スタジオでギターやドラム、マリンバを意気揚々と演奏する星野源と、そんな星野の周りに表れるマリオのキャラクターたち……。もう既に、去年から放送されている『スーパーマリオブラザーズ』35周年記念CMを見た人も多いのではないだろうか。あのCMで流れていた星野源の新曲“創造”のフルバージョンが、遂にリリースされた。
『第71回NHK紅白歌合戦』でも素晴らしい演奏を披露した“うちで踊ろう”や、“折り合い”など、2020年は聴き手に寄り添うような穏やかな曲を世に放ってきた星野だが、“創造”は一転、自身の衝動を感じさせる、ハイテンションな1曲。星野自身、「じっくりと時間をかけた楽曲制作は久しぶりです」とコメントを出しているように、音楽そのものを喜び、楽しみながら生み出されたことが伝わってくる濃密な新曲だ。
ゲームフリークとしても知られる星野が長年愛し続けてきた任天堂作品とのコラボレーションということもあって、この“創造”は、星野にとって「ものづくり」の原初的な喜びを発露させる1曲になったようだ。そしてそれは結果的に、この時代を生きる私たちへの強いメッセージをはらんだ曲にもなっている。リモート取材にて、星野が新曲“創造”に込めた想い、そして「ものづくり」という観点から見えてくる人間という生きものの姿を語ってもらった。
スーパーマリオブラザーズ35周年テーマソングが、「ものづくり」をテーマにした楽曲になった理由
―新曲“創造”は『スーパーマリオブラザーズ』の35周年テーマソングとして作られた楽曲ということですが、曲のなかに組み込まれている『マリオ』シリーズのSE(効果音)は、実際の音源をサンプリングしたのではなく、アナログシンセで演奏されたそうですね。
星野:そうです。ただ持ってきたものを並べるのではなく、キーや音程も含めてしっかり曲に組み込まれてなければいけないと思いましたし、ちゃんと血肉として曲にしたかったので、弾き直しました。こういったことを、公式に全力でできるのが楽しかったですね。なかなかできることではないので(笑)。
―そうですよね(笑)。本来は権利関係でなかなか難しかったりします。
星野:「堂々とできるなら、めちゃくちゃ遊ぼう!」と思いました。僕は初めてやったゲームが『スーパーマリオブラザーズ』(1985年)で、今回はその誕生から35周年なので、あの8bitの世界をイメージしながら、アナログシンセを並べて音を作っていきました。
―そもそも星野さんのなかでは、マリオというモチーフからどのようにして「創造」という曲のテーマが連想されていったのでしょうか?
星野:これは自分にとっての「ものづくり」の歌なんです。10代から音楽や演劇という表現を続けてきて、自分がものづくりに対して思っていることややってきたなかで培った考え方のようなものに、任天堂へのリスペクトが重なるような曲にしたいなと思っていました。僕が任天堂に対して素敵だなと思う部分、影響を受けている部分を重ね合わせて表現するような形ですね。
―星野さんは任天堂のものづくりのどんな部分をリスペクトしているのでしょう?
星野:やっぱり経営理念である「独創」ですね(模倣によらず、独自の発想で作りだすこと。任天堂の3代目社長・山内溥が好んで使った言葉としても知られる)。
ゲーム機を作るいろんな会社が技術の発展に従ってハイスペックなものを目指すなかで、任天堂はそういう要素も持ちながら、同時に、任天堂にしか持てない視点とアイデアを持って、誰も到達できない、任天堂にしか行けない場所に常に行こうとしてきた。そういうところが、すごくかっこいいなと思います。特に、僕はWiiが出たときにめちゃくちゃ感動したんですよ。最初のトレーラー映像が出たとき、とんでもなく興奮して。
非常識を新しいスタンダードにーー星野源の根底にある「ものづくり」に対する考え方
―Wiiのどんな部分が星野さんを興奮させましたか?
星野:時代と共にどんどんゲーム機というものの形が固まってきたなかで、Wiiは遊びの構造自体を変えるものだったですよね。もう既に多くのスタンダードを生み出していた任天堂が、そこに甘んじず、スペックの高いものを作る競争から外れて、ゲーム機を触ったことのない人たちにも届けることを目指した。家庭用ゲーム機をそれまでの常識の外側へ普及させようとしていたんです。その視点って、言ってしまえば、みんなが同じ方向を向いているときに、逆走し出すようなものだと思うんですよ。
星野:その瞬間、みんなが向いている方向にあるものが「常識」や「トレンド」なのだとしたら、そうじゃない方向に走り出すことは「非常識」なことで。でも、それを任天堂は工夫や面白さで実現してきた。任天堂が動くことで、世の中が、それまで非常識だった方向に動きはじめるんです。こういう改革を、任天堂はやり続けてきたんですよね。
―“創造”の歌詞に<枯技咲いた場所から 手を振る普通と / バタつく未来を 水平に見た考案>というラインがありますが、これはゲームボーイなどの開発に携わった任天堂の技術者、横井軍平氏の「枯れた技術の水平思考」を想起させますよね。これも任天堂のものづくりを象徴する考え方だと思うし、星野さんがこの歌詞を書かれたことに強い思いを感じました。
星野:そうですね。もう普及しきってるものを捨てて、新しい技術に飛びつくのではなく、みんなが見慣れているものと見慣れない新しいものを水平に見る……そういう「枯れた技術の水平思考」の考え方って、音楽にもつながるんです。特に音楽は、循環していくものなので。いろんな時代のものが、新しいものに変わったりしますから。
それに、こういう考え方はきっと任天堂のなかに脈々と受け継がれているものだと思うんですけど、同じ場所に止まることはしないし、常に破壊と創造を繰り返しているんですよね。受け継ぐだけだと古くなってしまうだけだけど、世の中や世界が変わっていくなかで、先を見据えながら、自分たちが大事にしたいものを守りつつ、破壊と創造を繰り返して新しくなっていく。それが任天堂のすごさだと思います。
クラスからあぶれてしまっていた少年時代から、『おげんさんといっしょ』まで。星野源は「ものづくり」を通じて、他者と、社会と向き合ってきた
―そうした任天堂の考え方や価値観が、星野さんの音楽活動や人生観にも重なる部分がある?
星野:それはありますね。僕は、小さい頃から「自分はこう思っているけど、みんなは違うことを思っているな」と感じることが多くて。自分はこうしたいけど、多数決で負けてしまう、みたいなことが多かったんですよ。たとえば、小さいことだけど、ハンバーガーチェーン店の僕の大好きなメニューが、グランドメニューから省かれてしまうとか(笑)。
―小さいけどショックですよね(笑)。
星野:そういうことが、小さい頃からすごく多かったんです。コミュニケーションも苦手だったので、クラスでもあぶれてしまうタイプだったし。
でも、中学生の頃に音楽を作りはじめたとき、自分の曲を聴いてくれた友達が「すげえいいじゃん! 詞を書くから曲を作ってよ」と言ったんです。それは中学生同士の気軽なやりとりではあったんですけど、それまで自分はズレていて、みんなとは違う方向を向いていると思っていたところが、なにかを作ることで、自分がいる場所に中心がくるような……そんな体験でした。自分は、これまでいろんな場面でそういう体験をしてきたなと思うし、それが自分にとっての社会との向き合い方であり続けてきたなと思います。
僕が組んでいたインストバンド・SAKEROCKの頃から、歌っている今まで、自分はこれが好きだし、普段、こういう音楽に振り向かないような人たちを振り向かせる、世の中をズラす、という気持ちでやっていて。そうやって活動し続けることで、それまで世の中の「普通」ではなかったことが、「普通」になっていくような感覚を得てきたんですよね。
『おげんさんといっしょ』(NHK総合)もそうでしたね。やる前は「そんなこと成立するんですか?」と言われるようなことでも、それを成立させることによって周りのスタッフや、世の中の人にとってそれが「普通」になっていく。そういう体験をしながら進んできたし、それが自分の「ものづくり」のやり方なんです。なので、任天堂のようなグローバルな会社がそれをやり続けていることには、すごく勇気をもらえるんです。
「20代前半に戻ったような無茶な感じがあるんです(笑)」――“創造”は、星野源が抱く音楽の喜びを爆発させて生まれた
―“創造”は、星野さんとしては初めてキーボードを使って作曲されたそうですが、ギターでの作曲とはどんな違いを感じられましたか?
星野:ずっと自分はギターを弾きながら作曲してきたので、「ギターらしさ」みたいなものから離れた曲を作りたいということを『YELLOW DANCER』(2015年)以降やってきていて。あのアルバム以降、自分でギターを弾くことをなるべく減らしていたんです。
ただ、今まではギターで作曲をしつつ、編曲の段階でギターをキーボードに変換していたんですけど、キーボードでの作曲の場合、最初からイメージに近い形に辿り着けるのがすごく大きいですね。それに、ギターだと長年やってきた分、自分の手癖がありますけど、キーボードの場合、頭では理解しつつも、慣れていなくて指が動かないことも多くて。そのハプニング性がすごく楽しいんですよね。「すごい変な音出たけど、すごい面白い!」みたいな。
―ははは(笑)。
星野:20代前半に戻ったような無茶な感じがあるんです。SAKEROCKの初期の頃の音源を聴くと「めちゃくちゃだな」と感心するんですけど(笑)、今の自分にとってキーボードでの作曲は、そのくらい面白い体験です。これまでいろんな積み重ねをしてきた自分のまま、整理されていない感覚にいけているのがすごく楽しいんですよね。
―今言っていただいた新鮮な喜びは、曲を聴いてもすごく感じます。“創造”はスピードも速いし、構成も独特だし、サウンドもカオティックで、星野さんの衝動や興奮がそのまま音像化されているような曲ですよね。
星野:うん。興奮しながら作りましたね。……アホみたいな言い方ですけど、「なんかすごい曲」を作りたかったんですよ(笑)。
―ははははは(笑)。
星野:「この曲、なんかすごくない?」みたいな(笑)。ジャンルはもはやどうでもいいというか、ジャンルの壁を超えるような曲というか。もちろん、自分のなかにはいろんなバックボーンがあるけど、「あのアルバムのあの曲の感じで」ということではなく、今までの自分の延長線上でありながら、シンプルに言うと、今までにないものが作りたかった。
理由はよくわからないけどすごく惹かれてしまうような、ドライブをしながら聴いたら楽しくてスピードを上げたくなっちゃうような、そういう楽しい驚きを感じてもらえる曲になればいいなと思ったんです。歌詞でも<驚いた笑顔見せて>とありますけど、やっぱり、ものを作るからには驚いてもらいたいんですよ。「面白いねー!」と言ってもらいたいし、自分も「面白いのできたー!」と思いたいから。
―それがきっと、「ものづくり」の根源的な欲求なんですよね。
星野:それをやっていくことが、自分にとっては楽しいことで、好きなことなんです。“創造”は、とにかく自分が楽しいこと、好きなことをやろうと思って作りました。
「人間の一番の特徴は、想像を具現化できることだと思うんです」
―“創造”は、人の内側に眠る創造力の存在に気づかせてくれるような、聴いている人の背中を押すような曲だと思ったんです。今は特に、家にいる時間が長くなった人も多いと思うし、そういうなかで「なにかを作りたい」と思う人も多いんじゃないかと思うんです。そんな人が“創造”を聴くと感じることも多いんじゃないかと思うし、あるいは「作りたい」と思いながらも一歩踏み込むことができていない人にも、この曲が届けばいいなと思うんですよね。
星野:そうですね……僕が小さい頃に比べるとSNSもあるし、動画サイトもあるし、なにかやったら、だいたい誰かが見てくれるという状況は揃っていますよね。みんな「作りたい」と思っているし、「発信したい」と思っているし、やっぱり、人間ってそういうものなのかなと思います。
人間という生きものは昔から、食べものを作ったり、敵から身を守ったり、生殖に必要な相手を見つけたりーーそういう弱肉強食的な仕組みから外れたところでも、綺麗な器を作ることや、いい歌を歌うことで「あいつ、すごいね」と言われて、生きることができる……人間の一番の特徴は、想像を具現化できることだと思うんです。パッと周りを見渡してみたら、自分の身の周りにあるものって全部、人間が作っているんですよ。当たり前ですけど(笑)。パソコンもそうだし、キーボードのキーひとつ取ってもそうだし、そこにはそれを作った人や関わった人の想像力が詰まっているわけです。部屋の壁紙だってそうだし、とにかくこの世は人間の作ったもので溢れている。それって改めて考えると……すごいですよね?(笑)
―はい、すごいと思います(笑)。
星野:人間って、「想像してしまう」し、「作れてしまう」生きものなんだと思います。
―“創造”の歌詞のなかでは、「繰り返す」ということも象徴的に歌われていると思ったんです。星野さんにとって創造することは、「繰り返す」ということと密接につながっていることですか?
星野:「繰り返す」にはいろんなイメージがあるんですけど、たとえばマリオって、何回も死ぬじゃないですか。何回も死んで、行けなかった場所に行けるようになったり、次の道を見つけ出す。そうやって繰り返して先に進んでいくのは、僕のものづくりも一緒なので。なにかひとつのものを作ったら、行きたい場所に行けなかったり、「もっとこうすればよかった」「次はこうしよう」って反省点や改善点が見つかって、繰り返していく。ゲームのように全く同じ状況というのは二度と来ないけれど、繰り返していれば、もっと面白い場所に行くことができる。それって素晴らしいことですよね。
- リリース情報
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- 星野源
『創造』 -
2021年2月17日(水)配信
- 星野源
- プロフィール
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- 星野源 (ほしの げん)
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1981年、埼玉県生まれ。音楽家・俳優・文筆家。2010年に1stアルバム『ばかのうた』にてソロデビュー。2015年12月にリリースしたアルバム『YELLOW DANCER』がオリコン週間アルバムランキングで1位を獲得。2016年10月にリリースしたシングル『恋』は、自身も出演したドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』の主題歌として社会現象とも呼べる大ヒットとなる。2018年12月19日には約3年ぶりとなる5thアルバム『POP VIRUS』をリリース、同年のソロアーティストのアルバム作品の初週最高売り上げを記録するなど、オリコン / ビルボードなど主要ランキングで軒並み1位を獲得。2019年8月30日に全楽曲のストリーミング配信を解禁、10月には国内外のアーティストを迎え制作したEP『Same Thing』を全世界配信リリース。11月からは自身初のワールドツアーを開催し、大成功させた。俳優として、映画『箱入り息子の恋』(2013年 / 市井昌秀監督)、『地獄でなぜ悪い』(2013年 / 園子温監督)などに出演し、『第37回日本アカデミー賞新人俳優賞』などの映画賞を多数受賞。ドラマ『コウノドリ』シリーズ(TBS)、大河ドラマ『真田丸』(2016年 / NHK)、『逃げるは恥だが役に立つ』(2016年 / TBS)、『プラージュ』(2017年 /WOWOW)、『MIU404』(2020年 / TBS)など出演作多数。また、作家として著書『蘇える変態』、『働く男』、『そして生活はつづく』、『星野源雑談集1』『いのちの車窓から』を刊行。幅広い活動が評価され、2017年3月には第9回伊丹十三賞を受賞した。
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