5G時代も重要な物語性。体験×映像で熱狂を生む仕掛けを考える

2020年以降に実用化される、第5世代移動通信システム「5G」。移動通信が高速化され、大容量かつ多接続可能、低遅延で高信頼、省電力といった特徴を持ち、AIやIoT、AR、VR などの産業に大きな変化をもたらすといわれる。この進化によって、社会的に大きな変化が見込まれるいま、イベントプロモーションのあり方にも大きな変化が訪れているという。

そこで伺ったのが、「体験デザインプロダクション」であるイベント制作会社のTOW(テー・オー・ダブリュー)。第一線で活躍するクリエイターを講師に招き、プロモーションについて多角的に探る『TOWインタラクティブプロモーションスクール(以下、IPスクール)』を主催する会社でインタラクティブプロデューサーを務める一瀬大樹と映像プロデューサーの松井一生に、5G時代の到来によってさらに進化を遂げる、次世代プロモーションの可能性について語ってもらった。

従来のメディアのデジタル化に伴って、イベントもデジタル化される時代が来るのではないかと思います。(一瀬)

―トレンドワードとなっている「5G」ですが、「ココロとカラダを動かす」をテーマとした体験づくりに取り組んでいるTOWはどのように5Gを捉えていますか?

松井:すでにTOWが引き受ける案件の中には、5Gに関係するものも増えてきています。こういった案件を通して勉強しながら、今後なにができるか考えているところです。

―5G時代になると、具体的になにが変わるのでしょうか?

松井:5G時代になって劇的に変わると予測されることの1つが、「映像の見方」です。たとえば、いままで映像は作る人間が選んだ画角やアングルを見せるものでしたが、5Gで通信速度が劇的に速くなると、様々なアングルのものを同時にライブ配信できる。

いままで与えられた映像を視聴する関係だったものが、5Gの通信によって、視聴者がなにを見るか拾捨選択できるマルチアングルなど、新しいサービスがどんどん開拓されています。

左から:TOW社員の一瀬大樹、松井一生

一瀬:5GでIoT(Internet of Thingsの略)やロボットなども進化していくと思いますが、「ココロとカラダを動かす」リアルな体験を設計している我々としては、こういった映像や動画サービスの進化という視点から、インタラクティブな体験の今後を考えていく必要があります。

デジタルメディアの接触率も年々伸びてきていて、テレビや新聞、雑誌などの多くがスマホやタブレットで見ることができるようになりました。このような従来のメディアのデジタル化に伴って、イベントもデジタル化される時代が来るのではないかと思います。

―「イベントのデジタル化」というと?

一瀬: イベントはその場に行かないと体験することができませんが、イベントをデジタル化することによって、リアルな場を生配信していくことができます。5Gで大容量化、多接続化することで、高精度な同時配信が可能になって、その場に行かなくてもイベントと同じ熱量をオンラインで感じられるようになるのではないかと考えられています。

今年の『フジロック』でも、自分でアバターを作って会場内を散策できるサービスがありました。自分が持っている端末で見たいアングルを切り替えられるような演出が5Gでできると、よりオンラインでの体験が進化するでしょう。

松井:リアルなイベントに参加しながら、スマホでもマルチアングルを体験して、どちらがリアルかよく分からない状態になることが面白くなっていくかもしれないですよね。

ゲームは個人が孤立して楽しむものではなく、リアルな熱気のあるものになっている。(松井)

一瀬:最近はeスポーツのイベント制作を通して、体験をオフライン、オンラインの双方からデザインすることに力を入れています。

―これまでの実績を活かしたe-Sportsイベント専門ユニット「TOW×T2 Creative e-Sports Unit TTe(ティー・ティー・イー)」を設立され、お二人はその中でも活躍されているそうですね。ゲームはいまや世界中の個人が、オンラインで繋がって自宅でプレイできます。にもかかわらず、eスポーツイベントのようにみんなで1つの場所に集まって楽しむ場を作ったことで、どのような気づきがありましたか?

松井:それぞれのゲームに人気チームや人気選手といったスター的な存在がいて、そのファンがいて、SNSコミュニティーも発達していることですね。もはやゲームは個人が孤立して楽しむものではなく、本当にスポーツという名に相応しいような、プレイヤーとファンが一体になって熱気を生み出して楽しむものなんだと感じましたね。

松井一生(まつい いっせい)
1987年生まれ。東京藝術大学院 映像研究科で映画監督になる。修了後、動画ディレクター、記事ライターとして活躍。広告代理店にてグローバル向けの広告プランナー、プロデューサーとして従事。2019年6月、TOWに入社。

一瀬:現場に来るお客さんの大半はコアファンですが、彼らの現場の熱気がTwitterなどの投稿を通してオンラインで伝わり、盛り上がりや応援が可視化されていったのが面白かったです。海外とも繋がっているので、スケールの大きさも感じましたし、強い選手は世界中のファンに応援されて、ヒーロー化していくんです。5G時代は、eスポーツがさらに盛り上がるはず。そのときに、「新しいゲームの見せ方」を考えることは必須課題ですね。

―具体的にどのようなアプローチが考えられますか?

一瀬: 僕らがチャレンジしようとしているのは、ゲーム内で起きていることをオンラインでの映像配信で伝えながら、イベントの会場に演出として返していくことです。ゲームは普通のスポーツと違って、なにが起こったかが瞬間的に分かりづらいんですよね。それを会場にいる人にも配信を見ている人にも視覚的に瞬時に分かるようにしなければいけない。

たとえばバトルロイヤル系のゲームは、ゲーム上の広大なフィールドで対戦していて、なにが起きているか視聴者には分かりづらいんです。そこで、プレイヤーのアクションに合わせて、リアルタイムでイベント会場に光や音の演出を行う。そういう新しいアプローチをeスポーツイベントではやっていきたいですね。

一瀬大樹(いちのせ ひろき)
1991年生まれ。TV制作会社でバラエティ、音楽番組などのディレクターを経験。その後、前職経験を軸足に、広告のオールジャンルでフレキシブルに動けるプロデューサーを目指し、TOWへ入社。webも含めた映像起点の総合プロデュースを得意とし活躍している。

ノンフィクションがフィクショナルになったときに熱狂へと結晶化するんじゃないかな。(松井)

―そもそもリアルイベントにおける「熱狂」をオンラインで伝えるのって難しいと思います。それを実現するために大事なものってなんですか?

一瀬:イベントって当たり前ですが、自分の視点で色々なところが見られるとか、レスポンスが相手に届くとか直接的な体験が魅力だと思うので、「視点の自由度が向上すること」と、「インタラクティブ性」によって熱狂が生まれるんじゃないでしょうか。なので、配信上でどれだけその2つを持たせられるかが重要だと思っています。

松井:僕は、結構それが悩みどころなんですよね。イベントの配信はノンフィクションといえるものですけど、その場の熱狂がそのままダイレクトに伝わるかといわれたら、そうではないと思っていて……。そのノンフィクションがフィクショナルになったときに熱狂へと結晶化するんじゃないかな、と思うんです。

最近のラグビーW杯にみんなが熱狂していたのは、ノンフィクションのものだけど、選手たちの姿を継続的に見ることでストーリーが生まれているからだと思うんですよね。ただ、あまりに意図的にストーリーを作り込みすぎると絵空事になって、それも冷めてしまう。

さきほど言った、光のエフェクトなどeスポーツを盛り上げる演出を積み重ねることで、ゲームをほどよくストーリー化させることはできるんじゃないかと思いますね。

―インタラクティブというより、見ている人をよりのめり込ませることに注目されているんでしょうか。

松井:人が本当に「インタラクティブ」を望んでいるのか、「自由」って本当に幸せなのかと問い直すことが大事なんじゃないかと思うんです。いま、映画が好調ですけど、結局「見せられている」ほうが楽じゃないですか?

一瀬:これ、面倒くさい話になりますよ(笑)。

松井:(笑)。選択するというのは自由なんだけど、果たしてそれが楽しいのか、幸せなのか。誰もがそれに薄々気づいているんだけど、インタラクティブというほうが現代的だし新しいから、それを取り入れているのかなと。

ただ、だからといってインタラクティブをやめようという話ではないです。押しつけられたり、受け身だったり、選択肢がないほうが楽であろうことは前提で、それを上回るようなインタラクティブを生み出していかないといけないな、と思います。結局5Gになっても、人間自体は変わらないから、そこにアイデアがないと、これからの時代に刺さる体験を生むのは難しいんじゃないでしょうか。

―テクノロジーが進化しても重要なのは、やはりアイデア力であるということですね。

松井:『アバター』(ジェームズ・キャメロン監督 / 2009年)で3D映画が一時期、注目を浴びましたよね。でも、いまでは3D映画ってそんなに需要ないじゃないですか。でもだからといって、最初から「重要ではない」と諦めるのではなく、「重要にさせる」ためにできることを考え抜くのが大切なんだと思うんです。

視覚と聴覚のみでなく、テクノロジーを活用して今後嗅覚や味覚、触覚にもアプローチできるようになったら楽しいですよね。(一瀬)

―5G時代の到来で、今後の発展を最も期待するのは何でしょうか。

一瀬:ARが発展していくと面白いなと思っています。実際は現場ではなく狭い空間で観戦していたとしても、ARを使って広大な場所で開催されるスポーツやイベントを体験することができる。時間の制約や開催場所の物理的な距離も気にしないで楽しむことができるようになれば面白い。

また同時翻訳、同時配信の技術が発展していけば、世界中のイベントをリアルタイムで楽しむこともできます。現在ARで感覚できるのは視覚と聴覚のみですが、今後嗅覚や味覚、触覚にもアプローチできるようになったら楽しいですよね。

―人々が「面白い」と感じることも変化していきそうです。

松井: eスポーツで感じた新しさや面白さがなんなのか、日本のお祭りでたとえられる気がします。縁日のように用意されたコンテンツが並列に提供されるものではなく、盆踊りみたいに方向が中心の一箇所に導かれたり集ったりするような感覚。グルーヴ感のようなものをみんなでシェアして熱狂を生み出すイベントが面白いし、進化していくと思います。

―TOWの『TOWインタラクティブプロモーションスクール 2019』(以下、IPスクール)を通して、人の熱狂を生み出す体験の在り方についても、考えられるそうですね。

一瀬:はい。IPスクールでは、今回話にあがったテクノロジーを用いたイベント運営や映像配信の話以外にも、PRやデータ活用など、さまざまな視点からインタラクティブプロモーションの面白さを学ぶことができます。テクノロジーと拡張体験についての講義や体験型授業もありますね。

松井:全9回の講座には、TOWの社員をはじめ、電通や博報堂ケトル、面白法人カヤック、1→10など、業界を牽引する有名クリエイティブ系会社の講師が登壇します。学生向けなので、初めての方でもわかりやすく、ワクワクしながら広告業界を知れる機会になると思います。

イベント情報
『TOWインタラクティブプロモーションスクール2019-2020』

日時:2019年11月28日(木)~2020年2月13日(木)
会場:東京都 株式会社テー・オー・ダブリュー 会議室他
対象:広告/プロモーション業界に興味がある・目指している学生の方(2021年 / 2022年大学・大学院卒業予定者)
料金:20,000円(税別)

プロフィール
一瀬大樹 (いちのせ ひろき)

1991年生まれ。TV制作会社でバラエティ、音楽番組などのディレクターを経験。その後、前職経験を軸足に、広告のオールジャンルでフレキシブルに動けるプロデューサーを目指し、TOWへ入社。webも含めた映像起点の総合プロデュースを得意とし活躍している。

松井一生 (まつい いっせい)

1987年生まれ。東京藝術大学院 映像研究科で映画監督になる。修了後、動画ディレクター、記事ライターとして活躍。広告代理店にてグローバル向けの広告プランナー、プロデューサーとして従事。2019年6月、TOWに入社。



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