前人未到のビートミュージック、ネクストレベルのビート、超人的にILLでDOPE一一。skillkillsについて書こうとすると、言葉は必ず「常識」の外に逃げる。生バンドのセオリーを覆すサウンドプロダクションと、深夜の都市の一番ヤバい空気を喰らうような不穏さは、すぐには馴染めない距離感、簡単に理解できない恐怖心をもたらすものだろう。
ただし、この3人は「アンダーグラウンドの王者」で収まっているタマでもない。肉体を直接揺するグルーヴをキープしながら、最新作『CHUNK』では妙にヌケの良いポップさも会得。わかりやすい、と言えば語弊があるのだが、歌もいっそうナチュラルになっており、超ドープなのにまったく閉じていない印象である。改めて知りたくなった。彼らの音楽の仕組み、その奥にある思想と挑戦、さらには今後の野心について。CINRA.NET初登場インタビューです。
「正しいテンポ」と言っても、音楽、特に西洋音楽ってそんなに歴史はない。「一定なのが正しい」と思わされてるだけで、もしかしたら俺のほうが正しいかもしれない。(GuruCOnnect)
―skillkillsの始動は9年前ですが、ビートミュージックを生バンドでやるというコンセプトは、最初から固まっていたんでしょうか。
GuruCOnnect(以下、Guru):ほんとの昔から言うと、当時は名前が違うバンドやってて、そのときはやりたいことも決まってなかったから、漠然と、集まって音鳴らして楽しい、みたいな感じで。で、バンドの名前をskillkillsに変えた頃から俺が曲を作るようになって。そのときはなんとなく、クラブでやっても大丈夫な感じの音。低音感とか、クラブミュージックに負けないような。そういうイメージはありましたね。
MANNER-CHUNK(以下、MANNER):クラブ遊びもよくするしね。
Guru:そう。俺の楽器がベースだからローの感じが好き、あとリズムが好きっていうのもあって。だから興味がそっちに行ったんでしょうね。
―skillkillsは踊れる音楽ではあるけど、ただダンサブルなものではなくて。ものすごく不穏な空気が渦巻いてるし、リズムも面白いほどズレていく。なぜこれで踊れちゃうんだろうって毎回不思議です。
Guru:特許取ったほうがいいかなぁ(一同笑)。コツはね、多分あるんですよ。「変なのにしよう」と思って作ってるわけでもなくて、「これノレるな」と思って作ってるから。だからみんなも踊れるんじゃないですかね。
―ノリを求めて、あえて正しいテンポをズラしていく?
Guru:正しいテンポ……。正しいって言っても、音楽、特に西洋音楽ってそんなに歴史はないじゃないですか。「一定なのが正しい」と思わされてるだけで、もしかしたら俺がやってるほうが正しいかもしれないですよね。何でもいいやと思ってるんです。繰り返したら慣れるし、同じものがループすることによって音楽になる。ビートに関してはそういう考え方ですね。
―あぁ、急に遅くなって、一瞬ハシゴを踏み外したような気分になるんだけど、それを繰り返すことによって身体が慣れていく。
Guru:そう、繰り返すからだんだんみんなわかってくる。そのコツっていうか、自分の美学でいえば、破綻しないギリギリのところ。もちろんあえて破綻させる場合もあるけど。そこが外れてなかったらオッケーかな。
―それがあれば一定のBPMじゃなくても成立すると。
Guru:一定のBPMなんですけどね、ほんとはね。
ビートさとし:同期演奏で、クリックは普通に「ピッ、ピッ、ピッ……」って鳴ってるんですよ。そこに、楽譜で言うなら細かく休符が出てくる。遅く聴こえるようなフレーズになってるんです。
―え、実際のBPMは変わらない?
Guru:変わってないです。で、ドラムはクリックに合わせてるんだけど、叩く箇所がちょっとずつズレていく。
ビートさとし:普通4拍子だと、1小節につき4分音符が4個ですよね。その1拍を4つに分けたら16分音符になって、最初は(16分の)1拍目が休符で2拍目だけ叩く、次は3拍目だけ叩く、みたいな感じで。そういうのをもっと細かく組み合わせていくから成立する。実際のBPMは変わらないけど、僕が4分音符どおりに叩かないから、ビートは遅くなっていくように聴こえる。
―……難しくないですか?
ビートさとし:めちゃくちゃ叩きにくいですよ(一同笑)。叩きづらいし、違和感しかない。
―それも覚えてしまえば気持ちよくなってくる?
ビートさとし:全然気持ちよくならないです(一同爆笑)。
MANNER:いいね、それ最高(笑)。
ビートさとし:演奏中はほんとに集中しないと。ちょっとでも気を抜くと絶対できないですね。
Guru:これはほんと、世界でもこいつ(ビートさとし)しか叩けないと思いますよ。
skillkills『THE BEST』(2018年)を聴く(Spotifyを開く)
―確かに、特許を取ってもいいかもしれない(笑)。それってフォーマットの解体なのか、新たな構築なのか、どちらに近いと思いますか。
Guru:音楽って、組み合わせだと俺は思ってて。料理もそうじゃないですか。だから、すでにあるものを一回分解して組み立てる感覚なのかな。プラモデルのいろんなパーツを集めて、オリジナルの変な形のものができあがった、みたいな感覚に近いですね。
あと俺、そんなに機材とか勉強しなくて、使い方がよくわからないときに、わざといっぱい曲作るんですよ。そのほうが意図してないことが起こる。意図してないことしか起きないんで、全然納得できないですけど、まぁ全部自分にないものができるから驚きはあって。「あっ、ここズレた」っていうリズムも、ループすることで曲になったり。一番最初を思い返せば、たまたま打ち込みがズレてしまったことがきっかけで。でも何回か聴いてるうちに「こっちのほうが普通のビートよりグルーヴあるな」って思ったんですよ。それを繰り返してたらここまで来てしまった感じですね。
たまにいるもんね、めちゃくちゃな踊り方してる奴(笑)。あれ見ると嬉しくて「それでいいんじゃない?」って思う。(MANNER-CHUNK)
―スグルさんの言うグルーヴって、ノリ、と解釈してもいいですか。
Guru:そうですね。でもグルーヴはグルーヴ。
ビートさとし:気持ちの良さ。
Guru:踊りですよ、踊り。自然に踊り出すんじゃないかな、人が踊るときって。引っ張られて踊るもんだからね、音楽って。
―あぁ、引っ張られる感覚。私、ダンスって、ハイになる興奮とか気分の高揚とか、要は感情から始まるものだと思っていたんです。でもそれだけじゃないなってこの音で気付かされる。もっと肉体的なものというか。
Guru:あぁ、なんとなくわかります。湧き上がってくるもの、みたいなのは多分あるんでしょうね。
―引っ張られて、よくわからないまま動き出してしまう。
Guru:うん。引っ張るぞっていう感じ。引っ張るから付いて来いよって。もう強制のグルーヴですから。もちろん動きはバラバラでいいんだけど。
MANNER:たまにいるもんね、言っちゃナンだけどめちゃくちゃな踊り方してる奴(笑)。あれ見ると嬉しくて「それでいいんじゃない?」って思う。
Guru:素晴らしい。「正解、正解」って思うよね。
―そこに思想ってあると思います?
Guru:思想……。でも自由っていうのは考えてますね。楽譜、音楽、既存のエイトビートとか。そういうものから脱却したいなって、それはすごくあります。語弊があるけど、そこらへんにある音楽のリズムの譜面、ほぼ一緒ですよ。「♪ズンズン、パン、ズンズン、パン」が続いて、違うメロディが乗ってるだけ。それは変えたいなと思ってる。だから思想っていうか、挑戦ですよね。
今はまだリズム、ビートってほとんどがひとつのフォーマットですからね。あとは完全にフリーの即興音楽か。そのどちらでもない感じをやりたいなと思って。もともと俺らは両方やってたんですよ。インプロビゼーションもやってたし、普通のエイトビートの、ロックのバンドも昔やってたから。でも、どっちにも居場所がなかったから、もっと完全に居場所がないところに行ってやろうと(笑)。
ビートさとし:北極にいる(笑)。
―ここまでドープな音にすることで、何かを突きつけたい、みたいな感覚はありますか。
MANNER:うーん……まぁ「かっけぇだろ?」ってことを突きつけたいとは思うけど。でもみんなそうなんじゃないかな、バンドは。
ビートさとし:僕ら、常にあんま聴いたことないものを探してるんですよ。音楽を掘りながら「うおっ、何これ、面白いの見つけた!」みたいな。その感覚で聴いて欲しいかな。突きつけたいっていうよりは、そう思って欲しい。
Guru:そうそう。「すっげー変な、かっけぇの見つけた!」みたいな瞬間。そういう音楽を今もずっと探してるし。これを先入観なしで聴いたらもっと楽しいのにな、とは思いますね。skillkillsって「複雑だ」とかよく言われるけど、それってもう教育(の影響)じゃないですか。最初に複雑だと思うところが。でもライブだと、この音でもみんな普通に手ぇ振ってますからね。素晴らしい方々だなと思う。俺がやり続けたいのはそこですね。こういう考え方の人たちがもっと出てきて、ヒットチャートでこういうビート感覚でやる人が出てきてもいいなって思う。
―根幹にあるのは、ひねくれた反発心というより、音楽を面白くしたいという探究心なんでしょうね。
ビートさとし:そうですね。それでずっとやってる気がする。今も(Guruが)新曲持ってきたときは「とんでもない曲が来たな!」って思うし。
MANNER:毎回ね。デモ聴いた瞬間に「キタキタキタぁ!」って喜びがあるもんね。やっぱアガるし、それがガソリンになってる。自分が感動したぶん、人に感動させたいって思うし。
―あと今回は2018年のベスト盤のあとに出る最初のアルバムで。気持ちの変化があるのか、全体にポップになった印象があります。
ビートさとし:確かに。そんな感じはする。
Guru:あのベストはけっこう区切りだったと思ってて。多分俺らの中では一周して切り替わった感じなんですよ。ベストはまとめたんじゃなくて全部録り直して歌も変えて。だからリフォームした後みたいな感じで。まず歌のアプローチがちょっと変わった。
―言葉はどんどん素直になって、生活の匂いも出てきた印象です。
MANNER:出ちゃってますね。ほんと平和とか大事だなと思ってるし、そういうことちゃんと言おうと思って。まぁ他は、みんなで集まって乾杯したら楽しかったとか、そういうことばっかりだと思いますよ。なんか、気楽に書き始めることが大事なのかなと思ってて。あんま根詰めてドラマチックに、過剰にしてもしょうがねぇし。なるべく自然に出たものを素直に出せるようになった。
―そうなれたのは時間を重ねてきたから?
MANNER:そうなんでしょうね。あと前向きになってきたのかな? まぁ楽しくやっていきたいなってことなんですよね、この音楽と一緒に。
―最後の“No End Theory”はそういう宣言の歌です。
MANNER:そうっすね。終わらねぇ、未来永劫続けるっていう。
Guru:続けるって才能ですからね、やっぱり。俺、続けることってほんと一番大事だと思ってる。ほんと何もねぇ奴でも続けていったら、きっと何かあると思うんですよ。
MANNER:続く、っていうのもひとつのグルーヴだしね。
Guru:多分もっとできると思うんすよ。ここから、もう一皮剥けられるんじゃないかなと思って。今回はまさにポップだし。ほんと、わかりやすくいたいとは思ってて。ずっと閉じこもってる感じだと、そこからもう広まらないんで。まぁ俺らって、入り口の音楽では絶対ないんですよ。
MANNER:そうね(笑)。
Guru:でも、深過ぎず。間口はいつでも広げておきたい。
頑張ってる奴はみんなドロ臭い。俺たちはいろんな人と一緒にやってきたし、どんなジャンルでも共感できる。(GuruCOnnect)
―今回の“Delicacy”なんて、入り口にもなりうる曲だと思います。
ビートさとし:そうですね、確かに。
MANNER:これ、トラックもちょっとかわいいと思ったもん。
Guru:ウチの4歳の子、“Delicacy”で踊ってましたよ。ビートが遅いとかそういうこと関係ないんで。曲が楽しけりゃ奴らは踊りますよね。
MANNER:めちゃくちゃ素直。いいねぇ。
skillkills“Delicacy feat. 鎮座DOPENESS,福岡ナイフ”を聴く(Spotifyを開く)
―あくまで自分たちの好奇心や楽しさが発信源なんですよね。話は逸れますけど、たとえば「このドープさは、まさに今の時代の闇を表現している」なんてことを言われたら、どう思います?
ビートさとし:あー……俺はそういう大それたことは考えてなかった。
Guru:時代の闇って言い出すと、まぁほんとめちゃくちゃな世の中ですからね。
MANNER:マジでね。
Guru:そこはね、もっとストレートに言います、俺は。音楽で表さなくても口で言いたいし、思ってることは普通に言いますよ。政治のこととかね。
―社会とか時代性が先にあるわけじゃない。
Guru:違います。でも、今の世の中は完全におかしい。マジで今の政権なんかクソだと思うし。
MANNER:おかしい。そこは普通に人として思うよね。
Guru:人としてね。だから音楽に表れてはいないけど、隠そうとも思ってないし、表したいとも思うかな。だから、これを聴いてそんなふうに思うんだったら、別にそれでいいと思いますよ。
―完全にセパレートはしていないと。時代の闇はともかくとして、絶対的に街の音なんですよね、skillkillsは。都市の不穏さそのもの。
Guru:そうっすね。俺は山口から出てきて以来ずっと同じ街に住んでて、ずーっと地域密着の生活で。そこはわりと表れてるかなって思いますよ。あと飲み屋の人とよく遊ぶんですけど、飲食業やってる奴と話してて「あー、俺も頑張ろう」って思ったり。そういうところも繋がってると思う。
―人との摩擦とかストレスも込みで音になっている。多分これ、大自然の中で聴いてもピンと来ない音楽ですよね。
ビートさとし:ほんとそうだと思う(笑)。
MANNER:青空の下とかね、全然合わんよね(笑)。
―だから、今の東京で鬱屈を抱えてる子が、これ聴いて「でも行くか!」って外に出ていくような、そういうパワーはあると思うんです。
Guru:うん、出てもらいたい。外に出るっていうのは大事だから。閉じこもらないで何か始めるとか。そのメッセージを込めてはいないですけど、気持ちはありますよ。音楽にその力はあると俺は思ってて。だからほんとにメッセージ性がないわけじゃないんですよね、俺たちは。やってること自体メッセージというか。で、安倍政権の話とかをゴリゴリ歌詞に込めていくのかって言えば、それはまた違ってくるじゃないですか。
MANNER:メッセージってね、一節とかだけに入れてるからね。ここで話してることそのまま書くのは違うし。でも曲によって込めてはいますからね。
―“Dope Shit”のなかに<ドロ臭えモノホンの本物のコントロール不能の この根性論>って出てきますよね。
MANNER:別に大きな論はないんですけどね。でもみんなしぶとく生きてるし、俺もしぶとく生きてるなぁと思ったときに、これが出てきたんでしょうね。ドロ臭えなと思って、みんなのライフそのものが。
Guru:頑張ってる奴らはみんなドロ臭いしね。マジで俺たちはいろんな人たちと一緒にやってきたし、そこはどんなジャンルでも共感できるかな。
ビートさとし:ね。音楽一生懸命やってるなら、それだけで共感できる。
MANNER:みんな「元気出して行こうぜ」って感じですよ(笑)。
―バンドやDJで食っていくのが難しい時代だから、なおさら。
Guru:うん。まぁ将来的にはね、まずカネは稼ぎたいですよね。めちゃくちゃ儲けたいわけじゃないし、売れる・売れないを考えて作ってるわけでもないけど。ただ、自分たちがやってきたことに対する対価はもらえるように頑張んないといけないなと思います。間違ったことはやってないと思ってるし、じゃあそれに向かって何をするか、ですよね。
―他にない音楽だし、ストリーミングサービスとかを通して、使い方次第では海外でも一気に盛り上がるチャンスがありそうですけどね。
Guru:うん、そういうのも含めて、動き方を考えて行動しなきゃ。かといって妥協したら俺らみたいな音楽は終わりだと思うんで、突き詰めるところは突き詰めて、それでメイクマネーできるような流れを自分たちで作りたい。そしたら後ろの奴ら、アンダーグラウンドにいる面白い奴らも「俺らもやりたい!」って思えるだろうし。そういう状況を自分たちで作っていきたいですね。
- リリース情報
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- skillkills
『CHUNK』(CD+ポーチパッケージ) -
2020年2月26日(水)発売
価格:3,300円(税込)1. Ideology
2. Money
3. Shake
4. Night Out
5. Dumb (skit)
6. Sweet Memory
7. Murder Number
8. Dope Shit
9. Err (skit)
10. Key Chain
11. Go Home / Way Back
12. Delicacy (feat. 鎮座DOPENESS , 福岡ナイフ)
13. No End Theoryオリジナルポーチジャケット仕様:
CD、B6サイズ歌詞カード、キラカード3枚入り
- skillkills
- ライブ情報
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- 『Vanishing Joint X』
skillkills 6th Album “CHUNK” Release Party!!!! -
2020年2月27日(木)
会場:東京都 代官山UNIT
■LIVE
skillkills
鎮座DOPENESS
KILLER-BONG
BEAT BROS.
ペガサスス
■DJ
¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$U
- 『Vanishing Joint X』
- プロフィール
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- skillkills (すきるきるす)
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2011年1月に結成。変異的なビートを軸に、ヒップホップ、オルタナティブロック、ポストロック界隈にまで接続する音楽性を持つ。同年12月に『skillkills』でデビュー、現在までにオリジナルアルバム5作、ベストアルバム1作をリリースしている。ビート自身のレーベル「ILLGENIC RECORDS」を運営し、2020年2月26日に6枚目のアルバム『CHUNK』をリリースした。
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