1990年代のUSオルタナティブと、そこから影響を受けた2000年代前半の日本のロックバンドをルーツとする音楽性が話題のニトロデイ。高校在学中に発表した『青年ナイフEP』に続く新作『レモンドEP』は「夏」をテーマに制作され、多彩なエフェクト使いやコーラスの重用などによって、バンドとしての確かなステップアップを示した作品となっている。
この恐るべき10代の音に最初に飛びついたのは、1990年代や2000年代をリアルタイムで経験してきた世代だったかもしれない。しかし、彼らの音は徐々に同年代にも突き刺さり、浸透していくことだろう。なぜなら、ここには同調圧力にフラストレーションを感じ、未来に不安を抱えながらも、自らを装うことなく表現する10代のリアルがあるから。中心人物の小室ぺいをはじめ、メンバー4人のバランスも最高。これからが本当に楽しみだ。
NUMBER GIRLはすごくヒリヒリしていて、焦燥感とかがリアルに伝わってきた。(小室)
—まず、ルーツの話をさせてもらえればと思います。よく名前が挙がるのはNUMBER GIRLとNirvanaだと思いますが、もともとは高校の軽音部で一緒だった松島さんが小室くんにNUMBER GIRLを教えたそうですね。
小室(Gt,Vo):そうです。そのときは1stアルバム(『SCHOOL GIRL DISTORTIONAL ADDICT』、1999年リリースのメジャー1stアルバム)を貸してもらったんですけど、今まで聴いたことない感じがして、かっこいいなと思って。それでハマっていきました。
ニトロデイ『青年ナイフEP』(2017年)を聴く(Apple Musicはこちら)
—松島さんは岡村靖幸もお好きなんですよね?
松島(Ba):中学生のときにめちゃめちゃ音楽に詳しい人がいて、その人がいちばん好きだったのが岡村ちゃんで。「好き嫌い分かれるから」って、そんなに強くは勧められなかったんですけど、逆に気になって聴いたらどハマりしました。NUMBER GIRLを知ったのも、岡村ちゃんがBase Ball Bearの小出(祐介)さんと一緒にやった曲(2014年発表の“愛はおしゃれじゃない”)がきっかけで。
—Base Ball BearはNUMBER GIRLから影響を受けたバンドですが、そこから遡る形で知ったと。
松島:そうですね。NUMBER GIRLはベースをはじめてからハマったので、中尾憲太郎さんに影響を受けて、ピック弾きをはじめたり、サンズ(TECH21「SansAmp BASS DRIVER DI」。中尾憲太郎をはじめ、愛用者の多いベース用エフェクター)を買ったりしました。
—それまでは指弾きだった?
松島:それまではゆらゆら帝国の亀川(千代)さんに憧れてて。
—何にしろコアなところからスタートしてるんですね(笑)。小室くんからすると、NUMBER GIRLは同時代の他のバンドとどこが違うと感じたのでしょうか?
小室:ギターの音とか……まあ、全部のパートがそうなんですけど、すごくヒリヒリしていて、焦燥感とかがリアルに伝わってきて。それに背中を押されて、「バンドやろう」という気持ちになりました。
—Nirvanaも、NUMBER GIRLに近い衝撃を受けた?
松島:Nirvanaはバンドはじめた頃にちょっと聴いてたくらいだよね?
小室:うん。Nirvanaを知ったことで、その奥にいるアメリカのバンドも知れたので、きっかけにはなったっていう感じです。
—なるほど。で、ライブハウスで知り合ったロクローくんとやぎさんとニトロデイを組むことになるわけですが、なぜこの2人だったのでしょうか?
小室:ロクローは僕がライブハウスに出るようになった頃にいろいろ教えてくれた先輩なんです。やぎはもともと音楽の趣味が近くて、ギターもいい感じだったので誘いました。
—2人からすると、ニトロデイの音楽性はどのように思いましたか?
岩方(Dr):僕はニトロデイをはじめるまでオルタナとかグランジってまったく聴いてなくて、ニトロデイをはじめてからちょっとずつ聴くようになりました。もともとRCサクセションとかが好きだったので、最初はぺいのイメージと自分のドラムは合わなかったかもしれないけど、だんだんわかってきて。
やぎ(Gt):私、洋楽はそんなに聴いてなかったんですけど、tricotをきっかけにNUMBER GIRLを聴いて。(田渕)ひさ子さんを知って、「女の人で、聴いたことない音出してて、かっこいいな」って思いました。
ひねくれてるんで、アジカンとかNirvanaはみんな聴いてるし、「好き」って言いたくない。(小室)
—ニトロデイの出身は横浜で、ASIAN KUNG-FU GENERATIONという大先輩がいるわけじゃないですか? 彼らももともと、Weezerをはじめとする1990年代のアメリカのオルタナティブに影響を受けていて、なおかつ“N.G.S”(ナンバーガールシンドローム)という曲もあるように、その時代の日本のバンドにも影響を受けつつ、今では日本のロックのメインストリームを担う存在になっている。彼らのことをどんなふうに見ていますか?
松島:私は高校の軽音部で他のバンドがコピーしてるのを聴くまで知らなくて、最近聴きはじめました。
やぎ:私はもともと好きで、それこそ軽音部でよくコピーされてる他のバンドと比べて歌詞もいいし、よき音楽だなって思います。
ASIAN KUNG-FU GENERATION『君繋ファイブエム』(2003年)収録の“N.G.S”を聴く(Apple Musicはこちら)
—小室くんはどうですか?
小室:今までは通ってはこなかったですね。
—じゃあ、ちょっと乱暴な聞き方だけど、Nirvanaに影響を与えたSonic Youth、そしてNUMBER GIRLのように先駆者としてリスペクトされ続けているバンドと、NirvanaやASIAN KUNG-FU GENERATIONのように、先達の遺伝子を受け継ぎつつ、実際にシーンを大きく変えたバンド、どちらにより憧れますか?
小室:今まで通ってきていないので、それはもう断然、NUMBER GIRLやSonic Youthのほうです。ひねくれてるんで、アジカンとかNirvanaはみんな聴いてるし、「好き」って言いたくない。
松島:私はオルタナティブなものをルーツに持ちつつ、メインストリームにまでなったアジカンもすごいと思う。
やぎ:私もそうかもしれない。みんなが知らないような音楽が好きなのに、多くの人に知られる存在になったのは、バンドとしてすごいなって。
岩方:俺もそういうバンドをすごいなとは思うんですけど、憧れるのはNUMBER GIRLとかSonic Youthのほうですね。「先にやってたほうがかっこいい」って思っちゃう。
……俺たちのほうが青春パンクだと思います。(小室)
—じゃあ、もう1バンド、アジカンとも仲のいいART-SCHOOL。彼らも出自としてはNIRAVANAとかの存在が大きくて、そこから自分たちのスタイルを確立していったバンドです。
小室:ART-SCHOOL大好きです。
—小室くんは木下理樹さんに音源を手紙つきで渡していましたよね。理樹さんがInstagramにアップしていて、すごいいいなって思いました。
小室:一緒にライブもやってくれたし、身近に感じる存在です。
木下理樹のInstagramより
—ひと昔前、彼らが「鬱ロック」と呼ばれていたのは知ってますか?
やぎ:syrup16gとかもですよね。syrup16g大好きです。
—そうそう。「鬱ロック」という言葉の是非はさておき、要は内省的だったり、「死」について歌ってたりしたから、そういう名前がつけられたと思っていて。ただ当時、メインストリームでは「青春パンク」が盛り上がっていたんだけど、「こっちのほうがリアルじゃん」って思った人が多かったからこそ、ART-SCHOOLをはじめとするバンドたちは今でも支持されてるんだと思うんですよね。
松島:青春パンクはマジ無理!
岩方:俺は小中学生の頃、青春パンク大好きだった(笑)。
小室:青春パンク……俺たちのほうが青春パンクだと思います。
—たしかに! 当時盛り上がっていた「青春パンク」とはまた違った意味で、青春期特有の焦燥感とかリアリティーをパンキッシュに鳴らしているっていう点では、ニトロデイこそ青春パンクと言えそうですよね。
小室:最近のバンドで、俺が表現したいと思うようなことをやっている人はいないから、そういう音楽を自分たちがやれているっていうのは、胸を張っていいかなって。
ぺいの書く曲は今まで聴いたことないものだったし、「これこそパンクかもしれない」って感じた。(岩方)
—松島さんが「青春パンク無理」っていうのはどういう理由?
松島:「底抜けに明るい」みたいなのは、聴く意味ないなって思うんです。私自身、別に性格が暗いわけではないけど、音楽って一人で聴くことのほうが多いから、自分の内面とマッチしたのはsyrup16gとかART-SCHOOLでした。ニトロデイの歌詞も媚びてないから好きです。
やぎ:今のバンドを聴いても、「嘘っぽいな」って思っちゃうことが多いんです。私はsyrup16gも好きだし、銀杏BOYZも好きで、それはどっちも本当のことを素直に歌ってるだけだと思うから。ニトロデイも嘘っぽくないのがいいなって思います。
—青春パンクを通っているロクローくんはどうですか?
岩方:もともとドラムをはじめるきっかけがパンクバンドで、中学のときは銀杏BOYZ、THE BLUE HEARTS、STANCE PUNKSとかが大好きだったんです。ニトロデイをはじめる前に、サポートで入ったバンドがモロ青春パンクだったんですけど、そのバンドでライブをしてると、周りも同じようなバンドばっかりで。頑張って何かに寄せていて、同じようなことしかやってないのに、「俺たち自由にやってるぜ」みたいな感じがかっこ悪いなって思っちゃって。
そのあと、ぺいの曲を初めて聴いて、当時はまだNUMBER GIRLもNirvanaも聴いたことなかったけど、単純にいいなって思いました。俺のなかでは、ぺいの書く曲は今まで聴いたことないものだったし、「これこそパンクかもしれない」って感じたんですよね。
ぺいは、常に1年前の自分を否定して、どんどん変わっていく。(松島)
—ロクローくんは他のメンバーより1学年上で、現在はニトロデイ以外にもいくつかバンドをやりつつ、あとの3人は今年の春に高校を卒業して、それぞれ進学したそうですね。高校在学中に音源をリリースしたりして、進路で迷う部分もあったと思うんですけど、「音楽一本に絞らなくてもいい」という考えだったのか、もっと能動的に「学びたいことがある」という感じだったのか、それぞれいかがでしょう?
松島:私はいま専門学校でレコーディングエンジニアの勉強をしています。バンド以外にやりたいことは何だろうって考えたんですけど、やっぱり音楽に携わる仕事がしたいなって。
やぎ:私は最初、普通の大学に行こうと思ってたんですけど、バンドやりながらだといっぱいいっぱいになると思ったし、音楽系の学校に行ったほうがニトロデイにも活かせるかなと思って、今はロック / ポップス科に行ってます。ニトロデイをやることで、音楽そのものがどんどん好きになりましたね。
—小室くんはどうですか?
小室:高校卒業するタイミングで、バンドか進学かを決め切るのはまだ早いと思って、今は教育学部に通っています。高校の文芸部の先生が面白い人で、身近に感じてたので。
—小室くんは音楽や小説と向き合うことで、自分を形成してきた?
小室:やっぱり音楽がいちばん大きいと思うんですけど。顕著なのは、高校生になって、自分がそれまで知らなかったロックをたくさん聴いて、自分を装って生きる必要はないって思うようになりました。普段からあんまり取り繕わなくなったというか、自然体がいいなってスタンスになって。
—それまでは、同調圧力のようなものを感じていた?
小室:振り返ってみると、余計なことに捉われてたと思う。今はそういうことも考えなくなって、こっちのほうが自分は楽だなって。
—他のメンバーから見て、小室くんってどんな人ですか?
松島:私は高1のときから知ってるんですけど、常に1年前の自分を否定して、どんどん変わっていくなって。音楽に刺激を受けることで変わっていってるんだと思うけど。
やぎ:「装わない」って意味では、暗い部分を見せてくれます。
岩方:真面目なんだか不真面目なんだかわかんない(笑)。
—いいですね(笑)。逆に、今の小室くんにとって、メンバーはどんな存在ですか?
小室:気づいたら、もう2年以上一緒にバンドやってて……他にそんな深いつき合いのある友達もいないから、この4人だとすごくリラックスして過ごせます。
夏を題材にした作品に惹かれるんですよね。(やぎ)
—新作『レモンドEP』は「夏」をテーマに制作されたそうですね。
やぎ:夏を題材にした作品に惹かれるんですよね。ブッチャーズ(bloodthirsty butchers)もそうだし、映画だと『海がきこえる』(1993年公開のスタジオブリ作品。原作は氷室冴子)とかも好きです。
ニトロデイ『レモンドEP』(Amazonで見る)
小室:作品のなかに出てくる「夏」は、別次元のものとして捉えているからすごく好きなんですけど、その反面、現実の世界の夏はあまり好きではなくて。今回の曲は、現実逃避じゃないけど、「自分にとっての居心地いい夏」みたいな、そういう感じで書いています。
自分の思う「歌詞のリアリティー」というのは、現実そのものが出てるかどうかより、それに対する自分の感情に素直に書くということで。妄想しながらも、自分がどう感じたか、どう思ったかをリアルに書きたいと思ってます。
—“レモンド”の歌詞では<不甲斐ないな><冴えないな>と繰り返している。梶井基次郎の『檸檬』(1925年発表)に近い印象を受けました。
小室:梶井基次郎は大きいです。初めて読んだとき「すげえ」ってなって、自分を主人公に投影しちゃったくらい、肌馴染のいい作品でした。なので、今回曲を作るときも、どっか念頭にあった感じがします。
小室ぺい / 梶井基次郎『檸檬』を読む(青空文庫で読む)
—『檸檬』の主人公みたいに爆弾を仕掛けてやろうと思うことがある?
小室:……よくあります(笑)。
松島:私も梶井基次郎の『檸檬』はめちゃめちゃ大好きで。最後ただ置いて出ていくっていうのがウキウキするし、なぜだかわからないけど「わかる!」ってすごく共感します。「レモン」ってついてる曲とか本とかだいたい好きなんですよね。Base Ball Bearもよく出てくるじゃないですか?
—歌詞にもよく出てくるし、“レモンスカッシュ感覚”って曲があったりもしますよね。
松島:そういうのも好きだし、ぺいの言ってることもよくわかる。
—「なぜだかわからないけど」って言っていましたけど、どうして共感したんでしょうね?
松島:高校生のとき、道を歩きながら、一人でずっと人生について考えてる時期があったんです(笑)。深く考え過ぎて、本当にあの主人公みたいな精神状態になってて、「まったく一緒だ!」と思って。しんどいんだけど、「ここまで共感できるのか」って思うと、ちょっと救われた気もしたんですよね。
小室:俺はやっぱり、周りに対する負の感情みたいなのがあって、「うざいな」とか「殴りたいな」とか思いながらも、それでも頑張って生きてます。
「オルタナ」とか「グランジ」が軸になってるけど、ひと言で括られたくはない。(小室)
—ラストに収録されている“ユース”についても訊かせてください。長尺の轟音ナンバーで、とてもかっこいいなと。
小室:やぎが珍しくリフとコード進行を作ってきた曲です。今までは全部自分発信だったんですけど、「やってみようか」ってなって。自分だけだと表現しきれない感じが出せたから、バンドとしてこの曲がやれてよかったなって思います。
ニトロデイ『レモンドEP』を聴く(Apple Musicはこちら)
—音楽的には、ここまででニトロデイとしてのひとつの色を確立しつつ、まだ過渡期でもあって、「さあ、ここからどこへ?」というタイミングかなと思います。実際、今後についてはどのように考えていますか?
小室:まだ完全ではないけど、自分も今回の作品で自分たちのスタイルを把握できたと思っていて。でもまだまだたくさん改良の余地はあるから、自分たちだけしかできない表現を突き詰めていきたいです。
前作を出したときは、「オルタナ」とか「グランジ」っていう部分が過剰に切り取られた気がして、そこはあんまり気に入ってなくて。確かに、そういう音楽が軸になってるけど、ひと言で括られたくはない。今回はコーラスを入れたり、いろんなことを試していて、アレンジの精度も上がっていると思うんですけど、これからもっと突き詰めていきたいです。
やぎ:私もやっと自分の好きな音楽が自分で把握できたと思っていて。今のままだとどうしても「ひさ子さんの二番煎じ」って言われちゃうから、より自分だけのスタイルを確立して、それをバンドとしても表現できたらいいのかなって。
松島:今回のEPはすごく自信あるんで、もっといろんな人に知ってもらいたいです。2人も言ってるように、自分たちのスタイルが固まっていく最中だと思うから、この先はもっといろいろチャレンジしていきたいですね。
岩方:俺は……もっと大きい音で叩けるようになりたい(笑)。周りの音が大きいんで、もっとでっかい音で叩けるようにならないとなって、それしか考えてないです。
- リリース情報
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- ニトロデイ
『レモンドEP』 -
2018年7月25日(水)発売
価格:1,500円(税込)
PECF-32051. レモンド
2. グミ
3. 向日葵
4. 氷菓
5. ユース
- ニトロデイ
- イベント情報
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- 『「レモンドEP」 RELEASE TOUR』
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2018年8月4日(土)
会場:神奈川県 横浜 BB STREET
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突然少年
Layne
betcover!!2018年8月10日(金)
会場:大阪府 心斎橋 Pangea
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ナードマグネット
MASS OF THE FERMENTING DREGS2018年8月14日(火)
会場:愛知県 名古屋 CLUB UPSET
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The Wisely Brothers
Layne
THE STEPHANIES2018年8月30日(木)
会場:東京都 下北沢 THREE
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uri gagarn
- プロフィール
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- ニトロデイ
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ニトロデイは平均年齢18歳ながら、そのサウンドは90年代のオルタナティブに影響を受けた、爆音なオルタナティブロックを演奏する。吐き出すようにシャウトするヴォーカル小室ぺいの独特の語感によって描かれるキャッチーでフックのある歌、初期衝動丸出しのやぎひろみの破壊的轟音なギターサウンド、それを支える屈強なリズム隊。初期衝動は勿論、それだけでは終わらない大きな可能性を秘めた、2018年最も大きな注目を集めているロックバンドである。
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