5月29日、渋谷WWWにて開催されるEggsによる新企画『DADARINRIN Supported by SILAS』に、THREE1989、Emerald、羊文学、Mellow Youth、MIRRROR(オープニングアクト)が出演。イーストロンドンを発祥とするアパレルブランド「SILAS」がサポートをし、出演者がSILASの服を着てステージに立つなど、音楽とファッションをミックスさせたストリートカルチャー的な要素の強いイベントとなっている。
そこで今回CINRA.NETでは、THREE1989のShoheyと、Emeraldの中野陽介という2人のフロントマンを招き、対談を実施した。1980年代のブラコンと2000年前後のネオソウルというそれぞれの立脚点を持ちつつも、様々な年代の音楽をクロスさせ、最終的には歌に寄り添ったアレンジを聴かせる両バンド。それぞれのボーカリストの矜持を聞くことによって見えてきたのは、日本語の歌の可能性と、「カルチャーを通じて、自分らしいあり方を肯定する」という、音楽とファッションの現代における存在意義であった。
最初の2秒で掴まないと。だから、すぐ手を出しちゃうんです(笑)。(Shohey)
―まずは、お互いのバンドに対する印象をお伺いしたいです。
Shohey:THREE1989はすぐサビから入ったりするんですけど、Emeraldはちゃんとイントロから聴かせてくるんですよね。僕らは「すぐ手が出ちゃう」みたいな感じなんですけど(笑)、中野さんたちは僕らよりちょっと上の世代ということもあって、大人の余裕を感じます。後々どっちを聴きたいかっていうと、ちゃんとイントロが印象に残ってるほうかもなって思ったりするんですよね。
中野:逆に俺はドアタマからサビの曲ってなかなか作れなくて。イントロ、Aメロって積み上げていってサビを作ることが多いから、フックを最初に作れるのってマジですごいなって思う。実際THREE1989の曲はマイケル・ジャクソンみたいなフックの強さがあって、最初からかましてくれるから、聴きやすいし、入りやすいんですよね。
―すぐ手が出ちゃうTHREE1989に対して、Emeraldは大人の余裕でじっくり近づいていくと(笑)。
中野:ビビってるだけかもしれないですけどね(笑)。
―実際に、Shoheyさんはサビから作ることが多いんですか?
Shohey:曲にもよるんですけど、大体サビから作ってますね。耳に残る言葉を探して、それをサビの最初に持ってくる作業から始めるかな。
―「最初で掴む」という考え方は、時代性も見据えてのこと?
Shohey:そうですね。SpotifyやApple Musicが広まって、言い方は悪いかもしれないですけど、音楽がファストファッション的な聴き方になってきたなかで、最初の2秒で掴まないとって思います。だから、すぐ手を出しちゃうんです(笑)。
中野:大事ですよね。俺も最近そこをシビアに考えるようになって、ドアタマサビ始まりに挑戦したいと思ってるんですよ。今月フィッシュマンズの“ゆらめき IN THE AIR”のカバーを発表して、それはドアタマから歌が始まるんです。最初からサビの曲を作ることに今かなり興味があるんですけど、「フックに注力しよう」って思ったのは、それこそTHREE1989とかを聴いていたからかもしれない。
ちゃんと歌っていい時代になってきたなって思いますよね。宇多田ヒカルさんがアルバムを出したことで、再燃した気がする。(Shohey)
―ボーカリストとしては、お互いのことをどう見ていますか?
Shohey:中野さんは声がすごく素敵じゃないですか? 初めてお会いしたときはまだEmeraldを聴いたことがなくて、曲を聴いたときに、話し声と歌声のギャップがすごいなって感じたんですよ。素敵な甘い声がすごく好きです。
中野:僕が最近聴いた日本のアーティストのなかで、Shoheyくんは断トツで歌が上手いと思う。PAELLASも上手いなって思ってたんですけど、Shoheyくんは表現力があるというか。俺、やっぱりスキルって大事だと思うんですよ。ヘタウマみたいなのはあんまり好きじゃなくて、確固たるスキルを持った人がちゃんと歌うって、すごく価値があると思う。
Shohey:ちゃんと歌っていい時代になってきたなって思いますよね。久保田利伸さんが出てきた時代から一周回って宇多田ヒカルさんが出てきた時代、さらに一周回って「歌」というものに着目される時代になったんじゃないかなと思います。宇多田ヒカルさんがアルバム(『Fantôme』、2016年発売)を出したことで、また再燃した気がしていて。いい時代が来たなって思いますね。
中野:「すごい人しか歌っちゃいけない」みたいな時代から、「歌をみんなのもとに取り戻そう」じゃないけど「ちょっと下手でもいいから歌う」みたいな時代になって、それはそれで楽しかった。でも、今みたいにちゃんと歌う人が増えてくると、やっぱり血沸き肉躍る感じがあるんですよね。
『テラスハウス』に出たことでTHREE1989の曲を世界中の人に聴いてもらうようになって、日本語のよさを、J-POPを、広めたいって改めて思ったんです。(Shohey)
―僕は、2人の共通点は「日本的な歌」なのかなと思います。サウンドは海外の音楽から影響を受けつつも、歌に関しては直輸入という感じではない。ShoheyさんはJ-POPがルーツにあったり、中野さんは日本語を大事にしていたり、背景はそれぞれだと思うんですけど、実際ご自身としてはどんなことを意識していますか?
Shohey:J-POPの枠、ルールというものを大事にしています。ただ、最近ちょっと悩みがあって……「カラオケで歌えない」みたいに言われることがあるんですよ。「みんなに歌ってほしい」っていう気持ちがあるので、そこを意識して作っていきたいですね。
中野:キーが高いからじゃない? 俺も「歌えない」って言われることあって、それもキーが高いからだと思う。あとEmeraldはシンガロング系の歌があんまりないんです。そういうのをモチベーションに最初から書いてないっていうのもあるけど。
Shohey:「息継ぎが難しい」とかも言われるんですよね。僕は「自分がこれを歌いたいから歌う」というよりは、「これ聴いたら気持ちいいかな?」とか、リスナーのことを思って作るほうが強いかもしれないです。
なので、最近メンバーとかプロデューサーからは「歌詞をもうちょっと伝わるように書いてみたら?」っていうアドバイスをもらっていて。今は歌詞の3割くらいが英語なんですけど、次は全部日本語で書いてみようかなって。
中野:俺は逆にもともとほとんど英語を使わないから、「英語増やそうかな」とも思ってたんです。でも、それをタナソー(田中宗一郎)さんに相談したら、「中野くんは無理に英語っぽいのやらなくてもいいんじゃない? それよりも、日本語の新しい符割りを考えてほしい」って言われたんですよね。
英語もやってみたいんですよ。気持ちいいし、聴きやすいし。でも、最初は「こんなの作ってみたよ」でいけるんだけど、英語という言語の世界に自分が入れてない状態で繰り返し歌うのは、やっぱりつらいんですよね。
Shohey:僕が以前やってたジャズテイストのバンド(SHEWAS)は全編英語だったんですけど、おっしゃる通り、最初は「かっこいいっしょ?」って感じでやれても、結局腑に落ちない。それに、やっぱり日本語って美しいんですよね。
僕、Netflixでやってた『テラスハウス』に出て、世界中の人たちがあの番組を見てるから、THREE1989の曲を世界中の人に聴いてもらうきっかけになったんです。そうなると、やっぱり日本語のよさを、J-POPを、広めたいって改めて思うようになったんですよね。
中野:今って「88rising」の世界的な盛り上がりもあって、日本が表層的な意味でもクールって言われだしていますよね。オリエンタルな風貌がブームとしてきている。
ただ、日本語ってめちゃくちゃ美しい言語だけど、メロディーに乗せるのは本当に難しいんですよ。だって、言葉にもう旋律があるんだもん。しかも、その言葉の示す意味がすごく限られていて、英語みたいな広がりは作れない。だから、本当にパズルみたいな感覚なんですけど、でも日々そういうことを考えながら作るのって、すごく面白いなって思うんですよね。
非常に窮屈な世間のなか、17年やっていて今の時代が一番いいです。(中野)
―一昔前は「海外の人に聴いてもらうには、英語で歌わないと」みたいな考えが一般的だったけど、その価値観はだいぶ変わりましたよね。さっきの中野さんの話のように、日本語で面白い符割りの曲を作ったほうが、海外の人にも新鮮に響くと思うし。
中野:Charaさんはそういうことをずっとやっていて、日本語なのに英語の旋律として聴こえる。あれは本当にすごいなって思う。“Junior Sweet”のサビとかって、そのまま英語の歌詞としても聴ける旋律なんですよね。
Shohey:岡崎体育的なことではないですよね?(笑)
中野:感覚としては、岡崎体育と変わらないっちゃ変わらないんだけど(笑)、Charaさんは海外の音楽をずっと聴いてきて、R&Bマナーやジョニ・ミッチェル直系のシンガーソングライターマナーを複合してやってるのがすごいんですよね。
Chara“Junior Sweet”を聴く(Apple Musicはこちら)
中野:昨年『SUMMER SONIC』でジョルジャ・スミスを観て、英語はわからないのに歌ってる内容がわかったという経験も大きくて、“東京”とかは「海外の人が聴いて、なにを歌ってるかなんとなくわかる」というのを目指してメロディーを作りました。さっきも言った88risingの件もあって、ラップもどんどんオリエンタル化が進んでたから、そこでやっと「日本人として日本語を歌う」っていうのをやっていいんだって思えたんです。
中野:それまでは超悩んでたんですよ。「俺もPAELLASみたいに英語で歌ったほうがいいかな?」とか(笑)。でも、彼らも今日本語でやってますよね?
―PAELLASの新しいアルバム(『sequential souls』、2019年6月発売)も全編日本語ですね。THREE1989の日本語の楽曲も、すでに世界で聴かれてるわけですもんね。
Shohey:今の時代でよかったなっていうのはすごく思いますね。一昔前だったら、ちゃんと売り出してもらえないと、誰にも届かなかったかもしれない。でも、今は自分たちでやれるし、世界中の誰にでも聴いてもらえる手段がある。
中野:僕はもう17年歌ってるんですよ。非常に窮屈な世間のなか、ロックバンドを10年やって解散して、Emeraldになって今7年目ですけど、17年やっていて今の時代が一番いいです。日本も海外も、かっこいいものがちゃんとかっこよくて、ねじ曲がってる形跡がない。素敵だなって思うことがすごく多いし、今が一番居心地いいなと思いますね。
自分が自分らしくいられるために手に取るものが、音楽であり服だと思うんですよ。(中野)
―ここからはファッションについてもお伺いしたいと思います。2人が共演する『DADARINRIN Supported by SILAS』はアパレルブランドSILASがサポートしていて、今日も2人にはSILASの洋服を自ら選んで着ていただいていますが、それぞれなにかポイントはありますか?
Shohey:僕はこれを着てライブに出ようと思っているので、ライブ映えする衣装をイメージして、カチッとシャツがいいかなって。
中野:僕は中3からスケボーをやっていて、もともとSILASがストリートブランドだっていう認識があったので、スケボーをするときに羽織るイメージで決めました。
―中野さんは昔からストリートファッションが好きだったんですか?
中野:好きだったんですけど、昔はお金なくて買えなかったので、大人になってから買っちゃいますね。当時はユニクロとかもなかったから、アウトレットでGUESSのデカいジーンズをめちゃ安く買ったり、ジーンズメイトで似たやつを買ったりしてました。今になって、ようやくいろいろ着られるようになったので楽しいです。
―じゃあ、SILASがサポートするイベントに出るというのは、中野少年からすれば夢が叶ったような出来事ですね(笑)。
中野:本当に、昔の自分に教えてあげたいです(笑)。
―Shoheyさんもなにかのカルチャーにハマって、そのファッションをしていた時期ってありました?
Shohey:僕はそういうのあんまりないんですよね。メンバーは昔ビジュアル系のバンドをやっていて、その時期にロックな格好をしてたみたいですけど。
中野:僕もロックバンドをやっていたので思うんですけど、昔はロックのファッションって狭かったんですよね。選択肢が少なかった。今のほうがなんでも好きなものを着られるようになったなって、すごく思います。
自分を肯定するというか、自分が自分らしくいられるために手に取るものが音楽であり服だと思うんですよ。なので、「この形にハマってください」っていうファッションよりも、「あなたの形にフィットするんで、好きに着てください」という服のほうが好きですね。ハイブランドとかって、「このスタイルにならないと着れません」みたいな売り出しが多いと思うんですけど、「そういうのいいっす。自分で選びたいっす」みたいな。
―わかります。
中野:それって音楽も同じだと思うんです。「このマインドで聴いてください」って言われても、「うるせえ、俺のストーリーで聴かせろ」みたいな。主人公はあくまで聴き手っていう、そういう感覚の人が増えてると思うんですよね。
その人の物語に同化して、吸収されて、その人が自分の人生を肯定的に受け止められるようになる。今はそういうブランディングや見せ方が求められている気がします。
日々好きな服を着て、いい気持ちで生活をして、周りにいる人たちを大事にして、その日常と地続きでステージに立ちたい。(中野)
―周りのミュージシャン仲間を見ても、そういうことを感じますか?
中野:やっぱりミュージシャンは基本オシャレですよね。みんな自分の体に合った服を着てるなって思います。
大学生の頃、僕は体に合う服を探すために1日歩き回りたいタイプなんですけど、周りは全然体に合ってないブランド物の服を着てたりするから、「ダサっ」と思って見てたんですよね(笑)。でも、今の若い人たちはちゃんと自分の体に合う服を着てるから、すごくいいなって思う。自分の体に合った服を選べる人がオシャレだと思うんですけど、周りのミュージシャンはみんなそれができているから、一緒にいると勉強になります(笑)。
―Shoheyさんはファッションに関してどんなこだわりがありますか?
Shohey:僕は古着屋さんで買うことが多くて、ピンと来たら悩まずすぐ買うんですよ。ステージ衣装と普段着は分けていて、THREE1989の音楽が一番映えるっていうことと、僕ら3人なので、3人のまとまりを考えてテーマを決めて選んだりします。
中野:メンバーみんなで買いに行ったりするの?
Shohey:行きますね。
中野:最高。仲いいんですね。
Shohey:仲はいいですね。「友達がこの3人」みたいなところもあるっていうか(笑)。
中野:あー、でもEmeraldもそうなってきてるかも。ずっと一緒にいるから。
―Emeraldもステージ衣装の話とかってしますか?
中野:意外や意外、するんですよ。昔はそういうのにこだわるのはかっこ悪いみたいな感じがあったかもしれないけど、最近は「その格好いいね」って、服装を褒め合ったりして……都会のバンドっぽくなってきたなって(笑)。
―じゃあ、「イベント当日は衣装もお楽しみに」っていうことですね。
中野:プレッシャーですけどね(笑)。ただ、ライブの日だけめちゃくちゃ頑張るんじゃなくて、日常と地続きでステージに立ちたいと思っていて。日々好きな服を着て、いい気持ちで生活をして、周りにいる人たちを大事にして、それでステージに上がるっていうことをしたい。
自分たちの精神的なファッションを見せたいというか、「普段からこの感じ」という姿を見せて、それをかっこいいって思ってもらいたいですね。そういう意味での「ストリート感」を表現できたらいいなって。
―Shoheyさんからも、イベント『DADARINRIN Supported by SILAS』に向けて最後に一言お願いします。
Shohey:いつもやってる楽曲をやったとしても、今回はSILASさんの洋服を着させてもらえるので、僕らの気持ち的にも、お客さんの目線的にも、プラスアルファのフレッシュさが加わると思う。その新鮮さ、新しさを一番推していきたいと思いますね。あとはもう、Emeraldと一緒にやれるのがとにかく楽しみです。
中野:うちのメンバーはみんな『テラスハウス』を見て、Shoheyくんにメロメロなので、当日はメンバーの喜ぶ顔が楽しみです(笑)。
- イベント情報
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- 『DADARINRIN Supported by SILAS』
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2019年5月29日(水)OPEN 18:30 START 19:00
会場:東京都 渋谷WWW
出演:
THREE1989
Emerald
羊文学
Mellow Youth
MIRRROR(オープニングアクト)
料金:3,000円(ドリンク代別)
※SILASネックポーチ付き
- ブランド情報
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- 「SILAS」
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1998年、イースト・ロンドンにてSILASスタート。SILASの掲げるコンセプトは、スケートや音楽からインスパイアされた「EAST LONDON STREET / イースト・ロンドン・ストリート」。ブリティッシュスタイルと、カルチャー的要素をミックスしたスタイルをベースとし、『洋服は着る人のライフスタイルを重視した独自の着こなし』が大切であると考えています。
- プロフィール
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- THREE1989 (すりー)
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全員が1989年生まれの3人組バンドTHREE1989。Shohey(Vo)の圧倒的な歌唱力と美声、Datch(DJ)が生み出す、時にアッパーで時にディープなグルーヴ、Shimo(Key)の様々な楽器を使いこなす高いスキルを駆使しライブを行う。1970~80年代のR&B・ジャズ・ロックなどに感銘を受けたメンバーが創り出す、現代的なサウンドの中に当時の懐かしさを感じる、ニューノスタルジックな楽曲が特徴。また各メンバーが作詞、作曲、編曲を行う。演奏形態も場所や環境によってアレンジや構成を変えて演出する。サポートを招いての生バンドセットや、DJ卓に3人並んでのクラブセット、音数を減らしたアコースティックセットなど幅が広い。
- Emerald (えめらるど)
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Emerald is 'Band'. Pop music発 Black Music経由 Billboard/Blue Note行。2011年結成。ジャズ、ネオソウル、AORといったジャンルを軸にした楽曲群に、ボーカル中野陽介の持つジャパニーズポップスの文脈が加わったそのサウンドは、新しいポップミュージックの形を提示する。2017年リリースの2ndアルバムがSpotifyプレイリストにピックアップされるなど、各方面から高い評価を受ける。2018年12月にはミニアルバム『On Your Mind』をリリースし、リードトラック“ムーンライト”がラジオ各局でパワープレイに選出。さらに、2018年1月にbonobos、11月にbohemianvoodoo、2019年4月にはものんくるを招きWWWにて自主企画を開催。いずれも大盛況となる。2019年は都内主要サーキットフェスに加え、野外フェスへの出演も決定。
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