<一寸先は闇さ 生き延びるたびに思い知る>。本来ならば『東京オリンピック』が開催され、日本中が熱く盛り上がっているはずだった2020年の夏。おーたけ@じぇーむず率いる一寸先闇バンドの1st EP『一寸先闇』の表題曲は、コロナ禍によって一変してしまった現在の感覚を言い表している。しかし、「一寸先は闇」という言葉はそもそも僕らの日常に常に潜んでいるものだ。
岡山から上京し、昨年は年間200本に及ぶ弾き語りのライブを行うなど、これまで一所に留まることなく、様々な場所やコミュニティを転々としてきたおーたけが、初めて自ら結成した一寸先闇バンド。人は一人では生きられないが、何かに依存するとやがて息苦しくなってしまう。しかし、自主性と余白を伴った関係性を構築することができれば、一寸先の闇を回避することもできるかもしれない。おーたけの歩みを紐解けば、そんなメッセージが伝わってくるようにも思う。
年間200本のライブをこなし、ライブハウスで育った「叩き上げ」のシンガーソングライターがギターと出会うまで
―ホームページに載っていた年表を手がかりに、これまでを振り返りたいと思います。最初が2005年、小学生の頃だと思うんですけど、「教育熱心な母の影響で市民ミュージカルに参加」とあって、これが音楽の原体験ですか?
おーたけ:というよりは、人前に出ることの原体験ですね。お母さんは私に何か目立つことをさせたかった人で。なので、ミュージカルをやりつつ、ダンス教室にも通っていて、劇団に所属するんじゃなく、一人でいろんなところに出てましたね。「マネージャー=母」みたいな感じで、母親がどこにでも応募しまくってたってだけなんですけど(笑)。
―小学生くらいのときにいろんなコミュニティに飛び込んでいくのって、大変じゃなかったですか?
おーたけ:「初めまして」の人のほうが何でも話せるというか、むしろリラックスしてやってたと思います。知れば知るほど逆に閉ざしちゃうというか、「毎週この人たちに会うの超つらい」みたいな習い事もあって。だから、学校でもいろんな友達のグループを渡り歩きました。
普段は一人で本を読んでる時間も長いけど、「ダンスと音楽の時間だけはすごい前に出てくる」みたいな(笑)。中学受験とかで忙しくなっちゃって、ミュージカルは途中でやらなくなっちゃったんですけど。
―アコギを買ったのは高校に入ってからだそうですね。年表には「スクールカースト上位の人が誘ってくれたバンドの話がなくなって、気持ちの行き場を埋めるためにアコギを買った」とあります(笑)。
おーたけ:そのときたまたまバンドが好きなクラスメイトと同じグループにいて、「おーたけはベースっぽい」って言われて。でもグループが壊れる瞬間ってあって……勉強が忙しくなって、「バンドやってる暇ないね」って、そのカースト上位の人が思ったみたいで、バンドの話がいつの間にかなくなってて……。
私はもうベースをやる気満々で貯金もはじめてたんですけど、お父さんから「どうせバンドの練習とかさぼって行かなくなるだろうし、一人でやるほうが合ってるよ」みたいなことを言われて。それをきっかけにアコギをはじめました。最初は乗り気じゃなかったんですけど、アコギが弾ければベースも弾けるようになるかなって。未だにアコギを弾いてても、ベースラインを弾きたくなっちゃうんですよ。太い弦を触りたがる(笑)。
―「バンドよりも一人のほうが合う」って言われたことに対しては、自覚がありましたか?
おーたけ:ずっと同じ人と何かをやるのは想像できなかったですね。当時のバンドに関しても、誘われたからやる気になったけど、その人たちが「やっぱりやらない」って言うなら、別にいいやって。そのあとに一度友達とユニットを組んだんですけど、それもライブ2回で終わっちゃって、そこからはもう一人でやる頭になってました。
―そこから本格的に歌を歌うようになったと。
おーたけ:「あいついつも地味なのに、ギター持つと輝くな」みたいにクラスの人たちから言われるようになって、友達も「もっとちゃんと歌ってみれば?」って言ってくれたので、「じゃあ歌います」みたいな感じで。「これをやれば喜んでくれるんだ」って思ったところが大きいですかね。もともと習い事も「お母さんが喜んでくれるから超頑張る」みたいな感じでしたし。
おーたけ@じぇーむずは、流れに身を任せ、音楽に導かれるように歩んできた
―大学生になってからはライブハウスにも出るようになって、2年で中退をしていますが、これは「音楽で生きていこう」という決断からだったのでしょうか?
おーたけ:高校生の頃みたいに「ギター弾いてるおーたけかっけえ!」みたいに言う人は周りからいなくなったんですけど、ライブハウスに出るようになって「自分の音楽で喜んでくれる人たちはここにいる」って気づいたんですよね。
おーたけ:なので、2年の春から夏にかけてはもう全然学校には行ってなくて、単位も落としまくって……音楽をやりたくて学校をやめたというよりは、「やりたいことしかやれないなあ」みたいな……ちょっと消去法に近いんですけど、自分がやりたいことを一生懸命やるほうが、喜んでくれる人が多いんじゃないかなって。
―中退後はライブの本数がどんどん増えていって、2016年には90本、2017年には100本、上京後の2018年には170本と、かなりの数をやっていますよね。これは中退後の「何とかしなきゃ」という必死さの表れなのか、それとももう少しカジュアルに、いろんな場所でいろんな人とライブをするのが楽しかったのか、どちらが近いですか?
おーたけ:それは絶対的に後者ですね。もともと誘われたら断らないスタンスでやってたんですけど、当時ツイキャスが出てきて、すごく人気だったひとつ年上の男の子が私のことをめちゃくちゃ褒めてくれたんです。「そんなにギターが弾けて、声もいいのに、どうしてもっとやらないの?」みたいな。
それで、その人がやってるイベントに出させてもらうと、その子のファンが私にもついて……そこも「喜んでもらえること」が大きかったんですよね。で、Twitterとかで関西方面からも声がかかるようになって、行けるなら行きたいからどんどん話を受けていたら、「月10本じゃ利かないぞ」みたいになって。
―年表を見ると、自主企画もいろいろやってますよね。同じ会場での1週間連続企画とか。
おーたけ:そうですね。「この人とこの人が会ったら、絶対面白いじゃん」とか「この人私とばっかりやってても絶対飽きるだろうな……むしろ私が飽きたわ」みたいなこともあって。ただ上京してから意識がガラッと変わりました。接する人の種類が圧倒的に増えたから、アーティストである前に、人としてちゃんとしなきゃなって……社会人っぽくなったのかも(笑)。
―上京に関しては、何か決断のきっかけがあったのでしょうか?
おーたけ:上京するのはもちろん勇気が必要なことだったんですけど、「決断」というよりは流れでこうなった感じなんですよね。先に上京した地元の先輩が「来いよ」って言ってくれてたのがずっと引っかかって、そうしたら今のバンドのドラム(大山拓哉)が「空く家あるから、入りなよ」って言ってくれて……やっぱり、ずっと同じところにいたくなかっただけですね。
「バンドよりも一人のほうが向いている」と自身も思っていたなかで結成された、一寸先闇バンドについて
―ここまで話を聞いていて、おーたけさんは場所にしても、人間関係にしても、ひとつのところに留まらずに動き続けている印象がありますが、そんなおーたけさんが昨年末のバンドでの初めての単独公演『一寸先、闇』を経て、そのまま固定メンバーの「一寸先闇バンド」を継続させたのは、どんな経緯だったのでしょうか?
おーたけ:上京してきて、弾き語りと、ドラムと2人の編成でずっとやってきたなかで、ライブハウスの方から「ワンマンやったら?」って言われて。でも、ソロも2人も定型文過ぎて嫌というか、「今までやってきたことの集大成」というよりは、新しいことをしたいと思って。
―なるほど。その発想はおーたけさんっぽい。
おーたけ:メンバー探してみて、見つからなかったらドラムと2人編成でやろうと思っていたんですけど、たまたま鍵盤2人と出会って、「この4人でやったら絶対楽しいじゃん」と思って。
―そう思った理由は?
おーたけ:すごく気持ちのいい距離感なんですよ。もともと「バンドをやろうと思った」というよりは、「この人たちと一緒に音を出してるのが楽しい」って思ったのが先で。それが今もずっと続いてる感じなんですよね。出会ったのはちょうど1年前くらいなんですけど、私、1年間ずっと同じ人たちと音を出してるのって初めてで、ワンマンが終わったあとも「これは続いていくのでは?」と思って。
で、改めてメンバーに「バンドとして活動していきたいです」って相談をしたら、「みんな一緒のこと考えてたね」って。これまで私の弾き語りが確立されてたから、「おーたけ@じぇーむずを立てておきたい」って言ってくれて、だから正規のサポートメンバーみたいな感じなんです。
―大事なのは「バンド」という形態ではなくて、いい距離感で付き合えるメンバーの存在だったと。ベースレスという編成も、形態ではなく人で選んだからこそなんでしょうね。「アコギでベースを弾きたくなっちゃう」のも関係してそうですけど(笑)。
おーたけ:そうですね(笑)。とはいえ、自分主導でバンドをちゃんとやるのは初めてで、どうなるかわからなかったから、『一寸先、闇』っていうイベントタイトルにして、一寸先は闇だけど、でもこのメンバーと続けたいから、「一寸先闇バンドにしちゃおう」って。だから、最初は「私の気分が変わったら解散」みたいなところもちょっとあったんですけど、もし今誰かから解散を切り出されたら泣いちゃいますね(笑)。
―「この人たちと一緒に音を出してるのが楽しい」という話があったように、アレンジは4人で音を出して、セッションに近い形で進めるわけですか?
おーたけ:放っておいたら、たぶん10時間くらいずっとジャムってると思います(笑)。みんなセッション能力が高くて、聴こえてる音が全員同じであっても、イメージしてるものがちょっとずつズレてるから、それをいい具合に組み込んでいくのが楽しいんですよね。
―おーたけさん自身もともとセッションをよくやってたんですか?
おーたけ:いや、あんまりやってなかったです。ジャムセッションのイベントに呼ばれて、「軽く歌ってよ」みたいに言われても、「全然タイプじゃないです」みたいなこともあって(笑)。
―じゃあ、やっぱり今のメンバーが特別なんですね。
おーたけ:そうですね。ドラムとはもともと一緒にやってたのもあるし、鍵盤の2人もこのバンドのことをすごく知ろうとしてくれて。そんなにやってくれるなら、むしろ好きなようにやってもらって私の好みとバランスを取っていけばよさそうだなと。技術屋さんの側面もありつつ、全員アーティストとして自立してる人たちだから、受け取ったものを自分の形で出してくれて、その相性がすごくいいんですよね。
「私、全然関係ない用事のときもギターを持って出かけるんです。要は、音楽がお守りみたいになってるんですよね」
―1st EPのタイトルトラックでもある“一寸先闇”は、もともと「このバンドがどうなるかわからない」という意味で付けたイベントタイトルが元になっているとのことですが、<今がすべてだと 生き延びるたびに思い知る>という歌詞は、もっと大きな意味で、おーたけさんのこれまでの人生を表しているように感じました。
おーたけ:私の人生って本当にこの言葉どおりなんですよね。今年は月イチでバンドのライブをやって、お客さんを増やしていきたいと思ってたところにコロナ禍が来て、「一寸先闇過ぎる!」と思ったし。当たり前に一寸先闇で生きてきたのが、この曲に滲み出たのかなって。
―結果的に、リリースと世の中のタイミングが合ってしまったわけですよね。
おーたけ:すごいフィットしちゃいましたね。おかげでというか、バンド名だけ見て気になった人が検索してくれてるみたいで、YouTubeの映像も結構見られてて。
―僕も“一寸先闇”を弾き語りで演奏してるライブ映像を見たんですけど、曲中に『100日後に死ぬワニ』の話をしてたじゃないですか? あの話って「誰もがいつ死ぬかわからないけど、もしそれがわかったら、何気ない一瞬一瞬がこんなにも輝いて見える」ということを提示していて、まさに“一寸先闇”とリンクしますよね。
おーたけ:ワニくんの漫画は超追ってましたね。この曲があったから追ってったわけじゃなくて、感覚的に共鳴したところもあって。1話目はワニくんテレビ見てめっちゃ笑ってるんだけど、でもこの先死ぬぞっていう、その提示の仕方にドキドキして。
で、ちょうど100話目が公開される3月20日にライブをやってて、自分の出番がちょうど漫画が公開される時間で、そのタイミングで“一寸先闇”をやってるっていう、あれは奇跡のライブだったんですよ(笑)。
―「一寸先は闇」という言葉が、おーたけさんの人生をある種象徴する一方で、2曲目の“ものわすれ”では<同じ繰り返しの中で探すのさ ふーふーふーふーあむあい>と歌っていて、「Who am I」と自問しているのが気になって。この歌詞は何を意味しているのでしょうか?
おーたけ:もともとはボケちゃった身内のことを書いたんですけど、私にも「そんなつもりじゃなかったのにな」みたいなことってあって。大きい力に動かされて、言いたかったこととは違うことを言って衝突しちゃったり、そういう「バグってるな、今日」みたいな、モヤッとした不安感から出た言葉ですね。
一寸先闇バンド“ものわすれ”を聴く(Apple Musicはこちら)
おーたけ:自分のことがわからなくなるのが一番怖いけど、かといって、自分のことを知ってるつもりになってもいけない。だから「自分のことが知りたい」というよりは、自分がバグってるときに、そのバグを小馬鹿にする感じというか。
―音楽のなかなら自分のことがわかる、みたいな感覚もありますか?
おーたけ:あるかもしれないですね。ギターを弾いてるときだけは真人間、みたいな。だから私、全然関係ない用事のときもギターを持って出かけるんです。要は、音楽がお守りみたいになってるんですよね。
おーたけ:音楽を通じて、意識の外に転がってるものを見つけられると、ちょっと嬉しい。それを聴き手に投げてはいるけど、強制はしないというか、一人称を使っても、どこか他人事でもある。投げるだけ投げて、あとは好きに受け取ってくださいっていう、それは歌詞を書くときに気を付けてますね。
コロナ禍のなか、ライブハウスで育ったおーたけ@じぇーむずはどこへ向かうか?
―これまで相当な数のライブをやってきたおーたけさんが、緊急事態宣言発令後はまったくライブをできなくなってしまったわけで、その時期はどう過ごしていましたか?
おーたけ:4月前半はずっと泣いて過ごしてたんですけど、メンバーにオンライン飲みで助けられてました(笑)。でもやることやらないと生活していけないので、イラストを書いたり、グッズ屋さんになってました。ライブがないと生きていけないと思ってたけど、意外とやりようがあるんだなっていうのは思って……でも、ライブを再開したときは胸いっぱいになったので、やっぱりすごく大事なものですけどね。
―おーたけさんにとって、ライブハウスとはどんな場所ですか?
おーたけ:コミュニケーションの場というか、「顔を突き合わせる場所」みたいなイメージですね。ネット配信だと、画面越しにどうしても熱量が落ちちゃうけど、純度の高いエネルギーがそのままある場所。
自粛期間中は自分の音楽を好きでいてくれる人のことをずっと考えていて、そういう人たちがたくさんいるのがライブハウスなんですよね。ちょうど昨日はバーでライブだったんですけど、4か月ぶりくらいにライブを観に来たおじさんに目の前でボロボロ泣かれちゃって、それを見て私も泣いちゃいました。
―バンドでの『一寸先闇』と同時に、弾き語りでの『一寸先闇、おひとりさま』もリリースされますが、今後はバンドと弾き語りとどんなバランスで活動していく予定ですか?
おーたけ:今はバンドをやりたいんですよね。去年は弾き語りで1年に200本近くライブをやったんですけど、そのせいでワンマンの前に練習時間を取るのがすごく大変で。
今はコロナ禍でライブが減っちゃって、逆にバンドで音を合わせる時間が取れるので、もっと仲を深めていきたいなって思っています。ソロに関しても、まだ需要があるっぽいので(笑)、「来てほしい」って言われたら行こうと思うんですけど。
一寸先闇バンド『一寸先闇』を聴く(Apple Musicはこちら)
―バンドの一方で、弾き語りをやることの意味をどう捉えていますか?
おーたけ:バンドは決めごとがあって、弾き語りはそこでできない思いつきをやる場所というか。カホンの人と一緒に弾き語りをするイベントがあったときも、私、「リハ入れないでください」って言うんですよ。「二度と同じ演奏はできないものとしてやってください」って。3拍子の曲を4拍子にしちゃったり、面白そうだと思ったらどんどんやっちゃうんですよね。
―今のメンバーは即興に対応する技量の高さと相性のよさを持ってると思うから、より長く時間を過ごすことで、弾き語りの自由度をバンドでも体現できるようになるかもしれない。それはこれからのお楽しみですね。
おーたけ:めちゃめちゃ楽しみです。ソロでいろんなものを吸収して、それをバンドに還元していけたらなって。
―それにしても、バンドがある状態で今年を迎えることができて本当によかったですよね。弾き語りだけだったら、文字通り「一寸先闇」になってたかもしれないけど、メンバーの存在がおーたけさんにとっての光になっているというか。
おーたけ:だいぶ光ですね(笑)。一人だったらしんどかったと思うので、バンドを続けることにして本当によかったなって思います。この先どうなるかはわからないですけど、まずはこのバンドの名前を知ってくれた人にちゃんと曲を届けていきたいです。
- リリース情報
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- 一寸先闇バンド
『一寸先闇』(CD) -
2020年7月29日(水)発売
価格:1,650円(税込)
OTST-0021. 一寸先闇
2. ものわすれ
3. フレンドゾーン
4. 高円寺、純情
- おーたけ@じぇーむず
『一寸先闇、おひとりさま』(CD) -
2020年7月29日(水)発売
価格:1,100円(税込)
OTST-0011. 一寸先闇
2. ものわすれ
3. フレンドゾーン
4. 高円寺、純情
- 一寸先闇バンド
- プロフィール
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- 一寸先闇バンド (いっすんさきやみばんど)
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おーたけ@じぇーむずを中心に2019年結成。おーたけ@じぇーむず(Vo,Gt)、大山拓哉(Dr,Cho)、かくれみの(Pf,Cho)、山口竜生(Syn)。日常のひとコマに気付きを与えるおーたけ@じぇーむずの歌詞と、その世界観を表現する自由度の高いサウンド、演じるかのように聴き手に届ける声が、ミュージシャンや関係者などで注目を浴びている。
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