去年、10代アーティスト限定のフェス『未確認フェスティバル2018』でグランプリを獲得し、それだけではなくロッキング・オンが主催するオーディション『RO JACK』においても優勝するなど、突如として目の前に現れ、話題を振りまいた4ピースバンド「マッシュとアネモネ」が、3月13日に初の全国流通盤となるミニアルバム『羊の飼い方』をリリースする。
一見、ポップで耳馴染みのいい5曲のロックソングが並ぶこの作品は、しかし、聴けば聴くほどに、そのどこか歪な魅力で耳を惹きつける。ときに破綻のギリギリをかすめながらも、調和へと向けて疾走するアンサンブル。昨日と明日の狭間でゆらゆらと揺れるベッドのなかから呟かれるような言葉。不安と衝動。欲望と記憶。青春と夢想。そういうものがぐちゃぐちゃに混ざり合いながら、ひとつの確固とした世界観を形成している。『羊の飼い方』は、そんなマッシュとアネモネの不思議な魅力(の、恐らく一部)を聴く者に伝える作品だ。メンバー全員インタビューで、この無邪気で魅惑的な10代の才能に迫った。
この時代、音楽だけで売れるのは難しいし、アート方面とかも含めて、いろんな分野に広がった活動をしていきたい。(間下)
—マッシュとアネモネは去年、『未確認フェスティバル』と『RO JACK』というふたつの大きなオーディションイベントでグランプリを獲得して、急速にその知名度を上げることになったと思うんです。実際、バンドとしてもかなり盛り上がったのでは?
間下(Gt,Cho):そうですね。ただ、そうは言っても、僕らがバンドとして始まったのは去年の6月なんです。ちょうどバンドを始めた頃に、そのふたつのオーディションの募集があったので、「ちょっと出してみるか~」くらいのテンションで応募してみたんですよね。それが、こんな結果になってしまって……とにかく、驚いているっていう(笑)。
ヨネクボ(Dr,Cho):本当に、それに尽きるよね(笑)。
—結成して数か月で、一気にバンドの状況が変わったわけですよね。これらのグランプリを獲得したことで、バンドへの向き合い方って変わりましたか?
間下:単純な話、4人の仲はよくなりました(笑)。最初はそれぞれが別の方向を向いていたのが、段々と、同じ方向を向けるようになってきている気はするんですよね。
—いま、マッシュとアネモネはどんなバンドになっていきたいと思っているんですか?
間下:音楽だけじゃなくて、アート方面とかも含めて、いろんな分野に広がった活動をしていきたいっていうのが、いまのマッシュとアネモネのコンセプトにはあります。この時代、音楽だけで売れるのは難しいと思うし、僕が好きなアーティストも、音楽以外の分野に手を伸ばして活動してきた人たちが多いんですよね。僕はSteely Danがすごく好きなんですけど、彼らも、作品のジャケットがすごくアーティスティックだったりするし。
—たしかに、モデルの山口小夜子さんを起用した『Aja』(1977年発表)のジャケットなんかはとても有名ですよね。
間下:そういう感じで、音だけじゃなくビジュアル面でも、「このバンドといえば、こういう感じだよね」っていうものを作ることができたらいいなと思っています。
もちこ(Vo,Gt):たとえば、今回のアーティスト写真で私が着ている衣装も、私の好きなテイストが反映されていて。ちょっとゴリゴリ系というか。今回は和柄なんですけど、いかつい感じが好きなんですよね。そういうイメージが定着できるようなファッションなんかを提示していきたいです。
—もちこさんにとって、ファッション性の面でロールモデルとなるような人はいますか?
もちこ:橋本愛さんが好きですね。強そうというか、強烈な感じの人が好きなんです。そういう人に憧れているフシがありますね(笑)。
間下:もちこは、気の強そうな女の子が好きだよね。
もちこ:うん。そういうイメージを、このバンドにも持ってもらえたらいいなと思う。
—弱そうには見られたくない?
もちこ:うん、見られたくないです。
—そういう女性像に憧れるようなった根源って、どこにあるのだと思います?
もちこ:小さい頃からテレビドラマを見るのが好きだったんですけど、ドラマって、ちょっと普通じゃない、インパクトのあるキャラクターが出てくるじゃないですか。そういう存在に憧れがあるんですよね。「大衆の一部」になるんじゃなくて、「○○のもちこ」みたいな、自分のイメージをはっきりと持ってもらいたい。
だから、言い方は悪いかもしれないですけど、バンドは自分がそういう存在になるためのひとつの手段っていう感じでもあるんです。自分がイメージしている存在に近づくためにバンドがある、というか。もはや「オブジェクト」というか、モノとして好かれるぐらいの存在になりたいんですよね。
面白いキャラクターが揃ったバンドだと思います、マッシュとアネモネは。(間下)
—バンドの方向性などは、現状、もちこさんと間下さんがイニシアチブを握ることが多いのでしょうか?
間下:そうですね。そもそも、もちこから僕に「バンドをやりたい」と声をかけてもらったところから、マッシュとアネモネは始まっているので。やっぱり、ここふたり(間下ともちこ)の作るコンセプトは大きいと思います。
もちこ:私とヨネクボくんは同い歳で、間下くんは1個上の先輩で、同じ高校の軽音部にいたんです。私の高校は引退が早くて、3年生の5月くらいには部活の活動が終わっちゃって。でも、それ以降も私はバンドがやりたかったので、間下くんに声をかけました。で、抜けたメンバーのぶんを、他校だったんですけど、理子ちゃんにやってもらおうっていうことになったんです。
—他校でありながら、理子さんに声をかけたのはどうしてだったのでしょう?
もちこ:コーラスができる人がほしかったんです。理子ちゃんは自分の学校の軽音部でベースとボーカルをやっていたので。
間下:あと、これはヨネクボくんに関してもですけど、「なにもしていなくても、立っている姿だけでかっこいい人を探そう」と思っていました。ヨネクボくんなんて、バンドマンにはいない顔じゃないですか(笑)。最高の逸材だと思う。あと、理子ちゃんは可愛いし、可愛いし、可愛いし……。
—ははは(笑)。
間下:もちろん、歌も上手ですし(笑)、ピアノも弾けるし、音感のいいベースを弾くし。高校生だから、好きなバンドを真似した形になるのが当たり前じゃないですか。でも理子ちゃんは、出会った頃には、すでに真似だけには留まらない音楽的な素養があったんですよね。そういうふうに、面白いキャラクターが揃ったバンドだと思います、マッシュとアネモネは。
「演奏が楽しければそれが正解だな」って思う。(ヨネクボ)
—4人はそれぞれ、どんな音楽を聴くんですか?
理子(Ba,Cho):私はSiMが好きです。兄がもともと、そういうラウドな音楽が好きで、家でよく流れていて。それで、私も中2くらいの頃にバンドが好きになって。ライブにもよく行くんですけど、そういうヘビーな音楽が、一番気分がアガるし、楽しいんですよね。
—でも、いまのマッシュとアネモネの音楽性は、SiMのようなバンドとは、カラーの違うものですよね。
理子:そうですね。違うんですけど、でも、私は楽器を触ること自体が好きなので。自分がやるぶんには「こういう音楽じゃなきゃ!」っていう執着はないんです。
—去年の『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』で演奏されている映像を見たんですけど、理子さんは本当に楽しそうに楽器を弾きますよね。まったく緊張を感じなかった(笑)。
理子:ちょっとは緊張しましたけど(笑)。でもやっぱり、ひとりじゃないので安心できるというか。ステージに立つと「楽しいな」って思えました。
—ヨネクボさんは?
ヨネクボ:僕は、奥田民生さんとか、ナンバーガールとか……あと、なによりThe Whoが大好きです。家族が、子どもの頃からいろんな洋楽の番組を見せてくれて。そこで、中学生の頃にThe Whoの“The Kids Are Alright”のビデオを見たんです。そこから始まりました。
The Whoって、演奏も、インタビューとかも、全部楽しそうなんですよ。それを見ていると、「こういうバンド、いいな」って思うんです。「楽しい」っていうのが大前提にあれば、それでいいというか。もちろん、全部が全部「楽しい」ものってないと思うんですけど、とにかく、僕は「演奏が楽しければそれが正解だな」って思う。
—すっごくシンプルだけど、バンドが追い求める普遍的な本質的な部分が、いまのヨネクボさんの発言にはありそうな気がします。間下さんは、先ほどSteely Danがお好きだと仰っていましたけど、それもかなり渋いですよね。
間下:Steely Danも好きですし、小さい頃から好きだったのはマイケル・ジャクソンですね。
僕は、強烈なキャラクターのある人を支えているバンドが好きなんだと思う。(間下)
—間下さんは、なぜその2組に惹かれるんだと思いますか?
間下:いま「Steely Danとマイケル・ジャクソンの共通点ってなんだろう?」って考えていたんですけど、どちらも、バックミュージシャンがすごい人たちばかりなんですよね。そして、完璧なんだけど完璧じゃない音楽、というか。
—演奏はめちゃくちゃ上手いんだけど、人力のグルーヴ感というか、人が生み出す音楽としての揺らぎや微細なズレも、その音楽の美しさを補完している感じですよね。
間下:少し違和感はあるけど大衆的に受け入れられる音楽が、僕は好きなんだと思います。マッシュとアネモネに関しても、「普通のもの」は作りたくないんです。
それに僕は、普通じゃない、強烈なキャラクターのある人を支えているバンドが好きなんだと思う。だからこそ、マイケルのバックで弾いていたミュージシャンたちや、Steely Danを支えているメンバーたちに惹かれるんですよね。自分がキャラクターになるというよりは、そのキャラクターの核心を周りで支える人でありたい、というか。
だから僕は、「もちこ」という存在をもっと押し上げたいっていう気持ちがある。音楽的な部分をもちこに教えたり、プロデュースやマネージメント的な部分で、できることをやってやろうって。
—そうした感覚が土台にあるからこそ、「バンドはひとつの手段だ」と言い切るもちこさんを、同じバンドメンバーとして支えることができるわけですね。最後に、もちこさんはどのような音楽を聴いてきたのでしょう?
もちこ:私は、中学生の頃からMrs. GREEN APPLE(以下、ミセス)が好きで、ライブハウスに通っていました。
最初に言った「強烈なキャラクターに惹かれる」という話と一緒だと思うんですけど、ミセスも、他のバンドにはない存在感があって。メンバー一人ひとりに質量があるというか、個々に重要性を感じるバンドなんですよね。そういうバンドってすごくいいなと思うし、そういうバンドと関われたら、自分も面白い存在になれるかなと思って、バンドを始めました。
—個々の質量って、まさにマッシュとアネモネの4人にも通じる話ですよね。いま、「ミセスよりもでっかい存在になってやろう」みたいな野心はないですか?
もちこ:「でっかくなろう」っていう思いは、そこまでないんです。もちろん、「売れるか? 売れないか?」でいったら売れる方がいいと思うんですけど(笑)。
それよりも、「きゃりーぱみゅぱみゅといえば、こういうイメージ」みたいな、「マッシュとアネモネのもちこといえば、これだよね」っていう共通のイメージを多くの人たちに持ってもらえるような存在になりたいんです。
ヨネクボ:もちこは、部活で一緒だったときから、「もちこはもちこ」っていう感じで、他の人とは違う雰囲気があったんですよね。
「フワフワしていたくないな」っていう気持ちがある。いろんなことをハッキリさせたいんですよね。(もちこ)
—もちこさんには、「みんな」の一部に回収されない存在感が、前からあったわけですよね。今作『羊の飼い方』のタイトルも、もちこさんが付けられたんですか?
もちこ:そうですね。「飼い方」というのは、マッシュとアネモネをどういうふうに扱うか、どういうふうに分類するかを、これを聴いた一人ひとりのなかで印象付けるような作品になればいいなと思って付けました。
間下:バンドって、続けていくうちに、どんどんと変わっていくものだと思うんです。10代には10代にしか書けない曲があると思うし、20代には20代にしか書けない曲があると思うので。そういうものを、そのときそのときで形にしていきたいっていう気持ちが僕らは強いんです。そういう意味でも、『羊の飼い方』には、「いま」のマッシュとアネモネのいろんな部分を見せられる5曲が入っていると思います。
—ただ、バンドって「1stアルバムの頃がよかった」とか、「インディーズの頃がよかった」とか言われたりする場合もあるじゃないですか。「変わらないでほしい」というファンからの欲望を目の当たりにする瞬間もあるかもしれないですよね。
もちこ:それでも、私は変わっていきたいですね。自分が大事にしたいキャラクター的な部分は変えたくないけど、でも、その大元の部分を忘れさえしなければ、求められない変化はしないんじゃないかと思います。
それに、人間的な成長が音源や映像を通して手に取るようにわかるくらいのほうが、聴いてくれる人と一緒に、リアルタイムに歳をとっていけると思う。なので、歳相応でありたいというか、そのときの自分が感じていることを率直に出していけたらいいなと思っています。
—5曲目には“シープマン”という曲がありますけど、タイトルにも入っている「羊」のモチーフや、歌詞の端々にも「眠り」というモチーフがありますよね。でも、それは安眠というよりは、眠れない状態を表しているような感じがする。これは、なぜ出てきたものなのだと思います?
もちこ:なんというか、「フワフワしていたくないな」っていう気持ちがいまの私にはあって。いろんなことをハッキリさせたいんですよね。思っていることを言わずに物事を穏便に済ませたり、何事もなかったように日々が流れていったりすることが、すごくイヤで。「○○っぽい」とか言われるのもイヤだし。鮮明な存在、濃い存在でありたいと思うので。
—でも、もちこさんの書かれる歌詞は全体的にモヤモヤした状態、未来への不安感を滲ませるものでもありますよね。それは言わば、「曖昧な状態を鮮明に書いている」ということだと思うんですよね。「頑張れ!」みたいなことをハッキリという歌詞ではない。
もちこ:そうですね……。なにかを強烈に指摘してみたところで、共感はされないというか、「だからなんだよ?」で終わってしまうんじゃないかと思うから。それよりも、ヌルっとしていること……自分がなにを不安に感じていて、なにをイヤだと思っているのか? ということを、曲を作るなかで明確にしたいんです。
たとえば2曲目の“アフターオール”は、夏の終わりに書いた曲なんですけど、季節的にじめじめして、すごく不快な時期だったんですよね。私は、そういうことを鮮明に描きたいんです。
あと、4曲目の弾き語りの“マフラー”は、物事の流れが淡々としている感じを出したいなと思っていて。友達と会っても挨拶だけして通り過ぎていく感じとか、儀式のようにSNSを上げていく感じとか……すごく淡々としているなって思うんですよね。
—なるほど。「生きる」ということに対して、すごく鮮明な態度であり、表現だと思います。最後を暗い質問で締めるようですけど、いま、もちこさんにとっての「不安」って、どういう部分にあるんだと思います?
もちこ:不安ですか……漠然とした未来に対する不安、みたいなものはそんなにないと思います。それよりも、「明日」とか「1時間後」とか、そういうすごく具体的で近いところに対する不安が大きいです。「いま、自分がこれをこう動かしたら、次にどういう影響が出るんだろう?」みたいな不安を、よく感じていますね。
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- 『Eggs』
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料金:無料
- リリース情報
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- マッシュとアネモネ
『羊の飼い方』(CD) -
2019年3月13日(水)
価格:1,620円(税込)
EGGS-0381. ユートピア
2. アフターオール
3. フィッシュレディ
4. マフラー
5. シープマン
- マッシュとアネモネ
- イベント情報
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- 『インストアイベント』
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2019年3月21日(木・祝)
会場:東京都 タワーレコード渋谷店5F イベントスペース
- 『『羊の飼い方』リリースツアー』
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2019年3月27日(水)
会場:大阪府 LIVE SQUARE 2nd LINE
出演:
マッシュとアネモネ
TRANS LUCENT LADY
i am you are
FEEDWIT
フラスコテーション
PLUE2019年3月28日(木)
会場:大阪府 心斎橋 Live House Pangea
出演:
マッシュとアネモネ
TRANS LUCENT LADY
Blondy
Milopensas
知らないひと
- プロフィール
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- マッシュとアネモネ (まっしゅとあねもね)
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2016年Vo. もちこが前メンバーと結成。2018年5月Vo. もちこと前サポートメンバーであったGt. 間下隆太を中心にメンバーチェンジを経て、再始動。ユートピアを目指し日々歩く。メンバーは、もちこ(Vo, Gt)、間下隆太(Gt, Cho)、理子(Ba, Cho)、ヨネクボ隼介(Dr, Cho)。
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