人はなぜ、旅に出るのだろう。知らない土地へ行き、普段とは違う文化や習慣に身を置いてみると、今まで知らなかった「新しい自分」や、今まで気づかなかった(あるいは気づかないふりをしていた)「本当の自分」に出会うことがある。いつもの常識が通用しない中、感覚が研ぎ澄まされたり新たな価値観に触れたりするのも旅の醍醐味だ。
「サントリー 天然水GREEN TEA」のプロモーション企画として、5組のアーティストが『徒然草』を再解釈し、楽曲を制作する『徒然なるトリビュート』。静岡は浜松に暮らすシンガーソングライター崎山蒼志が、その600年以上前の随筆の中から選んだのは「旅」の魅力について綴った段だった。プログレッシブなコード展開と、入り組んだメロディーラインに乗せた、瑞々しくも文学的な歌詞。そんな一筋縄ではいかない音楽性を持つ崎山だが、今回のトリビュートソング“柔らかな心地”はいつになくシンプルで、彼の新しい魅力を引き出している。
昨年デビューを果たした崎山は、ライブやプロモーションなどで地元を離れることも多くなった。新しい出会いや経験は、きっと曲作りに大きなインスピレーションを与え、家族や故郷の大切さを再確認するきっかけにも繋がっているはずだ。全5回の連載でお届けする本企画、第3回目はそんな崎山の「今」をお届けしよう。
家を出ることってすごく勉強になるんだなって思いました。
—崎山さんは、『徒然草』ってちゃんと読んだことありました?
崎山:中学生の頃に国語の授業で習ったけど、ちゃんと読んだことはなかったです。もっとカチッとした感じなのかと思ったら、結構「自由でいいんだ」みたいなことが書いてあって、とってもいいなと思いました。
—ちなみに、普段はどんな本を読んでいるんですか?
崎山:純文学だったら、中村文則さんの表現がとても好きです。あとは、ミュージシャンの君島大空さんから吉増剛造さんの詩集をもらってそれを読んだり……。音楽をやっている方に、教えてもらうこともあります。
—今回、『徒然草』を再解釈した曲を作る上で、第15段を選んだ理由はどんなところなのでしょう?
崎山:200以上の段があって、全部いいなと思ったんですけど、いちばん自分が曲として解釈しやすそうだったのが第15段でした。
崎山蒼志“柔らかな心地”を聴く(Apple Musicはこちら)
—要約すれば、「旅に出ると目がさめるような心地になり、心の動きが敏感になっていい」ということになりますが、そういう経験はありますか?
崎山:自転車で、登下校の時にいつもとは違うコースを回ってみたりすると、ちょっといつもと違って気持ちがリフレッシュすることはあります。
—なるほど。同じ道でも時間帯によって、見える景色が変わったりすることもあるかもしれないですね。
崎山:そうなんです。旅といえば、お父さんと温泉に行くくらいですかね。ライブなどで飛行機に乗る機会も増えたんですけど、飛行機があまり得意じゃなくて。離陸とか怖くないですか? だって、助からない速度ですよね。いつか海外へ旅してみたいけど、そこが課題です。
—(笑)。泊まりでツアーへ行くなど、家を離れることが多くなって気づくことも増えませんか?
崎山:いろんな場所へ行ったり、たくさんの人に出会ったり話したりすることが増えて、今まで知らなかったことを知ることができるようになって、家を出ることってすごく勉強になるんだなって思いました。
去年、ショッピングモールを廻るツアーをした時に、茨城県の土浦というところへ行ったんです。そこのショッピングモールの本屋さんには、お客さんから買取った古本を読みながらコーヒーを飲めるコーナーがあって。「え、こんな本が置いてあるの?」っていうくらいヘンな本……サイケデリックというか、神秘的なテーマの本がたくさん置いてあってびっくりしました。
—ああ、なるほど(笑)。きっと地元にちょっと変わった趣味の人がいて、大量に売りに出したんでしょうね。
崎山:そうですよね(笑)。それがすごく楽しかった。岡本太郎さんの『神秘』という本をそこで手に入れました。
—そういう経験をすると、いろんな街があるんだなって思いますよね。
崎山:はい。地方へ行って、それぞれの場所で美味しいものを食べるのも、すごく楽しいです。
—ホテルにひとりで泊まっていると、自分でやらなきゃいけないことも増えますよね?
崎山:そうですね。でも自由だし、開放感もあって結構楽しんでいます。
周囲との違いを感じた時の気持ちに向かい合って、それを言葉やメロディーにしていきます。
—東京はどんなイメージですか? 初めて来たのも、この仕事をするようになってから?
崎山:いえ、たしか小学生の修学旅行だったと思います。友達とみんなで「あの東京だぜ? やばいよ!」って興奮してました。今も新幹線に乗っていて、どんどんビルが増えてくると「あ、東京に来たな」って思うけど、以前のような高揚感はもうなくなっちゃったかもしれない。
—東京を頻繁に訪れるようになって、改めて地元の良さに気づくことも増えてくると思います。
崎山:浜松って、浜松駅の周りにしか人がいないんですよ。隙間だらけで、何にもない。そういうところがあまり好きじゃなかったんだけど、でもやっぱり帰ってくると安心します。「あ、着いた」って。「ここが故郷なんだな」という感覚は、一度外に出てみないと分からなかったと思います。「故郷」ってほどでもないのかな……。
—以前のインタビュー(参考:崎山蒼志が戸惑い混じりに語る、『日村がゆく』以降の喧騒の日々)で、「寂しいという感覚がずっとある」っておっしゃっていましたけど、家を出るようになってからより感じることも増えましたか?
崎山:それよりもたとえば、さっき「飛行機が怖い」って言いましたけど、そういうのを「大丈夫、大丈夫!」みたいに軽く言われることがあって。
—「いやいや、俺の気持ちわからないくせに」みたいな?
崎山:そうなんです、まあ実際のところ大丈夫なんですけどね(笑)。
—そういう感情が、曲作りのモチベーションになることもありますか?
崎山:あります。周囲との違いを感じた時の気持ちと向き合って、それを言葉やメロディーにしていくというか。
—なるほど。今回の楽曲“柔らかな心地”にも、そういう感覚が反映されているところはありますか?
崎山:どうだろう。
ー<空気を縫うみたく歩いて>というラインが印象的ですが、これはどこから出てきたのですか?
崎山:なんかこう、旅をしている想像をしたら出てきました。旅をして、気持ちよく散歩している感じですね。「ああ、こんなところまで来たか~」なんて思いながら。近くにはお寺とか神社もあって、自然もたくさんあって。
—第15段にも「寺・社などに忍びて籠りたるもをかし(お寺や神社に誰にも知らせずに、ひっそりと籠もったりするのも、面白い)」という一節がありますよね。
崎山:そうです。そういう「寺と自然」みたいなイメージが浮かんでいました。
—この曲のMVも、自然の中を走り抜ける電車が舞台です。ボックス席に、武居詩織さんと向かい合わせで座った崎山さんが、ギターを弾きながら歌う素敵なMVですね。
崎山:はい。実際に電車を走らせながらの撮影でした。緊張しましたけど、とても楽しかったです。
—武居さんとはどんな話をしたのですか?
崎山:音楽の話をしていました。「どんな音楽聴くんですか?」って訊いたら、「君島大空さんを聴いてる」っておっしゃっていました。『日村がゆく』の時に僕のことを、Twitterで紹介してくださったこともあって。
—和気藹々と撮影が進んだのですね。歌詞に話を戻すと、<眠りの中のようだ けれど 命の声は耳を揺さぶるほどに強い 眩しい>というラインが僕は印象的でした。傍目には落ち着いて見える崎山さんの心の中にも、熱く燃え滾る「命の声」があるんだろうなって。
崎山:なんかこう、日々心の中から湧き上がってくる感覚を、「もっと近い言葉で言えないかな……」と追うようにして書くことが多くて。ここは、疲れとかがフワッと取れていく感じを表現したかったんです。
—ちなみに、旅してみたい、行ってみたい場所ってありますか?
崎山:いっぱいあります。台湾とかガヤガヤしてて楽しそうだなって。あとインドにも。お腹壊さないようにしなくちゃいけないですね。
—(笑)。アジアとか異国情緒あふれるようなところに興味があるんですね。
崎山:そうかもしれないです。ただ、ひとり旅はちょっと怖いので、行くなら友達とかと。
自分がその曲の中に入り込めるような、そんな曲ができた時はもうウルトラ楽しいですね。
—この連載では、みなさんに共通テーマとして「自分らしく、ありのままに生きること」について聞いているのですが、崎山さんは自分らしく生きられている感覚ってありますか?
崎山:多分、そうだと思います。
—どんな時に、自分らしくいられる?
崎山:家で、お父さん、お母さんといる時ですね。あとは、小学生の頃からずっと仲が良くて、僕のライブにもいつも来てくれる友達がいるんですけど、その子と話している時も自分らしくいられていると思います。でも、普段から「自分らしくいられていない」とか、「取り繕った自分でいる」みたいに感じることもないです。いつも「ほにゃ~」って感じです。
—(笑)。曲を作っている時はどうですか?
崎山:あ、それも自分らしくいられている時ですね。曲を作っている時も楽しいし、できた曲を初めて家で歌っている時が超楽しい。「イエー!」って(笑)。めっちゃ自分らしくいられています。自分がその曲の中に入り込めるような、そんな曲ができた時はもうウルトラ楽しいですね。
—(笑)。できた曲は、お父さんとお母さんにも聴かせるんですか?
崎山:最初に聴かせます。お母さんは、僕が子供の頃に料理用のボウルとか叩いて遊んでいても、絶対に叱らず「すごいね!」って褒めてくれていたんです。だから僕は今も音楽を続けられていると思っているんですけど、最近は曲を聴かせても「へー、いいねー!」くらいしか言ってくれなくてちょっと寂しい。お父さんは、最近になっていろいろ言ってくるようになりました。「その曲、分かりにくい」とか。それを聞いて「そっかあ」と思って直す時もありますね。
—最初のリスナーとして信頼しているんですね。
崎山:してます。もう、作っている最中から聴いてもらってます。「途中だけど聴いて」って(笑)。
—崎山さんの活動は、おふたりとも応援してくれている?
崎山:めちゃくちゃしてくれています。お母さんはずっとサポートしてくれていて、お父さんも途中から「おお、曲を作っているのか!」って気づいて喜んでくれました。いつも朝早く仕事へ行って、夜遅くに帰ってくる感じだったので、僕がどんなことをやっているのかあまり把握してなかったんですよね。でも、最近はそんなに帰りが遅くならなくなったので、僕のやってることもめっちゃ気になるみたいです(笑)。
—本当に家族で仲がいいんですね。
崎山:お父さんとお母さんの会話がとにかく楽しくて。今思い返しても全部笑っちゃうくらい。お母さんはUKロックから音楽に入っていて、YMOとかも好きなんです。その流れでJAPANやデヴィッド・ボウイなど美しいものが好きになって、そこからSOFT BALLETやBUCK-TICK、MALICE MIZERに辿り着くんです。その影響で、僕もMALICE MIZERやthe GazettEが大好きになりました。お父さんはもっと乾いたサウンド……USロックだったり、UKでもThe Rolling Stonesとか、あと渋谷系も好きだったりして。
—へえ!
崎山:アートワークとかも、お父さんは、わたせせいぞうさんや永井博さんのような、あっさりとした爽やかなタッチが好きなんですけど、お母さんは劇画みたいな絵が好きで。2人のやり取りを見ているだけで楽しいんです。
崎山:お父さんは、いつもオシャレで、感性とかは全然古くなくて、僕がYouTubeとかで新しい音楽を聴いてると、すぐ感想を言ってくるし、気に入ると自分でCDを買ってくることもあります。
—そうやってご両親と音楽やアートの話で盛り上がれるのって良いですよね。ちょっと羨ましいです。崎山さんは今、高校2年生ですよね。進路のこととかそろそろ考える時期?
崎山:ああ、そうですね。学校も急にそういうモードになってきました。たとえば授業のテーマが「進路」になって、自分を見つめ直すためのアンケートとかやりました。そうすると、自分のことを否定的に考えているクラスメイトがわりと多いんだなって気付きます。僕からしたら、すごく面白い子なのに「俺なんて普通だしなあ」と言ってたりして。
—これから受験シーズンに入って、否が応でも「勉強して勝ち抜いていく」みたいになっていく中で、「自分らしくいる」のは大変かもしれないですよね。先生によく思われたいとか、面接ではどう振る舞うべきか? とか考えなきゃならない局面もきっとあるでしょうし。
崎山:そうですよね。
—崎山さんは、今後どうするか決めているんですか?
崎山:全然考えてないです。音楽はもちろん続けますけど、大学とかはどうしようかなって。何か、学びたいことがあれば行きたいです。
—このままプロになって、音楽一本でやっていく選択肢もある?
崎山:はい。それは、みなさんにこうやって聴いていただけるようになる前から考えていました。ただ、音楽以外の表現にも興味があるんです。映像も作ってみたいし。最近、Dos Monosっていうラッパーの方たちのMVを見たらめちゃめちゃ面白くて。「ああいう作品作りたい!」って思いました。
—じゃあ自分を表現する「手段」は、音楽だけとも限らない?
崎山:限らないと思います。それこそ「自分らしく、ありのままに生きる」ために、いろんな可能性を模索していきたいです。
- 商品情報
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- サントリー 天然水GREEN TEA
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2019年4月16日(火)発売
新しい時代にあった緑茶をつくりたい。そんな思いから生まれたのが「サントリー天然水 GREEN TEA」です。目指したのは、気持ちをクリーンに、前向きにしてくれるストレスフリーなお茶。「サントリー天然水」ブランドの持つ「清々しくて気持ちいい」というイメージを活かした、新時代にふさわしい緑茶商品です。ほっと一息つきたいときだけではなく、気分をすっきりリフレッシュしたいときまで、新しい緑茶が飲まれるシーンを提案していきます。
- サービス情報
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- 『徒然なる トリビュート』
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約700年前、「ありのまま、自分らしくいること」の大切さを随所で綴った随筆文学、『徒然草』。サントリー 天然水 GREEN TEAのブランドメッセージとも重なるそのスタイルを、今を生きる人々へ届けたい。そんな想いから生まれたのが、この「徒然なるトリビュート」です。ありのまま、自分らしいスタイルを貫く5組のアーティストが『徒然草』を再解釈し、オリジナル楽曲を書き下ろし。MVを通じて、そのメッセージを届けていきます。
- リリース情報
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- プロフィール
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- 崎山蒼志 (さきやま そうし)
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2002年生まれ静岡県浜松市在住。母親が聞いていたバンドの影響もあり、4歳でギターを弾き、小6で作曲を始める。2018年5月9日にAbemaTV「日村がゆく」の高校生フォークソングGPに出演、独自の世界観が広がる歌詞と楽曲、また当時15歳とは思えないギタープレイでまたたく間にSNSで話題になる。2018年7月18日に「夏至」と「五月雨」を急きょ配信リリース。その2ヶ月後に新曲「神経」の追加配信、また前述3曲を収録したCDシングルをライヴ会場、オンラインストアにて販売。12月5日には1stアルバム『いつかみた国』をリリース、合わせて地元浜松からスタートする全国5公演の単独ツアーも発表し即日全公演完売となった。また、2019年5月6日に初となるホール公演「とおとうみの国」を、地元浜松市の浜北文化センター大ホールで開催。ある朝、起きたらtwitterのフォロワー数が5,000人以上増えていて、スマホの故障を疑った普通の高校1年生。
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