無名のラッパー・Lil Nas Xを全米1位に押し上げた、「TikTok」の存在
TikTok(ティックトック)が、世界中で「現象」を巻き起こしている。
音楽にあわせて15秒のショートムービーをシェアできるTikTokは、現在150の国と地域で利用され、75の言語に対応しているグローバルなスマートフォン向けショート動画共有アプリだ。
TikTokは、いまやグローバルな「トレンド発信装置」となった。単に10代の流行としてネット上にバズを生むだけでなく、それを広範なムーブメントに広げ、社会現象的なヒットの起爆剤の役割を果たしているが、その最新の事例がLil Nas Xの“Old Town Road”だろう。
昨年までは全く無名の存在だったアトランタ出身、20歳の新鋭ラッパーがリリースしたこのデビュー曲は、現在、全米シングルチャート19週連続1位という特大のヒットを記録した。テイラー・スウィフトやジャスティン・ビーバー&エド・シーランなど数々の大物アーティストを押しのけ、首位を守り続けるだけではなく、史上最長記録をマークし、すでに2019年最大のヒット曲となることが確実だ。
まさしく彗星のごとくシーンに登場した彼。しかし大物プロデューサーやラッパーの後ろ盾があったわけでもなく、テレビや映画などのタイアップや大掛かりなプロモーションがあったわけでもなかった。楽曲がリリースされた昨年末の時点ではメジャーレーベルに所属すらしていなかったが、そのブームの火付け役になったのがTikTokなのだ。
今年初頭から、カウボーイのライフスタイルをモチーフにしたカントリー・ラップのこの曲に乗せて、テンガロンハットをかぶってカウボーイやカウガールのスタイルに変身する動画が「yeehaw challenge」(yeehawは「イヤッホー」の意味)として流行。それがストリーミングサービスの再生回数につながり、無名の新人のデビュー曲を世界的なヒットに押し上げた。
もはや「音楽にあわせて踊る」だけじゃない? TikTokの最新状況を、運営元に訊いた
日本でも、TikTokは若い世代を中心に急速に支持を広めている。ただ、認知が広まった2017年から2018年にかけては「デジタルネイティブ世代が音楽にあわせて口パクやダンスの自撮り動画を投稿している」といったイメージも強かったが、2019年現在は、ユーザー層や投稿されるコンテンツもかなり変わってきているという。TikTok Adsの鈴木瑛は、以下のように語った。
鈴木:「ダイバーシティ」をキーワードに、より幅広いクリエイターによる、より多様なコンテンツが増えてきています。若い世代だけでなく、お子さんがいるような上の世代のユーザーも多いんです。
投稿されるコンテンツのトレンドも移り変わってきています。最初は振り付けを真似して踊った動画をインカメラで撮影するような簡単なダンスチャレンジが中心でしたが、そこから、メイクや料理のハウツー動画、旅行の風景やペットや子供との微笑ましい日常の光景、創作系の動画など、アウトカメラで撮影した「見て楽しめる」動画が増えてきました。クリエイティブの多様化が進んでいるんです。
ユーザー自身がクリエイターとなり、自分自身を表現するUGC(User Generated Contents)型のサービスであるのもTikTokの大きな特徴だ。鈴木によると、ユーザーへのアンケート調査からは「夢を持っている」「新しいことに挑戦したい」「変化に富んだ人生を求めている」「みんなが使っているものを欲しくなる」「ボランティアや地域のイベントにも興味がある」といった、変化や挑戦にポジティブなユーザー像が浮かび上がってくるという。
なぜTikTokはこんなにバズったのか? 4つの理由から紐解く
では、なぜTikTokがここまでの人気を獲得したのだろうか? 鈴木によるとその背景には4つの要素があるという。
鈴木:1つは技術です。機械学習のアルゴリズムにより、ユーザーが今最も興味を持っているコンテンツを提供することができます。我々は「ソーシャルグラフからコンテンツグラフへ」という言い方をしています。
ソーシャルグラフというのは従来のSNSのような、友人や親しい間柄のつながりをもとにした関係。コンテンツグラフは、友人関係ではなく、ユーザーがどんなコンテンツを作り、消費してきたかということに基づくレコメンデーションによるつながりです。
ソーシャルグラフからコンテンツグラフに移行すると、クリエイターとしては、面白いコンテンツを投稿すれば、もともとのフォロワー数は関係なく視聴者を獲得することができるようになるんです。ユーザーとしては、楽しいコンテンツが自然に集まってくるようになり、そういうレコメンデーションが我々の大きな強みになっています。
モバイルインターネット環境の進化も大きいという。4G(第4世代移動通信システム)の普及と一般化を経て、2020年には5G(第5世代移動通信システム)の商用可が見込まれている。
鈴木:残りの3つの要因は外部環境ですが、まず回線の速度が速くなり、より大容量のデータを送れるようになったということは大きいですね。テキストから写真、そして動画と、よりリッチなSNSのコミュニケーションが生まれ、プラットフォームが発展してきました。通信環境がよくなり、動画が快適に見られるようになったことは欠かせないでしょう。
若い世代の意識の変化も要因としてあげられる、と鈴木は言う。
鈴木:3つ目はインフルエンサーが台頭する時代になっているということもあると思います。インフルエンサーマーケティングのあり方も変わってきました。当初は企業によるブランドメッセージの増幅装置のように考えられていましたが、今はまずインフルエンサーが新しい遊び方を見つけて、それがユーザーによって拡散され、そこに企業が乗っかるようなキャンペーンが増えてきました。インフルエンサーが主役になる時代になってきたと思います。
そして4つ目は、ダンスの必修化。2012年に中学校の体育の授業でダンスが必修化されてから、多くの方たちが踊れるようになってきました。もちろんこれは我々のプラットフォームにとって追い風となっていると思うのですが、そういった表層的な話だけでなく、このダンス必修化を通じて、自己表現を躊躇わない世代が増えてきたと感じています。そして、自己表現に前向きなユーザーの投稿意欲が活性化してきた。そういった、いくつかの要因がかみ合わさった結果だと考えています。
クリエイター自身はどう感じている?『カンヌライオンズ』で語られた、「自分」を見つける喜び
2019年6月には、TikTokはフランスのカンヌで開催された世界最大級の広告・クリエイティブの祭典『カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル2019』においてプレゼンテーションを行った。そこでは、TikTokの「主役」であるクリエイター自身からも、動画を通した表現活動の喜びが語られたという。
鈴木:カンヌではいくつかのセミナーを行ったんですが、メインステージではインフルエンサーやクリエイターにTikTokについて語っていただきました。その中で印象的だったのが、あるクリエイターの方が言った『Finding yourself is a great joy(自分を見つけることは、大きな喜びだ)』という言葉でした。「TikTokを通じて、自分らしさや、自分が楽しいと思うことを探すことが喜びだ」ということを語っていたんですね。
また、「コンテンツをクライアントと共に作っていきたい」とも言っていました。「企業から「こういうことを言ってください」と頼まれてそれに応じるのではなく、企業の伝えたいメッセージを自分のやり方で、自分のオーディエンスに伝えていきたい。そういうクリエイティブを共に作っていきたい」と語っていたのも興味深かったです。
ユーモラスな「ミーム」が、やがて社会を変えていく
TikTokは企業やブランドのキャンペーンやマーケティングにも多く使われるようになってきている。2019年4月、TikTok Adsは企業やブランドの課題を解決するための専門チーム「X Design Center」を設立し、鈴木は同チームのヘッドを務めている。
日本マクドナルドの「#ティロリチューン」や江崎グリコの「#ポッキー何本分体操」など、TikTok内で話題となったダンスチャレンジだけでなく、現在ではユニクロ「#UTPlayYourWorld」やサントリー「#クラフトボスミルクティーコンテスト」のように、より自由度の高いキャンペーンも展開されている。
鈴木:SNSマーケティング自体も過渡期の中で変わりつつあります。企業やブランドが提案した遊び方にそのまま乗るものはもちろん、それ以外に、その中で、自分らしさを表現する企画や、ユーザー自身がクリエイティビティを発揮して広告動画を制作する企画など、遊び方、楽しみ方の決まっていないキャンペーンにもクライアントと挑戦しています。
カンヌライオンズのプレゼンテーションで、TikTokはプラットフォームとしてのアイデンティティを「我々の使命は、世界中の創造性、知識、日常生活の貴重な瞬間を捉え、紹介することです」と説明した。
TikTokから日々生まれるバズ、それ自体のほとんどは、他愛もなく、ナンセンスだけどユーモラスな「ミーム」に過ぎない。しかし、それがトレンドとなり、拡散と伝播がムーブメントとなったときには、かつて一世を風靡した「アイスバケツチャレンジ(筋萎縮性側索硬化症(ALS)の研究を支援するため、バケツに入った氷水を頭からかぶるか、またはアメリカALS協会に寄付をする運動)」のように、人々の意識や社会の空気を変えるほどの力を持つ可能性を持っている。
2019年7月には、EXILE ÜSAがパフォーマンスアンバサダーをつとめ日本赤十字社とTikTokが手掛ける「#BPM100 DANCE PROJECT」という、CPR(心肺蘇生)の普及を目的として、ダンスをきっかけに心肺蘇生のリズムと動作を学ぶプロジェクトもスタートした。
TikTokがここ数年で証明しているのは、ひとつのプラットフォームの勃興が新しい形のコミュニケーションを生み、それが今までにないヒットに結びつき、新しいカルチャーを定着させていくという潮流だ。とても興味深いことが起こっていると思う。
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「TikTok Ads Japan」は、「TikTok」のことをより深く知ることができる公式ブログです。マーケティング、コミュニケーションのプランニングを行う際に役立つTikTokの最新トレンドや成功事例、調査データなどをお届けします。
- プロフィール
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- 鈴木瑛 (すずき あきら)
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2007年電通入社。クリエイティブディレクターとして多数のマーケティング戦略をディレクションし、Cannes Lions、D&AD等140以上の国際的なアワードを受賞した。また、2016年には米国の国際政治雑誌Foreign Policy Magazine が表彰する『世界の頭脳100人』にヒラリー・クリントンやマーク・ザッカーバーグらと並んで選出。そして、2018年にはPR業界誌『Holmes Reports』から『アジアのイノベーター25人』に、広告業界誌『Campaign』から「40歳以下の注目すべき40人」として選出・表彰を受ける。2019年よりByteDanceに入社し、「X Design Center」を立ち上げる。
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