できれば、より多くの人に知ってほしい。でも、そのために自分らしさを失うのは本末転倒だ。「他者からの評価」と「自分にできること」の間での心の揺れは、アーティストに限らず、多くの人が経験していることなのではないか。
ラップグループ、TOKYO HEALTH CLUBのDJ / トラックメイカーのTSUBAMEが、初のソロアルバム『THE PRESENT』を4月17日にリリースした 。その制作期間中、そうした葛藤で制作がなかなか進まないことがあったという。「ポップであること」と、「自分の好きな作品を生むこと」について、このアルバムにゲストとして1曲参加したAAAMYYYとともにクロストークを繰り広げてもらった。シンガーソングライターとしてソロで活動するほか、2018年に加入したTempalayでシンセサイザーを弾く彼女。2人は、アーティストにとって永遠の悩みのタネ、「ポップ」をどう捉える?
「ゆるいヒップホップ」って括られることに、なんともいえない気持ちにはなりました。(TSUBAME)
—TSUBAMEさんのソロアルバム『THE PRESENT』に収録された“YOU”にAAAMYYYさんが参加されていますが、TSUBAMEさんはなぜ彼女にオファーしたのでしょう?
TSUBAME:TOKYO HEALTH CLUB(以下、THC)で以前、一度対バンしていたんですよね。そのあと、AAAMYYYさんがRyohuさんと一緒にやった“BLUEV”を聴いて、改めて気になっちゃって。それでいつかやりたいなと思ってたんですけど、今回ついにオファーしました。
AAAMYYY:うれしかったですね。私はTHCがもともと好きだったので。
TSUBAME:それは嬉しいですね!(笑)
AAAMYYY:ただ、ラップグループって恐いイメージがあるじゃないですか。THCさんも恐い人たちなのかもしれないと思って、自分からコンタクトを取る勇気はなかったんです(笑)。
TSUBAME『THE PRESENT』を聴く(Apple Musicはこちら)
TSUBAME:もちろん、ラップグループが一見恐そうというのは理解できるんです。僕らもラップグループですが、他のアーティストをそう思ってました(笑)。
でも、実際に話してみるとむちゃくちゃ優しいんですよ。MACKA-CHINさんと最初に仕事したとき、5分遅刻したから焦ちゃって……。怒られるかなと思って「すみませんでした!」って言ったら、全然気にしてなくて「ようこそー。こっちだよー」って部屋に案内してくれて(笑)。ラッパーが恐いっていうのは、やっぱり「作られたクールさ」みたいなところがあるんだなって。
AAAMYYY:へー、作られてるんですか?
TSUBAME:中には本当に恐い人もいるかもしれないですけど、コミュニケーションを取ってないっていう壁があるせいで、こっちが勝手に「恐いはずだ」と妄想を過剰に膨らませてる気がします。
AAAMYYY:あー、それはありますね。
TSUBAME:THCの場合、恐いイメージは薄いと個人的に思っているのですが、サングラスをかけているのも、最初のほうはステージで目が泳ぐのを隠すためのオブラートで(笑)。
AAAMYYY:そういうことなんだ(笑)。
TSUBAME:THCはみんな、基本はシャイなんですよ。いまは克服したんですけど、最初はステージに出るのが恥ずかしすぎて。「お客さんのほうを見られないから、サングラスかけよう」って言ってました。あとは、ヒップホップの「恐さ」への勝手な憧れも(笑)。
AAAMYYY:かわいい……。
—THCはたしかに恐くないというか、ナードなラップグループという点をメディアは押し出していた気がします。それはご本人たちとして、問題なかったですか?
TSUBAME:それはもちろんOKでした。ただ、1stアルバム『プレイ』(2013年)への反応として「大学生ノリ」とかネットに書かれているのを見て……、「クソ!」みたいな(笑)。そういうノリだと思われるのも理解はできるんですけど、それでも悔しかったですね。
それで、2枚目、3枚目のアルバムで自分たちの世界観をアップデートしていくなか、恐いマッチョなイメージは作れないし、そもそも自分たちにはできないと思いました。
TOKYO HEALTH CLUB『VIBRATION』を聴く(Apple Musicはこちら)
—その方向性としては間違ってないけど、やっぱり「大学生ノリ」はちょっと、という。
TSUBAME:そうですね、「ゆるい」って言われすぎていて。「ゆるいヒップホップ」って括られることに、なんとも言えない気持ちにはなりました。
AAAMYYY:たしかに、「ゆるい」という言葉は難しいですね。それが「心地いい」とかだったらいいだろうけど。
TSUBAME:そうなんですよ。
—AAAMYYYさんも第三者に語られる自分のイメージと、実物の自分とのズレを感じることはありますか?
AAAMYYY:私はしゃべると、ゆったりとした口調なので大体のファンの人はイメージが崩れちゃうみたいなんです。
TSUBAME:たしかに音源だけ聴いたときは、すごいクールな人だと思った(笑)。
AAAMYYY:そうなんですよ。しゃべったら全然クールじゃないのがバレるっていう。でも、そのズレを苦痛に感じたりはしないですよ。話しかけてきてくれるというアクションを起こしてくれることにも私は感動するので、イメージと違うだろうけど「ありがとう」と感じてます。
音を詰め込みすぎないとか、いろんな捉え方をしてもらうようにするほうが、実はポップになると気づいたんです。(AAAMYYY)
—恐いイメージではないヒップホップをしようとしていたと先ほど仰っていましたけど、TSUBAMEさんは自分の音楽を「ポップなものにしよう」という意識はどのくらい持っているんでしょう?
TSUBAME:「ポップ」の概念って個人のニュアンスで変わるものですよね。もちろん、「できるだけ多くの人に聴いてもらいたい」とは思っています。ただ、自分の好きなものがアンダーグラウンドカルチャーだと思うから、大衆がイメージする「ポップ」は何年たっても作れないかもしれないですね。
—THCって「ポップにすること」に対して意識的なグループでもあると思うんですが、今回ソロでも同じように考えていたんでしょうか?
TSUBAME:実は今回のアルバム、制作に1年かかったんです。最初の半年は「どうやったらみんなに喜んでもらえるだろう」ってグループのノリで考えていて。でも、あまりに悩んだ末に「もうそんなの関係ないや」「自分にはこれしかできない」って結論に達したんです。それで後半の半年でガーッと作り上げていきました。その半年の間に、自分の中でポップというキーワードが消えていったかもしれない。
—AAAMYYYさんは「ポップにする」という意識はどれくらい働いているんですか?
AAAMYYY:80%くらいですかね。
—結構多いですね。ポップの指針になるものってなんですか?
AAAMYYY:自分が「いいな」って思う音楽は、だいたいみんな同じように好きなんですよ。たとえばCharaさんとか宇多田ヒカルさんとか。日本でも海外でも、頭に残る、歌いたくなるものがいいなって思っています。
それを作るためには、ポップという概念が一番の近道だし、シンプルなやり方だとTempalayに入ってから思ったんです。それから音を詰め込みすぎないとか、シンプルなことをできるだけ言うとか、いろんな捉え方をしてもらうようにするほうが、実はポップになることが多いと気づきました。
TSUBAME:いまって、「個人のポップ」と「大衆のポップ」の境界線が、あまり存在しないのかもしれないですね。水曜日のカンパネラとか、知った当時は「すごくユニークなアーティストが出てきたな!」と面白がっていたのに、いまではポップな存在になっているし。
あと、Nujabesに、ラストでクラップだけが1分くらい鳴ってる“Spiritual State”という曲があるんですよ。YOSAと話をしていて。どういう心境でそんな曲を作るのか不思議だったけど、最近改めて聴き直して「本当にただこういうものを作りたいって思ったんだろうな」と感じたんです。そんな曲もあるのに、いまではNujabesもある意味でポップな存在になっているし。
「ポップ」って、誰かがそう言った瞬間に名づけられる、名札みたいなものかもしれない……もう、なにがポップかわからなくなってきちゃった!
一同:(笑)。
Nujabes“Spiritual State”を聴く(Apple Musicはこちら)
—結局それって時代性によってどんどん変わっていくものですしね。ただ、アーティストの方は自分なりの普遍性を指針にしているような気がします。
TSUBAME:そうですね。「好き」とか「等身大」「無理しない」みたいな姿勢がいまは強いんじゃないですかね。
ソロを作る人たちは、「結局、等身大しか吐き出せませんでした」っていう作品を生み出しているような気がします。(TSUBAME)
—「無理しない」って現代においてはすごく大事かもしれないですよね。
TSUBAME:ソロを作っている人たちは、多分みんなそこにぶち当たって、「結局、自分の等身大しか吐き出せませんでした」っていう作品を生み出しているような気がします。
—ただ、体感として『THE PRESENT』からポップな印象を受けたんですよ。
TSUBAME:え、本当ですか! それは、めっちゃうれしいです(笑)。自分では、今回のトラックに関して「暗っ!」くらいに思ったので、ポップっていうワードが出てきたのは意外です。
—意識していないだけで、Rachel(chelmico)、TENDRE、mabanua、Kick a Showなど、TSUBAMEさんのポップセンサーがゲスト陣に反映されていると思います。
TSUBAME:そうかもしれないですね。34年間生きてきた中で、いま一番気になっている人たちにオファーしたんで、本当にストレスが一切ない作品になっていて、タイトルも「いま」を表す『THE PRESENT』にしたんです。だから、誰になにを言われても、なんならディスられてもOKです、っていう感覚ではあるんですよ。これがTHCの作品だと、「悔しいな」ってなるけど、今回はならない。
—ゲストは多彩ですけど、トラックは作品全体を通して統一感があるように感じました。曲はTSUBAMEさんが決めていったんですか?
TSUBAME:「これ歌ってください」って1曲をゲストに渡すというより、色々ある中で選んでいただくほうがオファーにあたって失礼ないだろうと思って、それぞれに何曲か渡しました。もちろん、「この中からならアルバムに入れて納得がいく」という曲だけですけどね。
—トラックは新しく作っていったんですか?
TSUBAME:もともと作ったまま温めたものも多くて。AAAMYYYさんと今回やった“YOU”も、以前作ったものですね。デモで歌をもらったときに軽くアレンジしたくらい。この曲を選んでくれてありがとうございます!
AAAMYYY:「好きなもの選んでください」って、何曲か送ってくれたんですよね。全部よかったんですけど、大人っぽい曲を歌ったことがないから、やってみたいと思って選びました。
—<今夜はまた迷子で>と、夜を感じさせる歌い出しではじまりますよね。「大人っぽさ」はかなり意識されていたんですね。
AAAMYYY:そうですね。自分は色気があんまりないな、と思っていて。
TSUBAME:いやいや、PV見てる限りかなりありますよ。
AAAMYYY:そういう自負はなかったです(笑)。曲に関しては、TSUBAMEさんと私ともうひとり、ラッパーのIttoくんという3人のバイブスが化学反応を起こした先にできたものなので、唯一無二のものになったという自負はあります。
TSUBAME:mabanuaさんもこの曲は「THE INTERNETみたい!」ってかなり絶賛してくれたんですよ。
AAAMYYY:えー! うれしい!
ユニットを組んでいた時期は、理想に向けてがんばることが正義みたいな感じだった。でも、やはり「自分以上」にはなれないので。(AAAMYYY)
—今回のソロ作品を終えて、THCに持ち帰れそうなことってありますか?
TSUBAME:「自分が前に出ない」っていうことを……覚えちゃいましたねえ(笑)。
一同:(笑)。
TSUBAME:今回、初めてソロアルバムを作って、グループとして音楽を作るのとソロで音楽を作るのとでは100%違うんだという答えが出たんです。 いままで、僕はTHCのときも自分のやりたいものを主張してきたんですよ。でも、自分がやりたいじゃなくて、みんなが「この曲作りたいね」って言った曲のほうがいいものになるんじゃないかなって。そう気づけたのは、すごく収穫です。
—AAAMYYYさんも、ソロとTempalayの活動は変えていますか?
AAAMYYY:そうですね、ソロになる前にユニットを組んでいた時期は、「こうなりたい」っていう理想像があって、それに向けてがんばることが正義みたいな感じではあったんです。ソロだと、その煩わしさから解放されるというか。「等身大」というキーワードもあったけど、やはり「自分以上」にはなれないので。
TSUBAME:そうなんだよね。みんなといると「あの山を登ろう!」みたいになっちゃうんですよね。
AAAMYYY:そうそう。「がんばろう!」みたいな。もちろん、そのグループがいい関係だったら、すごくいいと思うんですよ。私も、Tempalayに関しては長くサポートしていて、いいところも悪いところも知っているので、いい関係を続けられると思っているんです。
TSUBAME:ソロを通して、ようやく自分も4人で「あの山を目指そうよ」って言った瞬間にいい曲ができるんじゃないかなっていう感覚になれました。
いままでは、まずトラックを作って曲のカラーが決まってしまっていたので、THCの次の作品は、みんなで考えたテーマから音を作るみたいなことに挑戦してみたいんですよね。そうすると、いままでとは違う作品になりそうだなと。ソロをやっていなかったらこの考え方にたどり着かなかったと思うので、新作について考えるのが楽しいです。
AAAMYYY:新作も楽しみ。
TSUBAME:すごいしょうもなかったらどうしよう(笑)。
AAAMYYY:それはそれで全然(笑)。
TSUBAME:『史上最低のアルバム』みたいな(笑)。
- リリース情報
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- TSUBAME
『THE PRESENT』(CD) -
2019年4月17日(水)発売
価格:2,160円(税込)
OMKCD-00181. THE PRESENT
2. GOOD NIGHT feat. おかもとえみ & Rachel
3. SPACE feat. TENDRE
4. YOU feat. AAAMYYY & Itto
5. ONE LOVE
6. 窓をあけたら ~69 Merry Go Round~ feat. MACKA-CHIN
7. DREAMER feat. mabanua & HUNGER
8. RAINS feat. kiki vivi lily & Kick a Show
9. WEEKEND PLANS feat. 週末CITY PLAY BOYZ
10. LAST TIME
- TSUBAME
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- AAAMYYY
『BODY』 -
2019年2月6日(水)発売(CD)
価格:2,500円(税込)
PECF-32221. B2615
2. GAIA
3. 被験者J
4. Z (feat. Computer Magic)
5. ポリシー
6. ISLAND (feat. MATTON)
7. 愛のため
8. All By Myself (feat. JIL)
9. 屍を越えてゆけ
10. EYES (feat. CONYPLANKTON)
- AAAMYYY
- プロフィール
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- TSUBAME (つばめ)
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2010年より活動するヒップホップユニットTOKYO HEALTH CLUBのビートメイカー / DJ。YOSA、ZOMBIE-CHANG、JABBA DA FOOTBALL CLUB、TOSHIKI HAYASHI(%C)らを輩出した音楽レーベル「OMAKE CLUB」の主催者。
- AAAMYYY (えいみー)
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長野県出身のSSW / トラックメイカー。CAを目指してカナダに留学し、帰国後22歳から音楽制作を始める。2017年からAAAMYYY(エイミー)名義で活動を開始し、2018年6月からTempalayに正式加入。数多くのサポート、ゲストボーカル経験を持ち、CMでの歌唱提供やモデルでの活動も並行する。
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