映画好きとして知られるみうらじゅんが、欠かさず映画館で観てきたのがトム・クルーズ主演の大ヒットシリーズ『ミッション:インポッシブル』だ。世界を股にかけて活躍するスパイ、イーサン・ハントの世界を描いた同作はすでに6作が作られ、回を重ねるほどにアクションもスケールも過剰になり、そのつどトムがどんなアクションに挑戦するかが、大きな話題になっている。
そんなストロングスタイルのアクション映画を、みうらはどのように見ているのだろう? 2018年にはイーサン・ハントに『みうらじゅん賞』を贈ったみうら。「好き」を仕事にしてきた彼が、同じように自分の「好き」を映画にしてきたトム・クルーズを熱く語る。
受賞のお礼に、「わさお」がまさかのお返しをくれた。20年以上の歴史を持つ『みうらじゅん賞』
―2018年の『みうらじゅん賞』では、沢口靖子さん、ヒックスヴィルと並んでイーサン・ハント(『ミッション:インポッシブル』シリーズにおけるトム・クルーズの役名)が受賞しました。長い歴史を持つ同賞の厚みを感じさせる顔ぶれですね。
みうら:でしょう! 1994年から始め、もう20年以上やってますからね。途中4年間くらい途切れてるんですけど、一応戦争が起きた影響で、ってことになってます。実際には、単に発表してた雑誌がつぶれたからなんですけど(笑)。
―(笑)。
みうら:それで賞のことをすっかり忘れてたら、ある日突然リリー・フランキーさんから電話がかかってきてね、「どうやったら(『みうらじゅん賞』を)獲れるんですか? 欲しいんですけど」と聞くもんでね。他の賞なら努力も生きますが、この賞は選考基準も年によって違いますから。
その頃は強いていえば、俺とよく飲んでいた人が受賞していたもんで、「いつ何時でも飲み屋に駆けつけられますか?」って聞いたら、「わかりました」って。それで、第8回(2005年)にめでたくゲットされました。イーサン・ハントもそうじゃなかったっけ?(笑)
―話半分で聞いておきますね(笑)。青森在住のわさお(=犬)も受賞されてますね。
みうら:その頃から発表の場もテレビに移りまして。12月末の『みうらじゅん賞』の特番ではトロフィーを渡しに行く映像を流すんですが、発表が12月なので、「わさお」の場合は、雪深い青森にスタッフの人が行ってくれたんですよ。そのお返しにと、わさおの「抜け毛」をいただきました(笑)。それ以降は、犬でも山でも、即身仏にも賞をあげ続けてきたんです。第13回のダニー・トレホさんは『マチェーテ』(ロバート・ロドリゲス監督 / 2010年)で受賞されたんですが、なんとInstagramにトロフィー持った写真をあげてくれました。
「親不孝すぎるから」。MJがイーサン・ハントを好きな理由
―イーサン・ハント=トム・クルーズもかなりの遠さですから、贈り甲斐がありますね。ちなみに受賞理由は「親不孝すぎるから」でした。
みうら:ですね。実際にトロフィーが届いているのか、疑問はありますが(笑)。まあ、あんな親不孝者はちょっといないと思いますよ。俺は還暦も過ぎちゃいましたけど、イーサン(トム)だって56歳じゃないですか。そのくらいの年齢になったら、かかりつけの医者も、あんなアクションに挑んだら当然ドクターストップかけるでしょ。
―人間ドックで「無茶しちゃだめですよー」っていわれますよね。
みうら:あんな無茶してたら御両親はどう思ってらっしゃるのかとね。親不孝キングでしょ。しかも新作が出るたびに、ますます無茶がヒートアップしてる。いまの映画だからもちろんCGも使っているでしょうけれども、実際バイクもヘリコプターも自分で運転してるっていうじゃないですか。
―最新作の『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』(クリストファー・マッカリー監督 / 2018年)では、ヘリコプターで回転しながら垂直に落下する高度な操縦法をマスターしたらしいです。
みうら:高須クリニックのCMを遥かに超えてますよね(笑)。トムはすべてにおいて本気だからすごいです。しかも『ミッション:インポッシブル』シリーズ(以下、『M:i』シリーズ)は自分でプロデュースもされているわけだから、座長の自分がまっさきに身を削っている。そこに親不孝者のけしからなさと、年をとってもチャレンジし続ける気合いをビンビン感じます。それが俺の、イーサンを好きな大きな理由です。
『007』シリーズとは違う。スーパークールなトム・クルーズの恐ろしさ
みうら:自らスタントをこなす俳優も少なくなってきたでしょ。こういうストロングスタイルは昭和の考えを引きずっている「完璧主義者」のものだと思うんだけど、やっぱり実際に目の当たりにすると胸が熱くなりますよね。
―ラストのヘリコプターのチェイスシーンは操縦もすごいですが、敵とのバトルも気合い入ってますね。
みうら:「もう許してやってもいいじゃないか」って気になりますよね。敵も相当しぶといですが、イーサンはしつこいでしょ。あんな大変な経験をしたら、普通の人だったらもう一生、自慢話は揃ってますよ。でもイーサンは絶対にやめないわけで。あの屋根の上を爆走する追跡シーンもね、どうやら撮影中に骨折したらしいじゃないですか。
―そうですね。屋根から屋根に飛び移るシーンで壁に足をぶつけてポキっと。そのシーンも実際に映画の中で使われてます。
みうら:え? 今度、見直しますよ。あんなに屋根を走るのは『ポリス・ストーリー/香港国際警察』(ジャッキー・チェン監督 / 1985年)以来でしょ(笑)。でも、ジャッキーと違って、アクシデントも最後のNG集で拾って上手に再利用しない。いや、ひょっとするとトムは一度もNGを出してないかもしれないですね。すべてがパーフェクトなんだもの。
―たしかに、そう思わせるほど、完璧主義だし、潔癖な印象はありますね。
みうら:潔癖感でいうと、初期の『007』シリーズにありがちな女スパイを寝とったりするシーンは一切ないでしょ。
―2作目の『M:I-2 ミッション:インポッシブル2』(ジョン・ウー監督 / 2000年)が例外的にイケイケなくらいで、あとはけっこうストイックですよね。せいぜいキスシーンくらいで濡れ場はない。
みうら:イケイケに反省があったのかもしれませんね。「スパイ」と聞くとね、『007/サンダーボール作戦』をこちとら小2で観てますから、将来「スパイになりさせすれば俺もモテるんだ……」って希望もあったんですけど。でもイーサンはそんな気持ちがまるでないでしょう。いつだってスーパークール。ちょっと怖くなるくらい潔癖を感じますね。
―それはトム・クルーズ自身の存在感ともつながる気がします。数多くいるハリウッド俳優の中でも、役と本人が強く結びついている稀有な存在です。
みうら:そこもすごいところですよね。
―チョイ役で登場した『トロピック・サンダー 史上最低の作戦』(ベン・スティラー監督 / 2008年)では、一見トムとはわからないくらいの特殊メイクで、酷い映画プロデューサー役を演じてましたけど、そのくらい本人から遠ざからないと悪ふざけできないところがある気がします。『M:i』シリーズで欲情するのは、女性とかではなく、降りかかってくるアクションやトラブルのほうという。目が血走ってる。
みうら:こんなこと言ったらなんですが、イーサンがトラブルメーカーって可能性もありますよね。ひょっとしてイーサンがあんなに活躍してなかったら、あんな大騒ぎは起こらないのかも(笑)。『フォールアウト』のメインの敵役(ヘンリー・カヴィル)の方は、実際お若いでしょ?
―1983年生まれですね。トムとは親子くらい離れてます。
みうら:でしょ。そんなトムが30代前後の若者にケンカふっかけてるわけです。やっぱ、恐いですよね、敵側もね。そういう意味でも、見どころ満載じゃないですか。どんどんスーパーマン化していく『M:i』シリーズは本当にすごい。
人生絶倫なトム・クルーズがご苦労される姿から、MJは元気をいただく
―みうらさんは映画館で全作を観てるそうですが、このシリーズの魅力をひと言でいうならなんでしょう?
みうら:「ご苦労様感」ですね。とにかくイーサンがどれだけご苦労されたか骨を折られたかを見せていただく、っていうジャンルの映画です。だから本来は映画館の大きいスクリーンで目に焼き付けたいですね。
同世代だからわかるんですけど、我々は膝が真っ先に痛くなる年齢ですよ。グルコサミンが手放せない俺としては、イーサンの頑張っている姿を見て、我々も勇気をもらうわけです。
―クリント・イーストウッドはさらに年上ですけど、映画では年相応の悲哀や無力感を主題にしてますよね。でも、イーサンはその逆。
みうら:人生絶倫ですよね。
―「人生絶倫」(笑)。いいフレーズですね!
みうら:映画館でも、俺と同じくらいの世代の観客もよく目にします。
今度、『トップガン』(トニー・スコット監督 / 1986年)の続編が制作されるそうですけど、あの年齢の方がもし実際に戦闘機に乗って戦場に行くなんてどうですか? 大統領が自ら戦闘機に乗る映画といえば『インデペンデンス・デイ』(ローランド・エメリッヒ監督 / 1996年)ですけど、それ以上のインパクトがありますよね。
―現実離れしてますけど、そういう「お約束」をいちいち守ってくれるところがトムの愛すべきところというか。磁気テープで秘密指令が届いて、爆発して、それであのテーマ曲がかかる。まるで歌舞伎みたいな安心感があります。
みうら:なんだったらスクリーンに向けて「よ! イーサン屋!」なんて掛け声を入れたいぐらいです。
MJ流の「好きになる努力」
―『みうらじゅん賞』に話を戻しますが、なんとなくイーサン・ハント同様の昭和マインドを持った人が受賞されてますよね。
みうら:ですね。第12回(2009年)にチョーさんが受賞されてるんですけど、この方は昔、教育テレビでやっていた『たんけんぼくのまち』(1984~1992年放送)の長嶋チョーさんなんです。
―最近だと『ワンピース』の声優もやられてますね。
みうら:そうです。じつはチョーさんは『いないいないばあっ!』(NHK Eテレで、1996年~放送)のワンワンの中の人なんですよ。声優だけでなく、本人が着ぐるみまで着ておられるんです。
―え、そうなんですか! けっこうな年齢ですよね?
みうら:俺と同い年でした。動きと声を合わせようと思うと、自分で着ぐるみを着るのが一番なんでしょうね、「毎日ランニングを欠かさない」とおっしゃってました。50歳手前になるくらいから確実に体調変わってくるもんですけど、それでもワンワンであり続けるチョーさんは、教育テレビ界のイーサン・ハントだと思いますね。
―すごい。やり続けることへの信念がありますね。
みうら:何事も続けることが一番大事です。俺もいろんなジャンルに首を突っ込んできましたけど、それって「好き」であり続けるために重要なことなんです。
好きになるまでやり続けることも俺の基本スタイルですから。というのは、はじめから好きなものって飽きるのも早いでしょ。まず、自分から積極的に好きになるスタイルを貫くことも大切です。いま自作の「SINCE」のTシャツを着てますけど、大好きなわけじゃないですよ(笑)。「こんなの誰が着るんだ? 俺だ!」って思ってやってますから。
―身も蓋もないですけど、たしかに(笑)。
みうら:でも続けていく内、ノイローゼみたいになってくるとね、そのものの面白さがようやく出てくるんです。一時期は「SINCE」が好きになりすぎて、ヒヤシンスの球根を育ててましたから。「SINCE(シンス)」つながりでね(笑)。ある種の暗示を自分にかけていくことで好きになっていくんです。
『M:i』だって中だるみすることもあるでしょう。それがシリーズの宿命ですから。でも、そこでやめない。さらに向上させるためにがんばるなんて、すごいじゃないですか。世の中の大半のものは、「自分に都合よく」なんて作られていないんだから。そこを、「みんなに都合よく」、または楽しめるように工夫する『M:i』は、シリーズ絶倫とも言えますね(笑)。
20年かけてファミリーを見つけたトムにみうらが贈る言葉「年をとったほうが断然イーサン」
―それって限りなくトム・クルーズとイーサン・ハントの関係に近い気がします。トムはきっと、誰よりもイーサンのことを理解してるのは俺だ、って思っていると思います。「イーサンはこんなことしない。イーサンは挑戦し続ける」って気持ちが、毎回の新作をどんどん無茶なものにしている。次の『M:i』シリーズは2021、2022年の連続公開が決定してますが、そういう無茶を自分に強いることで、イーサン・ハントであり続けようとしている。
みうら:『スパイ大作戦』(1966~1973年に放送されたアメリカのテレビドラマ)の頃には考えもつかなかったことですよね。もはや、『イーサン:インポッシブル』でもいいんじゃないですかね(笑)。
―トム・クルーズの伝記本を読むと、識字障害があったり、家庭環境も複雑だったり、かなりの苦労人なんですよね。その過去が、トムの俳優としての過剰さにつながっているのかもしれません。
みうら:それがいくらミッションをクリアしてもどこか表情に哀愁がある秘密かもしれないですよね。いまやアクション俳優として不動の位置におられますが、『アイズ ワイド シャット』(スタンリー・キューブリック監督 / 1999年)などで演技派俳優の路線を目指したこともあったんではないでしょうか。
―でも自分で選んだのは、超大作アクション路線だった。『M:i』シリーズ自体も、監督がけっこう変わってきてるんですよね。最初がブライアン・デ・パルマで、次がジョン・ウー。そしてJ・J・エイブラムスと来て、アニメ出身のブラッド・バード。このシリーズの中でだけでも模索してきたのがわかります。そして、ここ2作と、次の2作はクリストファー・マッカリー監督とタッグを組んでいる。やっと出会えた相棒、という感じがします。
みうら:『M:i』シリーズでは生活感を消しておられますが、ついに映画スタッフとファミリーになったって感じなんでしょうかね。
―最初の『ミッション・インポッシブル』が1996年ですから、じつに20年をかけて旅をしてきた。
みうら:でも、そこには必然性があった。「年をとったほうが断然イーサン」ってことですね(笑)。
- 作品情報
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- 『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』
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2019年5月14日(火)からAmazon Prime Videoにて独占配信中
監督:クリストファー・マッカリー
出演:
トム・クルーズ
ヘンリー・カヴィル
ヴィング・レイムス
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- 『ミッション:インポッシブル』シリーズ
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シリーズ1作目から最新作まで、Amazon Prime Videoにて配信中。まだPrime会員でない方は、ぜひこの機会にPrime会員になって全作一気見をしよう。
- サービス情報
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Amazon Prime会員(月間プラン500円/月、年間プラン4,900円/年)向けのサービス。数千本もの人気映画やテレビ番組、またAmazonスタジオ制作によるオリジナル作品をいつでもどこでも、見放題で楽しめる。
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- プロフィール
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- みうらじゅん
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1958(昭和33)年京都府生れ。イラストレーターなど。武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。1997(平成9)年「マイブーム」で新語・流行語大賞、2004年度日本映画批評家大賞功労賞を受賞。著書に『アイデン&ティティ』『青春ノイローゼ』『色即ぜねれいしょん』『アウトドア般若心経』『マイ仏教』『セックス・ドリンク・ロックンロール!』『キャラ立ち民俗学』『マイ遺品セレクション』など多数。
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