アイドルソングやエレクトロミュージックを背景に女子たちが踊り、ときには大掛かりな仕掛けで空間が変容する作品を作ってきたクリウィムバアニー。同カンパニーを主宰する菅尾なぎさは、乃木坂46や私立恵比寿中学の振付を行うなど多面的な活動を見せている。
そんな彼女の新作公演『NΔU』の開幕が6月21日に迫るなか、同作の音楽を担当するDaisuke Tanabeとの対談を行うこととなった。音楽とアートの国際フェスティバル『Sonar Festival』への参加などで知られる彼と菅尾はいったいどんな世界を作り出そうとしているのだろうか? 制作に追われる2人に話を聞いた。
自分に似た変態的な感じがあって「絶対にいつかご一緒するぞ!」と固く心で誓っていました。(菅尾)
─Tanabeさんのクリウィムバアニー(以下、クリウィム)との初めての出会いはどんなものでしたか?
Tanabe:作品としては『KれウィンバーNnイー|KrewinburNny』(2017年)が初めて観た作品ですが、すごい変な内容で緊張しました。入場時にうどん踏みをさせられたり、うどんを投げつけられたり(笑)。
菅尾:ははは。去年の『crewimburnny presents ¥℅楽 PARTY!!!』もヤバかったでしょう。冷房のないところを会場にしてしまったばかりに、出演者一同地獄のような暑さに襲われて。
Tanabe:ひどかった(笑)。滝のような汗で機材も壊れちゃうし。
─お2人の最初のコラボになった作品ですね。
菅尾:夕方から夜までの長丁場で、クリウィムとバンドやVJの人がコラボしまくるフェス的なイベントをやりたくて、その1組としてTanabeさんにお声がけしました。
─そんな修羅場を共に過ごした者同士が、今回あらためてタッグを組むわけですね。
菅尾:でも、すごく合うと思ったんですよ。音源を聴いてもどこか変態的な気配があるし、実際に話してみても自分に似た仕事のスタンスがあって「また絶対にいつかご一緒するぞ!」と固く心で誓っていました。
完成して動けるダンサーにはぜんぜん興味がなくて。(菅尾)
─菅尾さんはコンテンポラリーダンスの領域や、もちろん自分のカンパニーであるクリウィムでも特異な表現を続けてらっしゃいますが、クライアントワークでもけっこう変わった振付を突っ込んでくる人という印象があります。元乃木坂46の伊藤万理華“はじまりか、”とか、ちょっと前にバズりまくった『チカっとチカ千花っ♡』とか。
菅尾:おかげさまで『チカ千花っ』は中国のかわいい子たちに踊りまくっていただいて(笑)。自分で踊ったものを映像に撮って、それを元にアニメーターの方がロトスコープ(実写映像を素材に、アニメーションに描き起こす技法)で描いてくださったんですが、実際に千花ちゃんのコスプレして踊ったんですよ。ファンの方が見たら激怒必至なんで封印映像ですが(笑)。
─ぜひBlu-rayに特典として収録して欲しいです。
菅尾:無理だろうなー(笑)。それはともかく、例えば万理華ちゃんの振付が変わったことをしているかと言えばそういうつもりもなくて。むしろ、万理華ちゃん自身のユニークなキャラクターやバレエ経験から導き出されたもので、それがたまたま私の世界観とマッチしたんですよ。それはクリウィムも一緒で、メンバーそれぞれの個性に助けられるところが大きい。
菅尾:そもそもクリウィムは「私の振付で動いて欲しいな」って人たちが集まってくれたところから始まったんです。その頃の私、グラビアに大ハマりしていて。
─アイドルやモデルのですか?
菅尾:とにかく女の子。女体が好きすぎて、ストライクゾーンもめちゃくちゃ狭い(笑)。
─どんな好みですか?
菅尾:何だろう、私にはできないものを持っている人? だからクリウィムのメンバーとは趣味が合わないんです。クリエーションではちゃんと会話できるけど、帰りの電車で1対1になったら緊張しちゃって話を続けられる自信がない……(笑)。
菅尾:あとは、隙がある人かな。完成して動けるダンサーにはぜんぜん興味がなくて、1回も踊ったことない、舞台に立ったことすらない子のほうが、びっくりするくらい「抜け」のある動きができたりするんです。経験値のある人は、むしろそれができなくなっちゃう。
─じゃあ、ダンスのバックボーンのない人もメンバーにいたりする?
菅尾:めっちゃいますね。クリウィムが初舞台ってメンバーはけっこう多いです。いいものを持って生まれた人っているんですよ。それは本人のキャラとかではなくて、からだの使い方。そういう人は伸びしろがヤバいので、逆に「お願いだから、それ以上うまくならないで!」って思うこともありますね(笑)。
音楽家になる気はまったくない、キャリアも経験もない人間でも音楽が作れるってことが面白くてここまでやって来た。(Tanabe)
─ある種のアマチュアリズムへの関心がクリウィムにはあるということですね。そういう意味では、Tanabeさんもかなり変わった経歴で音楽界に入った人です。
Tanabe:そうですね。なりゆきでここまで来ちゃったというか。まったく人に音楽を聴かせずに作っている、っていう期間が十何年とか、かなり長くあったんです。
菅尾:へー。
Tanabe:正確には、1人だけには聴かせていました。中学くらいから仲のよい奴がいて、交換日記的な音楽のやりとりをしてたんですよ。言葉なしで、音楽を介して理解し合う関係というか。ちょっと音質が変わって「あ、これは何かあったな」と思って電話で話すと、じつは恋人と別れた直後だった、とか。
菅尾:いい意味で気持ち悪い(笑)。
Tanabe:キモいでしょ(笑)。それをずっと続けてたんですけど、ロンドンで開催された素人参加OKの音楽イベントがあって、たまたま僕の音源を聴いた知り合いが勧めてくれたのがいまの活動に繋がるきっかけでした。だから、人前で音楽をするのが最初はいやいやだったんですよ。それがもう15、6年前。
Daisuke Tanabe『Floating Underwater』を聴く(Apple Musicはこちら)
─じゃあ、通算での音楽キャリアはおよそ30年!
Tanabe:そんなになっちゃいましたね。音楽家になる気はまったくない、単にキャリアも経験もない人間でも打ち込みなら音楽が作れるってことが面白くてここまでやってきた人間なんです。
─いまの話を聞くと、菅尾さんがダンサーを選ぶ基準とも近い気がします。
菅尾:率直に言えば直感かなあ。さっきも言ったようにものを作るスタンスで共通するところはあって、今回の『NΔU』の構想にびしっとハマったんですよね。で、Tanabeさんに依頼をしたら「何でもやります! 下僕になります!」とおっしゃってくれて(笑)。
Tanabe:言っちゃいましたね(笑)
菅尾:うどんを投げるところも見られているし、何をやらされても大丈夫ということだなと。
クリエーションって、全員が同じ方向を向いてると絶対面白くないんですよ。(菅尾)
─公演は6月の中旬に迫っていますが、いまはどんな進み具合ですか?
Tanabe:クリウィム作品全体の印象とも言えるんだけれど、掴めるようで掴めない、掴みどころのなさがあって。
菅尾:私が具体性を持ったことを言えないんです。抽象的な言葉、擬音が多い(笑)。「がー!」とか「そこで、だー!」とかひどい。それがいちばん伝わる、と思っているんですよ。一緒に作品を作る人にはあえて勘違いして欲しいってところもあって。
─誤読して欲しい?
菅尾:クリエーションって、全員が同じ方向を向いていると絶対面白くないんですよ。自分の脳内でイメージできるものを具現化するだけなんだったら、そもそも公演自体をやる意味もない。エラーとかハプニングが欲しいんです。音楽や美術だけじゃなくて、ダンサーとの関わり方にもそういった余白が欲しい。
Tanabe:いちばん最初に共演させてもらったときに、最初僕から「こうしたほうがいいですか?」とか、いろいろ聞いたじゃないですか。でも菅尾さんは「歩み寄りたくない!」と断言してましたね
菅尾:たしかに。私の歩み寄りたくなさは常にかなり強い。シンクロしすぎて同じ方向を見ていることに、気持ち悪さを感じちゃうんです。300分ぶっ通し公演と銘打った『ニューーーューーューー』(2014年)は、Open Reel Ensembleの皆さんと組んだんですけど、ダンサーとOpen Reelのメンバーが仲良くならないことにめちゃくちゃ気をつかってました。
菅尾:クリウィムにはクリウィムの世界があり、Open ReelにはOpen Reelの世界がある。それが同じ舞台にありながら交わらないということが重要だったので。
私はダンスで音楽を作りたいんですよ。音と遊びたい。(菅尾)
─クリウィムの他の作品にも共通する感覚と思うのですが、演者だけでなく観客にとっても、けっして安住できない空間を作ろうとしていますよね。ダンサーたちの格好も、一見したらアイドルや水商売風にも見えてコミュニケーションを誘発しているように見えるけれど、絶対に詰められない距離感がある。そして、そのぶんだけ観客には能動性が求められるというか。遊覧や対戦ゲームのフォーマットを用いる理由もそのあたりにあるのかと感じます。
菅尾:なるほど。でも今回の新作は、これまでとちょっと違うものになりそうです。
─それってどんな風に?
菅尾:今回はちゃんとダンスを観て欲しいなーとか、今までやってきたアプローチではない形でお客さんに体感してもらえるものを作ってみたいなと。能動性を観客に求める気持ちは変わらないんですが、設定したコンセプトに意識が持って行かれすぎちゃったかなと思うことがあって。
ゲーム対戦型の『dbdqpbdb』(2015年)は、観客が出すコマンドに応じてクリウィムが動く、という仕掛けがあった。でも、それを徹底するあまり、お客さんがゲームのルールのほうに没頭してしまって……じつはけっこうえぐい振り付け、動きをやっているんですけど、その状況にみんな平然としていたりする。それが作品のコンセプトでもあったので、そんな観客含めて作品が完成していたんですが、今回の新作は別の方向からもアプローチしてみようかなと。
─その変化には菅尾さんなりのダンス観が反映してるんでしょうか?
菅尾:どうかなあ。そもそも、私そんなにダンス好きじゃないのかも! いや好きだからやってるんですけど、ダンスをやりたくて舞台をやってるわけじゃない。あくまでツールとしてダンスを扱っている意識があります。
以前、「クリウィムは好き勝手自由に踊っているんだと思ってた」と言われたことがあったんです。それはこちらの意図としては成功だと思うんですよ。死ぬほど練習してるのに、練習の形跡が見えないってことだから。
でも、そこまで見えすぎないっていう状態はよろしくない気もする。煎じ詰めれば、私はダンスで音楽を作りたいんですよ。音と遊びたい。私が振付でこだわるのは動きのリズムだから。
─なるほど。
菅尾:でもあまり私の言うことは気にせずに、フラットな気持ちで自由にみてもらえたらと思います。
Tanabe:わかります。僕もずっとクラブで音楽をやってきたけれど、自分がやってることに飽きるんです。クラブは踊りに来るところだって、目的がすごくはっきりしているでしょう。そこでまったくドラムの入ってないものをやってもいいんだけど、それをやるにはかなり勇気がいる。
結果、自分の音楽が場所の目的に寄って行っちゃって「踊らせなきゃ」って強迫観念に苛まれてしまう。だけど、踊れるものだけがよい音楽ではないですよね。だから今回の劇場作品では「そういうものとは違うことをやりたい」っていう漠然とした思いがあるんですよね。
互いがまったく違うアプローチでもってやりとりするときに生じるヒリヒリがめちゃくちゃ好き。(菅尾)
─Tanabeさんにとって今回のモチベーションってどんなところにあるのでしょう?
Tanabe:最初は「何でもできるかも!」って思ったんですよ。いま話したような音楽の前提になっている枠をとっぱらっても大丈夫かも、って。クラブで5分間無音の状態にはできないけれど、劇場ならできるかもしれない。
─目的と用途から考えると、クラブはたしかに余白を許さないですよね。
Tanabe:もちろんそういう試みをやっている人はいるかもしれないですけど、僕にはその度胸がなかった。自分がこれまでやってきた音楽性とも違う気がしますし。でも、いちどそこから外れたいなって思ったんです。だからこれは外れるチャンスだと思ってました。
─実際どうですか? いまはけっこうタフなやりとりが進んでいるところと思うのですが。
Tanabe:うーん(じっと菅尾を見る)。
菅尾:ああ! 見られてしまった!
Tanabe:意外と「超自由でもないかも」って思ってます。
菅尾:超自由じゃないですよね。だって私うるさいもん。「あーじゃない! こーじゃない!」って。
Tanabe:でもちょっと手触りはわかってきた気がしています。菅尾さんが作品に求めているぼんやりとした枠みたいなものがあって、その枠内に収まってさえいれば、僕も自由や遊びを得られると感じています。菅尾さんが示すポイントはAで、それに対して自分が出したポイントはBだったけど、枠の内側にはぎりぎり収まっているから、よし。そういう遊びをしてるのがいまじゃないかな。
菅尾:自由に作ってもらったものをTanabeさんがライブでやるのだとしたらめっちゃかっこいいと思うんですよ。でもそこに女性ばかりのダンスが入ってくる風景を見据えると、それはときに危うい方向に行くこともある。
Tanabe:なるほど。
菅尾:そうやって私が求めたものが果たして成功なのか失敗なのかわからないんですけどね。でも、自分の脳内にあるものだけをアウトプットしてもどうにもならんなと思うんですよ。互いがまったく違うアプローチでもってやりとりするときに生じるヒリヒリがめちゃくちゃ好きで、それでわざと決めないってこともめっちゃあるから。
Tanabe:不安は不安ですけど、うっすらと自分たちがやりたかったことは見えている気がするな。音楽で言えば、それはインストものとボーカルものの違いとも言えるかもしれない。ボーカルの入る余地を想定して音楽を作るためにはぜんぜん違う発想が必要で、その余白にダンスが収まったときに何かが起こるものを作る。
自分が外に発表するでもなく、音楽をずっとやって来たのも言葉にできないものあったからだと思うんですよ。言葉にできるなら音楽である必要はなかったわけですから。
菅尾:ダンスもそうですよ。最初っから説明できるなら、わざわざやる意味がない。そのヒリヒリが欲しいから、この場所に立っているんだから。
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- crewimburnny (くりうぃむばあにー)
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ダンスカンパニー。菅尾なぎさ(振付家、演出家、ダンサー)主宰。女体の動きを妄想的視点(=男子)およびラブリー視点(=女子)の両極から捉え、果てなく行き違う2つのベクトルの交錯点にある夢と現実と虚無をポップに描き出す。その確固たる世界感で中毒者を蔓延させる一方、アンカテゴライズドで既知のコンテクストに囚われない「体感できるパフォーマンス」は常にあらゆる境界線を破壊し続け、異彩のダンスカンパニーとして国内外の注目を集めている。
- 菅尾なぎさ (すがお なぎさ)
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振付家・演出家・ダンサー。クリウィムバアニー主宰。1999年に自身主宰のカンパニーでの活動 をはじめる。同年、イデビアン・ クルーの公演に出演し、現在まで多数の作品に出演。2005 年 に女性だけのカンパニー「クリウィムバアニー」を立ち上げ、 遊覧型ぱふぉーまんす『がムだム どムどム』、ゲーム体感型ぱふぉーまんす『dbdqpbdb』など、リアルでフィクション、スタイル /カルチャーでは語り尽くせない視覚、感覚の渦に観客を魅了し、身体の動きの妙と演出で特異な 世界観をうみだしている。 乃木坂46や私立恵比寿中学などの楽曲、CMや舞台など多方面の振付 や出演でも活躍している。
- Daisuke Tanabe (だいすけ たなべ)
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千葉県在住の音楽家 / 作曲家。偶然の重なりから初ライブはロンドンの廃墟で行われた大規模スクウォットパーティー。2006年、紆余曲折を経てリリースした初のEPが『BBC Radio1 Worldwide Award』にノミネートされ、その後も世界最大規模の都市型フェス『Sonar Barcelona』への出演、イタリアでのデザインの祭典『ミラノサローネ』への楽曲提供等幅広く活動中。釣り好き。
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