4月29日に5作目のオリジナルフルアルバム『SUCK MY WORLD』をリリースしたTHE ORAL CIGARETTES。本作は、前作『Kisses and Kills』(2018年)までの彼らとは比べ物にならないほどに、表現するもののスケール感を増大させた会心の1枚に仕上がっている。
アルバムはアンビエントとポエトリーが融和した“Introduction”で幕を開けると、ポストパンク、ゴスペル、R&Bなどを昇華した色彩豊かな音楽世界を繰り広げていく。そのなかにはもちろん、“Dream In Drive”のような、これまでの彼らが培ってきた艶やかなメロディと歌声が映えるギターロックも最高の形で存在している。
加えて本作は、この1年間をかけてリリ-スしてきたすべてのシングルのジャケットとアートワークが連なることでストーリーを描いているという、徹底したコンセプトメイクによって、そのメッセージ性においても非常に濃密な作品となっている。彼らの「2020年代を背負う」という覚悟が強固に伝わってくる作品だ。
本作のリリースを祝し、バンドのフロントマンである山中拓也にオンライン取材を敢行した。本作のコンセプトから自身の思想の在り処、さらに、新型コロナウイルスの影響下において彼が思うロックバンドの在り様について、たっぷりと語ってもらった。
どうやって世界中で苦しんでいる人たちを救っていくのかを考えていくほうが、俺はロックバンドとしても正しいと思う。
―新作『SUCK MY WORLD』を聴かせていただいて、バンドが表現するもののスケール感が圧倒的に大きくなったことを感じさせるアルバムだと思いました。
山中:ありがとうございます。
―このアルバムは4月29日にリリースされましたが、新型コロナウイルスの影響で世界がこれだけ混沌としているなかで本作がリリースされたことの意味について、山中さんはどのように考えていますか?
山中:当然、リリースすることへのリスクはあるなと思っていて。外出自粛のタイミングだし、CDショップも閉まっている。そんな状況だから、商業的な面でいうと完全に売り上げの枚数は落ちますよね。そこで、周りからは「この程度のバンドなんだな」と見られるリスクもある。そういうことは踏まえつつも、もう数字の面は1回置いておいてもいいのかなって思ったんですよね。
そもそも、前作『Kisses and Kills』のアリーナツアーを終えた頃から、このままドーム規模まで行けたとて、今までと同じやり方だと音楽シーンに爪痕を残せないなと感じ始めていたんです。それよりも、「ロックバンドとして今やらなきゃいけないことはなんだろう?」とか、「なんで俺はロックバンドになったんだろう?」ということ考えないといけないんだっていう感覚があって。
―なるほど。
山中:自分たちの数字がどうこうよりも、どうやって人としてファンと向き合っていくのか、どうやって世界中で苦しんでいる人たちを救っていくのかを考えていくほうが、俺はロックバンドとしても正しいと思うし、そのほうが自分の気持ちにも合っているなと思うんですよね。なので、今の状況で苦しいのは俺もみんなと同じだけど、俺も音楽に救われてきたからこそ、音楽を届けるのがミュージシャンとしての仕事なんじゃないかなと思ったんです。
―山中さんにとってロックバンドとは、人を救うものである?
山中:「人を救う」というか、どちらかというと、結果的に「人が救われていく」ということだと思います。「共感してもらう」とか「お客さんに馴染んでいく」ということはやるべきではない。それよりも、どれだけ自分が生きている証を日々積み上げることができるか、そして、どれだけそれを表現していくことができるか。それが、ロックバンドがやるべきことだと思うんです。
このタイミングでリリースすることに関しても少なからず批判はあると思うんですけど、「俺はこう生きていくよ」という意志の示し方ができて、それが伝染していけばいいなと思う。
「今の日本に、本当にロックバンドしているロックバンドって何組いるんだ?」と思うようになったんです。
―前作『Kisses and Kills』のあとに山中さんが抱いた問題意識をもう少し掘り下げたいんですけど、「このままではダメだ」と感じた理由はどういったところにあったのでしょうか。
山中:日本という国のことを意識し始めたのが大きいと思います。音楽の世界ではイギリスやアメリカが大きなマーケットとしてありますよね。アメリカは土地も広くてそうなるのも当然だなと思うんですけど、イギリスはあの規模で世界のトップに立っている。それは、歴史の積み上げや、そこで生きてきた人たちの考え方の強さが影響しているんだろうなと思うんです。
そんななかで、例えば最近は88risingっていうヒップホップのクルーがアジアを盛り上げているけど、「ロックバンドはなにをしているんだろう?」ってすごく感じてしまったんですよね。俺たちが、もっと「アジア圏のロックバンドはかっこいい」と思ってもらえる行動を取らないといけないんじゃないかって。そういうことに目を向け始めたのがきっかけですね。
―「日本のロックバンドである」ということはTHE ORAL CIGARETTES(以下、オーラル)の抜本的なアイデンティティだと思うんですけど、「日本」という土壌も、「ロックバンド」という表現形態も、世界的に見ると存在感が薄いものになってしまっていた。
山中:そうです。そこから日本という国を見渡したときに、「右向け右」の精神とか、「なるべく世間に批判されないように、逆らわずにやっていきましょう」っていう風潮とか……そういうものに疑問を抱くようになって。「今の日本に、本当にロックバンドしているロックバンドって何組いるんだ?」と思うようになったんです。
―なるほど。今作の1曲目“Introduction”は、グレタ・トゥーンベリをフィーチャーしたThe 1975のトラック“The 1975”にも通じるアンビエントとポエトリーが融和した1曲ですが、The 1975も、この時代にロックバンドであることを強く背負っている存在だと思うんです。彼らからの影響もありましたか?
山中:うん、ありますね。大きく見ると「人類」という面で、同じ感覚を持っている人たちには惹かれますから。The 1975もそうですし、他にも最近だとヤングブラッドやEasy Lifeもそうだし、俺のルーツを遡ればマリリン・マンソンもそうですけど、自分が「この人は」と思う人は、どこか自分と感覚の共通点があると思うんですよね。そこに対するリスペクトを踏まえたうえで、自分なりに作品を発信していきたいという気持ちがあります。
The 1975“The 1975”を聴く(Apple Musicはこちら)
音楽はそのときの時代背景を照らし出すもので、「この時代の日本に生きるロックバンドはなにをすべきか?」も伝えていければいいなと思っていました。
―では、先ほど言ってくださった問題意識を前提としたうえで、今作『SUCK MY WORLD』を作るときにどのようなコンセプトを立てていたのか、教えてください。
山中:ひとつは、「根源に戻っていく」ということがテーマでした。今回のアルバムを作るうえで、本を読んだり大学の論文を読んだり、人類学に詳しい友人に話を聞いたりしながら、音楽の歴史や人類の歴史を辿っていく作業をしたし、結果として、それは自分の人生を遡ることにもつながっていたなと思っていて。
『Kisses and Kills』までは、未来の話をしていたんですよ。このまま、いろんな技術が発展していくなかで辿り着く未来の結果は、俺は破滅だと思う。……そういう話を、『Kisses and Kills』までしていたんです。人間って、周りにものが増えすぎてしまったがゆえに、本当に必要なものを考える時間が少なくなってしまっていると思うんですよね。本当はもっと最小限のもので人間は生活できるはずだし、もっと最小限のことから、人間の感じるものは膨らんでいくはずで。
前作まではそういうことを伝えていたんですけど、「じゃあ、なぜ俺はそういう話をしてきたのか?」ということを、今回はちゃんと過去に遡って伝えようと思ったんです。そうすることで、今まで伝えたことの説得力も増すと思うし、みんなにとってもわかりやすくなるんじゃないかと思ったんですよね。
―なるほど。
山中:「根源に戻る」というテーマを持ったうえで人間の歴史や音楽の歴史を振り返っていくと、例えば、どんな経済環境や政治的な環境のなかでSex Pistolsのようなパンクロックが生まれたのか、ということもわかってくるじゃないですか。
このアルバムを作ることで、音楽はそのときの時代背景を照らし出すものなんだっていうことをみんなにも伝えたかったし、そのうえで、「この時代の日本に生きるロックバンドはなにをすべきか?」ということも伝えていければいいなと思っていました。
THE ORAL CIGARETTES『SUCK MY WORLD』を聴く(Apple Musicはこちら)
―ちょっと嫌味な質問かもしれないですけど、人類の歴史を遡って知ったとき、ネガティブな気持ちになりませんでしたか?
山中:ネガティブなんだけど……そこがすごく美しいなと思いましたね。儚くも美しい、というか。自分の人生に照らし合わせることができたのがよかったのかもしれないです。「俺も、とにかく自分の人生をまっとうするだけだな」と思えたから。
アートワークやミュージックビデオも含めてすべてを見てもらわないと、伝わり切らない。
―今作に収録されたシングルのジャケットやミュージックビデオ(以下、MV)には、共通して「○(円)」が描かれていたりしますけど、今作は、音楽だけではなくてアートや映像もクロスさせてコンセプトを伝えているということを、山中さんはSNSなどでも常々仰っていましたよね。
山中:そうですね。『SUCK MY WORLD』というアルバムは、どこか一部を切り取られてしまうとすごく難しい表現になってしまうと思います。アートワークやMVも含めてすべてを見てもらわないと、伝わり切らない……それはやっぱり、自分が伝えたいと思っていることの規模感が大きすぎたからですね。一瞬で伝えることはすごく難しかった。
だからこそ、2年間という時間をかけてシングルを1作1作出して、常にヒントを出し続けていくことで、自分たちのリスナーに対して「これはなんなんだろう?」ということを考えてもらうきっかけをずっと作り続けたかったんです。そうすれば、俺が考えていることに興味を持ち続けてくれるだろうし、それに、パッと出た答えよりも、考え続けて出た答えのほうが、その人の心にはきっと残りますよね。
―そう思います。
山中:今は特に情報が溢れていて、簡単に答えがわかってしまう時代だから。俺が若い頃は、海外のアーティストの情報が知りたいがために、海外から雑誌を取り寄せて英語を頑張って和訳していましたけど、今は、SNSがあればなんでも知ることができてしまう。そういう状況が俺は嫌なので、「答えを出さない」というアプローチを徹底してやってきました。
―音楽以外の表現に対しても積極的であるスタンスは、山中さんのなかでどのように培われたものなのだと思いますか?
山中:3年前くらいに、「自分ひとりでなにができるんだろう?」と悩んでいた時期があったんです。音楽でいうと、今はトラックも簡単に作れる時代になっていますよね。そういうなかで、サウンド面が優先されている兆候があるなと思っていて。「こういうサウンドが海外で人気だから、そういうものを作ろう」みたいな。そして、それを「イケてるな」ってはやし立てている……。俺は、それはロックバンドがやるべきことではないと思うんです。やっぱり「人間」が見えてこないと、音楽は誰がやっても一緒になってしまうんですよね。
どの時代に生きて、どんな成果を起こした人間も、結局は人間なわけで。「それなら、自分は今を生きる人間として、なにを表現できるんだろう?」「みんなを扇動していく人間として、自分はどうあれるんだろう?」と考え始めたんです。
そのタイミングで、クラブシーンとか、いろんな界隈に顔を出すようになったんですよね。自分ひとりの人間力で、オーラルという名刺を使わずに、山中拓也としていろんな場所に乗りこんでいったときに、自分がどれだけ魅力のある人間だと思ってもらえるのか試してみようと思った。音楽以外の部分にもこだわり始めたのは、その時期にできた友達たちの影響がすごく大きいです。いろんな世界を教えてもらったし、「山中拓也はこういうものが好きなんだな」と客観的に見る作業にもなりました。
―改めて、音楽以外の部分で自分に大きな影響を与えているのはどんなものだと思いますか?
山中:やっぱり、映画が与えてくれたものは自分にとって大きいなと思います。特に(ラース・フォン・)トリアー作品と(スタンリー・)キューブリック作品は、ひたすらに自分の世界観に合っていたというか、自分が表現したいと思っている「生の人間」を、彼らは表現していたなと思います。その二人の監督の存在はデカいですね。そのあとにダニー・ボイルの存在を知ったり。
今、挙げた人たちに共通しているのは、人間の汚い部分にフォーカスを当てながらも、それを皮肉っぽく表現していくバランスの取り方が上手いんですよね。ただ、「うわ、しんどいなぁ」ってなるだけでは終わらないところが、自分にはすごくしっくりきたんだと思います。
俺、今まで生きている理由がよくわからなかったんですよ。でも去年の夏に、気絶してしまったことがあって。
―先ほど、今作のコンセプトは「自分の人生を遡っていくことにもつながっていた」と仰っていましたが、具体的に、前作と今作の間で起こった、山中さんの内面的、人間的な心境も変化も伺いたいです。
山中:なんというか……それはスピリチュアルな話になっちゃうんですけど(笑)。
―うん、聞かせてください。
山中:俺、今まで生きている理由がよくわからなかったんですよ。インディーズのときにすごく大きな病気をして、医者にも「諦めてください」って言われたんです。それにもかかわらず、なんで今まで生き残っていて、なんでこうやってステージに立たせてもらっているのか……そういうことが、よくわからないまま生きてきている感じがあって。だから、オーラルの歌詞には死生観を書いたものが多かったんですけど、去年の夏に、頭を鈍器で殴られたような感覚で気絶してしまったことがあったんですよ。
―えぇ!?
山中:そのときに見た夢が、過去と現在と未来が一致して続いているっていう夢だったんです。過去軸と現在軸と未来軸があって、それが何周も回って、同じところで止まって、また何週も回って、同じところで止まる……そんな意味のわからない夢なんですけど(笑)。
そのときに、「もしかしたら、自分は何回も山中拓也をやり直しているのかな」という感覚になってきたんですよね。毎回毎回、そのときの生き方によって山中拓也がアップデートされていく、というか。言うなれば、「輪廻転生」ってそういうことなんじゃないかなって思ったんです。そういうことを感じ始めてから、出会う人、一緒に仕事をする人、そういう人たちは奇跡でも偶然でもなく、必然で出会っているんじゃないかとも思うようになって。それが、自分の思考回路が変わっていく瞬間だったような気がします。
―なるほど……すごい体験ですね。
山中:そうですね(笑)。それから、過去に起こったことも、未来に起こることも知っておきたいと思うようになった。その欲求が原動力に変わったし、それを作品にして出していくことが、自分のやるべきことなんだなと思ったんですよね。
今言った出来事は、言ってしまえば、自分が今生きていることの使命を見る瞬間だったような気もしているんです。「俺が生きている理由ってこれか」みたいな。今まで、自分がすべてを選択して生きてきていると思っていたんですけど、そうじゃなくて、自分は選択させられていて、生かされていたんだって思ったんですよね。
「俺らはこれからロックバンドとして、こういう生き方をしていくよ」ということを込めて作ったのが、今回の一連のミュージックビデオです。
―今の話を聞いていてつながったんですけど、今回リリースされた順番にMVを見ていると、最後の“Slowly but surely I go on”に出てくる少年は、どこかで山中さん自身が投影されている姿なのかと思ったんです。そこに、どこか「輪廻転生」的なものを感じたというか。
山中:MVとジャケットについては……これはまだファンにも解説していないんですけど(笑)。このアルバムのなかで最初に出した『ワガママで誤魔化さないで』のシングルのジャケットに、泣いている少年の姿を使ったんです。
なぜ、少年を泣かせたのかというと、「今、子供の頃のように本当にピュアな感情でワガママを言える大人がどれだけいるの?」ということを訴えかけたかったからで。今は、みんな周りを気にしたり、情報を気にしたりしながらでないと、ワガママを言えなくなってしまっている。「そんなことをやり続けていたら、ロックスターは生まれないよね?」と思った。なので、ジャケットにも「Rock Star is dead」と書いたんです。「もう日本にはロックスターはいないんだ」って。
―なるほど。
山中:それからシングルを1作切るごとに、ロックスターに必要なものを描いていったんです。そうすることで、「日本に今、必要なロックバンドってこれだよね?」ということを徐々に描いていきました。
最後の“Slowly but surely I go on”のMVには、それまでの全MVの要素を取り入れているんですけど、そこでも冒頭で少年は泣いているんですよ。でも最後は、笑いながら俺らを見送ってくれているんです。
―本当にロックバンドへの想いが強いし、それゆえに問題意識も強いんですね、山中さんは。
山中:そうですね。それこそ、最近でも日本には「ロックバンドが政治に口出すな」みたいな風習があったりするじゃないですか。俺としては疑問に感じているんですよね。ロックバンドと社会、政治は密な関係であるべきだと思う。そういう感じで、「俺らはこれからロックバンドとして、こういう生き方をしていくよ」っていうことを、ひとりの主人公を立てたストーリーに込めて作ったのが、今回の一連のMVだと思います。
俺は、人間の汚い部分も美しいと思う。けど、その美しさをもっと磨き上げた美しさにしていかないか? と語りかけていきたい。
―ちょっと漠然とした質問になってしまいますけど、今、日本という国に対して思うことはありますか?
山中:「もったいないな」と思うことは多いです。根本的に自信がないという日本人特有の感覚があるんじゃないかなと思いますね。
以前タクシーに乗ったとき、運転手さんが言っていたんですけど、その運転手さんはソムリエの資格を取りたくて、フランスに留学していたことがあるらしいんです。そのとき、現地の人たちに「なんでお前には日本酒という素晴らしい酒があるのに、それに対するリスペクトを持たずにワインを勉強しているんだ」と言われたらしくて。その話を聞いて、「なるほどな」と思ったんです。
日本には素晴らしい伝統や文化があって、それを見るために海外の人たちも日本に来ているのに、日本人自体が日本を応援しない風潮があったりする……それは本当によくないことなんだろうなって感じていて。本当にもったいないなと思います、日本は。
―たしかに、自虐的な側面はありますよね。
山中:あと、「遡る」という作業がどれほど大事か、今回のアルバムを作ることで知ることができた気がしていて。それもあって、ちゃんと調べてから物事を発信することがすごく大事だなっていうのは、ここ最近すごく考えていました。
例えば、新型コロナウイルス関連のことで、一部分だけを切り取って騒がれている状況があったじゃないですか。俺もSNSで発言したんですけど、メディアが一部分だけを騒ぎ立てたし、そこに文句を言う人が多い気がして。この状況に対して具体的にどんな保障や対策が立てられて、実行されているのか、ひとつのことに対して文句を言う前にちゃんと調べたのか? と思ったんですよね。
―確かに、怒ることも必要だけど、反射的、感情的にそれを他人に当ててしまうことの怖さはありますもんね。
山中:そう……最近は、「探す」とか「ディグる」という精神が本当になくなっている気がするんですよ。そういう問題意識から音楽を発することが、今、自分がこういう場所に立たせてもらっている意味でもあるなと最近は感じていますね。
―そういう意味でいうと、今作の世界観の前提にあるのは、SNSなどの影響で人と人との関係性が歪なものになっている現代社会、という見方もできそうですね。
山中:そうですね。でも、なんというか……SNSって人間の汚い部分がより濃く出てしまうものではあると思うんですよ。SNSに感情をぶつけてしまうっていうのは、人間の本質が出ている行動なのかもしれないですよね。でも、それによって人は自分を救おうとしているのかもしれなくて。
それなら、俺は「それは違うだろ」というよりは、「その弱さもわかるぜ」と言いたいんです。そのうえで「もっとよくなっていくために、一緒に変わっていかない?」と問いかけたい。
さっきの映画監督の話じゃないですけど、俺は、人間の汚い部分も美しいと思う。けど、その美しさをもっと磨き上げた美しさにしていかないか?――そう語りかけていくことが、この先の自分がオーラルでやっていくことだと思っているんです。だから、問いかけてはいるけど、決してマイナスな意味での表現にはなっていないと思います。
過去の自分みたいに人生に失望して、他人が大嫌いで、大人が大嫌いになってしまう、そんな子供たちは今でも世界に溢れていると思うんですよ。
―「弱さを受け入れる」というのは、R&Bやゴスペルなども昇華することで、今までにない温かさや穏やかさを手に入れているサウンドからも感じます。
山中:“Don’t you think (feat.ロザリーナ)”という曲で表現したことでもあるんですけど、人間って、言葉を重ねれば重ねるほどに、「なんだか、なにを言っているのかわからなくなってきたぞ……」みたいな状況になったりするじゃないですか。だから、「ありがとう」を分解して人に伝えるんじゃなくて、「ありがとう」なら「ありがとう」とシンプルに伝えるほうが、伝わったりすると思うんですよね。
なにか理論を並べて高圧的にやるというよりは、頭のなかにいろんなことは考えつつも、音楽でみんなにフラットに伝えていくこと。それに、「あくまでも自分は弱者の味方なんだ」ということを意識したうえで伝えていくこと。それが、今回のアルバムのサウンドには出ているのかなと思います。
THE ORAL CIGARETTES“Don’t you think (feat.ロザリーナ)”を聴く(Apple Musicはこちら)
―山中さんご自身も「弱者」であるという認識が、どこかにあるということですか?
山中:うん、俺自身が弱者だと思っています。そもそもゼロだった人間で、クズのような生活を送っていたんです。そういう人間がどんどん人の力を借りて立ち直り、自分の感情と向き合うことで道が開けていった……そういうことを、俺は人生を通して実感しながら生きてきていて。でも、過去の自分みたいに人生に失望して、他人が大嫌いで、大人が大嫌いになってしまう、そんな子供たちは今でも世界に溢れていると思うんですよ。
―それは、確信的に思うところですか?
山中:うん、確信的に思います。彼らに寄り添えるような音楽を作っていきたいんですよね。
―このアルバムを作り、人生を遡るという体験をされたことで、改めて自分はどんな人間だったのだと思いますか?
山中:まず、コンプレックスがすごく多かったですね。そのコンプレックスによってどんどん自信がなくなって、自暴自棄になってしまった感じがあって。あと、「あの人から自分はこう見られているんじゃないか?」と勝手に想像して、相手を信じられなくなったり……そういうことは若い頃によくありました。それで、「どうせクズなら、クズみたいな生活を送っちゃおう」と思ってしまった時期があって。実際になにをしていたのかもあんまり言えないくらいの時期があったんですよね(苦笑)。
―なるほど(笑)。
山中:でも、今でも親友と思っているやつとの出会いが、自分を変えてくれたなと思っていて。「自分になにもないと思ったり、自分は他人よりも劣っているっていう感情ほど強いものはないぞ」って、その親友は言ってくれたんです。
「天才には、そこから吸収できるものはもうないけど、ゼロからスタートするやつは強力なスポンジさえ持っていれば、なににでも形を変えられる。それは天才にもできない、お前にしかできないことなんだ」っていう言葉を彼はくれたんです。それから、「コンプレックスを強みに変えよう」という発想の転換ができるようになったし、「自分の感情を120%、心に吸いこんでいこう」という生き方をするようになった。そうすることで自分の心がどんどん豊かになっていくことを感じたし、自分の人生に「先」が見えるようなったんです。
―その親友から言葉をもらったのは、いつくらいの出来事でしたか?
山中:デビューして2年くらいの頃ですかね。
あと、デビューする前にも大きなきっかけがあったんですよ。うちのドラムのまさやん(中西雅哉)が元々いたバンドのボーカル(元:放ツ願い、現:ソウルフードの前田典昭)も、俺の人生を変えてくれたひとりだなと思います。その人はひたすらに、「自分と向き合うこと」を教えてくれました。「自分はなぜこう思ったのか」とか「自分はなぜここで心が揺れてしまったのか」とか……そういうことを自分に問うこと。その作業ってめちゃくちゃしんどくて、心がはちきれそうになるんですよ。それでも耐えてやり続けることで、心は豊かになっていくということを、彼は教えてくれて。それは、オーラルがメジャーデビューするまでにすごく役立ちました。
―山中さんは、人の言葉に支えられながら生きてきたんですね。
山中:うん、人と出会っていなかったら今の自分はいないし、なにかきっかけを与えてくれる人が、人には絶対に必要なんだと思います。でも、そういう言葉をもらえずに苦しんでいる子たちは今でも溢れていると思うから、自分がその言葉を投げかけることのできる存在になりたいんですよね。
―先ほど山中さんが仰っていた「使命」というのは、どんな人にでもあるものだと思いますか?
山中:絶対あると思う。それを見つけるところ、気づくところに行けるまで、自分の感情を追い込んでいくことが大切なんだと思う。どうしても、人間はそこから目を背けてしまうんですよね、気づくことは怖いことでもあるから。でも、「諦め」すらも抱えたうえで自分を見つめることで、見えてくるものがあるんだろうなと思います。
―最後に改めての質問なのですが、今これだけ先が見えない状況のなかで、山中さん自身はロックバンドを背負いながら、どのようにして世の中に向き合っていくべきだと思いますか?
山中:日本という国でいうと、さっきも言いましたけど、新型コロナウイルスの政策が発表されたとき、そこに反射的に噛みついた有名人・著名人が多すぎたと思うんですよ。「なんで、あなたたちが、みんなを不安にさせるようなことを言うの? ちゃんと調べてから発信しなよ」と本当に思いました。日本って、なんでもマイナスに傾きがちな国だなと思う。
だからこそ、俺はこの状況下でもできるだけ新しい面を見せたり、できるだけプラスに変わるようなものの言い方をしていきたいと思います。できるだけ、みんなの気持ちを上げられるようなことを、思うだけじゃなくて行動に移すことができる人が今は必要だと感じる。それに、「人の前に立つ」という意識を持っている人たちの存在、なにかを変えることのできる存在が、今は必要なんじゃないかと思います。
- リリース情報
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- THE ORAL CIGARETTES
『SUCK MY WORLD』初回盤A(CD+DVD) -
2020年4月29日(水)発売
価格:4,290円(税込)
AZZS-104[CD]
1. Introduction
2. Tonight the silence kills me with your fire
3. Fantasy
4. Dream In Drive
5. Maze
6. Don't you think (feat.ロザリーナ)
7. Hallelujah
8. Breathe
9. ワガママで誤魔化さないで
10. Shine Holder
11. Naked
12. Color Tokyo
13. From Dusk Till Dawn
14. The Given
15. Slowly but surely I go on[DVD]
『PARASITE DEJAVU ~2DAYS OPEN AIR SHOW~』DAY1 ONE MAN SHOW at 泉大津フェニックス(2019.9.14)
1. BLACK MEMORY
2. What you want
3. WARWARWAR
4. N.I.R.A(Redone)
5. GET BACK
6. 瓢箪山の駅員さん
7. LIPS(Redone)
8. ワガママで誤魔化さないで
9. カンタンナコト
10. DIP-BAP(feat.KAIRI)
11. ハロウィンの余韻(Redone)
12. 僕は夢を見る(Redone)
13. 5150
14. PSYCHOPATH
15. 狂乱 Hey Kids!!
16. See the lights
17. LOVE(Redone)
18. 容姿端麗な嘘
En1. Don't you think(feat.ロザリーナ)
En2. 起死回生STORY
- THE ORAL CIGARETTES
『SUCK MY WORLD』初回盤B(CD+Blu-ray) -
2020年4月29日(水)発売
価格:5,390円(税込)
AZZS-105[CD]
1. Introduction
2. Tonight the silence kills me with your fire
3. Fantasy
4. Dream In Drive
5. Maze
6. Don't you think (feat.ロザリーナ)
7. Hallelujah
8. Breathe
9. ワガママで誤魔化さないで
10. Shine Holder
11. Naked
12. Color Tokyo
13. From Dusk Till Dawn
14. The Given
15. Slowly but surely I go on[Blu-ray]
『PARASITE DEJAVU ~2DAYS OPEN AIR SHOW~』DAY1 ONE MAN SHOW at 泉大津フェニックス(2019.9.14)
1. BLACK MEMORY
2. What you want
3. WARWARWAR
4. N.I.R.A(Redone)
5. GET BACK
6. 瓢箪山の駅員さん
7. LIPS(Redone)
8. ワガママで誤魔化さないで
9. カンタンナコト
10. DIP-BAP(feat.KAIRI)
11. ハロウィンの余韻(Redone)
12. 僕は夢を見る(Redone)
13. 5150
14. PSYCHOPATH
15. 狂乱 Hey Kids!!
16. See the lights
17. LOVE(Redone)
18. 容姿端麗な嘘
En1. Don't you think(feat.ロザリーナ)
En2. 起死回生STORY
- THE ORAL CIGARETTES
『SUCK MY WORLD』通常盤(CD) -
2020年4月29日(水)発売
価格:3,300円(税込)
AZCS-10901. Introduction
2. Tonight the silence kills me with your fire
3. Fantasy
4. Dream In Drive
5. Maze
6. Don't you think (feat.ロザリーナ)
7. Hallelujah
8. Breathe
9. ワガママで誤魔化さないで
10. Shine Holder
11. Naked
12. Color Tokyo
13. From Dusk Till Dawn
14. The Given
15. Slowly but surely I go on
- THE ORAL CIGARETTES
- プロフィール
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- THE ORAL CIGARETTES (じ おーらる しがれっつ)
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2010年奈良にて結成。メンバーは、山中拓也(Vo,Gt)、鈴木重伸(Gt)、あきらかにあきら(Ba,Cho)、中西雅哉(Dr)。人間の闇の部分に目を背けずに音と言葉を巧みに操る唯一無二のロックバンド。メンバーのキャラクターが映えるライブパフォーマンスを武器に全国の野外フェスに軒並み出演。2017年6月には初の日本武道館公演、2018年2月には地元関西にて大阪城ホール公演を開催し両日とも即日完売。リリースした作品は常に記録を更新し、2018月6月リリース4th アルバム『Kisses and Kills』はオリコン初登場1位を獲得。9月から半年に渡りアリーナ4公演含む全国ワンマンツアー『Kisses and Kills Tour 2018-2019』、2019年5月には初のアジアツアー『KK Tour 2019 in Shanghai/Beijing/Taipei』を開催した。そして、8月に初のベストアルバム『Before It’s Too Late』をリリースし、9月には大阪泉大津フェニックスにて初の野外自主イベント『PARASITE DEJAVU ~2DAYS OPEN AIR SHOW~』を開催、2日間で約4万人を動員した。BKW!!(番狂わせ)の精神でロックシーンに旋風を巻き起こしている。
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