POLYPLUSとは、エンタメジャズバンド・CalmeraのTSUUJIIと175RのYOSHIAKIの出会いをきっかけに生まれた、異色な掛け合わせによる5人組バンド。他のメンバーは、JABBERLOOPのYUKI、Neighbors ComplainのGotti、JABBERLOOP / fox capture planのMELTENと、日本のクラブジャズを追いかけてきた人ならば、誰もが目を輝かせるであろうプレイヤーたちの集合体だ。
2014年の初ライブからは4年が経過しているものの、メンバーそれぞれメインバンドの活動もあり、なかなかスケジュールを合わせることが難しいため、これまでPOLYPLUSとして格別大きな動きは見せず、ライブは年に3~4本程度。それでも、各々のバンドのファンやクラブジャズリスナーのあいだで着実に注目を集め、口コミでジワジワと評判を高めていた。
そんな彼らが、Playwrightから、ついに初作品を発表。4月1日、3曲入りのシングル『release』を突如配信リリースした。さらに4月10日には、TOWER RECORDS限定でCDが発売される。本格始動を告げるこのタイミングで、バンドのこと、そして5人のプレイヤーたちのことを、個別インタビューの発言を交えながら紹介しよう。
結成のきっかけ:なぜ、ジャズバンドとパンクバンドが出会ったのか?
TSUUJIIとYOSHIAKIが初めて顔を合わせたのは2014年にさかのぼる。知人の紹介で会うことになった2人が渋谷駅で待ち合わせていると、偶然TSUUJIIの知り合いである「オートクチュールサックスカルテット」のストリートライブに遭遇。2人も飛び入りで参加したことから、「YOSHIAKIさんとセッションバンドをやったら面白そう」というアイデアがTSUUJIIのなかで生まれたのだという。
TSUUJII(Sax):Calmeraがよりエンタメ的な方向に向かうなかで、僕としてはセッション的な要素、ジャズ的な要素など、音楽家としてやりたいことが他にもあったんです。Calmeraの表現が「面白い」と言ってもらえるようになる一方で、音楽的にクールな部分を求める人にも、もっとアプローチしたいなと思っていて。ただ、それを無理にCalmeraでやろうとするより、別ものとしてやったほうがいいなと思っていたなかで、YOSHIAKIさんとの出会いがありました。
左から:MELTEN、YUKI、TSUUJII、YOSHIAKI、Gotti
TSUUJII:実力と密かな野心の持ち主
もともと中学と高校で吹奏楽部に所属していたTSUUJIIは、クラリネットプレイヤーとして数多くの賞を受賞し、大学進学後にサックスプレイヤーとしても活躍。2010年9月にCalmeraに加入して、勢力的に活動する一方、2014年には地元である奈良県の「天理市PR大使」に就任し、翌年には天理市のホールで初となるクラリネットソロリサイタルを開催。SOIL&"PIMP"SESSIONSやNakamuraEmi、Negiccoなど、数多くのサポートやレコーディングにも参加するなか、自らを「実は野心家」というTSUUJIIが、ついに新バンドの結成へと踏み切った。
TSUUJII:1回スタジオに入って「またやりましょう」と言っても、結局2回目がないことってよくあるんですけど、このバンドはちゃんとやり続けたいと思ったんですよね。なので、最初のスタジオが終わったあとに「もう1時間もらっていいですか?」って言って、いきなりバンド名の会議をしたんです。ポリリズムの曲ができていたから「POLY」と、スタジオで借りたキーボードのキーがもともと2つ上がってたから「PLUS」、そのワードを組み合わせて「POLYPLUS」。バンド名をつけることで、みんなの意識をまとめられるかなと思って(笑)。
POLYPLUSの理想のイメージとしては、30代以上の大人たちもオシャレに楽しめるし、感受性の高い若者にもフィットして、フェスとかでも盛り上がれるような、そんなバンドでありたい。いろんな音楽好きの人を刺していけるようになりたいですね。
YOSHIAKI:175R活動休止期間中にPOLYPLUSを結成
言わずと知れた175RのメンバーであるYOSHIAKIは、2000年代のパンクシーンを大いに盛り上げた人物。“ハッピーライフ”や“空に唄えば”といったヒット曲はオリコンチャートで1位を獲得し、『NHK紅白歌合戦』にも出場するなど、一時代を築いた。2010年からは活動を休止していたが、2016年に再始動をし、2017年には7年ぶりのアルバム『GET UP YOUTH!』を発表。TSUUJIIとは、活動休止期間中に出会ったことになる。
YOSHIAKI(Dr):175Rを休止した頃は疲れていたので、音楽からちょっと離れていたんですけど、2014年くらいになると「そろそろまたバンドをやりたいな」と思い始めていて。もともとダンスミュージックも好みで聴いていたから、4つ打ちを軸にした音楽をやってみたいと思っていたんですよね。そういう話は、TSUUJIIと初めて会ったときからしていました。
JABBERLOOPは、ヴィレッジヴァンガードでCDを買って聴いてたくらい好きで。なので、一緒にスタジオに入るのが楽しみだったんですけど、セッションしてると、みんなそれぞれのアプローチでガンガン反応してきて、びっくりと、嬉しさと、「とんでもないところに入っちゃったな」って、いろんな気持ちがありましたね(笑)。
YUKI:クラブジャズシーンのトップランナー・JABBERLOOPのベーシスト
YOSHIAKIとの新バンド結成を思い立ったTSUUJIIがまず声をかけたのが、JABBERLOOPのベーシストYUKIだった。2004年に京都で結成されたクラブジャズシーンのトップランナーであり、Calmeraの主催イベント『JAZZ A GO GO』にbohemianvoodoo、TRI4THらとともに参加するなど、TSUUJIIとは盟友と言っていい関係性である。
YUKI(Ba):7~8年前くらいにJABBERLOOPが初めてクアトロツアーをやったとき、大阪ではゲストとしてCalmeraに出てもらって、そこからの付き合いですね。ちょうどTSUUJIIがCalmeraに入ったくらいの時期だったと思います。今回誘ってもらったときも、楽しそうな匂いしかしなかったから、「おー、やろうやろう!」って感じですぐに返事をしました。
僕にとってのPOLYPLUSは、母体のバンド(JABBERLOOP)ではチョイスしない選択肢をチョイスできる場。十何年同じバンドをやってると、「これはJABBERLOOPじゃない」とか、いろんな鎧を着ていってしまうんですけど、それを脱いだ状態で始められる。音楽に正解も不正解もないけど、普段は「こっちが正解やな」って思うほうを選んでしまうのに対して、POLYPLUSだったら「不正解かもしれへんけど、面白そうやな」ということに果敢に挑めるのが面白いんですよね。
Gotti:玄人も唸らせるブラックミュージック系ギタリスト
TSUUJIIが「実はメンバーのなかで一番古い付き合い」というのがギタリストのGotti。TSUUJIIとはもともと大学のジャズ研つながりで、2017年までCalmeraのメンバーだった「いがっちょ」こと西井啓介を通じて知り合い、この3人でMarine Sparrow Trioとしても活動していた。2014年にはR&Bを主体としたバンドNeighbors Complainを本格始動させ、昨年1stアルバム『NBCP』を発表すると、今年は『METROCK』の大阪編への出演が決定するなど、SuchmosやNulbarichに続くバンドとして急速に注目を集めている。
Gotti(Gt):ある日TSUUJIIから電話がかかってきて、「バンドをやろうと思ってる」って聞いたときは、正直びっくりしました。他のメンバーは東京で、関西に住んでるのは僕一人だったので、最初は「東京には上手いギタリストいっぱいおるし、なんなら紹介するよ」みたいなことを言ったんです。でも「Gottiさんでいきたいんです」って言ってくれて、そんな嬉しいことはないなと思って、半泣きになりながら(笑)、「ぜひやらせてほしい」って言いました。
もともと10年前くらいはジャズ系のシンガーのバックをやったり、セッション系のことをやっていたんですけど、R&Bとかソウルミュージックがどんどん好きになっていって、自分の好きなもの一本でやるか、いろいろなことを並行してやるか、すごく迷っていたんです。でも「自分はR&B / ソウルのギタリストだ」って決めて、今はそこを軸に活動しています。ちゃんと技術で世界に通用するギタリストになりたいですね。
MELTEN:ドラマの劇伴などでも引っ張りだこのなか、POLYPLUSだけの面白さを見出す
当初TSUUJIIは「大所帯バンドのCalmeraとは逆をいこう」という発想から、4人編成を想定していたそうだが、『JAZZ A GO GO』の打ち上げをきっかけに、最後のピースとしてMELTENが加入した。YUKIとともにJABBERLOOPのメンバーとして活動する一方、2011年に「現代版ジャズロック」を掲げてfox capture planをスタートさせ、『CDショップ大賞』のジャズ部門など、数多くの賞を獲得。近年ではテレビドラマ『カルテット』を筆頭に、話題作の劇伴を数多く手掛け、4月からはフジテレビの月9ドラマ『コンフィデンスマンJP』の劇伴を担当することも発表されている。
MELTEN(Key):「バンドをすでに2つやってて、これ以上できるのかな?」という不安もちょっとはあったかもしれないけど、直感的に「TSUUJIIとやったら面白い」と思ったんです。「バンドやりましょう」って言いながらも、話が流れることってよくあるけど、TSUUJIIは推進力があって、実際にイニシアティブをとって引っ張ってくれたから、今の形にまでなったんだと思います。
POLYPLUSの面白さは、すごく自由度があるところ。こういうワンホーンのバンドって、意外と少ないですからね。CalmeraやJABBERLOOPのホーンセクションは、ラグビーのスクラムみたいなかっこよさがあるけど、勝手なプレイはできない。あとYOSHIAKIくんとかGottiは僕らの界隈にはいないタイプのプレイヤーだから、いい化学反応が起こっていて、ゼロ年代のクラブジャズとかジャズファンクとも違う、独特のサウンドに昇華できてるんじゃないかなと思いますね。
1stシングル『release』:4年の熟成期間を経て完成
POLYPLUSの初ライブは2014年9月1日、会場は渋谷354CLUB。それ以降、これまでライブは年に3~4本程度ではあったものの、回を重ねるごとにその精度は増していった。そしてついに、2018年4月1日、初音源『release』を事前告知一切なしで突如リリースした。
『release』には、初めて5人が集まったときにMELTENがスタジオで弾いたフレーズからできあがった4つ打ちのダンスナンバー“limiter”をはじめ、ストレートなファンクビートの“ratz”、TSUUJIIが哀愁のソロを聴かせる“late at night”の3曲を収録。なかでも、リードトラックの“limiter”は、この5人だからこそ生まれた、POLYPLUSの名刺代わりとなる一曲だ。
MELTEN:最初はただ思いつきで弾いたフレーズだったんですけど、メンバー全員で作っていくなかで、ダンスミュージック的な4つ打ちと、ロックっぽい縦ノリのテンポ感と、ポリリズムのメロディーが組み合わさって。ライブでやると謎の爆発力があるんです。自分がこれまでに作った曲でいうと、“疾走する閃光”(fox capture plan)とかにちょっと近い感じの、ある種のごった煮感とかポリリズムによる謎の高揚感があるなと。
YOSHIAKI:“limiter”はループ感を大事にしたくて、「スネアは使わなくていいや」って思ったんです。スネアを入れると、逆にスピード感が落ちちゃうんですよ。キックとハットのみだから、打ち込みっぽいけど、ハットのニュアンスで人間味を出して、ちゃんと血の通った感じにできたかなと。大好きな曲になりましたね。
YUKI:2・4(2拍目と4拍目)のスネアが入ってないビートの曲のなかで、“Get Wild”(TM NETWORK)に並ぶ名曲やなって(笑)。やっぱり、YOSHIAKIくんという人選が、このバンドの核なんです。僕とかMELTENはジャズやファンクの素養があるのに対して、パンクバンドをずっとやってきたYOSHIAKIくんがドラムを叩いているのが面白い。YOSHIAKIくんのビートだからこそ、ストレートアヘッドなものになって、その代表が“limiter”だなと。だから僕もずっと同じ音しか弾いてなくて、これはJABBERLOOPではできない、POLYPLUSならではの尖り方なんですよ。
POLYPLUS『release』ジャケット(TOWER RECORDS ONLINEで見る)
POLYPLUSの活動のあり方は、時代にマッチしている
現在のジャズをはじめとしたブラックミュージック全盛の時代において、強力な存在感を発揮しているH ZETTRIOのH ZETT Mや、ペトロールズの長岡亮介は、東京事変というスーパーバンドへの参加がキャリアの大きな転機となっていた。あるいは、indigo la Endのメンバーとして活動していた川谷絵音は、軽い気持ちでスタートさせたゲスの極み乙女。の人気が爆発し、結果的にindigo la Endをフックアップすることにつながった。つい最近もジェニーハイやichikoroをスタートさせるなど、縦横無尽にシーンを闊歩している。
バンドという枠組みがかつての運命共同体から、一人ひとりの個性を生かした集合体へと変容していくなかにあって、POLYPLUSのあり方は時代にマッチしたものだと言える。メンバーをつなぎとめるため、勢いでつけたバンド名が「複数」の「加算」であるという、そのネーミング自体が偶然にも時代感とフィットしているように思うが、こうした流れを感覚的につかめることも大きな才能。POLYPLUSのこれからが非常に楽しみだ。
TSUUJII:「メインのバンドを疎かにしない」というのはこのバンドの鉄の掟。ある意味、「スーパーバンド」というよりは、「スーパーサブバンド」なんですよね(笑)。全員が主役ではあるけど、誰もこのバンドを背負う必要がないし、だからこそ、ちょっとでも面白いと思ったらチャレンジすることができる。
それは曲に関してもそうだし、今回みたいに突如リリースしたりするのもそう。メインのバンドだと、「今このタイミングでやってどうなん?」って考え込んでしまうことも、このバンドなら背負わないからこそ攻められるんです。その結果として、いろんなことが一人歩きして、「あれ? なんかPOLYPLUS売れてない?」ってなるのが密かな狙いだったりします(笑)。
- リリース情報
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- POLYPLUS
『release』 -
2018年4月1日(日)に配信リリース
価格:750円(税込)
PWT-042
1. limiter
2. ratz
3. late at night
- POLYPLUS
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- POLYPLUS
『release』(CD) -
2018年4月10日(火)発売
価格:1,080円
PWT-0421. limiter
2. ratz
3. late at night
- POLYPLUS
- プロフィール
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- POLYPLUS (ぽりぷらす)
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2014年9月結成の5人組インストセッションバンド。メンバー各々がそれぞれのバンドで活動する中、「フロアを躍らせるセッションを!」を合言葉に、Sax. TSUUJII(from Calmera)とDr. YOSHIAKI(from 175R)を中心に、Key. MELTEN(from JABBERLOOP/fox capture plan)、Ba. YUKI(from JABBERLOOP)、Gt. Gotti(from Neighbors Complain)が集結。その場の空気、集う人々のテンションに合わせ自由に音を紡いでいく「セッション」を大切にし、時にクールに、時にハイテンションに、ジャンルやカテゴリを飛び越えたダンサブルなサウンドを展開。高い演奏力とフロアを巻き込む空気感で観る者を魅了し、躍らせ、着実に支持を拡大中。結成4年目に突入し、次なるステージへの飛躍が期待される注目のバンド。
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