がすごく出てる。実は心の奥に抱えている不安を、自分の中から解放しているのかもしれないですね。
CHARM:僕も眠る前にいろんなことを想像して不安になったり、昔のことを思い出してくよくよしたりするのが嫌で、今回“Pillow”という曲を作りました。
あと、アルバム全体として「走る」というワードがテーマになっています。それは、あらかじめ決めていたのではなく、アルバム制作の途中で自然と出てきたというか。そういう無意識の中から出てくる言葉って、常日頃から頭の片隅で考えていることだったりするんですよね。「不安に押しつぶされそうになっても、取り敢えず前へ進もう」っていう意味も含まれています。
―CHARMさんは、英語と日本語を混ぜて歌っている楽曲もありますよね。そうすることで、聴き手にどんな効果がもたらされると思いますか?
CHARM:まず、英語と日本語では歌声が変わるんですよ。英語と日本語でのメロディーの乗せ方の違いをちゃんと意識しながら歌うと、声そのものも違ってくる。それがなぜかはよくわからないけど、日本語の方が言葉の意味がよりクリアに伝わる気がします。
だから、英語の歌詞はより語感を優先して、日本語は意味を優先させるようにしていますね。僕にとっては英語が母国語で、日本語は母国語じゃないから、そこでの取り組み方の違いもあるのかもしれないです。
Michael:僕はやりたいことをやっているだけで、そこまで深いことは考えていないのですが……やっぱり、子供の頃から慣れ親しんできたから自然と英語詞になりますね。これまで作った曲の中には日本語の曲もあるんですけど、今後も英語でやっていきたいと思ってます。
Michael:海外でもこれから活動していきたいし、ネイティブ英語を話せるのは自分の強みでもあるわけだから、そこは守っていきたい。もちろん、今後また日本語で歌詞を書きたくなるときもあるかもしれないので、そこはあまり意固地にならないようにはしたい。
ギター男子を普及させたいです。(Michael)
―日本とアメリカの両方で暮らしてきて、いまは日本を拠点に活動をされている二人ですが、ご自身の「ホーム」はどちらにあると感じていますか?
CHARM:僕も一時は「自分のホームはどこなんだろう?」って思ったこともありますけど、最近はどうでもいいと感じていますね。だって、アメリカ人である僕の場合、「日本とは何の関係もない人」になってしまうじゃないですか。いま、こうやって日本で活動しているのは楽しいし、自分の音楽を聴いてくれるのは日本人が多いわけで。
もちろん「故郷は?」ってシンプルに聞かれたときには「アメリカです」って答えるかもしれないけど、僕の音楽的な好みはむしろ日本人に近いと思うし、日本でいいと思われてる音楽の方が、アメリカでいいと思われている音楽よりも好きなので。
―日本の音楽の良さってどんなところにあると思います?
CHARM:コード進行もメロディーも、すごく作り込んであって、職人っぽさを感じるところ。日本人の国民性がよく出ていますよね。山下達郎さんの曲とかは、洋楽の良さも取り入れつつ、日本人らしい職人っぽさも感じます。
Michael:確かに、Nujabesの音楽も、日本人のフィーリングが入っていると感じる。洋楽を取り入れようとしても、日本人らしさが入り込んでくるのは興味深いです。
ただ、僕が好きな音楽って、日本ではあまり支持されていないことも多いので、「こういう音楽もあるんだよ」というのを、自分の活動を通してもっと紹介していきたい。そして日本以外の国に対しては「日本でも英語ネイティブでこうやって活動しているシンガーソングライターがいるんだよ」って発信していきたいです。それが、日本で活動を行っている意味なのかも。
CHARM:日本の音楽で「世界に通じる」と言われてきたものは、インストゥルメンタルの方が多いって聞いたことがあって。それって何故なのかなと思ったら、やっぱり言語の問題も大きいと思うんですよ。でもMichaelさんはネイティブの英語で歌えるし、きっと日本と海外の架け橋になってくれるような作品を、これからも作り続けてくれると思います。
Michael:ありがとうございます。僕から見てCHARMさんは、洋楽の良さと、J-POPのバックグラウンドを、絶妙なバランスで持ち合わせている人なんだと感じます。そのバランスって実は、すごく難しいと思うんです。
英語も話せる自分たちと同世代の男性シンガーソンングライターって、まだまだ少なくないですか? 女性だったら宇多田ヒカルさんとかいるけど、いまはバンドが主流っていうのもあって、そもそも男性でアコギを弾きながら一人で歌うなんて、超マイナーな存在ですよね(笑)。だから、お互いに頑張りましょう。ギター女子に負けないよう、ギター男子を普及させたいです(笑)。
- リリース情報
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- THE CHARM PARK
『THE CHARM PARK』(CD) -
2017年11月8日(水)発売
3,024円
TRJC-10701. Lights
2. Fly Free
3. ディスク
4. 進む
5. Pillow
6. Run
7. Starry
8. Make it Okay
9. Favorite Songs
10. Lost
11. Dreamers
- THE CHARM PARK
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- THE CHARM PARK
『THE CHARM PARK』 -
2017年11月8日(水)からiTunesほかで配信リリース
価格:2,100円(税込)1. Lights
2. Fly Free
3. ディスク
4. 進む
5. Pillow
6. Run
7. Starry
8. Make it Okay
9. Favorite Songs
10. Lost
11. Dreamers
- THE CHARM PARK
- イベント情報
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- 『THE CHARM PARK GRAND OPEN TOUR -OSAKA-』
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2017年12月14日(木)
会場:大阪府 BananaHall
- 『THE CHARM PARK GRAND OPEN TOUR -TOKYO-』
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2017年12月18日(月)
会場:東京都 渋谷duo MUSIC EXCHANGE
- リリース情報
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- Michael Kaneko
『Westbound EP』(CD) -
2017年10月25日(水)発売
価格:1,296円(税込)
OPCA-10341. Lost In This City
2. Flooded
3. Separate Seasons
4. Cracks In The Ceiling
5. It Takes Two
- Michael Kaneko
- イベント情報
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- Michael Kaneko『Westbound EP』Release Party
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2017年11月24日(金)
会場:東京都 代官山LOOP
- Michael Kaneko『Westbound EP Tour in Kyushu』
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2017年12月8日(金)
会場:熊本県 Thought whole living store2017年12月9日(土)
会場:福岡県 福岡 brick2017年12月10日(日)
会場:長崎県 Ohana Cafe
- プロフィール
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- THE CHARM PARK (ざ ちゃーむ ぱーく)
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アメリカ・ロサンゼルス育ちのシンガーソングライターCHARMが歌、ソングライティング、演奏をほぼ1人で行うソロプロジェクト。マサチューセッツ州ボストンにあるバークリー音楽大学でギターを専攻したのち来日した彼は、2015年11月に1stミニアルバム『A LETTER』を発表し、叙情的で美しい楽曲とオーガニックかつダイナミックなサウンド、緻密なメロディで注目を集めた。2016年12月リリースの2ndミニアルバム『A REPLY』は、Apple Musicが新人アーティストを毎週1組ピックアップする企画「今週のNEW ARTIST」に選出された。2017年にはメナード「薬用ビューネ」のCMソングを担当し、V6のアルバム『The ONES』に表題曲を提供。同年11月に初のフルアルバム『THE CHARM PARK』をリリースしたのち、12月に東京と大阪でワンマンライブ「THE CHARM PARK GRAND OPEN TOUR」を開催する。自身のソロ活動のほかに大橋トリオのツアーサポートや、南波志帆のサウンドプロデュースなども行っている。
- Michael Kaneko (まいける かねこ)
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湘南生まれ、南カリフォルニア育ちの日本人シンガーソングライター。ウィスパーながらも芯のあるシルキーヴォイスが話題となり、デビュー前にもかかわらずその声は5,000万人に届くことに。2017年に『Westbound EP』をリリース、活躍の場を世界規模で広げている。
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