喫茶店、花壇、チョコミントアイス、猫、お洋服や化粧品。モデルとして活動しながら、こよなく愛するものたちへの思いを、SNSや執筆活動などを通じて発信している小谷実由。大切だと思うものに惜しみなく心を尽くし、「伝えたい」という気持ちを原動力としている彼女が、昨年立ち上げたスカーフプロジェクトが「moderni(モダニ)」だ。
「東京」「奈良」といった、地名に由来する名前が付けられている「moderni」のスカーフたちもまた、彼女が過去に訪れた土地や、空間に関する記憶への愛着や思いをインスピレーション源に、デザインが生み出されているのだという。
空間を豊かにするLIXILの壁材商品「エコカラット」の新プロジェクトLIXIL「PEOPLE & WALLS MAGAZINE」とCINRA.NETがコラボレーションし、空間と人との関係にフォーカスして、インタビューを行っていくこの連載企画。作り手から受け取った思いや、空間にまつわる大切な記憶、スカーフやヴィンテージマンションなど古くから伝わってきたもののよい部分を、自分らしいやり方で慈しみ、時代に即した形でそっと差し出すような活動を行っている小谷の根幹にあるものを教えてもらった。
もの作りの過程を知り、熱量を知る。だから好きになるーー小谷実由の審美眼を聞く
―おみゆさん(小谷の愛称)はたくさんの「好きなもの」を持っていて、それらを愛でつつも、インスピレーションの源として新しいものを作っている印象を受けます。ご自身が心惹かれるものにはどんなところが共通していると思いますか。
小谷:いつも直感的に好きになってから、知っていくうちに好きな理由が増えていくんですけど、共通しているのは、作り手の方の思いや熱量が表れているものであることだと思います。ただデザインが好みなだけじゃなく、ものが作られた背景に共感できたり、素晴らしいと思えると、もっと好きになります。
―バックグラウンドにあるストーリーに惹かれるんですね。
小谷:自分の行動においても、結果よりも過程を大事にしていきたいと思うタイプで。だから、ものが作られていく工程もできるだけ知りたいなと思うんです。
―そうした部分を意識するようになったのは何かきっかけがあったのですか?
小谷:私は「Mame Kurogouchi」がすごく好きで。毎シーズンきちんとストーリーがあって、工場の場所や染め方の手法まで、デザイナーの黒河内さんの日記などをもとに細やかに発信されているんです。
初めて目にしたときから素敵なものばかりだと思っていたんですけど、そうした工程を経てできた服だと知って、さらに愛着がわきました。作られた背景を知っているのと知らないのとでは、思い入れが全然違います。それから、ただ「かわいい」と思うだけで終わらずに、ものの背景にある過程も知りたいと思うようになったんです。
「Mame Kurogouchi」のトップスを着ている小谷
「自分が好きだと思ったものや、その場所で経験した思い出を、忘れてしまわないようにしたくて」
―作り手の思いを受け取ったうえで、同じだけの熱量を持ってその魅力を伝えていこうとする感覚をおみゆさんのSNSやエッセイなどから感じるのですが、「ものを作る」ということも、好きなものから受け取った熱量を伝えていくための一つの方法だと思います。
そうしたなかで、昨年立ち上げられたスカーフプロジェクトの「moderni」についてお伺いできればと思うのですが、なぜこのプロジェクトを始めようと思われたのでしょうか。
小谷:子どもの頃、私のおばあちゃんがずっとスカーフをしていたんです。その後スカーフを着けることがないまま大人になったんですけど、古着屋さんでスカーフを見かけるうちに、おばあちゃんが着けていたことを思い出して、かわいいなと思うようになって……。お洋服に比べたら買いやすい価格なので、最初は着ける予定もないまま、柄が好きなものを集めていました。そのうちに、髪型を変えたらスカーフが似合うようになったので、本格的にはまり始めたんです。
「moderni」を始めたのは、街中にスカーフをしている人がたくさんいたらいいなと思ったからです。自分が楽しいと思うことを、文章や写真以外の方法でも伝えたくて、せっかくなら実際にいろんな人に使ってみてもらいたいなって。スカーフを布教したいがために始めたんです(笑)。
―大好きだからこそ「知ってもらいたい」という思いが、おみゆさんの原動力なんですね。スカーフのデザインはどのように生み出しているんですか。
小谷:これまで自分が旅先などで撮ってきた写真を見直して、そこに写っているものや、撮ったときの記憶から着想を得つつ、スカーフを初めて使う人でも使いやすいように、肌なじみのいい色合いを意識しながら柄を考えています。
もともと私は、旅行のときにトランクの中で荷物を包むのにスカーフを使ったり、海外に行ったときだけ「真知子巻き」をしたりしていたので、スカーフには旅のイメージが濃かったんです。それから、趣味で写真を撮るんですけど、自分が好きな柄や色合わせを撮ることが多くて。例えばかわいい柄の椅子があったとき、椅子全体じゃなく、柄だけ撮りたいんです。
moderni「東京」
―ディテールへの愛着が強いんですね。
小谷:ビンテージマンションや古いビルが好きなんですけど、そういう場所でも壁の柄をよく見ています。いい壁があると、「この柄の服があったらかわいいのでは?」とすぐに考えてしまうんです。壁って絶対に持ち歩けないじゃないですか(笑)。
―そうですね(笑)。
小谷:自分が好きだと思ったものや、その場所で経験した思い出を、持ち歩けるものに落とし込むことで忘れてしまわないようにしたくて。だから好きなものの要素を掛け合わせて作れたらいいなと思ったんです。思い出自体は私だけのものだし、買ってくれる人のイメージが固定されてしまわないように、具体的なエピソードを伝えることはしていないんですけど、このスカーフを身につけているときに、その人にとっての思い出が新しくできたらいいなと思います。
―おみゆさんの体験から生まれたスカーフが身に付けられられることで、手にとった人の思い出の一部になっていくというのは素敵な循環ですね。
小谷:「moderni」があることによって、そういう数珠つなぎみたいな連鎖が起こったら面白いなと思います。私は人の話を聞いたり、本を読んだときに、よく自分の経験に落とし込んで考えるんですけど、私が発信したものを受け取ってくれた人もそんな風にしてくれたらいいなと思います。このスカーフをつけていたときに生まれたそれぞれの思い出を、スカーフを見るごとに思い出してもらえたら嬉しいですね。
LIXIL「PEOPLE & WALLS MAGAZINE」では、小谷実由さんのインタビュー後半も掲載。 愛する喫茶店に代表される古くから残る空間や、ものの魅力を現代に届けることの意義、ご自宅のお部屋へのこだわりについて伺いました。
- プロジェクト情報
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- LIXIL「PEOPLE & WALLS MAGAZINE」
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壁は間取りを作るためのものだけではなく、空間を作り、空気感を彩る大切な存在。その中でインテリアや照明が溶け込み、人へのインスピレーションを与えてくれる。
LIXIL「PEOPLE & WALLS MAGAZINE」は、LIXILとCINRA.NETがコラボし、7名のアーティストにインタビューを行う連載企画。その人の価値観を反映する空間とクリエイティビティについてお話を伺います。
- プロフィール
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- 小谷実由 (おたに みゆ)
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ファッション誌やカタログ・広告を中心に、モデル業や執筆業で活躍。一方で、様々な作家やクリエイターたちとの企画にも取り組む。昭和と純喫茶をこよなく愛する。愛称はおみゆ。
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