名古屋を拠点に活動する男女混成の4人組、ペンギンラッシュが2ndアルバム『七情舞』を完成させた。ジャズ、ファンク、R&Bなどを基調としたクロスオーバーなポップスであることはそのままに、1曲1曲の個性がより明確になり、前作『No size』から格段に飛躍した印象を受ける。「トレンドの一角」には留まらないだけの作家性とポテンシャルを証明する作品だといえよう。
「ジャンルや形に囚われない」ことを示した『No size』に続く、「喜怒哀楽」だけではない「喜怒哀楽愛悪欲」を示す「七情」を用いたタイトルにも表れているように、彼女たちの活動は「限定しない / されたくない」という価値観に貫かれている。それはまだ現役の大学生であるボーカル / ギターの望世が学校生活やSNSなどを通じて感じる社会からの抑圧に対する疑問とも関係しているように思うが、彼女たちの音楽は旧来的な「カウンター精神の発露」というより、「始めから限定されていない世代の自由な表現」なのであり、そこが実に魅力的だ。バンドの創設メンバーである望世とキーボードの真結に話を聞いた。
決められてるわけじゃないのに、みんな自然と同じ考えになっていくのは……不思議でならない。(望世)
―『七情舞』は前作以上に挑戦的で、非常にスリリングな作品になったと感じました。
真結(Key):前作はいろんな人に広めるために、自己紹介じゃないですけど、「こういう曲があります」っていう、幅広くバリエーションを入れた作品だったんです。今回は自分たちのやりたいことがより明確になって、ペンギンラッシュのもっと深い部分を知ってもらえる作品になったんじゃないかと思います。
―前作はデビューまでの歩みが詰まった初期ベスト的な色合いもあったのに対して、今回が真の始まりというか、そんな手応えもあるなと。実際、どんな意図を持って制作に取り組んだのでしょうか?
望世(Vo / Gt):バンドで「こういうのを作ろう」みたいな話し合いはあんまりしなくて、曲のベースは個々が自由に作っていくんです。最初こそ「なにかコンセプトを持ってやろうか」っていう話も出たりはしたんですけど、結果的には「作っていったら、こうなった」っていう感じですね。
―歌詞に目を向けると、<形ばかりを必要とするなら 要らないわ そんなもの これっぽっちも魅力じゃないの>と歌う“悪の花”や、<時代は進み変化するのに 生き耐えながら生きるのか>と歌う“モノリス”などからは、ある種の抑圧を感じます。前回のインタビューでジャズが好きになった理由として、自由度の高さを挙げていたと思うんですけど(参照記事:『ペンギンラッシュが表現する、ジャズも文学も苛立ちも歌に変えて』)、やはり「こうあるべき」という抑圧に対しては非常に敏感なのかなと。
望世:そうですね。私はいまちょうど大学4年生なので、周りがみんな就活中なんですけど、高校卒業や大学卒業のような人生の分岐点で、ひとつの考えしかない人が多いなっていうのは思います。「大学を卒業したら、次は就職」っていうのが当たり前。それはそれでひとつの道ではあると思うけど、それしか会話に出てこない。別に決められてるわけじゃないのに、みんな自然と同じ考えになっていくのは……不思議でならない。
―もちろん、主体性を持ってその道を選んでるなら全然いいわけですけどね。
望世:そもそも私の通ってる大学は専門的なことを学ぶところで、私は文章を書くことに重きを置いてる学部なんです。だから当然「文章が好き」とか「文学が好き」っていう子たちばっかりかと思いきや、意外とそうでもない人も多くて。
真結:私も建築を学ぶ学校だったんですけど、やっぱり「なんとなく」っていう人が多くて、「そもそも建築に興味がない」みたいな。私もそういう考えはよくわからない。
―“モノリス”はまさに大人になることによって知らず知らずのうちに定型にハマってしまうことについて書いた曲ですよね。“悪の花”はどんな発想から書いたのでしょうか?
望世:この曲は、固定観念の強い人に怒鳴られたときの気持ちが忘れられなくて、それがさっきいった「明るいリズムに、そうじゃない曲調」っていうアイデアと結びついたんです。年上の人からいわれることって、どうしても凝り固まってると感じることが多いので、自分が若いうちに曲にしておきたいなって。
あとはいま女性が発言できる機会が増えてきているので、そういう意味も含まれた歌詞にしたいと思いました。ただ、あえて具体的にはしてなくて。聴いた人それぞれの怒りや反骨精神があると思うから、その人のフィルターを通じて、その人なりの解釈が生まれれば嬉しいです。なので、ミュージックビデオも吉田監督の思う楽曲の解釈で作ってもらっています。
―女性が社会からの抑圧に対して行動を起こしたり、自らの姿勢を音楽で表明する機会も増えましたけど、望世さん自身はそれを声高に叫ぼうとは思わない?
望世:私はそういう面での抑圧はそれほど感じてないというか、なにかあればいっちゃうタイプなんで(笑)。
真結:むしろ、「いわせない」みたいな(笑)。
望世:だから、あんまり感じないんですよね。ただ、私は大学で「10代の性教育」を中心に研究してるんですけど、取材をした若い子たちの中には知識がなくて、相手にいわれるがまま抑圧を受けている子もいるので、思うところはあります。
そういう子たちは、親からだったり、学校生活の中で抑圧を感じてるとも思うし。その感じ方も人それぞれだとは思うので、音楽に直結させようとはならないですけど、いまの女性が置かれている立場とか、そういう解釈もできるものであればいいなっていうのは、常に思ってるかもしれないです。
自分にとってリアルじゃないと「嘘じゃん」って思うから、自分の言葉で歌いたい。(望世)
―アルバムのラストソング“青い鳥”に関しては、「私なりの応援歌」「私たちなりのPOPS」というコメントもあるように、他の曲とは色合いが異なりますね。
望世:“青い鳥”は真結がデモを作ってくれて、これまでより優しい印象で、ちょっと懐かしさも感じたので、他の曲みたいに反骨の意味合いを含めるよりは、この雰囲気のまま曲にしたいと思ったんです。
昔はすごく光り輝いてたのに、いまは落ちこぼれちゃって苦しんでいる人が身近にいて、その人を応援したいと思って歌詞を書きました。“晴れ間”もその人が思ってるんじゃないかなっていうことを私なりに想像して書いたので、この2曲は繋がってるイメージですね。
―真結さんはどんなイメージで“青い鳥”のデモを作ったのでしょうか?
真結:この曲をいつどうやって作ったかって、あんまり話したことがない気がします。……めっちゃ疲れたときに、帰り道でボーっと空を見ながら歩くことが多いんですね。ちょうどそのときは満月で、すごくきれいだな、小さいことで悩んでられないなって思って……普段こんなこと話さないから恥ずかしいんですけど、そういうときに作った曲です。デモを送るときに「MOON」っていう仮タイトルをつけたので、曲調とタイトルから汲み取って、歌詞を書いてくれたんだと思うんですけど、すごくぴったりだなって。
望世:初めて聞いた……よかった、合ってる歌詞で(笑)。
―基本的には「身近な人への応援歌」だと思うんですけど、『No size』をリリースして、聴き手の存在を実感したことによって、その人たちのことを意識しながら、「応援歌」であり「POPS」を書いた、という側面もあったりはしますか?
望世:いや、それはないですね。自分にとってリアルじゃないと「嘘じゃん」って思っちゃうので、やっぱり自分の言葉で歌いたい。もちろん、ただ自分で消化するためだけに歌ってるわけではなくて、「人それぞれの解釈で聴いてほしい」っていうのが根本にあるんですけど。
―クリエイティブの根幹はあくまで自分自身。でも、それを限定することなく、聴き手それぞれの解釈に委ねる。やはり、その基本姿勢はかなり徹底されていますね。
望世:そうですね……こういう取材とかで、改めて気づかされますね。
曲のイメージを色で表すとか、そういうことはあんまりしたくなかったんです。(真結)
―アレンジに関しては、「ABサビ」の定型からは完全に逸脱した“悪の花”がリードトラックになっていたり、何度となく転調を繰り返す“アンリベール”があったりしますね。強烈な色のある曲を集めようというバンド全体のコンセンサスはあったんですか?
望世:もともとそういう曲を作りたいとは思ってて……それを表現する力がついてきたっていうことかもしれない。
真結:「この曲はこういう変わった展開で作ろう」みたいな感じではないんですよね。やっぱり「作ってみたら、こうなった」っていう感じなんですけど、そうやって作った曲に色があるといってもらえるのは嬉しいです。
ペンギンラッシュ『No size』を聴く(Apple Musicはこちら)
―初の全国流通盤である『No size』を出したことによる意識の変化が反映されているんでしょうか?
望世:前作はレコーディングも自分たちだけで考えていたし、自分たちだけで進めた部分も多かったんですけど、前作を出したあとから楽曲制作部分など含めていろんな人と関わるようになる中で、気持ちの部分での変化はあったと思います。ただ、音楽的な面での変化に影響があったわけではなくて、もちろん、意見を求めたりもしたんですけど、そこまで口を出してくるということもないですし、自由にやらせてもらってます。
真結:今回CD購入特典として、私がデザインして、望世が文章を書いたセルフライナーノーツが店舗限定でついてくるんですけど、その配布のアイデアは今関わってくれているスタッフと一緒じゃないとできなかったことですね。前作もセルフライナーノーツを作ってはいるんですけど、私が自宅で印刷して、製本までやったのを、ライブで手渡ししてたんです。なので、数が限られてたんですけど、今回はもっと多くの人に見てもらえるかなって。
―セルフライナーノーツの色合いがモノクロなのにはなにか意味がありますか?
真結:単純にモノクロが好きっていうのもあるんですけど(笑)、色があるとちょっと具体的な感じになっちゃうから、曲のイメージを色で表すとか、そういうことはあんまりしたくなかったんです。曲を聴きながら読んでくれると思うんですけど、色があると余計な情報になっちゃうかもしれない。その人の聴きたいように聴いてほしいのでモノクロにしてるっていうのもありますね。
―自分たちも自由な発想で曲作りをしているし、聴き手もそれぞれの解釈でいい。前作の『No size』というタイトルにも、「形やジャンルに囚われたくない」という意図があったように、「限定しない」というのはペンギンラッシュの表現の核なんでしょうね。
真結:確かに、そうかもしれない。聴く人の自由でいいと思ってます。
確かにブラック要素の入ったバンドが増えてると思うんですけど、そこはあんまり意識してないですね。(望世)
―“悪の花”はセカンドラインのリズムと大胆な展開が印象的ですが、どんなアイデアから作られた曲なのでしょうか?
望世:ベースは私が作りました。セカンドラインのリズムって、明るくて華やかなリズムだと思うんですけど、そのリズムで明るくない曲を作ってみたいと思ったのが始まりです。曲構成に関しては普通のABサビみたいな概念が私にはないので、これはいつも通りなんですよね。
―「好きじゃない」とか「違うものにしたい」とかじゃなくて、そもそも曲を作る上でABサビという概念がないと。
望世:別に嫌いなわけじゃなくて、私もそういう曲を聴くし、それはそれでいいと思うんですけど、いざ自分が作るってなると、そうしようとは思わない。この曲はセカンドラインのリズムと、あとスウィングも入れたくて、ストーリーのアップダウンがある曲を作ろうと思ったら、こうなりました。
―人によっては、「プログレっぽい」みたいな感想もありそうですけどね。でも、変化球をリードにしたわけではなくて、自分たちのストレートをそのままリードにしていると。
望世:そうですね。これがペンギンラッシュだなって思います。リードにしたのは挑戦的ではあると思うんですけど、これをどう受け止められるんだろうっていうのが、単純に興味としてありました。
―転調しまくりの“アンリベール”にしても、やはり変に狙ったというよりは、「作りたいものを作った」という感じ?
真結:この曲の大元を作ったのはベースの浩太郎で、最初デモを聴いたときは、「ふざけてるのかな?」って思いました(笑)。2小節ごとに転調してるんですよ。
望世:そこにフレーズつけるのめちゃめちゃ大変だったと思う。
真結:大変だったんですけど、完成してしまえば、「やり切った!」っていう感じですね。これまでにやったことのない、面白いものになってよかったなって。
―ジャズやファンクを音楽性の軸にするバンドが増えた中で、より強烈な個性のある曲を作ろうと意図したわけでもないですか?
望世:確かにブラック要素の入ったバンドが増えてる流れはあると思うんですけど、そこもあんまり意識はしてないですね。私たちはこれまでずっと聴いてきたものを消化してやってるだけというか、わざわざR&Bやジャズを引っ張ってきて作ってるわけではなくて、さっきもいったように、「作ったら、こうなる」っていう感じなんです。なので、最近のオシャレなポップ系みたいなのとはまたちょっと違うのかなって思います。
真結:うん、曲が生まれてくる過程が違うんじゃないかなって。
―「トレンドを取り入れる」という発想ではないわけですよね。それこそ、前回のインタビューで仰っていた高校で先生に教え込まれ、その中で消化してきたものを出してるだけというか。
真結:「ジャズを作ろう」とか「ファンクを作ろう」とも思ってないんです。単純に、いま自分たちが作りたいものを作って、「それがこれです」っていう感じなんですよ。
そもそも「情」って限定されないものですからね。(望世)
―『七情舞』というタイトルは、どのようにつけたのでしょうか?
望世:収録曲が7曲なので、「7」がつく言葉を探しました。7曲に込めたいろんな「情」が舞っていくイメージですね。そこまで強い意味を込めたわけではないですけど、いろんな人に意見を求めながら決めて、結果的にすごくぴったりのタイトルになったなって。
―「この曲が喜、この曲が怒」みたいにはっきり分かれてるわけではないだろうけど、そうやって当てはめてみるのも面白いかもしれないですね。
望世:そう思う人もいるかもしれないですよね。私もタイトルから想像を広げたり、意味を調べたりするのが好きなので、そうやって面白がってもらえたら嬉しいです。
―このタイトルも感情は「喜怒哀楽」だけじゃなくて、「愛悪欲」もあるんだっていう、ペンギンラッシュの「限定はしない」という価値観がよく表れてるなと思いました。
望世:確かに、限定はしたくないし、そもそも「情」って限定されないものですからね。そういう意味合いもあると思います。
―2枚のアルバムを作り終えて、この先のバンドの展望についてはどうお考えですか?
望世:今作を作ったことで、うちらの強みを理解できたというか、「これだろ!」みたいな……その「これ」を言葉で表すのは難しいんですけど(笑)。でも、「私たちはこうありたい」っていうのが固まったと思うので、その強度をより増して作品を作っていきたいし、もっと突き詰めていきたいと思います。
―その「これ」を言葉にしてもらいたい気持ちもありつつ、でも今日何度も「限定しない」という話をしてきた手前、それを求めるのは酷だなとも思います(笑)。
望世:言葉にするのは難しいですよね。ものを作ってる人はみんなそうだと思うんですけど、「他と一緒にされたくない」とか「決めつけられたくない」っていう気持ちがうちらも強くて、そこがペンギンラッシュが一番アピールしていきたいところでもあるというか。
―「カウンター精神」というよりは、はじめから枠組みに囚われていない、すごくナチュラルなんだなっていうのは、今日話して感じました。なにかひとつの言葉で表せばわかりやすいんだけど、でも言葉にした時点でそれ以外が零れ落ちてしまうから、あくまで聴き手の解釈に委ねるというのは、もの作りに対する誠意だとも思います。
望世:ホントに、これが自然体なんです。『七情舞』にも、私たちの自然体が表れてると思います。
真結:聴いてくれる人それぞれに、「ペンギンラッシュっぽさ」を感覚的に感じ取ってほしいなって思いますね。
- リリース情報
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- ペンギンラッシュ
『七情舞』(CD) -
価格:1,944円
NCS-102271. 悪の花
2. アンリベール
3. 契約
4. 能動的ニヒリズム
5. モノリス
6. 晴れ間
7. 青い鳥
- ペンギンラッシュ
- イベント情報
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- 『「七情舞」東名阪レコ発ツアー“七情に舞う”』
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2019年6月27日(木)
会場:愛知県 名古屋 新栄APOLLO BASE
出演:
けもの2019年7月5日(金)
会場:東京都 代官山SPACE ODD
出演:
集団行動
showmore2019年7月12日(金)
会場:大阪府 心斎橋CONPASS
出演:
Lucky Kilimanjaro
RAMMELLS
- ワンマンライブ『Rush out night 2019』
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8月18日(日)名古屋 新栄APPLO BASE
OPEN 17:30/START 18:00
- プロフィール
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- ペンギンラッシュ
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名古屋出身。2014年、高校の同級生だった望世(Vo / Gt)、真結(Key)を中心に新たなJ-POPの開拓を目指し結成。2017年にサポートをしていた浩太郎(Ba)とNariken(Dr)が加入し現4人体制に。2ndシングル『yoasobi』は、タワーレコードが未流通&デモ音源をウィークリーランキング形式で展開する「タワクル」企画にて、名古屋パルコ店で2017年4月から1年以上TOP5に毎週チャートイン。『SAKAE SP-RING』では2018年、2019年と2年連続で入場規制が掛かるなど地元の名古屋にて多くの支持を集めている。2018年8月の1stアルバム『No size』は、J-WAVE8月のSONAR TRAXに続き、「東海アーティストレコメンド2018」、「@FM ROOKIEAWARD」、「Eggsマンスリープッシュ」などに選出。そして2019年6月6日、2ndアルバム『七情舞』をリリース。
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