コンテスト連続優勝とコロナでの不運。PULPSデビュー前の軌跡

「いまキテるバンド」であり、「ツイてないバンド」でもある。大阪府八尾市出身の南蛮キャメロは、『ツタロックフェス2020』『battle de egg2020』という2つのオーディションで、立て続けにグランプリを受賞。本来なら、その実績を引っさげ、華々しくデビューを飾る予定だった。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大により、オーディションで出演権を獲得したフェスはことごとく中止。大きく出鼻をくじかれてしまった。

そんな彼らがバンド名をPULPSに改め、初の全国流通作『the the the』をリリースした。小学校からの同級生という彼らは、どんなバンドなのか。図書館のCDを聴き漁ったという中学時代から、これまでのバンドの歩みについて語ってもらった。

PULPS(ぱるぷす)
左から:地本航(Dr)、大石悠人(Ba)、田井彰(Vo,Gt)、あんちゃん(Gt)
全員1994年生まれ、小学校の同級生4人により大阪府八尾市で結成。南蛮キャメロとして関西を拠点に活動し、『ツタロックフェス2020』『battle de egg2020』のオーディションで連続優勝。2020年8月にPULPSに改名し、同年10月に初の全国流通作『the the the』をリリースする。

「ギターロックも好きなんですけど、そういうバンドは腐るほどおるし、そこで勝負するバンドじゃないと思った」(田井)

―つい最近まで「南蛮キャメロ」というバンド名だったそうですけど、「PULPS」に改名した経緯はどういうものだったんですか?

田井:もともと幼馴染で結成したバンドなので、成長するにつれて名前と音楽性が合わなくなってきたんです。実際に「ちょっと合ってないんちゃう?」とご指摘いただくこともあったし、コミックバンドみたいに思われることもあって。

大石:みんなで候補を出して、100以上あったなかから最後に3つ残って。それがPULPSか、前のバンド名から引き継いでキャメロスか、あとはビグスビーズか。ビグスビーはギターについているアームのことなんですけど。

田井:すごい悩んだんですけど、4人で投票して、あんちゃんが出したPULPSになりました。

あんちゃん:『パルプ・フィクション』(クエンティン・タランティーノ / 1994年)という映画がすごく好きで、たまたまその時期にまた観たんですよ。それで「パルプ」ってなんかええなと思って、PULPSを候補に出したんです。

映画『パルプ・フィクション』予告編

―『パルプ・フィクション』は音楽の評価も高い映画ですが、他のメンバーも好きだったんですか?

大石:僕は見たことなかったです(笑)。でも、このバンド名に決まったので、ちゃんと4人で一緒に見ましたね。なかなか難解な映画でしたけど……。

地本:『パルプ・フィクション』は1994年公開で、僕らも1994年生まれなんです。だからあとづけですけど「運命や!」って思いました。

―南蛮キャメロ時代の曲も聴かせていただいたんですが、いまよりもギターロックの要素が強かったと思うんです。いまはバンドサウンドは軸にありつつ、フォークや歌謡曲のテイストが強くなっていますよね。

田井:ギターロックも好きなんですけど、そういうバンドは腐るほどおるし、「ほんまに好きな音楽は?」って訊かれたら、懐かしくて哀愁漂う音楽やなと思ったんです。そういう曲も前からやってはいたんですけど、ライブでも反応が薄いから避けがちやったんですよね。でも、成長するにつれて考え方が変わってきて、本当にやりたいことをやるようになりました。

PULPS“Flower”MV

―反応が薄いことはわかっていたけど、あえてそっちの方向性を選んだ。

田井:そこで勝負するバンドじゃないなと思って。

―でも結果としては、いまのほうが高い評価を得られた。

田井:そうですね。今年に入ってから、コンテストとかでも評価してもらえて。思い通りっていう感じですね(笑)。

PULPS

Queenとの出会いをきっかけに、ひたすら図書館でCDを借りた中学時代

―音楽性で集まったわけではなく、幼馴染でバンドを組んだということでしたが、音楽性が変わっていくことについては、どう感じていたんですか?

大石:結成当初から田井が作詞作曲をしているんですけど、田井の作る音楽が好きなので、抵抗はなかったですね。

田井:小学校から一緒なので、けっこう同じ音楽を聴いて育ってきたんです。そのなかでも好みが違う部分はありますけど、核は一緒というか。

大石:the pillowsとか、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTとか、そこは4人とも共通して通ってきた音楽ですね。

田井:僕とあんちゃんは中学校のときに、一緒に音楽を共有していた仲やったんです。地元の志紀図書館に、けっこうなラインアップが揃っていて、僕が借りたCDを次は彼が借りるみたいなことをやっていて。だから図書館がなかったら、いまの僕たちはないと思います。

―フォークや歌謡曲は、もともと好きだったんですか?

田井:そうですね。僕は中学生の頃にQueenに出会って、そこからThe BeatlesとかLed Zeppelinとかを一通り聴いて、そのうえで日本のフォークシンガーにも影響を受けているんです。特に井上陽水さんの影響は大きいなと、いまもすごく感じているんですけど、そのフォークもThe Beatlesとかに影響されているものが多いから、結局は一緒やなと思います。エバーグリーンな音楽が好きというか。The Beatlesがその代表例だと思うんですけど、いまでも聴けるし、ずっと色褪せない音楽やと思うんです。僕らはそういうエバーグリーンな曲を作りたいなと思ってますね。

The Beatles『The Beatles (Remastered)』を聴く(Apple Musicはこちら

―Queenを聴き始めたのはどんなきっかけだったんでしょう。

田井:その頃は親のパソコンで、「ブックマークされているページだけ見ていい」というルールがあったんですけど、そのなかにYahoo!動画(現在のGYAO!)があって、Queenの特集をしていたんです。それを見て衝撃を受けて、そこから狂ったように見てましたね。中学校のときは、野球部の練習が終わって、風呂入ってメシ食って、Queenのミュージックビデオを見ながら「かっこいい!」っていうのが毎日のルーティンでしたね。

Queen“Bohemian Rhapsody” (Official Video Remastered)

オーディション連続優勝で「いまキテるバンド」が一転、コロナの影響で「ツイてないバンド」へ

―これまでバンドをやってきて、ターニングポイントになった出来事はありました?

田井:やっぱり大学卒業のタイミングですね。就職するかしないかで大石が……。

大石:僕、就活のときに1回「抜けるわ」って言ってるんですよ。社会人しながらバンドするのは難しいというか、みんなに迷惑かけると思っていたので。でも、それでもいいからと言ってくれて、続けることになったんですけど、いざ就職が決まって卒業したら、運悪く名古屋に配属やったんですよ。

それでも毎週末、大阪に帰ってたんですけど、社会人になって半年くらいのときにレコーディングをしたら、めちゃめちゃ楽しかったんですよね(笑)。それでもう名古屋におられへんわと思って、会社をやめて、大阪に戻ったんです。それは僕にとって転機だったかなと思います。

―大石さん以外のみなさんは就職するという選択肢はなかったんですか?

あんちゃん:なかったですね(笑)。

地本:僕とあんちゃんは大学も途中でやめてて……。

田井:この2人は社会不適合者なので(笑)。まぁ、ほっとくわけにはいかんっていうのも、けっこう活動のモチベーションになってますね。

―じゃあ、大学を卒業したくらいからバンドに本腰を入れようと?

田井:そうですね。それまでは漠然と「売れたいな」って感じやったんですけど、卒業してからは「売れるにはどうしたらいいか」っていうことを考えるようになりました。

―それでオーディションにも出るようになって、『ツタロックフェス2020』と『battle de egg2020』でグランプリを獲ったと。

大石:いままでもそういうコンテストに出たことはあったんですけど、全然勝てなくて。それが今年に入ってから、立て続けにグランプリを獲らせてもらって、「よっしゃ!」と思っていたところで、コロナで風向きが変わってしまい……。

―コロナがなかったら、『ツタロックフェス2020』で幕張メッセのステージにも立つはずだったんですよね。

地本:そうなんです。しかもKing Gnuの直前に出るはずやったんです(笑)。

田井:でも「いまキテるバンド」みたいに言っていただけることも増えました。コロナでことごとく潰れていったので、「いちばんツイてないバンド」とも言われるようになりましたけど(笑)。

「原田知世さんと妄想で結婚して、この歌詞になりました」(田井)

―今回リリースされた『the the the』は、本当は「複数のコンテンストで優勝して、King Gnuの前に出ていたバンドが全国デビュー!」という流れで出るはずだった作品ですよね。

田井:そうですね(笑)。お預けになっていたものを改めてリリースという感じです。

大石:でも、コロナ禍で進めていないバンドも多いなかで、こういう機会を与えてもらって、むしろ恵まれてるほうやなって、プラスに捉えてます。

―『the the the』というタイトルは、どういう意味なんですか?

田井:これもバンド名と同じく、あんちゃんが考えました。

あんちゃん:「the」っていう英語の意味は、僕にはよくわからないんですけど、「これ!」みたいなイメージがあったんです。アルバムは「いまの僕らはこれや!」っていう作品になったので、「これ! これ! これ!」っていう感じで『the the the』になりました(笑)。

田井:だから収録曲は、全部ここ1年くらいで作った曲です。

―フォークや歌謡曲の要素という意味では、“クチナシの部屋”がいちばん強く出ているのかなと思ったんですけど、これは結婚の歌ですよね。

田井:そうですね。新婚というか、結婚という幸せを見つけた2人の歌を想像で書きました。

PULPS“クチナシの部屋”MV

―なんでこういう曲を書こうと思ったんですか?

田井:この曲は詞とメロディーが同時に浮かんだんですけど、<くちなしの花を飾って>の部分は、最初は<くちなしの丘の下で>と歌っていて、それが頭から離れなかったんです。もともと原田知世さんの“くちなしの丘”という曲が大好きなこともあったので、これは他の歌詞は思い浮かばんわと思って、それやったら原田知世さんと結婚したらこうなのかなっていう歌にしようと思ったんです。

地本:なんでそうなるん!?(笑)

田井:小さい頃から原田知世さんが出ているブレンディボトルコーヒーのCMを見てて、幸せな家庭、幸せな奥さん=原田知世さんというイメージやったんですよ。それで妄想で結婚して、この歌詞になりました。

―妄想で曲を作ることは多いんですか?

田井:メンバーのことを歌った曲とかもありますけど、妄想で作ることも多いですね。自分の身の回りに事件とかがまったくないので、その代わりに妄想しているのかなと思います。

今回のなかだと“青い鳥”も妄想ですね。これもサビの<青い鳥>という歌詞がメロディーと一緒に浮かんできて、もう外せないなって。それで青い鳥を捕まえようとするけど、結局捕まえられないっていう詞にしようと思ったんです。青い鳥は幸せの象徴と言われているので、幸せを掴めそうで掴めない恋愛の歌っていうか。

PULPS“青い鳥”MV

「僕のなかで憂歌団はバンドの到達点。あの域に達することができたらなって思います」(田井)

―今作を聴いた人には、どういうバンドだなと思ってほしいですか?

田井:さっきも言ったようにエバーグリーンというか、ずっと人生に寄り添うような音楽が好きなので、流行りとか関係なく聴けるバンドっていうイメージを持ってもらえたら、いちばんうれしいですね。

地本:いい意味で派手じゃないと思うんです。ガヤガヤしてないし、トゲトゲもしてないし、普通に「いい曲やな」っていうふうに聴いてもらえたらと思うんですけど、大人になって聴いたときに、楽器の渋さとかに気づいてもらえたらうれしいですね。

僕らで言うと、ウルフルズとかがそうやったんですよ。昔から聴いてたけど、自分で楽器するようになってから「ウルフルズってすごかったんやな」って思うようになったので。

田井:僕はウルフルズも好きですけど、バンドの到達点は憂歌団やなって思うんです。かっちり演奏するわけじゃないけど、もうグルーヴっていう言葉では表せないくらいのものがあって。あの域に達することができたらなって思いますね。

憂歌団を聴く(Apple Musicはこちら

―Queenから憂歌団まで、ほんと守備範囲が広いですね。

田井:それも図書館のおかげです。ほとんど全部借りたくらいなので。

―ある意味、地元の図書館を背負って立つバンドですよね。中学生に図書館のCDを全部聴かせたら、こういうバンドができましたっていう。

地本:そこに僕らのCDを置いてもらったら完成ですね(笑)。

リリース情報
PULPS
『the the the』(CD)

2020年10月7日(水)発売

1. 青い鳥
2. 1989
3. クチナシの部屋
4. untitle crown
5. Flower

プロフィール
PULPS (ぱるぷす)

全員1994年生まれ、小学校の同級生4人により大阪府八尾市で結成。南蛮キャメロとして関西を拠点に活動し、『ツタロックフェス2020』『battle de egg2020』のオーディションで連続優勝。『ツタロックフェス2020』『COMING KOBE20』などへの出演権を獲得するも、新型コロナウイルスの影響で相次いで中止に。2020年8月にPULPSに改名し、同年10月に初の全国流通作『the the the』をリリース。フォークやUKロックの影響を受けた、どこか懐かしくキャッチーな楽曲を武器とする。



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