草彅剛×柄本時生×西見祥示郎が『ムタフカズ』制作を振り返る

いまから約1年前、心機一転、稲垣吾郎、香取慎吾らと新しいスタートを切って以降、これまで以上に幅広い活動を展開している草彅剛。その彼があらたに挑んだのは、アニメ映画の声優だった。

フランスのバンド・デシネ(コミック)を原作とする、異色のアニメ映画『ムタフカズ』。その主役である「アンジェリーノ(通称、リノ)」の声を、草彅が担当。アニメ映画『鉄コン筋クリート』のスタッフが再集結して生み出された、日仏共同製作のアニメ映画となった本作。そこで草彅は、リノのルームメイトである「ヴィンス(柄本時生)」、彼らの友だちである「ウィリー(満島真之介)」と、息の合った掛け合いを繰り広げる。これまでナレーションなどの仕事は多くこなしつつも、アニメの声優を務めるのは久方ぶりとなる草彅は、本作からなにを感じ、どんなメッセージを見出したのだろうか。

リノの相棒・ヴィンス役の声を担当し、本作が初の本格的な声優デビューとなる個性派俳優の柄本時生と、本作の監督を務めた西見祥示郎とともに語り合ってもらった。

僕は、アニメで『鉄コン筋クリート』がいちばん好きなんです。(草彅)

—映画『ムタフカズ』の日本語吹き替え版の声優キャストは、主役であるアンジェリーノ役を担当する草彅さんから決めていったとか?

西見:そうですね。以前から、草彅さんの声はすごく素敵だなと思っていて。オファーを出して、OKが出たときは「本当に?」って、ちょっと信じられなかったです(笑)。

左から:草彅剛、西見祥示郎、柄本時生

草彅:いえいえ(笑)。お声を掛けてもらって非常にありがたかったです。新しい変化の時期を迎えていて、いろいろやってみようと思っていたときにこの話をいただいたんですよね。

そもそも僕は、アニメ映画『鉄コン筋クリート』(2006年、『ムタフカズ』と同じSTUDIO 4℃がアニメーション制作を行う)が、すごく好きなんですよ。なので、そのスタッフの方々と一緒にお仕事ができるというだけで、もう「やりたい!」と思って。

この企画自体、もう8年ぐらい前から動き始めていて、途中頓挫しそうになりながらも、ようやく日本で公開できることになったらしくて。だから、本当にタイミングですよね。

—めぐり合わせというか、双方のタイミングが、ちょうど合ったわけですね。

草彅:そうですね。そういう意味でも、僕のところにくるべき作品だったのかなって、自分では思ったりしています(笑)。

—草彅さんは、アニメ映画『鉄コン筋クリート』が、もともと大好きだったとおっしゃっていますが、おふたりは普段アニメは見られるんですか?

柄本:「アニメファン」を自称できるほどではないですが、見ているほうだとは思います。僕は映画が好きなので、「映画」と呼ばれているものに関しては、実写もアニメも区別なく見ているんですよね。たとえば、ジブリとかもすべて見ています。

草彅:僕も『となりのトトロ』とか『魔女の宅急便』が大好きです。あと、最近だったら『バキ』(漫画『グラップラー刃牙』のアニメ版)とかも好き。どんなジャンルのものでも見ていますね。最近は定額制の配信サービスもあるので、そこに入っているものを見たりして。でも、やっぱり『鉄コン筋クリート』が、いちばん好きかなあ。

—そんなにお好きなんですね。

草彅:家でなにも見るものがないときは、特に集中して見る感じでもなく、『鉄コン筋クリート』のDVDを流しています。それぐらい好きなんですよね。犬を飼うときも2匹飼って、『鉄コン筋クリート』の主人公ふたりの名前から取って、「シロ」と「クロ」って名前をつけようかなって思っていて……。

—相当ですね(笑)。

草彅:でも、2匹飼うのは大変だからフレンチブルを1匹飼い始めて、「シロ」って名前にしようとしたんです。でも、あんまり白くなかったんですよね(笑)。それで結局「クルミ」って名前になったんですけど、それぐらい好きなんです。

西見:嬉しいですね。今度、作品のスタッフにも言っておきます(笑)。もともと、松本大洋さんの原作漫画がお好きだったとか?

草彅:いや、僕はアニメからですね。

—具体的には、どんなところがお好きなんですか?

草彅:やっぱり、シロとクロの関係性が好きなのかな。絵のタッチが可愛い部分もあるし。でも、描写は結構エッジが効いていて、裏社会を描いていたり、結構バイオレンスな部分もあったりするじゃないですか。そのバランスがいいんですよね。あと、映画の舞台になっている「宝町」っていう架空の街の、ちょっと猥雑な感じも好きです。

初の声優仕事で戸惑いもあったんですけど、プロデューサーさんと相談して、ハッとすることが多かったです。(柄本)

—そう考えると、『ムタフカズ』と『鉄コン筋クリート』の共通点は多いかもしれないですね。『ムタフカズ』の舞台も「ダーク・ミート・シティ」という、ロサンゼルスを模した、治安の悪い架空の街ですし。

西見:そうですね。僕はもちろん、美術監督の木村真二さんも『鉄コン筋クリート』から同じなので、共通点は多いと思います。『ムタフカズ』は、もともとフランスのコミックで、今回共同監督にも入っているギヨーム“RUN”ルナールさんが描いたものなんですよね。彼が『鉄コン筋クリート』のアニメをすごく気に入ってくれて、僕らのところにアニメ化の話がきたっていう。そういう流れなんですよね。

『ムタフカズ』場面写真 / ©ANKAMA ANIMATIONS - 2017

—本作は、主人公アンジェリーノが、ガイコツ頭の親友ヴィンス、バカで臆病なウィリーと騒動に巻き込まれていくという、フランスのコミックの映画化ということもあって、ちょっと変わった世界観の物語になっていますね。声のイメージは、それぞれどうやって決めていったのですか?

草彅:声の収録の現場には、プロデューサーと監督が立ち会ってくれたんです。そこで、細かく、語尾に関して指摘されたんですよね。「語尾をあまり伸ばさないようにして欲しい」って。

自分で言うのもなんですけど、僕の声って、ちょっと甘いというか、甘えているような感じがあるみたいで、そこを徹底的に直されたんです。だから、最初はすごく苦労したんですけど、だんだん調子が掴めてきて。それ以降は、割とすんなり演じられましたね。

草彅が声を担当したアンジェリーノ / ©ANKAMA ANIMATIONS - 2017

—アンジェリーノ(通称リノ)は、ちょっとクールな役どころですもんね。ただ、草彅さんは、これまで元ヤクザの役や詐欺師の役など、割とハードボイルドな役柄も演じてきています。今回のアンジェリーノ役でも、ナレーションなどで披露している甘い声と、ハードボイルな役柄を演じるときのクールな声の中間といった感じがしました。

草彅:うん、そうかもしれないですね。

—そんなクールなアンジェリーノとは対照的に、その相棒であるヴィンスは、感情表現が豊かな役になっていますよね。

柄本:そうですね。ただ、ヴィンスは、ガイコツ頭っていう風貌だから、口が全然動かなくて(笑)。

—たしかに、そうですね。

柄本:なので、そこにちょっと戸惑いました。でも、僕が収録の前にプロデューサーさんに言われたのは、「ヴィンスはとにかく『アンジェリーノ命』だから」っていうこと。だから、ヴィンスとアンジェリーノのふたりのあいだに入ってこようとするウィリーのことが、ヴィンスは本当に嫌いなんだって言っていて(笑)。

それでそれ以前よりもういち段階ぐらい、驚いたり、怖がったり、そういう感情表現の部分を強くしたほうがいいと思って、プロデューサーさんと相談したりしました。

柄本が声を演じたヴィンス / ©ANKAMA ANIMATIONS - 2017
満島真之介が声を担当したウィリー / ©ANKAMA ANIMATIONS - 2017

僕、柄本時生、満島真之介の3人で歌を出したら、すごくいい歌になるんじゃないかな?(草彅)

—いまお話に出てきたウィリー役を担当する満島真之介さんを含めた3人の掛け合いが、すごくいい感じだと思いました。

草彅:ありがとうございます。実は収録は別々にやったんですよ。でも、完成したものを見たときに僕も感動しました。僕と柄本さんの声もすごく対照的だし、そこにはっちゃけた感じの満島さんの声が入ってくると、三者三様でいいトリオになっていて。もう、これは「ムタフカズ・トリオ」ですよね。

柄本:(笑)。

草彅:「3人でなにかユニットでも組もうよ?」みたいな(笑)。声のトーンがみんな違うので、多分歌を出しても、すごくいい歌になるんじゃないかと思って。しかも、完成したものを見たら、映画の最後で満島さんだけがひとりで歌っていて、すごく驚いたんですよね(笑)。

柄本:僕もビックリしました。「あれ? 聞いてないよ?」って(笑)。

—(笑)。「Willy a.k.a. Shinnosuke Mitsushima」という名義で、満島さんがエンディングテーマを歌っていて。しかも、ラップを披露しています。

草彅:そう、僕らふたりもラップで参加したかったですよ(笑)。3人で歌ったら、さらにいい感じになったんじゃないかと思うんですよね。

西見:おかげ様で、本当に最高の3人になったと思います。

—変わった世界観の物語ですが、この3人の声が入ることによって、すごく親しみのあるものになっているような気がしました。

西見:それは同感ですね。アフレコはひとりずつ別録りでやってもらったんですけど、だんだん声が揃っていくじゃないですか。それを見ながら、「ああ、キャラクターたちがちゃんと会話し始めてる」って思って、感動したんですよ。

—俳優の力を感じたわけですね。

草彅:でも、作り方としては、やっぱり独特ですよね。それぞれで録っているのに、完成したものを見たら、ちゃんと会話しているようになっていて。これは編集してくれた方のおかげだと思います(笑)。

柄本:いやいや。最初に入れた草彅さんは、誰の声も入ってない状態で話しているのに感情が入っていてすごいなって思いましたよ。僕の場合は、もう草彅さんと真ちゃん(満島真之介)の声が入っていたので、比較的やりやすかったんですけど。

西見:全員揃っているならまだしも、ひとりきりで、声に感情を出していくんですから、3人とも大変だったと思います。

大人になると、怒ってくれる人もいなくなるし、自分ひとりで考えなくちゃいけないことも多くなってくるんですよ。(草彅)

—『ムタフカズ』は描写がかなり細かな作品で、印象に残る台詞や場面が多いですね。

柄本:そうですね。僕が意外と好きだったのは、ヴィンスとアンジェリーノがアイスクリーム屋さんのトラックに乗ってカーチェイスをした挙句、橋からジャンプするシーンですね。その途中で突然、「さて、ここで問題です」みたいな感じで、話と関係ないクエスチョンが入ってくるっていう(笑)。そういうジョークがアニメーションっぽくていいなあと思って。

ニュアンスでしかないので、うまく言葉にできないのですが、僕はこの作品を「アニメ」じゃなくて、「アニメーション」だと感じているんです。

—途中で漫画みたいな文字が画面いっぱいに出てきたり、ときどき面白い演出が入ってくるんですよね。

西見:そのへんは、かなり自由にやらせてもらいました(笑)。もともとの原作自体、かなりアクションシーンが多いんですけど、それをアニメでひたすらやっていても、逆に飽きてしまうと思って。あと、この3人のキャラクターって見た目がユニークじゃないですか。

『ムタフカズ』場面写真 / ©ANKAMA ANIMATIONS - 2017

—ほかの登場人物たちは、普通に人間の姿をしてるけど、この3人だけは、顔が真ん丸だったり、コウモリだったり、頭に火のついたガイコツだったりするっていう。

西見:これは僕の考えなんですけど、こういう容姿の人たちが人間世界に入ったら、おそらくマイノリティーな存在になると思うので、いろいろ心ないことを言われたり、ひどい目に遭ってるんだろうなと思って。そこはちょっと、意図的に演出しましたね。

—草彅さんは印象的だった場面など、ありましたか?

草彅:僕は3人で流れ星を見ながら、ウィリーに「リノの願いは?」って聞かれて、アンジェリーノが「俺は納得いく自分になりたいかな」っていう台詞。あれは、すごくいい台詞だなって思って。

あとは最後、ウィリーを助けに行くときに、「ここで逃げたら、正面切って自分を見られなくなる」っていう台詞。その台詞に、この映画のすべてが集約されているんじゃないかなって思って。なおかつ、僕自身の中にも、素直に響いてくるような台詞でした。血が出たり人が死んだりするハードな描写もあるけど、その場面は確固たる伝えたいメッセージが込められてると思いながら、僕はやっていましたね。

—その台詞は、いまの草彅さん自身にも、少しオーバーラップしてくるような台詞だと思いました。

草彅:たしかに、この歳になると、怒ってくれる人もいなくなるし、自分ひとりで考えなくちゃいけないことも多くなってくるんですよね。そうすると、「本当にそういう自分になりたいのかな?」って思うときもあります。そういうときに、このアンジェリーノの台詞が響いてきましたね。

—ある程度、歳を重ねると、結局自分で納得いくかどうかが大事になってくるんですね。

草彅:そうですね。だから、とてもシンプルな台詞ではあるんですけど、「納得いく自分になりたい」って、どういうことだろうとか、いろいろ考えさせてくれました。大人になると、いろんな知恵もつくし、逃げ道みたいなものも、自分でいっぱい作れるようになるじゃないですか。そうじゃなくて、もっと深いところで自分と向き合った台詞なのかなって思いましたね。

西見:そうですね。原作者のRUNさんの思いと僕の思いが一緒くたに詰まっています。いま、草彅さんが仰ったメッセージについても、観客の方には作品を観た上でいろいろご自身で考えてもらえたらいいなって思います。

草彅:あと僕が演じたアンジェリーノは、巨大な闇の力に飲み込まれることなく、最後まで人間らしくいようと思ったキャラクターです。そのアンジェリーノの「自分を貫く気持ち」みたいなものが、観ている方に伝わったらいいなって思っています。

リリース情報
『ムタフカズ』

2018年10月12日(金)から全国公開
監督:西見祥示郎、ギヨーム“RUN”ルナール
作画監督:滝口禎一
アニメーション制作:STUDIO4℃
声の出演:
草彅剛
柄本時生
満島真之介
上映作品:94分
配給:パルコ

プロフィール
草彅剛 (くさなぎ つよし)

稲垣吾郎、香取慎吾と共同の公式ファンサイト「新しい地図」が2017年9月22日に開設され、10月16日に本格始動。11月2日~5日にAbema TVの生放送番組「稲垣・草彅・香取 3人でインターネットはじめます『72時間ホンネテレビ』」に出演し、同番組でYou Tuberとして動画配信をスタート。同年12月までにチャンネル登録者数60万人を突破し、2017年に新設されたチャンネルの中で多数のチャンネル登録者を獲得した「新人YouTuberランキングTOP10」において第1位に輝いた。稲垣、香取と共に2017年の「GQ MEN OF THE YEAR 2017」のインスピレーション賞を受賞。「ブラタモリ」(NHK総合)ではナレーションを務める。2018年、映画『クソ野郎と美しき世界』に出演。

柄本時生 (えもと ときお)

2003年映画『すべり台』(2005年公開)のオーディションを受け主役に抜擢、デビューを飾り、以降映画『ホームレス中学生』『アウトレイジ』など多数に起用される。WOWOWドラマ『4TEEN』では主役のダイを演じ、『2004年度芸術祭』「テレビドラマ部門優秀賞」と『2005年度日本民間放送連盟賞』「テレビドラマ部門」を受賞。また2008年の出演作により『第2回松本CINEMAセレクト・アワード』「最優秀俳優賞」に選出される。NHKドラマ『巧妙が辻』『おひさま』、フジテレビドラマ『福家警部補の挨拶』にレギュラー出演し、フジテレビ+ドラマ『世界一即戦力な男』、NHK-BSプレミアムドラマ『初恋芸人』の主演を務める。2018年、映画『散り椿』(9月28日公開)、『サクらんぼの恋』(10月27日)に出演。

西見祥示郎 (にしみ しょうじろう)

1965年1月28日生まれ。福岡県出身。1986年よりテレコム・アニメーションフィルムに在籍し、原画マンとして海外合作作品を中心に活躍。近年まで国内での仕事はほとんどなかったが、アマチュア時代に描いた個性的なイラストが一部のクリエイターたちのあいだで話題を呼んだ。2003年にテレコムを退社後、STUDIO4℃制作の劇場作品『マインド・ゲーム』に原画で参加。そのまま同社にて、中島哲也監督の映画「下妻物語」のアニメパート監督や、ゲーム「ガチャメカスタジアム サルバト~レ」ムービー監督などを務めた。『鉄コン筋クリート』ではキャラクターデザイン・総作画監督・ストーリーボード・原画を手がけ、非常に魅力的なビジュアルを創り出している。



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