シンガーソングライター、イラストレーター、アニメーターなど、多岐にわたる表現方法で自身の世界を作り出す、はるまきごはん。そんな彼が傾倒しているテーマのひとつが「夢」だ。
2018年12月に2ndアルバム『ネオドリームトラベラー』をリリースし、2019年3月にワンマンライブ『ドリームシネマ』を開催。同年11月には同ワンマンを拡張した『ネオドリームシネマ』を、11月23日の「-DAYDREAM story-」、11月24日の「-NIGHTMARE story-」という2日公演で行った。
わたしが足を運んだ「-NIGHTMARE story-」で、彼はMC中に、2018年にリリースしたアコースティックミニアルバム『SLEEP SHEEP SUNROOM』について、「夢をテーマにしたアルバムを作りたかったから、まずは寝かせるためのアルバムを作ろうと思った」と語っていた。なぜ彼はこれほどまでに夢を表現することに駆り立てられているのだろうか?
夢と現実の狭間を感じる、はるまきごはんのワンマンライブ『ドリームシネマ』
会場である白金高輪のSELENE b2は背景に6面のLEDモニターを持ち、そのすべてにはるまきごはんのアニメーション制作チーム「スタジオごはん」が手掛けたアニメーションが映し出されている。青、桃、白の3色を基盤に描かれた世界は、『ネオドリームシネマ』という冠に相応しく、どこか現実離れした空間を感じさせた。
だがギターボーカルを務めるはるまきごはんと、ギター、ベース、ドラムのサポートメンバーによる生演奏が加わることで、その空間は一気にリアリティーを帯びていく。そもそも夢とは現実世界ではないとはいえ、現実世界や自分の潜在意識と密接な関係にあるものだ。夢での出来事を現実に引きずった経験をした人も多いと推測する。そういう意味では夢の世界も、はるまきごはんが生きてきた時間の一部なのだろう。
演奏とアニメーションの描く物語が進めば進むほど、現実世界とはるまきごはんの作る世界の境目がわからなくなっていく。ライブ中盤に披露された“きっと夢の中ね”は、はるまきごはんが初音ミクとユニゾンで歌唱し、いよいよ次元という概念も捻じ曲げられるようだった。その次々起こる固定観念の崩壊が、不思議と心地好い。宇宙へと放り出されたときにこんな感覚になるのだろうか、となんとなく思った。
本編ラストの“ドリームレス・ドリームス”の前に、こんな台詞があった。 「ずっと同じ夢をみている。忘れちゃいけない夢。もう大人になったのに、心のどこか隅っこですすり泣いているのだ。教室の影法師ひとり、夢のない夢を見ている」
もしかしたらこれが、はるまきごはんが夢を表現する理由なのだろうか? それを解明すべく、彼に話を聞きにいった。だがその背景にあるものは「夢と現実」なんていう簡単な話ではなかった。はるまきごはんの世界は、開拓されていないことだらけの未知なる領域なのだ。
夢での「飛ぶ」は「閉塞感からの解放」や「自分がやりたいことをやれてるかどうか」という比喩なんだと思います。
―はるまきごはんさんは、なぜそこまで「夢」を表現に落とし込みたいと思われたのでしょう?
はるまきごはん:夢をめちゃくちゃ見る体質だからですね。ロングスリーパー寄りなので1日8~9時間寝てるんですけど、それぐらい寝ると毎日ちゃんと夢を見られるんです。夢を見るのは大切なことだと思ってるんですよ。
―そう思い始めたのはいつごろから?
はるまきごはん:小さい頃からですね。夢は現実より大冒険になるので、現実よりも感動したり、心が動いたり、達成感がある瞬間が多くて。現実世界以上の感動や体験があると思うんです。僕は夢の中で芽生えた能力がそれ以降の夢へと引き継がれることが多くて。
―夢の世界も現実世界と並行して、しっかりと進んでいるんですね。
はるまきごはん:たとえば僕は夢の中で空を飛べるんですけど、飛べるようになったきっかけは小学校低学年ぐらいのときに見た夢で。家の前で魔女に襲われて、その魔女から必死に逃げようともがいていたら、ゆっくり飛ぶことができるようになりました。そして徐々にコントロールできるようになり、最近は飛びたいときに飛べるようになって、飛行機並にスピードが出ます(笑)。
―現実世界で、飛び立ちたい思いがあったのでしょうか?
はるまきごはん:夢においての「飛ぶ」は「閉塞感からの解放」や「自分がやりたいことをやれてるかどうか」という比喩なんじゃないか? という仮説が僕の中にあって。飛ぶシチュエーションはいつも、学校の窓からだったり、敵に襲われたときだったり。逃げる手段であることが多くて、飛んだあとは心が幸せで満たされるんです。その感覚って学校を卒業したときと似ていて。僕、学校がめちゃくちゃ嫌いだったんです。
―それはどの時期の学校ですか?
はるまきごはん:中学も高校も。大学は授業が少なかったので比較的楽でしたけど、僕はもともと押しつけがましい「教育」がめちゃくちゃ嫌いで(笑)。そもそも小さい頃から、朝決められた時間にひとつの空間に集められる理由がわからなかった。幼稚園を脱出しようとして、めちゃくちゃ怒られたことがあるんです。だから卒業した瞬間は「やっと逃げ出せる」みたいな気持ちになったんですよね。
大学を卒業してからまだ2年しか経っていないので、今は解放の喜びを噛みしめていて、その時期はもう少し続くのかなと思っています。この解放感が当たり前のものになったとき、自分の創作が次のステップにいくんじゃないかな、と思ったりもしてます。
はるまきごはん『ネオドリームトラベラー』(2018年)を聴く(Apple Musicはこちら)
学校でのつらい体験は、僕の根源的な部分なんだと思います。
―少年と青年の狭間でもある、20代前半という年齢も関わっていそうですね。
はるまきごはん:今年、東京に出てきて一人暮らしを始めたんですけど、自分の精神や体にかかってるストレスが学生時代より少ないんですよね。高校生の頃は、ただ生きているだけで先生に怒られていたので。先生からしたら僕みたいな人間は、あんまりよろしくないんですよ。いい大学にいって、いい就職をしなさい――そういう社会全体で認識されてる「幸せのテンプレート」って未だにあると思うんですけど、それに否定的だったから。
―ありますね。そのあとは20代後半で結婚して、子どもをもうけて、マイホームを建てて、ローンが終わったころに定年退職して、穏やかな老後を過ごす、という。
はるまきごはん:僕はそのどれもにあまり興味がなかったので、その線路からは絶対に脱出したいとずっと思っていました。
―なるほど。
はるまきごはん:ただ、そういう学校の縛りがあったからこそ、「それをどう回避するか?」みたいな面白さもあったじゃないですか。縛りが全部なくなることがいいこととも一概にはいえない。そういうのを改めて考えてる時期にあるのかもしれないです。
―はるまきさんの楽曲には、学生時代の締めつけられてる感覚が、生々しく出ていますよね。
はるまきごはん:そうなんですよ。学生時代の縛られていた体験が、僕の根源的な部分の一つにあるんだと思います。
―今もその意識にとらわれているところも?
はるまきごはん:いまだに学校に通ってる夢を見ることはあるし……何回も見ますよ、学校の夢って。もう繰り返し繰り返し。小学校から高校1年まで野球をやってたんですけど、週に2~3回野球部の夢を見る。でも当時の僕は1回も「野球やりたい」と思ったことがないんです。
―よく8年続けましたね。
はるまきごはん:「野球部に入らないといけない」っていう強迫観念があって。だから自分自身にも縛られてたんですよね。それこそ今の自分が嫌悪してるような、「幸せのテンプレートに従わないと」とプレッシャーに感じていたんだと思います。「もう意味がないな」「嫌だな」と思ったものはすぐやめちゃえばいいと思うけど、自分の学生時代を思い返すと辞めることも難しいんだなって。だから僕は部活から帰ってきて、自分の心を救うために1日1枚は必ず絵を描いてた。自分の好きな世界を描くことで満足して寝られる、それをやらないと眠れないぐらい、ギリギリの精神状態で成り立ってました。
自分がちっぽけな存在であることを感じられると救いになる。
―はるまきごはんさんの表現するものは、失われるもの、消えてしまうものに想いを馳せているものが多いと感じます。「夢」もそうですが、「夜」や「夏」も。
はるまきごはん:確かに幼い頃の純粋さとかは失われるからこそ、美しいとされてますよね。僕はそういうの好きです。夏も短いからこそいい、みたいな。
―永遠ではないことの美しさと名残惜しさの両方を孕んでいると感じました。
はるまきごはん:もともと夏がすごく好きで。特に夕日が沈んだ直後に空が青色になる瞬間の「ブルーモーメント」もすごい好きで。「あ、地球ってちゃんと宇宙の一部なんだ」と感じられるから、自分がちっぽけな存在であることを感じられて救いになる。「10年後にはこんな状況じゃないだろう」というめちゃくちゃ小さい希望だけが残ってて。それだけを信じていましたね。
―はるまきごはんさんの中には、昔の自分もいれば、今の自分や、夢の自分も住んでいるのかなと。なかなか言葉にするには難しい人ですよね。
はるまきごはん:難しいですね。だから作品を作れてると思うんです。たぶん全部言葉で綺麗にいえたら、作品として出す意味はあんまりないと思うんです。言葉にできない状態が正常なんだと思う。言葉にできない部分が多ければ多いほど、誰も予想がつかなかったような作品になるんじゃないかな、みたいな。そういうのは漠然と思ってます。
―表現方法が音楽だけではなく、イラストやアニメと、ひとつに限定しないのも、それが理由ですか?
はるまきごはん:どうなんだろう。自分がたまたまこれが得意だったからかもしれないし。実家がスピーカーで音を出してよかったという環境も影響してると思います。それができなかったら音楽をやってたかわからないし、環境ってすごく大切ですね。東京に住んでみて、東京は音楽活動しやすいなとも思ったし。
―はるまきごはんさんには東京が合ったんでしょうね。
はるまきごはん:僕が音楽や絵をやってなくて、普通に生きていくだけだったら地元の札幌のほうが東京より居心地よかったかもしれないです。でも、東京でイベントをしたり、CDを出したり、同じ活動してる人に会ったりするなら、やっぱり東京に住んでないと大変な部分も多かったので、東京に住むことを選びました。それなのに、僕は人より不健康なんで、生きてもせいぜい50、60歳くらいまでかなって思っていて。
―いやいや(笑)。30年後には医療もだいぶ発達してますよ。
はるまきごはん:僕の作業時間では、年に3~4本ぐらいしかMVを投稿できないんです。となると60歳になるまでの37年があっても、せいぜい150ぐらいしかMVつきの曲を作れない。そう計算すると、すでに最後の作品までカウントダウンが始まっているから、生きているあいだに、ひとつでも多くのものを生み出したいんです。最近、制作の体制が整ったからか、そういう思考になっていて……死ぬことについてめちゃめちゃ考えるんですけど、死ぬって謎すぎませんか?
はるまきごはん『SLEEP SHEEP SUNROOM』(2018年)を聴く(Apple Musicはこちら)
僕は、自分が死ぬまでに地球外生命体が地球に干渉してくる可能性に賭けてるんです。
―本当にそうですね。死や宇宙など、未知なものを考えると頭が爆発しそうになります。
はるまきごはん:そうですね。でもその無限の感じ、僕はめっちゃ好きなんです。僕は現実的にものを考える面と想像力を働かせる面があるんですけど、自分が死ぬまでに地球外生命体が地球に干渉してくる可能性に賭けてるんです。自分たちよりもずっと高い知能をもった生命体が地球に干渉してきたら……と仮定して、自分はなにをしたいかを考えてるんです。僕はその宇宙人に自分の作品を見て、聞いてもらいたいんですよ。その宇宙人がどう感じるのか、喜ぶのか悲しむのか――その結果がめちゃくちゃ気になるんですよ。
―面白い。それはすごく気になりますね。
はるまきごはん:想定できる人生で終わるのってめちゃくちゃつまらないと思うから、いままでの地球上で起こったことのないなにかを体験したいんですよ。どうせ死ぬんだったら誰も見たことがないものを見たい。だから宇宙人を求めてる。可能性に賭けとくのはなんの損にもならないですよね。「ゾンビの世界になったらどうする?」という仮定を作って、その準備をするのも好きです。そういう現実に起こってないことって無限に想像できるし、無限にそれに賭けることができるから、すごく好きなんですよね。
―夢しかり、宇宙人しかり、まだまだ解明されない未知のものに興味がおありなんですね。
はるまきごはん:そうですね。みんなが当たり前だと考えていることも、もしかしたら真実ではないかもしれないし。100年後、200年後ぐらいに今とは全く異なる解釈が出てきて、今の常識が全部覆されたら、それも面白いなと思ってるんです。箱庭論(宇宙は何者かが作った箱庭であるという考え)とかも好きで、もしそうなら箱庭を作った人に会いたいですし。
―考え出すと際限がないしゾッとするけど、すごく興味をそそられることですよね。わからないことは希望と恐怖が入り乱れている。
はるまきごはん:それも、つらい時期の自分にとっては救いのひとつだったと思うんです。現状がつらい人からすると、「とにかく助けてほしい」「目の前にある現状が変わってほしい」という気持ちだと思うんですよね。「今とは異なる未来であるほうが面白い」という考え方は、「つらいから現状が変わってほしい」と思ってる人の向いてる方向は同じなんじゃないかなって。そして、それは自分の過去の経験も影響しているとは思うんですけどね。
―たしかにそうかもしれないですね。わたしははるまきごはんさんに、宇宙を感じ始めてきました。
はるまきごはん:(笑)。
―はるまきごはんさんの作品や今回のライブも、はるまきごはんさんの内部に入っていくような感覚があったので。
はるまきごはん:そうなってくれたのは嬉しいですね。「自分が作る世界にどう没頭してもらえるか」が最近の重要なテーマなんです。その世界を生み出すための情熱は、めちゃくちゃあるんですよ。
―もちろん。情熱がなければ世界は作れないと思います。
はるまきごはん:僕は「いいものを生み出すためなら、泣き叫んだりするくらい自分を犠牲にしてもいい」って思う、熱血タイプですね。みんなで楽しく心身健やかにいいものを作り合う人もいるし、淡々と感情なしで作る人もいるし、表現活動は人それぞれだと思うんですけど。僕はどっちかというと、マンガ『DRAGON BALL』(鳥山明)の「フリーザ戦の悟空」みたいな感じで作品が生まれてくるほうがしっくりくる。
―その過程のほうが、残せた実感があるんでしょうか?
はるまきごはん:それに意味を感じますね。永遠に残るものが生まれたときに喜びを感じるので、形として残るものがめちゃくちゃ好きなんです。だからライブも観た人の記憶に死ぬまで残るような、「あのライブはこうだったよね」と覚えていられるようなライブをやりたいんです。
―2019年6月にはアニメーション制作スタジオ「スタジオごはん」を設立なさったのも記憶に新しいです。はるまきごはんさんは自分の世界を深く広げるために、表現の枠組みにとらわれずこの先も挑戦していくんでしょうね。
はるまきごはん:ミュージシャンという枠組みにとらわれないやり方を考えたいと思ってます。ミュージシャンってアルバムを出して動画をアップしてライブをしてっていう、ある種の型があるじゃないですか。それのせいで自分の世界が伝わりづらくなってる部分があるとしたら、すごく勿体ない。どう展開していくべきか、最近すごく考えているので、今後も活動はどんどん発展させていきたいと思っています。
- イベント情報
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- はるまきごはん
『ネオドリームシネマ -DAYDREAM story-』 -
2019年11月23日(土・祝)
会場:東京都 白金高輪 SELENE b2
- はるまきごはん
『ネオドリームシネマ -NIGHTMARE story-』 -
2019年11月24日(日)
会場:東京都 白金高輪 SELENE b2
- はるまきごはん
- プロフィール
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- はるまきごはん
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2月7日生まれ、北海道札幌市出身のクリエイター、ミュージシャン。音楽、イラスト、アニメーション映像制作をひとりで手掛ける。2016年に投稿したボカロ楽曲「銀河録」から知名度を増し、「メルティランドナイトメア」をはじめ多くの楽曲が人々の心を掴んだ。2019年からはアニメーション制作スタジオ「スタジオごはん」を設立し、楽曲「再会」では自身がボーカルを務めたバージョンとボカロバージョンの2形態のMVを制作するなど、既存の型にはまらない作品を發表し続けている。
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