SOIL&"PIMP"SESSIONSが、『妖怪人間ベム』50周年を記念して製作 / 放送されているテレビアニメ『BEM』のオリジナルサウンドトラック『OUTSIDE』を8月28日にリリースする。バンドとしてサウンドトラックを手がけるのは、今年1~3月に放送された竹内結子主演&関和亮演出のテレビドラマ『スキャンダル専門弁護士 QUEEN』に続いて、年内2作目となる。
野田洋次郎や三浦大知など、多様かつ豪華なゲストボーカル陣を招き作り上げた現時点で最新のオリジナルアルバム『DAPPER』から1年強、SOIL&"PIMP"SESSIONSはどのようなモードで『BEM』のサウンドトラックを制作したのか。今回のインタビューでは社長とタブゾンビに話を聞いた。
二人は地元で大型野外フェスをオーガナイズしており、そのエピソードからもさまざまな音楽性を持つアーティストから愛される彼らの求心力や審美眼、音楽文化に寄せる真摯な思いを感じてもらえると思う。
メンバーそれぞれ、フェスに出るときもみんな散らばって人のライブを観てますから。(タブゾンビ)
―まずは『DAPPER』リリースのタイミングに実施した前回のインタビュー以降のSOIL&"PIMP"SESSIONS(以下、SOIL)の動きから聞かせてください(前回のインタビュー記事:SOIL&"PIMP"SESSIONSは第2章へ。充電期間からの新体制を語る)。昨年8月に開催されたツアーファイナルの中野サンプラザ公演では『DAPPER』に参加した客演陣が勢ぞろいしましたね。
2018年8月1日に開催された『SOIL&"PIMP"SESSIONS TOUR 2018 “DAPPER”』ツアーファイナルには、野田洋次郎(RADWIMPS)、三浦大知、EGO-WRAPPIN'、Nao Kawamura、Awich、Shun Ikegai(yahyel) & Kiala Ogawa(Kodama)が出演した
タブゾンビ(Tp):あれだけの超売れっ子の人たちが一堂に集まってくれてね。
社長(Agitator):すごくいい時間であっという間にライブが終わっちゃいましたね。
―あらためて、あれだけ振れ幅の広い多様なゲストボーカル陣を迎えられるということ、そしてそのあともSOILのメンバーがAwichのツアーに参加したり、あるいはタブさんがRADWIMPSのライブやアルバムに参加(『ANTI ANTI GENERATION』収録の“TIE TONGUE feat. Miyachi, Tabu Zombie”)したり、一過性のコラボレーションになってないことがすごく重要だなと思うんですね。
社長:そうですね。関係性のある人しか客演のオファーをしないというのは我々のひとつのポリシーでもあるし、その場だけで終わらないというのはすごく大切なことだと思ってます。AwichがEGO-WRAPPIN'の曲(“色彩のブルース”)をサンプリングした曲(“紙飛行機”)を作ったのは、僕らにとってもうれしい出来事だったし。
―そうやって点と点を線にしていくあり方や現場感も、クラブシーンを出自に持っているSOILらしさなのかなと思うんですね。
タブゾンビ:確かにメンバーみんなそれぞれ、常にいろんな音楽や気になるアーティストをディグってるので。フェスに出るときも自分たちの出番以外はみんな散らばって人のライブを観てますから。そこでまた「今度はこういうアーティストとコラボしたいね」という話が生まれたりするんですよね。
左から:タブゾンビ、社長 / SOIL&"PIMP"SESSIONS(そいる あんど ぴんぷ せっしょんず)
メンバーは、タブゾンビ(Tp)、丈青(Pf)、秋田ゴールドマン(Ba)、みどりん(Dr)、社長(Agitator)。2001年、東京のクラブイベントで知り合ったミュージシャンが集まり結成。これまでに31か国で公演を行うなど、ワールドワイドに活動を続けている。また、国内外の数々のアーティストとコラボレーションを行い、映画やドラマの劇判を担当。8月28日には、『妖怪人間ベム』50周年記念新作アニメ『BEM』のオリジナルサウンドトラックを発売した。
鹿児島の若い世代が多くの音楽に生で触れることで、地元の音楽文化が育てばいいなということはすごく考えます。(タブゾンビ)
―そういう意味でもお二人が地元で大型フェスを主催しているのは興味深いなと。規模の大きなフェスのオーガーナイザーをやっているメンバーがバンドの中に二人いるのは珍しいと思いますし。タブさんは鹿児島で昨年と今年の10月に『THE GREAT SATSUMANIAN HESTIVAL』を、社長は今年の7月に福井で『ONE PARK FESTIVAL』を初開催しました。
タブゾンビ:僕に関しては、今みたいに全国各地でフェスが開催されていない13、4年前くらいからやりたいと思っていて。鹿児島ってフェスを開催する立地として難しいんですよ。移動費も高くなっちゃうし、県民性もシャイだったり。だからいろんな人から「絶対に成功しない」って言われていたんですけど、去年は3万人のお客さんに来ていただいて。
―地域活性化という面もモチベーションとして大きいでしょうし。
タブゾンビ:でも、実際はそこに関してそんなに大々的に掲げてなくて。やっぱり「面白いことをしたい」というのが一番ですね。
それに加えて鹿児島から文化を発信したいということ。鹿児島ってアーティストがツアーを組むときに外されることが多いんですよ。だからこのフェスで、鹿児島の若い世代が多くの音楽に生で触れて、地元の音楽文化が育てばいいなということはすごく考えてますね。あくまで音楽ありきの考え方です。去年、お客さんから「初めてフェスを体験できた」という声をたくさんいただいたのはすごくうれしかったですね。
―それもいきなり大規模のフェスですしね。
タブゾンビ:出演者が総勢約60組もいるという。
社長:60組はすごいよね。
―昨年も今年もかなりボーダーレスなメンツがラインナップされてますけど、ブッキングに関してはどういうイメージで?
タブゾンビ:自分が思う「グッドミュージック」というところですね。あとは鹿児島と繋がりの深い人たち。鹿児島出身のアーティストだったり、おじいさんやおばあさんが鹿児島出身だというアーティストだったり。個人的にもアーティストのレコーディングやライブにプレイヤーやアレンジャーとして呼ばれることが多いので、そこで繋がりが生まれているのも大きいですね。
椎名林檎さんは本当に男気、というか女気のある人。(タブゾンビ)
社長:タブくんはSOILのメンバーの中でも、他のアーティストとの接点が一番多いよね。
タブゾンビ:そうだね。SOILはメンバーそれぞれジャンルの異なるアーティストと交流があるのはすごくデカいと思う。
去年も今年も、(『THE GREAT SATSUMANIAN HESTIVAL』は)わりとありそうでなかったラインナップだと思うんですよ。「このアーティストとこのアーティストが一緒のフェスに出るんだ」という意外性を楽しんでもらえるんじゃないかなと。
―クロスオーバー的なラインナップを集められるのが、SOILならではであり、タブさんならではですよね。
タブゾンビ:しかも初年度ってどうなるかわからないじゃないですか。失敗するかもしれないフェスにあれだけのアーティストが昨年出演を快諾してくれたことはありがたかったです。
―たとえば椎名林檎さんはそもそもフェスに出まくるようなアーティストではないけど、2年連続でラインナップされていて。それも盟友のアーティストがオーガーナイザーを務めるフェスだからだろうし。
タブゾンビ:ありがたいですよね。椎名さんは本当に、男気というか女気というか、がある人で。初年度も、フェスのタイトルとか、いろんなことに対してアドバイスをくれました。あとはなにより椎名さんも鹿児島がすごく好きなんですよ。プライベートでもよく遊びに行かれているんです。
僕らが20年近く前から持っていた音楽に対するマインドが広く伝わりやすい時代になったとも思います。(社長)
―社長が地元・福井で始めた『ONE PARK FESTIVAL』も、長年の構想が結実したという感じですか?
社長:いや、このフェスに関してはタブくんほど長い構想ではなくて。もともと地元の友人のDJでありこのフェスのオーガナイズチームの一人と、毎年夏に福井でバンド+DJのイベントを開催していたんです。
それで3年くらい前から「いつかこのイベントをフェスにしたいね」という話が出てきて。さらに去年の夏に全面改装を終えた福井市のど真ん中にある福井市中央公園でフェスができたら最高に気持ちいいよね、というイメージも僕を含む三人のオーガーナイザーの中で生まれて。全く詳細が決まってない状態だったんだけど、2年前にやったそのイベントのステージ上で僕が「このイベントをフェスにします!」ってフライングで言っちゃったんです。それは半分わざとでもあったんですけど(笑)。
―あえて自ら仕掛けたと(笑)。
社長:宣言しちゃえば動かざるを得ないでしょうということで。
社長:オーガーナイザーであるDJチームの一人が脱サラして、このフェスを運営するための会社の代表になってくれたんです。彼はもともと福井で海外アーティストを招聘するイベントをオーガナイズしていたり、UKのテクノシーンを代表するリッチー・ホウティンと親交が深かったりして。とにかく地元で遊んできた人たちだから顔が利くし、結果的に市長にも名誉実行委員になってもらうという座組が組めたんです。
ただ、このフェスを運営する会社も立ち上がったけど、収益はすべて街に還元するということを明言しています。正直なところ、僕もタブくんと同様に面白いコンテンツを福井で作りたいという思いが一番大きかったですし、チームとして街に還元したいという強い意思があって。
タブゾンビ:すごいなと思ったのが、会場の福井市中央公園はJR福井駅から徒歩5分という立地で、周りにはホテルとかも建っているので、普通だったら大きな音を出せないようなロケーションなんですよ。しかも音がすごくよくて。
社長:音にこだわりの強いアーティストに出演してもらうので、音がよくないとこのフェスの根幹が揺らぐと思って、サウンドシステムの設計に佐々木幸生さん(これまでサカナクション、ゆらゆら帝国、OGRE YOU ASSHOLEなどのメインPAを務め、『FUJI ROCK FESTIVAL』の音響も手がけているサウンドエンジニア)に入ってもらって。エリアの外になるべく音を出さずに、中ではしっかり音圧と音量を感じられる設計をしていただいたんです。しかもステージ正面側の外にある建物が市役所なんですよ。市役所は休日に人がいないので、建物が防音壁にもなってもらうことができたんです。
―ラインナップとタイムテーブルを見ると、それこそDJミックスのようにオーディエンスに気持ちよく踊ってもらうためのグルーヴ感を重視しているなと思いました。SOILらしい審美眼が通底しているというか。
社長:そうですね。そもそもDJチームなのでグルーヴとか踊らせることに対してのこだわりが強いし、DJ的な感覚でブッキングの軸を作れたのはよかったですね。
SOILはもともとライブハウスやクラブの垣根がなくライブをすることからスタートしているバンドだから、ずっと地下から生まれてくる音楽にも影響を受けているし。それは、たとえばyahyelやBlack Boboi、King Gnuだってそうだと思うんですよ。僕らが20年近く前から持っていた音楽に対するマインドが広く伝わりやすい時代になったとも思います。それはすごくいいことだなと。
「危ないよ」と言われてた時代のブルックリンは、僕らの大好物な空気感。(社長)
―そして今回リリースされる新作『OUTSIDE』は、テレビアニメ『BEM』のサウンドトラックです。テレビドラマ『スキャンダル専門弁護士 QUEEN』(フジテレビ系)のサウンドトラックを手がけてから短いタームで劇伴が続くわけですが、今のSOILにとって劇伴はどういう位置づけなんですか?
社長:その前の『ハロー張りネズミ』(2017年7月から9月までTBS系で放送。主演は瑛太、演出・脚本は大根仁)のときもそうだったんですけど、オリジナルアルバムの前にサウンドトラックのお話をいただけたのはラッキーとしか言えなくて。
オリジナルアルバムは自分たちを主役としてどう見せられるかという主眼がある一方で、サウンドトラックは自分たちが作品の背景の一部になって演者やセリフ、画が引き立つ曲をいかに作れるかが重要なので。客観的に音を作っていく作業ができるおかげで、それがまたオリジナルアルバムの制作にフィードバックできるんですよ。
タブゾンビ:もともと映画音楽のサウンドトラックとか、メンバーみんな大好きですしね。
―『BEM』のサウンドトラックは、全体を通してSOILのルーツであるクラブジャズ的な感覚がアップデートされていると思ったんですね。それプラス、現行のヒップホップのフィーリングも加味されているというか。
社長:そう。今回オファーをいただいたときに、「『妖怪人間ベム』のリメイクだけど、舞台はブルックリンをイメージしている」というパンチラインがまずあって。しかも現代のブルックリンではなく、1980年代後半から1990年代にかけての、いわゆる「観光客が行っちゃうと危ないよ」と言われてた時代のブルックリンのイメージだったんですよ。
―危険な匂い、いわばサグいムードが充満しているころのブルックリン。
社長:そうそう。アニメの本編ではあの時代のブルックリンをイメージしていることは明言されてないんだけど、元ネタとしてそれがあると。それは僕らとしては大好物な空気感なので。『BEM』の音楽プロデューサーである福田正夫さんも、「これはSOILにお願いするしかない!」と思って提案してくれたみたいです。
社長:あと、『DAPPER』でメロウなヒップホップビートをいろいろ研究してたから、それを経てヒップホップよりのビートをこのサウンドトラックにも反映できました。なので今の我々のモードにもジャストなお題だったんですよね。
タブゾンビ:そこも本当に幸運としか言いようがなくて。あとはフェスの話にも繋がるけど、やっぱり人との縁ですよね。『ハロー張りネズミ』のサウンドトラックも、社長が大根仁監督と飲み屋の席で偶然隣り合わせになったことがきっかけでオファーをもらったんだよね?
社長:そう。飲み屋で一緒になったのは何年か前だったんだけど、そのときに「いつか一緒になにかできたらいいですね」という話をしたら、本当に実現したという。
―バンドにとってジャストなサウンドプロダクションのテーマ性といい、収録楽曲のボリュームという意味でもオリジナルアルバムに匹敵する内容だと思います。ライブでも聴きたいですけどね。
タブゾンビ:そうですね。ライブやるのかな? やろうか。
社長:やろうよ。構成上、ライブアレンジしなきゃいけない曲もあるけど。
タブゾンビ:このサントラを披露するためだけのライブをやりたいね。
―この劇伴を経て、次のオリジナルアルバムに向けたビジョンはどうですか?
タブゾンビ:ちょうど明日、そのミーティングをするんですよ。
社長:頭の中で音は鳴ってるんだけど、まだ言語化できてない段階ではあります。『DAPPER』では僕が作曲した曲が多めに収録されましたけど、今回自分はみんなが書いた曲を仕上げる側に回ろうかなと個人的には思っていて。マニピュレーター的な立ち位置というか。
タブゾンビ:客演に関しても前作であれだけのメンツを迎えたので、そうするとまた次も期待されるところがあるじゃないですか。特にインストバンドは余計にそうだと思うんですけど。
でも次は、一旦五人で表現できることを追求してもいいのかなと現時点では思ってますね。ここ2枚のアルバムはフロアでゆったり踊れる曲が多かったけど、ちょっとハードに踊れる曲があってもいいんじゃないか、とか。
社長:そう、ガツガツした感じね。
タブゾンビ:でも、ただのお祭り騒ぎじゃないぞという。ハードでもちゃんとダシの利いた曲を聴かせたいと思いますね。今、バンドがすごくいい状態なので。
―今日話してもそれはすごく伝わってきます。
タブゾンビ:自然な感じで曲がカタチになっていくので制作していても非常に気持ちがいいし、楽しいです。だから次のオリジナルアルバムはすごく楽しみだし、まだ世界のどこにもないような、新しいSOILの音楽が作れるんじゃないかと思ってます。……とか言って、超普通のジャズだったりしてね(笑)。
―オーセンティックな(笑)。
社長:アルバムタイトルが『AUTHENTIC』とか(笑)。でも、本当に自分たちも次のアルバムを作るのが楽しみだし、その前にこの『BEM』のサウンドトラックを作れてよかったです。
SOIL&"PIMP"SESSIONS『OUTSIDE』ジャケット(Amazonで見る)
- リリース情報
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- SOIL&"PIMP"SESSIONS
『TVアニメ「BEM」オリジナルサウンドトラック OUTSIDE』(CD) -
2019年8月28日(水)発売
価格:2,700円(税込)
VTCL-605051. Phantom of Franklin Avenue
2. Blue Eyed Monster
3. Tracking
4. The Light and The Shadowland
5. Shapeshifter
6. Before The Dawn
7. Wanna Be A Man
8. Out of Control
9. Thinking of you
10. In The Gloom of The Forest
11. Inside
12. A Sence of...
- SOIL&"PIMP"SESSIONS
- プロフィール
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- SOIL&"PIMP"SESSIONS (そいる あんど ぴんぷ せっしょんず)
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メンバーは、タブゾンビ(Tp)、丈青(Pf)、秋田ゴールドマン(Ba)、みどりん(Dr)、社長(Agitator)。2001年、東京のクラブイベントで知り合ったミュージシャンが集まり結成。ライブを中心とした活動を身上とし、確かな演奏力とクールな雰囲気を漂わせながらも、ライブでエンターテイメント、バースト寸前の爆音ジャズを展開。2005年には英BBC RADIO1主催の『WORLDWIDE AWARDS 2005』で「John Peel Play More Jazz Award」を受賞。以降、海外での作品リリースや世界最大級のフェスティバル『グラストンベリー』『モントルージャズフェスティバル』『ノースシージャズフェスティバル』など、数々のビッグフェスに出演、これまでに31か国で公演を行うなど、ワールドワイドに活動を続けている。また、国内外の数々のアーティストとコラボレーションを行い、映画やドラマの劇判を担当。2017年にはドラマ『ハロー張りネズミ』の劇判を手がけ、主題歌“ユメマカセ”ではゲストボーカリストにRADWIMPS・野田洋次郎を迎え話題となった。野田洋次郎、三浦大知をはじめ豪華アーティストが参加した最新作『DAPPER』が発売中。2019年8月28日には、『妖怪人間ベム』50周年記念新作アニメ『BEM』のオリジナルサウンドトラックを発売。
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