作品を追うごとに、捉えどころがなくなる。作品を追うごとに、それを語ることの難しさを感じさせられる。しかし、作品を追うごとに、「音楽ってこういうものだよな」とか、「人ってこういうものだよな」と改めて痛感させられる……そんな変化と進化を遂げているドミコが、2月6日に3rdアルバム『Nice Body?』をリリースする。
これまでのドミコの作品を振り返ると、そこに出てくる言葉の端々には共通するものがあって、「このバンドは、ただひとつのことを、形を変えながら、深く掘り下げながら表現し続けているのではないか?」と思わせられることがある。では、「その『ただひとつのこと』とはなにか?」と問われると、僕の低俗な言葉で言わせてもらえば「自分が生きていることのかけがえのなさ」のようなものだと思うのだが、それをぼんやりと、しかし醒めた(と思われる)目線で描き続けるさかしたひかるという作家の誠実さとロマンの深さには、いつだって感嘆させられる。
『Nice Body?』で、彼らはこれまで以上にラウドに音を奏でながら、しかし捨て去ることのできないメロウネスも抱えながら、再び「ただひとつのこと」へと到達しようとしている。インタビューを嫌がっている(らしい)さかしたひかるに、それでも話を聞いた。
歳をとると、「自分って、こういうふうに物事を考えて生きているんだなぁ」とか、わかってくるじゃないですか。
—新作『Nice Body?』ですが、今回も前作『hey hey , my my?』、前々作『soo coo?』に引き続き、タイトルの最後には「?」が付いていますね。
さかした:これはもう、トレードマークみたいな感じですね。今回のアルバムは自分の「体」のことや「自分自身」について歌った感じなので、結構、生々しいと思うんですよね。だからタイトルは『Nice Body?』にしました。
自分の体って、自分のものでしかないじゃないですか。それって、すごく運命的なことだなと思って。体や思考って、それが良くても悪くても、自分が持ったものだから。「それはそれで、いいでしょ?」っていう。
—そもそも、「自分について歌う」「自分の体について歌う」という方向に向かったのはなぜだったのでしょう?
さかした:う~ん……あんまり思い出せないっすね。
—(笑)。
さかした:まぁ(笑)、特別に意識したわけではないんですけどね。このアルバムの曲を作っていた時期に、自分の体についてとか、自分の思考について見つめ直していたので、自然にそういう作品集になったんだと思います。
僕は今29歳なんですけど、歳をとると、「自分って、こういうふうに物事を考えて生きているんだなぁ」とか、「自分の体ってこうなんだなぁ」とか、わかってくるじゃないですか。
—そうですね。体力に下り坂が見え始めて体のことを気遣ったり、社会に出て培ってきたものが形になり始めて視野が広がってきたり……20代の終わりというのは、そういう年齢ですよね。
さかした:それに、それまでは謎のままだったからこそ楽しかったのに、歳をとるにつれて、知りたくなかったことも知ってしまったりする。そうすると、「こんなもんだったのか」って、冷めたりもするし。
—さかしたさんは、どんなことに冷めていったのだと思いますか?
さかした:それはもう、あらゆることですね。自分がずっと「好きだ」と思っていたものがあっても、それを好きだった理由が意外とシンプルなところにあったと気づいて冷めてしまったり。わかりやすいところでいうと、すごく嫌いな肉親に、いつの間にか自分自身が似てしまっていることに気がついたり……。そういうのって、あるじゃないですか。
—ありますね。
さかした:それに気づくとガッカリしますよね。でも、良くも悪くも、それが俺だし。「まぁ、いいか。それも、いい自分だな」って思えたりもする……。そう考えると、許容範囲は広がっているんですよね。
もっと若かったら、足掻いてでも自分を矯正しようしていたと思うんですけど、今は大体のことを笑って過ごせるようになった気もする。若い頃に比べると、酔っぱらって喧嘩する回数も減ったし。
あくまでも大事なのは、自分のなかの真理。そっちのほうがロマンがあるじゃないですか。
—音楽に関しては、歳を重ねても冷めませんか?
さかした:音楽に関しては、あんまり考えないようにしています。それこそ冷めてしまいそうで怖いので。昔から自分で作った曲のことも、分解して、解き明かさないようにしているんです。
—プロのミュージシャンでありながら、音楽について考えないようにするって、難しくないですか?
さかした:難しくはないですね。僕の音楽を作っていく過程って、無意識的なものなんです。意識的に音楽を作るっていうことが、あんまりないんですよ。もちろん、人が作っているものなので、無意識と言いつつも、紐解いていくと正体が出てくるんですけど……そこには、あまり気づきたくないです。
—昔からそうですか?
さかした:そうですね。できるだけ無意識のものが録れるように、ボイスメモをつけっぱなしにして、そこで録れた音で「ここ、いいな」って思った部分をつなげたり広げたりしていく、みたいな。そういうやり方は、今でも一貫していますね。
絵にたとえるとわかりやすいと思うんですけど、「木を描こう」と思って茶色い幹を描き始めるんじゃなくて、キャンバスにビシャッと絵具を飛ばして、そこで生まれた形から「ここから木を描こう」って思い始める感じなんです。そういう二度と生まれないもののほうが、作っていて楽しいんですよね。もちろん、意識して「ドミコ風」の音楽を作ろうと思えば作れるんですけど……それは、自分自身が楽しくないんです。熱がまったく入らない。
—無邪気に「無意識」に向かっているのではなくて、音楽に関しては意図的に「無意識」であろうとしている、ということですよね。
さかした:シンプルなことだと思うんですよ。めちゃくちゃ好きな人ができて、「なんで好きなんだろう?」って考えたら、「長い髪の人が好き」みたいな理由だったりして。そういう「仕組み」に気づいてしまうと、どうでもよくなっちゃう。
カレーだって、「カレーが好きだ!」って思えていればいいですけど、そこを掘り下げていくと、カレーのなかに入っている特定のスパイスが好きなのかもしれない。それに気づいた瞬間に、カレーっていうものが自分にとってすごくリアリティを持ってしまう。それがイヤなんです。
それよりは「ただ、なんとなく好きだ」って思えているほうが、ファンタジーでいいなって。「カレー」というものが、自分のなかで魔法のような存在であってほしいんです。あくまでも大事なのは、自分のなかの真理というか。そっちのほうがロマンがあるじゃないですか。たとえがめちゃくちゃなんですけど(笑)。
—いや、でも、わかります。
さかした:音楽って、ふんわりとした、形のないものだと思うんですよ。その時点でめちゃくちゃ面白いと思うんです。「なにもない」ものを、いろんな人たちが金や時間をかけて作っている。言い方は悪いけど、「滑稽だな」とも思う。でも、それを真面目にやっているっていうのが、素敵で面白い部分だと思うんですよね。
逆に、そうやって作っているものをロジックで解明できるようにしてしまうのは、せっかく神秘的であるものに対して、勿体ないなって思っちゃうんです、僕は。
ライブをやっていると、たまに「これ、なにが面白いんだろう?」とか思うんですよね。
—「無意識的に作っている」といっても、恐らく、その時々のご自身のなかの音楽的な趣向性やブームってあると思うんですけど、サウンド面でいうと、ご自身のどんなモードが今作には反映されていると思いますか?
さかした:重く、力強い感じにしたいなって思いましたね。今までになく、暴力的な感じで。
—1曲目の“ペーパーロールスター”を皮切りに、アルバム序盤は特にそうですよね。
さかした:前回のアルバムを出してから、ライブで演奏していくうちに、「もっと重たい音を表現できる曲がほしいな」って思ったんですよね。
これまでは家で、ひとりで作っているものから生まれることが多かったんですけど、今回は実際のライブみたいな、リアルな世界を反映してサウンドの方向性が決まっていったような気がします。そういうことだけは、頭のなかにありました。
ドミコ“ペーパーロールスター”(Apple Musicはこちら)
—ライブ活動を始めてから、ライブで体感する喜びの質が変わってきたりもしていますか?
さかした:いや……実際にお金をとって人前で演奏している人間がこんなことを言っちゃいけないのかもしれないけど、ライブをやっていると、たまに「これ、なにが面白いんだろう?」とか思うんですよね。ライブに関しては、自分でもなにが楽しくてなにが面白くないのかわかってない。
まぁ、そういうところも含めて面白いというか。毎回「楽しい」と思える瞬間が違うんでしょうね。その時その時でなにか楽しいことがあれば、それでいいなっていう感じです。
—アルバムの最後に収録されている“ベッドルーム・シェイク・サマー”は、チルなサイケデリックソングといった感じだし、8曲目“あたしぐらいは”はDirty Projectorsの近作にも通じるような、フォークもR&Bもない交ぜになったメロウネスが心地よくて。こうした後半の曲は、ヘビーな序盤とはまた質感が異なりますよね。
さかした:“ベッドルーム・シェイク・サマー”は、このアルバムの制作のなかで最初に録った曲なんです。その時は、宅録でいつも通り作っていて。
ドミコって、僕ひとりで作っていた時代もあったんですよ。『soo coo?』よりもさらに前の本当に初期、自主制作盤の頃なんですけど。当時はとにかく空間的な音が好きで、リバーブが深ければ深いほどいい、みたいな感じだったんですよね(笑)。ポストロックとかシューゲイザーが大好きで、やみくもにリバーブをかけていた時期だったんですけど、「あの感じ、今ならもっと上手くやれそうだな」と思って、“ベッドルーム・シェイク・サマー”はできました。
—今回の作品は「自分自身」や自分の「体」に向き合ったと仰っていましたけど、“ベッドルーム・シェイク・サマー”は、その出発点としてご自身の原点に向き合った、という側面もあるのでしょうか?
さかした:いや、そういうことはまったく考えていなくて。ただ思い返すと、初期の頃はシューゲイザーとかポストロックがめちゃくちゃ好きだったんですけど、『soo coo?』を出す頃には、逆に、その辺の音楽が大嫌いになっていたんですよ。
—なぜですか?
さかした:単純に、ハッとしたんですよね。「こうすれば、みんな同じように聴こえるんだな」みたいな……そういうことに気づいて、すげぇ退屈になっちゃって。それこそ、音楽を紐解いちゃったんだと思うんですけど、冷めちゃったんです。「なんて単純でアホらしい音楽なんだろう」って。
そこから、ジョニ・ミッチェルとかキャロル・キング、ニール・ヤングみたいな、昔のシンガーソングライター系を聴くようになったりして。でも、今になってそういうシューゲイザー的なテイストの曲を改めて自分が作っているのは、滑稽で面白いなって思います。最終的にこうやって完成すると、懐かしさよりも「新しいものができたな」っていう気持ちもあるし。
—前回の取材(インタビュー記事)の最後のほうで、「さかしたひかるは幽霊っぽい」という話が出ていたんですけど、今回の作品の歌詞を読んでいくと、幽霊視点の物語のようにも思えたんですよね。
さかした:えぇ? そうなんですかね? 自分ではまったく意識していなかったです。
—でも、“My Body is Dead”というタイトルの曲もあるじゃないですか。
さかした:いや、その曲も生きているんですよ。
「無宗教です」とか言いながら、みんな、なにかしらを信じている。
—生きている、というのは?
さかした:なんというか……自分の物事に対する目線として、「幽霊っぽい」とか、そういうのはあるのかもしれないですけど、基本的に「生死」とか、そういう重たいものを音楽に落とし込みたくないんですよ。怖いし、音楽が難しいものになってしまいそうでイヤなんです。音楽とそういうのって、相性がいいとは思えない。
僕はあくまで、生きている自分自身を見ているというか……。たまに、「日本人は宗教がない」なんて言いますけど、その割に日本人って、「これは神だ!」みたいな感じで崇拝しているものが、それぞれ強烈にあったりするじゃないですか。アーティストのこともそういう感じで熱狂的に好きになる人も多いし。本当の宗教ほどではなくても、それぞれが勝手に小さな宗教を作って、それで満足する、みたいな。
—確かに、そういう側面はありますよね。そこには違和感がある?
さかした:いや、違和感というか、「そういうもんだなぁ」と思うだけなんですけど。ただ、人ってやっぱり、なにかしら信じるものがあって生きているんだなぁっていう……そう考えると面白いなぁと思うんです。「無宗教です」とか言いながら、みんな、なにかしらを信じている。
—今日の話を総括すると、さかしたさんが信じているのは「自分自身」とか、「体」とか、そういう部分にフォーカスされていくのかなって思うのですが。
さかした:まぁ、「生きている」っていうこと自体が、今、自分が経験しているものなので。そういう感覚は、一番、自分には理解できる、というか……でも、そんなに難しい話でもないんですけどね。普段、あんまり物事を深く考えないので、よくわからないです(笑)。
—(笑)。これまで何度か取材させていただいて、改めて思うんですけど、さかしたさんは「自分が生きている」という実感そのものをすごく大切にしていて、それを音楽に落とし込もうとしているように感じます。だからこそ、なにかひとつの「答え」のようなものを芯に持っているというよりは、「今日と明日では考え方なんて変わっているかもしれない」っていう人間の流動的な性質そのものに身を任せているような感じもするし。
さかした:くくく……(笑)。
—なんで笑うんですか(笑)。
さかした:いや、客観的に聞いていたら、フラフラしたヤバい人間じゃないですか(笑)。でも実際、自分はそういう人間なんですよね。……本当に、その時その時の気分でしか動けない。だから、こういうインタビューでも「今日は思い出せないです」みたいな曖昧な答え方をしてしまうんですけど……。
昔はもうちょっと「ちゃんとしなきゃな」って思っていたんですけどね。最近は、「もう、これでいいや」って思ってます(笑)。
—ある意味、すごく誠実な態度だと思います。
さかした:誠実なんですかね? よくわかんないっすね……。明日にはわかるかもしれないけど(笑)。まぁ、それもこれも、気分なんで。
ドミコ『Nice Body?』(Apple Musicはこちら)
- リリース情報
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- ドミコ
『Nice Body?』 -
2019年2月6日(水)発売
価格:2,500円(税込)
RED-00121. ペーパーロールスター
2. さらわれたい
3. My Body is Dead
4. 裸の王様
5. 服をかして
6. わからない
7. アーノルド・フランク&ブラウニー
8. あたしぐらいは
9. マイダーリン
10. ベッドルーム・シェイク・サマー
- ドミコ
- イベント情報
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- 『Nice Body Tour?』
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2019年2月15日(金)
会場:埼玉県 北浦和 KYARA2019年2月23日(土)
会場:静岡県 浜松 FORCE2019年3月2日(土)
会場:福岡県 the voodoo lounge2019年3月3日(日)
会場:宮崎県 SR BOX2019年3月9日(土)
会場:広島県 BACK BEAT2019年3月10日(日)
会場:愛知県 名古屋 CLUB UPSET2019年3月16日(土)
会場:北海道 札幌 KRAPS HALL2019年3月20日(水)
会場:宮城県 仙台 LIVE HOUSE enn 2nd2019年3月24日(日)
会場:大阪府 umeda TRAD2019年3月29日(金)
会場:新潟県 CLUB RIVERST2019年3月30日(土)
会場:石川県 金沢 GOLD CREEK2019年4月6日(土)
会場:岡山県 ペパーランド2019年4月7日(日)
会場:香川県 高松 TOONICE2019年4月19日(金)
会場:東京都 恵比寿 LIQUIDROOM2019年5月18日(土)
会場:沖縄県 那覇 Output
- プロフィール
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- ドミコ
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2011年結成。さかしたひかる(Vo,Gt)と長谷川啓太(Dr)の2人からなる独自性、独創性で他とは一線を画す存在として活動。バンドの音楽性はガレージ、ローファイ、サイケ等多面的に形容される事が多いが、その個性的なサウンドは確実にドミコでしかない。一目で釘づけになる常習性の高いライブに定評がある。2016年11月9日、1stフルアルバム『soo coo?』をリリース。2017年Space Shower TVが年間通して新人アーティストをPUSHする『NEW FORCE 2017』10組に選出される。6月、初の配信限定シングル『くじらの巣』をリリースし、Apple Music『今週のNEW ARTIST』に選ばれる。7月、『FUJI ROCK FESTIVAL'17』に初出演を果たした。10月18日には2ndフルアルバム『hey hey,my my?』をリリース、11月にはバンド初となる中国ツアーを敢行。その前後で全国8か所のワンマンツアー行い各所SOLD OUT。2018年の年明けに日本テレビ系列『バズリズム02』の『これがバズるぞ2018』で5位にランクイン。FM802 DJ、ディレクターによる2018年注目のアーティスト『POP UP!!』に選出。3月JET全国ツアーのゲストアクトを経て、初渡米。『SXSW Japan Nite』出演後、全米6か所を回るツアー無事終了させた。12月には初の台湾公演を開催。2019年2月6日には3rdアルバム『Nice Body?』をリリースし、同作の発売に伴って全国ワンマンツアー『Nice Body Tour?』が開催される。
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