世界を変えるのは、いつだって新たな才能だ。米国アカデミー賞公認、アジア最大級の国際短編映画祭『ショートショートフィルムフェスティバル&アジア』。本イベントでは、学生が制作した5分以内のショートフィルムを公募する「学生部門 Supported by フェローズ」が立ち上げられた。スマートフォンでも簡単に映像が撮れるようになったいま、瑞々しいアイデアを形にする「ショートフィルム」は、ハードルは低く、かつ深い世界観を作り込むことができる器として、魅力的なものだろう。
そこで今回は、学生監督として活躍する二人に「学生が映画を撮ること」の奥深さについてじっくりと話を聞いてみた。一人は、14歳から映画制作を行ない、岩井俊二から絶賛された『脱脱脱脱17』やHKT48のMVで注目される松本花奈。もう一人は13歳にして注目され、北野武から激賞された『やぎの冒険』やCoccoが出演した『人魚に会える日。』といった長編作で、オリジナルな映像作家として歩を進めてきた仲村颯悟。キャリアの初期に短編で世に出た後、同じ大学に通い、作品を作り続ける両者の対話は、とても刺激的なものになった。
高価でないカメラでもクオリティの高い映像が撮れちゃうからこそ、難しいこともあります。(松本)
—お二人が映画を制作し始めたのは、仲村さんが小学生の頃から、松本さんが中学生からということで、とても早いですよね。どういう思いで撮り始めたのでしょうか。
仲村:僕は小学校3年生の運動会の後に撮り始めたんです。ホームビデオカメラが家にあったんですが、イベント以外のときは埃をかぶっていて。「誰も使わないなら自分が使おう」と思い、そのカメラを持ち出して撮り始めたのが最初ですね。
小学生ですから、ビデオカメラを持ってうろちょろしていたら、近所のちびっ子たちが――あ、僕もちびっ子でしたが(笑)、「何持ってるのー?」と集まってくるんです。それで仲間ができて、今度はみんなで遊んでいる風景を撮り始める。そして、自然と「物語を作ってみたいな」となるんですね。
みんなで物語のアイデアを出し合って、戦隊モノの演技をして、撮影したら家のテレビに繋いで見る、と。その「遊び」をいまもずっと続けているだけ、という感じです。
松本:私は中学2年生のときに、『ぴあフィルムフェスティバル』(以下、『PFF』)に応募したんです。
仲村:その年齢で『PFF』を知ってたの?
松本:当時、好きだった大学生が『PFF』に受かっていて、それで初めて行って……「あ、カッコイイ。私も!」と思ってすぐに撮影して応募したのが最初。
仲村:ませてるなー! それがきっかけなんだ。
松本:だから動機としてはめちゃくちゃ不純かも……普通に落選したし(笑)。でも、それからも中学、高校と映像制作を続けていったんです。
—いきなりカメラを手にとって、作品応募までやりきれるものなんでしょうか?
松本:カメラへの興味も相まって、という感じなんですよね。そのころ丁度、写真用のデジタルカメラを買ってもらっていたんですが、たとえば花火を綺麗だと思っても、写真に撮ると目で見るよりも魅力が半減してしまう。その差にすごく違和感を抱いて。
「目で見ているよりもいい写真を撮るにはどうしたらいいんだろう」と考え始めた時期でもあったんですね。そして映像を撮っていく過程で、今度は編集の面白さに興味が移っていったんです。機械的なものに関心があったのかな。
—お二人の世代では、パソコンやスマートフォンなど、撮影するにも編集するにもハードルが低い時代になったように思います。
仲村:フィルムも要らないし、「遊びでやってみよう」ということも気軽にできますよね。その意味でのハードルはない世代なのかも。
松本:でも高価でないカメラでもクオリティーの高い映像が撮れちゃうからこそ、難しいこともあります。映像のレベルが一定まで高くなってきている分、ストーリーとかで工夫しないと差がつかないんです。
—最初のハードルが低い分、そこから先を突き詰められるかですね。
松本:何のために、何を伝えたいのか。自分が観客だったらこれを見たいな、これが面白いと思う、という作品を作るのが一番だと思っています。
計算しても、伝わらないものは伝わらないし、計算しなくても伝わるものは伝わります。(仲村)
—映画の作り方は勉強しましたか? 下手に勉強すると、作品がつまらなくなってしまうこともありそうですが。
仲村:正直、いままであんまり勉強していないですね。ただ、沖縄市観光協会とのつながりで『涙そうそう』や『チェケラッチョ!!』(共に2006年)、崔洋一監督の『カムイ外伝』(2009年)といった現場に連れていってもらったりはしました。あとは、友だちと作っていた映画で大きなガジュマルの樹をロケ地にしたくて、小6か中1の頃、沖縄フィルムオフィス(現地のフィルムコミッション)に相談しに行ったら、子どもがインディーズ映画の相談に来たというので面白がってもらって、色々と撮影現場を見せてもらったりとか。「映画ってこう撮るんだ」とすごい刺激をもらいました。
松本:私も勉強らしい勉強は、ぶっちゃけていうとほとんどしたことはないです。ただ、「編集」の技術だけは、撮影を開始する前に絶対に知っておいたほうがよかったと思います。ここはこういう編集で、こういう繋ぎにしたら意図が伝わるからじゃあ撮影ではこういうアングルで撮ろう、といったように先を読む力は非常に大切になってくると思うので。
仲村:僕は『やぎの散歩』のころ、カット割りも好き勝手にやっていて……その後、多少の勉強はしたけれど、「それに縛られてもなあ」、とは思います。約2年前に撮った『人魚に会える日。』でも、イマジナリーライン(カットの切り替わりの際に原則的にカメラが越えてはいけないとされる、2人の対話者を結ぶ線)もどんどん無視して撮影していたし……。
計算しても、伝わらないものは伝わらないし、計算しなくても伝わるものは伝わるとずっと思っています。あ、いや、でも、ちゃんと学んだ方がいいかも……(笑)。
松本:何だなんだ、どっちなんだ?(笑)
仲村:うーん……(笑)。変にガチガチに「映画はこう撮るんだ」とやらなくても、素直に撮れば、自分の「色」は絶対に出るとは思う。
—このあたりに、お二人の作家性の違いがあるのかもしれないですね。仲村さんは松本さんの作品をどう思いますか。
仲村:華やかだし、心から「いいなあ」と憧れます。僕のように、リアルに近いものを追い求めるリアリズム思考とは違って、エンターテイメントとして映画を捉えているし、キャラクターがしっかりしているので、その人物を見ていて好きになる。
僕がより自然なものを出したがるのに対して、松本さんは完全に作り込むタイプ。そこは僕がやろうとしてもなかなかできないところで、本当にすごいなあと思います。
松本:逆に私は仲村さんの登場人物たちにリアリティーがあるところ、ちょっとドキュメンタリーっぽい雰囲気の中で人間味があるところが素敵だなと思うし、そこに共感できるんです。「生々しいな」というか、作り込まれていなくて、ちゃんと存在している人というか……そこがすごく良かった。
—作り込む / 作り込まないといったテイストは、短編のころから、お二人共に変わりませんね。
松本:たしかに、意外と変わらないのかもしれない。負の感情が起きたときに作品を作ることが多いんですが、自分の理想を追い求めるからハッピーなほうにフィクションを作り込んでいく。逆に、作り込まずに人間味があるものを撮ってみたいという目標もあります。
仲村:僕も負の感情のときにシナリオを描くんですが、むしろ負のほうに自分を徹底的に沈めて書いて、書き終わったらプカーッと水面に浮きあがってくるみたいなことが多いですね(笑)。
映画というのは、自分が産み落とした小さな卵をみんなが育てて鶏にするようなものなんです。(仲村)
—そんなスタイルの違うお二人が、映画作りで楽しいのはどんなときですか。
松本:撮影に入る前に、だいたいこう撮りたい、こういう画にしたい、と想定していたものを、現場のモニターで見た映像が超えていた瞬間——イメージと違っているけど、「こっちのほうがいい」と思ったときですね。
自分の想像を上回って、どんどん魔法がかかって進化していくのをリアルタイムで見ることができる。一人じゃできないけど、みんなでやったらできるという、大勢の力を感じられたときが一番楽しいですね。
仲村:うわー、すごいわかります。僕、自分の作品のエンドロールを見るのが好きで。「この人も手伝ってくれたなあ」と思いながらニヤニヤしてしまうので(笑)。完成した映画というのは、一人ひとりの愛が作品に込められていて、自分が産み落とした小さな卵をみんなが育てて鶏にしたようなものなんです。
ショートフィルムはストーリーを突き詰めなきゃいけない難しさもあるけれど、長編の制作期間だと出てしまいがちなチームの調子の波がなくて、みんなのモチベーションが100%の濃密なままで突っ走ることができるから、やれることの幅も大きいかも。
第三者に見せないとちゃんと映画は完成しないんだと思います。(仲村)
—お二人とも、『ショートショートフィルムフェスティバル&アジア』(以下、『SSFF & ASIA』)で耳目を集めていますね。仲村さんは短編『やぎの散歩』で2010年にノミネート、松本さんはミュージシャン、竹友あつきさんの楽曲“ワレモノ注意”のMVでノミネートされています。
仲村:『やぎの散歩』は13歳のときに、『沖縄観光ドラマコンペティション』に応募した脚本が選ばれて、自分で監督したものです。それまでは自分の楽しみとして撮っていた映像が映画祭にノミネートされることで、「人に見せるにはもっと工夫が必要なんだ」「こう撮ったらこういう受け取られ方をするんだ」と気づいたんですよね。
松本:『SSFF & ASIA』会期中に同じプログラムの他の作品も見る機会があったんですが、それまで自分が見てきたMVとは違った、短編映画のようなMVにたくさん触れることができて、私にとって転機といえる経験でした。人に自分の作品を見てもらって、感想やレスポンスが来るのも初めてで、とても面白いなと思いましたね。
—『SSFF & ASIA』では、2018年度から学生が制作した5分以内のショートフィルムを公募する「学生部門 Supported by フェローズ」が立ち上げられました。応募しようと思っている学生さんたちに、声をかけるとしたら何と伝えますか。
松本:私個人としては、せっかく応募するなら「優秀賞」を狙って欲しいと思います。もちろんただ撮るというのもいいですが、誰だって明日何があるかわからないんだから、「この作品が最後だ」と思って熱い気持ちで作ってくれたら、と。
仲村:僕もいつも、「これが最後だ」「最高傑作だ」って思いながら撮影しています。だから、宮崎駿が毎回引退宣言をする気持ちが、よくわかるんですよ(笑)。それぐらいのヴァイブスで本人はやっているんだ、ということなんですよね。
—学生監督の方が宮崎駿の気持ちがわかるというのには驚きます(笑)。
仲村:それで次を撮ったら、また「これこそが最高傑作だ」って自分で思う、と。それぐらいの気持ちで作品を撮れたら、絶対に面白いですね。そして、今回は人に見せるためのすごくいいチャンス。利用しないともったいない。
自分の周りでも、Youtuberを含めて、映像を撮っている人はたくさんいます。でも映画に関していえば、予算が使える専門系の学校や大学でも、自分たちから発信する人たちが少ない印象があるんですよね。みんなとてもいい作品を撮っているのに……。
松本:「撮って終わり」という人が意外と多い。
仲村:そうそう。たしかに、人に見せるということは作品を完成させるのと同じくらいの気力が必要なんですよ。
だからこそ、人前で作品を見せる大きなチャンスは貴重。見られることでいろんなフィードバックがもらえるし、自信にも繋がるし、次の作品への考えも深まっていくはずです。
松本:見せないのはきっと、最初に目標を決めていないからじゃないかな。見せるために撮るんじゃなく、何となく撮っている、というか。
中学生のときに作ったある長編は、撮影から編集までプロセスが長いので息切れして疲れちゃって……。撮っている最中は「めっちゃいい!」と思っても、撮り終わって編集をごちゃごちゃやっていたら、あんまりその作品が好きじゃなくなったり、興味がなくなったりして、お蔵入りになってしまったこともありましたね。
仲村:僕も未完成の作品はありますね。それも途中で疲れちゃったから。撮影は終わっていたけれど、編集の途中であきらめてしまいました……。
松本:撮影のときはみんながいるから大丈夫だけど、その後の作業は、「やらなきゃいけない」という作品じゃない限り、自発的に動かなきゃいけないから。それは本当のモチベーションがないと、しんどくて疲れちゃう。
仲村:僕は中学生のときに、公民館を借りて、募金箱を置いて、自主上映会をやっていたんです。それは次回作の制作費が欲しかったからなんですが、ただ上映をしても、身内だとどうしても作品を褒めがちになってしまう。それは自己満足で、本当の第三者に見せないとちゃんと映画は完成しないんだと、あのときに僕は気が付きました。
きちんとした映画の評価は、第三者にしかできない。だからこそ、『SSFF & ASIA』のような映画祭に応募して誰かに見てもらうことは、その映画の「本当の良さ」を見つけるためにも大事なんです。
『SSFF 2018』の学生部門作品応募ポスター(詳細はこちら)
私たちは面白いことを見つけたい、そしていま映像が面白いからやっているだけなんです。(松本)
—それぞれ映画祭で高い評価を得て、現在も活躍されていますが、将来についてはどうお考えですか。
仲村:撮りたいものはたくさんあるし、撮っていきたいという気持ちはもちろんあるんですが、必ずしも映像でなくても、何かを生み出せれば僕は楽しいんだということに最近気づきました。
—何かを作って楽しいと感じる、あるいは心が沸き立つ、そんな瞬間を形にしてくれるもののひとつとして、映像がある、ということでしょうか。
仲村:はい。だからたぶん、僕ら二人は映画専門の学校にいかなかったんだと思います(二人とも現役で慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスに通っている)。小中学生のときから映画を撮って、みんなから「その道に進む」と思われながら、そこに直接いかなかったというのは、映像に固執せず、いろんなものを吸収したがっているからかな、と。
松本:そうそう。私たちは、面白いことを見つけたい、そしていま映像が面白いからやっている、ということなんです。
—最近、映像に限らず若い世代の人に取材していると、自分がいま携わっているジャンルに関して「いまの自分にとって暫定的にベストなものがこのジャンルなんだ」と思っているという、独特の世代感があるような気がします。上の世代の映像作家の人からすれば、「映像に命を賭けろ」と怒られそうな気もしますが(笑)。とても興味深いです。
仲村:でも、「別に映画でなくてもいい」という感覚があるからこそ柔軟でいられるし、いろんなところに飛び込んでいける。その結果が映画の形に結実していくと思っているんです。
松本:いろんな経験をしていけばいいと思うんですよね。私も20代、30代、40代と、年齢によってやることも変えていきたいなと感じています。そうした中で、もちろん映像にも携わりたい。ジャンルも限定せず、映画もCMもMVも、面白いことをしていきたいですね。
- リリース情報
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- ショートショートフィルムフェスティバル&アジア 2018 学生部門 Supported by フェローズ
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応募期間:2017年12月18日(月)~2018年2月28日(水)
登録料:無料
尺:5分以内
優秀賞:30万円
- プロフィール
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- 仲村颯悟 (なかむら りゅうご)
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1996年1月10日、沖縄県沖縄市生まれ。小学⽣の頃から映像制作を行う。第1回沖縄映像コンペティションに応募し監督した短編『やぎの散歩』が国内外から絶賛されたことをきっかけに、13歳のときに『やぎの冒険』(2010年)で全国デビュー。同作は沖縄県内で大ヒットを記録したほか、『上海国際映画祭』をはじめ海外の映画祭に正式招待され話題を呼んだ。2012年、『世界まる見え!テレビ特捜部』(NTV)において実施された映像コンテストにて、ビートたけしより「たけし賞」を受賞。現在は慶應義塾大学に在学中。
- 松本花奈 (まつもと はな)
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1998年生まれ。慶應義塾大学在学中。監督作、映画『脱脱脱脱17』が『ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2016』にて審査員特別賞&観客賞受賞、翌年、渋谷・ユーロスペースにて単独公開される。2017年夏に撮った映画『スクールアウトサイダー』は丸の内ピカデリーにて1日限定上映された。その他の作品にキットカットショートムービー「運命と出会うまでの一週間」、HKT48“キスは待つしかないのでしょうか?”MV、羊文学“Step”MV等。『第29回東京国際映画祭』フェスティバルナビゲーター就任。
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