アユニ・D×山田健人 衝動を解放する場所としてのPEDROを語る

BiSHのアユニ・Dのソロプロジェクト──という枕詞がどんどん不必要になっているほど、一つのスリーピースバンドとしての求心力を高めているPEDRO。という周囲の声を受けて、筆者は6月に開催された無観客配信ライブで初めて彼女たちのライブを観た。

事実、PEDROは本当にありったけの熱量を等しく分かち合いながら、楽曲の様相としては種々雑多で無軌道なガレージやオルタナを含むロックやパンクサウンドを、しかしこの時代にあっては貴重なまでに直線的な演奏と歌でその衝動を解放する魅力的なバンドだった。そんなバンドのギタリストを田渕ひさ子が担っていることも、なんとも痛快だ。

PEDROが4月にリリースした4曲入りのEP『衝動人間倶楽部』は4曲4通りの性格をもって、アユニの現在進行系のイズムが表出し始めていた作品だと言えるだろうし、果たしてリリースされた2ndフルアルバム『浪漫』はまさに「最初はバンドをやることが恐怖でしかなかった」アユニが、「一生音楽を続けたいと思うようになった」劇的な人生革命を体感してきた道のりの結晶だと捉えることができる。

そして、『衝動人間倶楽部』の4曲すべてで制作されたMV、そして8月12日から毎日配信されてきた『浪漫』各曲のスタジオライブ映像。そのディレクションを一括して担当しているのが、今や日本の音楽シーンを代表する映像作家の一人となった山田健人である。

BiSHのMVのみならず今ではライブ演出も手がけている山田は、PEDROとも結成当初から深く関わっている。アユニは『衝動人間倶楽部』『浪漫』の各曲をどのような思いを抱きながらアウトプットし、山田はそれらをどのように受け止め視覚化したのか。両者の対談からPEDROの現在地を感じてもらえたら幸いだ。

前は捻くれた発想でパワーワードばかり使うことを意識していた。でも、それでは伝わらないと思って。少しでも私の思っていることが伝わってほしいと思うようになったんです。(アユニ)

―恐縮ながら、6月の無観客配信ライブ『GO TO BED TOUR IN YOUR HOUSE』で初めてPEDROのステージパフォーマンスを観たんですけど。想像以上にバンドだなと思ったというのが率直な感想で。ギターの田渕(ひさ子)さんとドラムの毛利(匠太)さんもサポートという感じではなく、アユニさんと熱量を等しく分かち合って解放しているスリーピースバンドだなって。PEDRO結成当初から関わっているdutchくん(山田健人の通称)からは、ここまでのPEDROはどう映ってるんですか?

『GO TO BED TOUR』が全公演キャンセルになったことを受け、6月14日に開催された無観客ライブ配信。山田健人が映像演出を担当した

山田健人:BiSHのMVを撮らせてもらったり、今ではライブの演出にも関わらせてもらったりしている流れでPEDROのお話もいただいたのが最初だったと思うんですけど。覚えているのが、PEDROが立ち上がるときに企画書のようなものが送られてきて、そこにギタリストの候補者も書いてあったんですね。そしたら一番上に田渕さんの名前があって。その時点で「おおっ!」と思いました。僕もNUMBER GIRLを聴いてきたから「激アツやんけ!」と思って(笑)。

アユニ・D:その時のギターの候補者は他にどなたがいたんですか?

山田:誰だったかなぁ。ちょっと思い出せないんだけど。とにかく僕は田渕さんがギタリスト候補にいた時点でテンションが上がって。ファンの人も含めて最初はみんなそうだったと思うけど、正直、PEDROがこんなに続くとはあまり思ってなかったんです。最初は「とりあえず一回やってみよう」という雰囲気があったと思います。

アユニ:うん。正直、私もそう感じてましたね。

左から:山田健人、アユニ・D
PEDRO(ぺどろ)
BiSHのメンバーであるアユニ・D(Vo,Ba)によるソロバンドプロジェクト。田渕ひさ子(Gt / NUMBER GIRL、toddle)、毛利匠太(Dr)がサポートを務める。アユニ・Dが全作詞を行う。2018年に『zoozoosea』でデビューし、2019年8月28日に1stフルアルバム『THUMB SUCKER』をリリース。2020年4月にリリースしたEP『衝動人間倶楽部』のツアーが全キャンセルになったことを受け、6月14日に無観客ライブ『GO TO BED TOUR IN YOUR HOUSE』を配信した。8月26日には2ndフルアルバム『浪漫』をリリース。
山田健人(やまだ けんと)
映像作家 / VJ。Suchmos、宇多田ヒカル、米津玄師などのMVをはじめとして数多くの映像作品を手がける。yahyelのメンバーでもあり、ライブではVJを務める。PEDRO『衝動人間倶楽部』の4曲すべてのMVを監督し、ライブの映像演出も担当。

山田:最初の1枚(『zoozoosea』)をゲリラリリースして、そこからレーベルを移籍して、プロジェクトが続いていって。去年の夏にリリースした1stアルバム(『THUMB SUCKER』)を聴いたときに、カッコいいなと思った。好きな曲も何曲かあって、特にアユニの書く歌詞がすごくいいと思うんですよね。これはでも……本人を前にしたら恥ずかしくて言えないな(笑)。

―せっかくの対談なので言ってください(笑)。

山田:たとえば自分がもし10代の女の子だったらより共感すると思うんですけど、今の僕がアユニの歌詞を解釈しようとしてもグッとくるところがあるんです。それは『衝動人間倶楽部』の時にも、もちろん今回の『浪漫』にもありましたね。たとえば“生活革命”という曲には哀愁を感じるというか、音楽ジャンルとしてのブルースではなく、感情を表す言葉としてのブルースを感じる部分が魅力的だなと思いました。

―dutchくんの言葉を聞いてアユニさん、どうですか?

アユニ:うれしいです。でも、私が書く歌詞はまだまだわかりにくい気もするんですよね。

―でも、別のインタビューを拝見したら「もっとわかりやすく伝わる歌詞を書くよう心がけるようになった」と言ってましたね。実際に過去曲と今作を比較してもストレートな筆致になっていると思います。

アユニ:そうですね。今はストレートな歌詞を書くようにすごく意識していて。そのほうが今の自分に合ってるなと思ったんです。

―それは自分がPEDROというバンドで発する表現に自覚的になったからですか?

アユニ:そうですね。前は捻くれた発想でパワーワードや造語ばかり使うことを意識していたし、そういう歌詞しか書けなかったんです。でも、それでは人に伝わらないと思って。共感してほしいという欲が強いわけではないんですけど、少しでも私の思っていることが伝わってほしいと思うようになりました。

―dutchくんが挙げてくれた“生活革命”も、それまでの曲を踏まえると異色ではありますよね。シンプルに捉えればラブソングの体を成しているんだけど、他にも想像できる物語性がある。

山田:そう、具体性もあるんだけど、想像できる行間がある。歌詞の1行1行からアユニがどういう表情で書いて歌っているか想像できるし、その行間にある悲しみとか憂いがいいなと思って。僕自身、奥行きのある表現が好きなので。

アユニ:ああ、うれしいです。

“WORLD IS PAIN”を聴いたときに、PEDROはもう完全にバンドだなと思った。PEDROのカッコよさって、カッコいい人がカッコいいことをやっているカッコよさではないと思うんですよ。(山田)

―6月の無観客配信ライブは演奏と歌の熱量もすごく高かったし、それはMCにしても同様で。終盤のMCの「この(自粛)期間、意味のあることしか許されない感覚に心が苦しくなるときがある。でも、今日みたいに誰かが音をかき鳴らしたり、自分が好きなことに没頭する時間、心のオアシスに滞在する時間も、これから先強く生きるためには重要だと思います」という言葉がすごく印象的でした。それはアユニさんがPEDROというバンドに心血を注いでいる理由でもあると思ったし。

アユニ:ありがとうございます。でも、あらためてライブ映像を見返したんですけど、ダメだなぁと思いました。しゃべり方がヘボいというか……。自分のダサさが全面に出ていて。それを直したいと思っても一生直せないと思うんですよ。

―だからこそ伝わってくるものがあると思うし、それを真っ直ぐに表現しているところがいいんだと思いますけどね。新作の4曲をライブで歌ってみてどんな実感がありましたか?

アユニ:曲がどうというよりは、無観客ライブをやってみて感じたことのほうが大きかったです。BiSHでも無観客ライブを2回やったんですけど、そのときはあまり寂しさや物足りなさのようなものは感じなかったんです。歌って、踊って、自分の体力も含めて全力でやりきった感触がちゃんとあったんですけど、PEDROという自分たちで音を奏でるバンドとしてライブをやったときに、目の前に生身の人間がいないとライブの高揚感ってなかなか実感できないんだなと思ったんです。

―バンドとしてのライブの醍醐味という意味で。

アユニ:そうですね。それは正直に思いました。もちろんすごく楽しかったのも事実なんですけど。

―それはきっと、これまでPEDROとして回っていたツアーなどで得た充実感の裏返しでもあるのかなと思います。

アユニ:私もそう思います。正直に言えば、PEDROをやる前は人のためにライブをやるという感覚がなかったし、自分がやりたいからやるというだけだったんですね。でも、PEDROで人のためにライブをやるという感覚が生まれたときに、受け取ってくれる人が目の前にいないとこんなに寂しいんだと思いました。PEDROでライブをやってきたことで乗り越えられたこともあったし、逆に自分の壁もいろいろ見つかってきたので。

―dutchくんは、あのライブを観てどんなことを感じましたか? 演出はかなりシンプルでしたよね。ロックバンド然としたステージというか。

山田:そうですね。ロックバンドなので、映像演出などもシンプルなほうがいいと思ってます。それと同時に、PEDROが本当の意味でロックバンドになったなと思ったんですよね。『衝動人間倶楽部』で言ったら“WORLD IS PAIN”のような、演奏シーンだけで構成されているMVが似合うバンドになったなと。

―“WORLD IS PAIN”のMVは、たとえばNUMBER GIRL視点で言うと、ちょっと“鉄風鋭くなって”を彷彿させるところもあるなと思いました。

山田:16ミリフィルムの質感とかですよね。もともと、演奏シーンだけで構築したMVをPEDROでも撮ってみたいと思っていたんです。でも、最初のころのPEDROはバンドというよりもアユニのソロプロジェクトの色が強いイメージがあったので、それを軸にしたMVを作ったほうがいいのかなと思っていたんです。でも、この前の無観客ライブもそうですけど“WORLD IS PAIN”を聴いたときにもう完全にバンドだなと思った。なので、“WORLD IS PAIN”は一貫してバンドを撮る意識で編集しました。アユニのカットを増やさないといけないという意識もなかったし、3人のメンバーを平等に切り取っていて。

―アユニさんのプロジェクトとしてじゃなく、あくまで3人のロックバンドとして。

山田:そう。ライブでもそうですけど、僕は、ロックバンドには演出というものが基本的にいらないと思うんです。ドーン! と演奏してカッコよければそれがいいという考え方。これまでいろんなロックバンドのMVを撮ってきましたけど、僕の哲学としてその考え方に則って全部ディレクションしてます。

そのうえで、この感覚を言葉にするのは難しいんですけど──PEDROのカッコよさって、カッコいい人がカッコいいことをやっているカッコよさではないと思うんですよね。だからちょっと抜きの部分も必要だなと思っていて。MVでもライブでもそうですけど、抜きの部分もあるんだけど、やり切ってるからカッコいいという、ギリギリのラインが成立する女性ボーカルのスリーピースバンドとしては日本で唯一無二だと思ってます。

―新作のテーマである「衝動」というキーワードはきっとアユニさんが今後もPEDROの活動を歩んでいくうえで引き連れていくキーワードだと思います。EPで「衝動」をテーマした理由はなんだったのでしょうか?

アユニ:PEDROの活動を通してひさ子さんと出会ってから、本当に自分の考え方がいろいろ変わったんですね。好きな音楽や尊敬する人が自分の中でできたときに、いろんなバンドのライブ映像を観ていて思ったのがーー今までBiSHでは曲の始まり方や終わり方、歌い方や踊り方も全部決まったものを通してパフォーマンスしてきたし、そもそも私は小さいころから「やってはいけないことがこの世の中にはたくさんある」と思いながら生きてきたんです。

でも、PEDROが始まってからいろんな音楽を聴いて、いろんな人と接するようになって、「やっちゃいけないことなんてないのかな?」と思えるようになってきたんです。

今までは、BiSHのライブで泣きそうになることはあまりなかったんですけど、最近は泣きそうになることがあるんです。(アユニ)

PEDRO『衝動人間倶楽部』を聴く(Apple Musicはこちら

―「やっちゃいけないことなんてないのかな」という思いは、今作の歌詞にも表れていますよね。“無問題”しかり。

アユニ:そうなんです。バンドのライブってギターを投げちゃったり、マイクを倒して帰っちゃったりすることもあるじゃないですか。ベースで人を殴っちゃったりする人もいるし。そうやって衝動的にやりたいことを全部やっていいんだって思えてきて。そういう自分の変化が一番大きかった時期が制作と重なったので、そのまま歌詞に込めました。

―PEDROの活動でそういう衝動を覚えたときに、BiSHのライブでいつもと違うことをやってみようとはならないんですか?

アユニ:それはあんまり思わないです(笑)。BiSHでは振り付けを担当しているメンバー(アイナ・ジ・エンド)がいるので。たとえば私や他のメンバーが振り付けを変えたら違和感が生まれると思うんです。そこは用意してもらった範囲内でおもいきりパフォーマンスしたいと思ってますね。ただBiSHのライブで言うと、今まで自分たちの曲で泣きそうになることはあまりなかったんですけど、最近は泣きそうになることがあるんです。

―先ほどおっしゃったストレートさとも繋がる、表現者としての大きな変化ですね。その上で、dutchくんが手がけたMVの話もしたいんですけど、個人的にはワンカット撮影然り、“無問題”の振り切れ方にすごいインパクトを感じて(笑)。

山田:“無問題”は濃かったですね(笑)。僕も映像の分野でそれなりにキャリアを積んできて、今は撮影場所も含めて事前にディレクションした状態で撮っていくことが多いんですけど、“無問題”はあえて、ライブハウスでバンドをやってる友だちと遊んでいたころの気持ちを思い出すように撮りたいと思ったんです。

まず、撮影クルーのスタッフは一応いるんだけど、チープなカメラしか用意しなかった。あのころは、みんなで集まってヤバい曲ができたら「そのままMV撮りに行こうぜ」っていう感じでとりあえず街に出て撮影してたんです。とにかく画を撮って編集でなんとかするみたいな(笑)。“無問題”を聴いたときにそういうノリで撮影したいと思ったんですよね。でも、正直怖かったですけどね。

―映像作家としてキャリアを重ねたことで覚えた知識も技術もあるし、当時とは何もかも状況が違うし。

山田:そうなんですよね。でも、やりたいと思った。

―そういう、ある種の衝動を掻き立たせるものをアユニさんが持ってる、とも言える?

山田:そうなんでしょうね。やっぱりね、アユニってめちゃくちゃ鍛錬して努力してることがわかるんですよ。そういう意味で刺激があるし、表現者としてはもちろんだけど人としても尊敬してるので。

アユニ:ふふふふ。

山田:それで、制作チームに「デカいロケバスを一台借りてください」とお願いして、撮影場所は移動しながら決めた。小道具も「Amazonで買えるもの」という縛りを設けました。昔の自分だったら高い美術とか用意できないし、たぶんAmazonやドン・キホーテでそろえてなんとかするなと思ったから。だから“無問題”のMVに登場するあの牛の着ぐるみはAmazonで買えるんです(笑)。

アユニ:私の横でずっと踊ってる牛(笑)。

山田:そうそう(笑)。あと、じつはロケバスで移動する前に、朝のスタジオで外国人のおじいさんとおばあさんのリップシンクや牛のシーンを撮っていたんですけど、実際のMVでは使ってないんです。それも、撮りながらその場で考えていったからで。そこから「とりあえず木更津に行こう」ってなって。あの映像の橋は何度か行ったことがあるので、「あそこだな」と直感的に思って、橋に立ってもらう前に「アユニ、これ持って」ってアコーディオンを渡して(笑)、牛にも入ってもらって。

―「なんでアコーディオン?」って思いませんでしたか?

アユニ:思いました(笑)。

山田:(笑)。そうやって本当にその場で撮っていきました。そしたらハプニング的におばあちゃんも現れてくれて、飛行機も飛んでくれて。

アユニ:背後にずっと立ってるおばあちゃんの存在感がすごいですよね。

山田:全部奇跡的なハプニングだからね(笑)。このMVをワンカットで出そうかどうかという議論もあったんですけど、結果的にワンカットにしてよかったと思います。二度と撮れない超ヤバいMVになったなって。

私が感じてきた生きにくさをどんどん肯定して、せっかく生きてるんだったら死ぬまでPEDROをがんばりたいと思えるようになりました。(アユニ)

―MVで豪快にアコーディオンを弾き倒していたアユニさんご自身は、撮影はどうでしたか?

アユニ:本当に意味不明な…………(笑)。でも、もともと高校生が自主制作したみたいな映像作品が好きなので楽しかったです。そもそも山田さんに4曲もMVを監督していただくこと自体が贅沢だし、恐れ多いというか。「山田さんのブランドを壊してないか?」という不安は常々あるんですけど(笑)。

山田:そんなことないよ(笑)。

アユニ:MVを撮っていただいた4曲は楽曲としても今までにないアプローチをしたし、自分自身も4つの違う顔を見せたかったので。それを上手く掬い上げていただいて、4つの違う顔を引き出していただいたと思います。

山田:ポップでカラフルな“感傷謳歌”があって、“WORLD IS PAIN”のようにバンド色が全面に出ているものがあって、“無問題”みたいに意味不明なものがあって(笑)、“生活革命”のようにしっとりした映像がある。4曲4通りの映像を出すという意味でも上手くいったなと思います。

『THUMB SUCKER』のときに“猫背矯正中”のMVを撮らせてもらって、それが個人的にも満足度が高かったんですね。当時思っていた「これがPEDROじゃない?」という空気が詰められた。なので、今回は“感傷謳歌”が正直ハードルが高かったです。でも、そのハードルをクリアするのもさっき言ったちょっと抜きやハズし次第かなと思って。それで“感傷謳歌”のMVにはコミカルな要素も、グッとくるシーンも、地球が爆発する意味がわからない要素もぶち込んで。この絶妙なバランスはPEDROしかできないと思います。

アユニ:私も“猫背矯正中”のMVがすごく好きで。あの曲で初めて自分のやりたいことをMVの監督さんに伝えたんです。「支離滅裂で、意味不明なMVを作りたいです」って。そこから山田さんがいろんな案を出してくださって。

山田:僕もああいうMVを撮ったことがなかったから、その提案がありがたかった。

―“猫背矯正中”があったからこそ、それぞれに突き抜けたアユニさん像を具現化できたとも言えそうですよね。

山田:それは本当にそうですね。共通して、それぞれ異なるドープさがあると思う。

―アユニさんも、まさにPEDROで表現したいこと、実現したいことがどんどん増えてきた過程を残せた実感があったんじゃないですか?

アユニ:やりたいことはめちゃくちゃ増えてますね。今やりたいことをずっと更新できてる感覚があるんです。私が感じてきた生きにくさをどんどん肯定して、せっかく生きてるんだったら死ぬまでPEDROをがんばりたいと思えるようになったので。あとはバンドとしてあたりまえのことと言ったらおかしいかもしれないですけど──ゼロからしっかり自分たちでデモを作って曲作りするということもこれからやりたいです。

―メンバー3人でセッションしながら曲作りしたり?

アユニ:したいですね。でも、ひさ子さんがずっとPEDROをやってくださる保証は一切ないので。メンバーがどうなるかわからないんですけど、音楽をずっと続けたいとは今まで思ったことなかったけど、そう思うようになったんです。

―どんな形態でも?

アユニ:そうです。ひさ子さんを見ていると、人生でいろんなことがある中でずっと音楽を続けるのは本当にすごいことなんだなと思って。だって、メンバー全員が生き続けているからNUMBER GIRLも再結成できてるわけで。そういうところにも衝撃を受けたし、自分もどんなカタチであれ音楽を何十年も先もやりたいと思ってます。さっき話したみたいに、表現してはいけない感情はないんだとバンドを通して知ってこられたので。バンドによって人生が変わったと言っても全然過言ではないですね。

山田:僕も、PEDROでもっとバンド然としたMVを撮っていきたいという気持ちはこのタームで強くなりましたね。少なくとも3枚目のフルアルバムまではPEDROを見届けたいと思うし。ロックバンドの3枚目がヤバいというのはロックの歴史に決められてることだから。そういうこの先の数年後も撮り続けられたらいいなと思ってます。

アユニ:ありがとうございます。嬉しいです。

人生を懸けてやれるようになったのが今なんじゃないかなって思います。(アユニ)

―そして、2ndアルバム『浪漫』の話も伺いたいんですが。まずアユニさんとしてはどんな作品を作れた実感がありますか。

アユニ:自分を肯定するという話もしましたけど、そう思えるようになったこともあって、このアルバムでは自分の作った曲も収録できたんです。PEDROを始めたことで物心がついて、喜怒哀楽も覚えて……つまらない人生だなと思っていた自分が、変わることができたんですよ。そしたら人生って意外とロマンチックだなと思えて。生きてたら楽しいことがあるよっていうことを伝えたくて作ったアルバムですね。

―シングルの『来ないでワールドエンド』でのサプライズとして、カップリングでアルバムリリースが解禁されて。そこからアルバム楽曲を演奏したスタジオライブが配信されて、1日1曲ずつ解禁されていくという手法がとられましたけど、そのスタジオライブを手がけられた山田さんとしては、どういうイメージを持って臨まれましたか。

山田:それこそ配信でやった無観客ライブの時に、アユニから「ロマン」っていうキーワードを聞かされて。ロマンと言えば大正ロマンとか、いろいろあるよなって思って。でもなんにせよ、ロマンってカッコいいものであってほしいんです。誰が見てもカッコいいものって難しいけど、誰が見てもカッコいいと言ってもらえるものを撮りたいなって思ってましたね。

アユニ:実際、カメラワークや映像の質感どれをとってもカッコいいものになっていて、そこはさすが世界の山田さんだなって思いました。

山田:やめろ(笑)。

アユニ:でもほんとに、映像の世界観として、自分が一番表したかったものを映してくださったなと思って。ロマンチックっていう言葉を聞くと、大体は恋愛とか、キラキラした世界をイメージしがちだと思うんですけど、私の考えるロマンっていうのはちょっと違っていて。廃墟で撮影しているように、何か廃れたものだけど大事なものがあるっていう——それが私にとってのロマンだなって。それをまさに再現していただけました。

山田:ただ、古き良きものに寄り過ぎちゃうと、それはそれでズレると思ったので、中央にある照明とかはイチから設計して。ロマンっていう言葉自体に和洋折衷的なところがあるのと同じように、シャンデリアではあるんだけど、もうちょっと幾何学的なものがいいなと思ったんですよ。スタッフも全員ハカマで統一したし、撮っているよっていう風景も込みのスタジオライブの中でもちゃんと世界観を作れたと思いますね。

―アユニさんご自身が、廃れたものの中にロマンを感じるのはどうしてなんですか。

アユニ:うーん……廃れたように見えるけど、その中に美しいものがあるんだっていうことを表現したかったんです。曲の中でも書いていることですけど、人生は美しいと思えるようになったのも、人生なんてつまらないと思っていた過去があるからこそなんです。廃れたもの、廃れたと思っていたもの、つまらないと思っていた過去が、今に繋がっているんだよなって。そう思えるようになったことが大きいんだと思います。

自分よりぶっ飛んだことをやっている人もいるし、人と比べれば自分なんてへなちょこなのかもしれないけど、毎日後悔ばっかりしている恥の多い人生だったんです。昨日起きたことを今日ずっと後悔してる、みたいな……だけどそんな自分がいなければ、今の自分もいないんです。当たり前のことなんですけどね。大好きだと言えるものや人と出会って、ようやく自分が生きている事実を好きになれて、過去の自分も含めて肯定できるようになりました。

―山田さんは、『浪漫』をどんなふうに聴かれましたか。

山田:アユニの書く言葉って、ユートピアかディストピアで言ったらディストピア側だと思ってて。頑張ろうっていうことを伝える時にも、明日には希望があるから頑張ろうっていう書き方にはならない。そういう無根拠なことを言うんじゃなく、今の自分と歌っていうものを相対的に捉えて表現にしていることがわかる人なんですよ。

たとえば僕個人が耳触りとして好きな曲は、今作で言うと“pistol in my hand”みたいにエッジの立ったものなんですね。だけど“空っぽ人間”とか“後ろ指さす奴に中指立てる”“さよならだけが人生だ”とかは、言葉として食らっちゃって。頑張ろうって言われるよりも、儚さを描く歌がアユニの歌の魅力なのかなって気がしていて。そういう彼女の内面がストレートに出てくるようになってるし、スタジオライブ映像のほうも、一発撮りでそのままでいこうと思ったんですよ。きっと1年前にこれをやっても、このカッコよさは出なかった気がしますね。単純にバンドとしての泥臭さが出てきたし、アユニ自身も泥臭い感じになってきた。彼女自身に、やらされている感じがまったくないから。

アユニ:確かに。いわゆるグルーヴ感がつかめてきてるし、それはひさ子さんも毛利さんもそうだと思います。お互いがお互いに心を開いて、ちゃんと自分の表現として愛を持ってバンドをやれているのがわかるんですよ。人生を懸けてやれるようになったのが今なんじゃないかなって思います。

―実際、歌と言葉だけじゃなくグルーヴが主役になっている曲も増えたと思うし、『衝動人間倶楽部』まではバンドとしてどうしていくかを考えていたのが、バンドとご自身の表現が完全に合致するようになったのが『浪漫』なのかなと思ったんですが。

アユニ:これは最近(セントチヒロ・)チッチにも言われたんですけど、「アユニは本当に音楽をやりたくなったんだね」って。私はどうしても、やりたくないことをやると顔に出ちゃうようなタイプだったんですけど、でも今はそんなことが一切ないので。

山田:でもさ、やりたいことだけやってたら、今みたいな歌詞になってないと思うんですよ。やりたくないこと、我慢しながら生きることを知ってきたのが、人としての深みに作用してると思うんですよね。それが全部世界観になっていると思うし、今はリリシストとしてのアユニが一番の魅力になっている気がしますね。

アユニ:ふふふふ。ありがとうございます。

―“へなちょこ”はアユニさんご自身の作詞作曲ですが、<消えたい夜は消えていいよ>と歌い切れるくらいまで、ご自身の心に正直になれたところが感動的で。おっしゃった通り、ご自身の人生をそのまま乗っけられる表現になりましたよね。

アユニ:もしPEDROやBiSHにも入らず学生生活を送っていたら自分はどうなっていたかなって思いながら書いたのが“へなちょこ”なんですけど、きっとあのままだったら、<泣いていいですか?>っていう疑問形で終わってたんです。不器用だし、感情を処理できないことが多かったんですけど、だけど<泣きたい夜は泣いていいよ>って言えたのは、自分が自分を肯定しないと、結局はどうにもならないなって気づけたからなんだと思います。それはやっぱり、山田さんはもちろん、人との出会いがあったからだなって。

山田:ま、普段はアユニにイジられて終わってるだけですけどね(笑)。でも、隙あらば馳せ参じて、映像でもなんでも撮りたいと思ってますから。よろしくお願いします。

アユニ:こちらこそです!

PEDRO『浪漫』を聴く(Apple Musicはこちら

リリース情報
PEDRO
『浪漫』初回生産限定盤(3CD+Blu-ray+Photobook)

2020年8月26日(水)発売
価格:11,000円(税込)
UPCH-29370
豪華BOX仕様

[CD1]浪漫
1. 来ないでワールドエンド
2. pistol in my hand
3. 浪漫
4. 後ろ指さす奴に中指立てる
5. 空っぽ人間
6. さよならだけが人生だ
7. 乾杯
8. 愛してるベイベー
9. WORLD IS PAIN
10. 感傷謳歌
11. へなちょこ

[CD2,3]LIVE CD : 2020.06.14 STUDIO COAST GO TO BED TOUR IN YOUR HOUSE
1. WORLD IS PAIN
2. 猫背矯正中
3. 玄関物語
4. STUPID HERO
5. アナタワールド
6. GALILEO
7. ボケナス青春
8. ハッピーに生きてくれ
9. SKYFISH GIRL
10. MAD DANCE
11. うた
12. ラブというソング
13. NOSTALGIC NOSTRADAMUS
14. 生活革命
15. おちこぼれブルース
16. 無問題
17. 自律神経出張中
18. ironic baby
19. ゴミ屑ロンリネス
20. 甘くないトーキョー
21. 感傷謳歌
22. EDGE OF NINETEEN
-ENCORE-
23. Dickins
24. NIGHT NIGHT

[Blu-ray]
2020.06.14 STUDIO COAST GO TO BED TOUR IN YOUR HOUSE
Document of GO TO BED TOUR IN YOUR HOUSE
Making of 浪漫

PEDRO
『浪漫』映像付通常盤(CD+DVD)

2020年8月26日(水)発売
価格:6,578円(税込)
UPCH-20555

[CD]浪漫
1. 来ないでワールドエンド
2. pistol in my hand
3. 浪漫
4. 後ろ指さす奴に中指立てる
5. 空っぽ人間
6. さよならだけが人生だ
7. 乾杯
8. 愛してるベイベー
9. WORLD IS PAIN
10. 感傷謳歌
11. へなちょこ

[DVD]2020.06.14 STUDIO COAST GO TO BED TOUR IN YOUR HOUSE
1. WORLD IS PAIN
2. 猫背矯正中
3. 玄関物語
4. STUPID HERO
5. アナタワールド
6. GALILEO
7. ボケナス青春
8. ハッピーに生きてくれ
9. SKYFISH GIRL
10. MAD DANCE
11. うた
12. ラブというソング
13. NOSTALGIC NOSTRADAMUS
14. 生活革命
15. おちこぼれブルース
16. 無問題
17. 自律神経出張中
18. ironic baby
19. ゴミ屑ロンリネス
20. 甘くないトーキョー
21. 感傷謳歌
22. EDGE OF NINETEEN
-ENCORE-
23. Dickins
24. NIGHT NIGHT

PEDRO
『浪漫』通常盤(CD)

2020年8月26日(水)発売
価格:3,300円(税込)
UPCH-20556

1. 来ないでワールドエンド
2. pistol in my hand
3. 浪漫
4. 後ろ指さす奴に中指立てる
5. 空っぽ人間
6. さよならだけが人生だ
7. 乾杯
8. 愛してるベイベー
9. WORLD IS PAIN
10. 感傷謳歌
11. へなちょこ

PEDRO
『衝動人間倶楽部』通常盤(CD)

2020年4月29日(水)発売
価格:1,650円(税込)
UPCH-80533

1. 感傷謳歌
2. WORLD IS PAIN
3. 無問題
4. 生活革命

プロフィール
PEDRO (ぺどろ)

BiSHのメンバーであるアユニ・D(Vo,Ba)、田淵ひさ子(Gt / NUMBER GIRL、toddle)、毛利匠太(Dr)によるロックバンド。アユニ・Dが全作詞を行う。2018年に『zoozoosea』でデビューし、2019年8月28日に1stフルアルバム『THUMB SUCKER』をリリース。2020年4月にリリースしたEP『衝動人間倶楽部』のツアーが全キャンセルになったことを受け、6月14日に無観客ライブ『GO TO BED TOUR IN YOUR HOUSE』を配信した。8月26日には2ndフルアルバム『浪漫』をリリース。

山田健人 (やまだ けんと)

映像作家 / VJ。Suchmos、宇多田ヒカル、米津玄師などのMVをはじめとして数多くの映像作品を手がける。yahyelのメンバーでもあり、ライブではVJを務める。PEDRO『衝動人間倶楽部』の4曲すべてのMVを監督し、ライブの映像演出も担当。



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