GEZANマヒト×Essential Store田上 人を繋ぐ「モノ」の力

GEZAN・マヒトゥ・ザ・ピーポーによる対談連載、『闘争』。第2弾は、大阪市福島区で古道具、アンティークを扱う「Essential Store」のオーナー・田上拓哉を迎える。居場所、行き場所、還る場所までがあっという間に奪われ、生きる実感の在処に混迷し続けた2020年。精神的にも物理的にもあらゆるものの距離感が離れてしまったコロナ以降の状況下にあって、「モノ」(=人の息遣いを宿すもの)を手にすることから生まれる感動、衝撃を見つめ直したとマヒトは語る。自粛と隔離の中で改めて生まれた、人との出会いへの渇望。そしてカルロス尾崎の脱退を発表したGEZAN自身が、次なる時代をともに生きる人との出会いを望んでいる。異物の一つひとつに唯一の価値をつけ、それぞれのストーリーを仲介していく田上との会話を通して「出会い」へのヒントを得たいと願い、実現したのがこの対談だ。

1月13日から25日まで渋谷ヒカリエで開催された、21回目となる『Silent Auction 21』は、田上とEssential Storeの哲学の核心とも言える催しだった。ずらりと並んだモノ、モノ、モノ……用途も、生まれてきた理由もわからない異物達だからこそ、それを作り上げた人の生きた跡に想いを馳せ、自分の生活の景色へ持ち帰った時のこともまた想像する。「わからない」の奥にある面白さと、自分以外の存在に向き合う時間を生むことにこそ、このオークションの狙いがあった。

どんな存在にも、その存在だけの価値がある。言葉にすればたったそれだけだが、自分の人生すら情報の一部になって流れていくばかりの今日に忘れてしまいがちな「生きた実感」を失わないための語録がここにある。

コロナ以降の実体のない日々の中で、モノと自分の関係を考え直すことが増えた。異物がそこに存在していること、「なんだこれ!」っていう衝撃を受けることで、自分が存在していることもまた実感できるんだよなって。(マヒト)

マヒトゥ・ザ・ピーポー
2009年、GEZANを大阪にて結成。バンドのボーカル・作詞作曲を担う。自主レーベル「十三月」を主宰し、野外フェス『全感覚祭』も開催。2018年に『Silence Will Speak』をリリースし、2019年6月には、同作のレコーディングのために訪れたアメリカでのツアーを追ったドキュメンタリー映画『Tribe Called Discord:Documentary of GEZAN』が公開された。2019年10月に開催予定だった主宰フェス『全感覚祭』東京編は台風直撃の影響で中止となったが、中止発表から3日というスピードで渋谷での開催に振り替えられた。1月29日に『狂(KLUE)』をリリース。マヒト個人もソロワークを展開し、青葉市子とのユニット・NUUAMM、文筆業など、多方面で活動中。

マヒトゥ・ザ・ピーポー(以下:マヒト):この連載、タイトルが『闘争』であるばっかりに、誰と話すかを考え過ぎて時間が空いちゃったんだけど(笑)。

―はい(笑)。ということで、対談連載の第2回目となります。今回は大阪で古美術品を扱う「Essential Store」のオーナー・田上拓哉さんをお迎えしました。GEZANにとっては、カルロスさんが脱退された大変な状況の中ですが、そんな今、マヒトさんが田上さんと話したいと思った理由から教えてください。

マヒト:まずこの1年、コロナ以降は情報の速度が圧倒的に速まったよね。でもその全部が虚構っぽく流れていく感覚があって。そもそもウイルス自体が目に見えないから、「重症化するとこうなるよ」っていう情報に怯えることはあっても、実感なくイメージだけで終わることが多いじゃない?

もちろんコロナにかかった人からすれば「そんなもんじゃねえよ」って感じだろうけど、そうじゃない人からしたら実感のないものに怯えて、情報だけが回転する日々に疲弊していくばかりで……しかもGEZANはメンバーが脱退すると。その中にあって、人と自分、モノと自分が出会うことについて考え直すことが増えたんだよね。で、Essential Storeは前から好きで行かせてもらってたんだけど、モノと自分について考えている時に「Silent Auction」をやると知って。

―1月末に渋谷ヒカリエで行われた催しで、レイアウトされた骨董・ヴィンテージ品に入札用紙だけを入れていくオークションですね。

Essential Storeが主催した「Silent Auction」。1月13日から同25日まで、渋谷ヒカリエにて開催された。マヒトのソロアルバム『不完全なけもの』のジャケット写真に登場するお面も、Essential Storeで購入したもの。

マヒト:そもそも拓哉くんのセレクト自体が面白いし、いわば異物と異物の化学反応みたいな空間だったわけだけど、それを見た時に、「なんだこれ!」っていう衝撃を受け取ることによって自分がそこに存在していることを実感して。で、その「存在することに対する感覚」が、モノ・人と出会うことに思考を巡らせていたところにピタリとハマった気がして。実態がない日々の中でも確かな存在を実感して、モノを通じて、人の存在に想いを馳せること……いろんなヒントをくれた拓哉くんと話したいと思いましたね。

田上拓哉(以下:田上):3年くらい前にマヒトくんがお店に遊びに来てくれて、僕ももちろんGEZANを知っていて。共通の知り合いも多かったから、「マヒトくんっていう面白い子がいるよ」ってよく話を聞いてたの。割とそれからすぐのタイミングで出会えたのが面白かったよね。で、今言ってくれたことは僕がEssential Storeを通じてやりたいと思っていたことが伝わってるってことやから、すごく嬉しい。

マヒト:いろんなモノの価値が数字に置き換えられて値札がついてる社会で、その流れはどんどん加速してるじゃないですか。だけどモノの価値は、生きてきた道筋によってそれぞれに変動し得るわけですよね。

俺の話をすると、昔、島根の爺ちゃん家の納屋にメノウの石があって。陽に当てると紫が抜けるから外で見ちゃダメだって言われてたから、いつも懐中電灯で光を当てて「綺麗だなあ」って見てた。俺は、それが忘れられないんですよ。メノウをお金に換算したら一番安い類の宝石になるわけですけど、俺にとっては納屋でメノウを眺めている時間、行為も含めて大切だったんですよ。言ってみれば、俺の記憶に刻まれたメノウの石は、その辺で売ってるメノウとは違う。それと同じで、モノの価値っていうのは本来、人によって異なるわけで。

だけどその「価値」が資本主義っていう構造に集束されて、「お金を稼いで数字に換算する」っていうシステムが社会をコントロールしている。で、その構造に飲まれることで取りこぼしている感覚がたくさんあるよなあっていう想いが漠然とあって。だから『全感覚祭』とかでは、ライブの価値、食べたものの価値、その日1日の価値を人それぞれに一任して、投げ銭にしてきたんだけど。その意味においてEssential Storeの面白い部分は、アウトサイダーアートの巨匠の作品も、大学生が描いた面白い絵も一緒の空間に並んでるわけ。なんなら拾ってきたような木まで飾ってあるしさ。

my ceramics(FF)

田上:あれは僕が5年くらい育てた木で(笑)。大事に置いてた木が枯れて、凄く悲しくて。せめて綺麗にしてあげようと思って紙でこすりまくったんですよ。そしたら滑りがよくなって、握るとクルクル回るようになったの。回してるうちにお清めみたいやなあと思って、今回の「Silent Auction」を始める際にも願掛けとしてあの木を回して(笑)。それが気持ちよくてね。

田上拓哉(たのうえ たくや)
大阪市福島区の「Essential Store」オーナー。同店舗は年2回、夏と冬の期間限定でオープンする。古道具、アンティークを主として、アパレルなども取り扱う。店内の併設ギャラリーにて不定期で開催する『Silent Auction』は、入札用紙だけで価格をつけられる仕組みによって、モノの価値を再考する場所として話題を呼んでいる。

マヒト:ある種、そのモノが置いてある場所によってはガラクタと呼ばれちゃうものに光を当てるっていう……その行為を人に置き換えると、「優しさ」と呼べると思うんですよね。「こういう人もいていいじゃないか」「確かに存在しているじゃないか」っていう感覚。そういう意味で「Silent Auction」は『全感覚祭』と通ずる精神性があると感じていて。多様性って言葉にすると軽くなっちゃうんだけどさ。で、自分の思う価値を提示したり、いろんなものと出会ったりするためのアンテナをどう張っているのかを聞きたくて。

田上:もちろん骨董やアートっていうフィルターも自分の中にはあるんですけど、でも自分のやっていることに本当に適した言葉って未だに見つからなくて。たとえば買い付け1回ですごい金額を使うんです。毎年アメリカに買い付けに行く時は、長くて1か月、12000km移動するわけです。古いモノをひたすら集めて、一般的なサラリーマンひとりが小遣いで好きなモノを買う、その10年分くらいを1か月でやっちゃうんですよ。

マヒト:へえー!

田上:じゃあどんなアンテナでモノを見つけていくかというと、「これとこれが隣に並んだ瞬間にお互いがよく見える!」みたいな感覚なんですよ。一切狙ってないのに、モノとモノが波動を与え合ってるように見える瞬間があって、その連鎖でモノを購入していく場合がたくさんあるんです。

いろんな人がいろんな時代に生きていたこと、いろんな人がいろんな営みをしてたこと……人の存在に思いを馳せる想像力は、モノが受け継いできた記憶から受け取ることができると思ってるんですよね。(田上)

田上:買い付けを10年以上やってきて、「何かわからないけど」っていう感覚の中に宿るパワーに対する確信が芽生えてきて。

これは少し話が大きくなるけど、人間の可能性って何やろなって考えた時に——たとえば僕が意識だけを上に飛ばして、自分がマヒトくんと話している様子を水槽を眺めるように見ることが可能やと思ってて。で、アンティークとかを通して、人にもその感覚を生むことができるんじゃないかと思うんですよ。たとえばどこの誰のものかもわからない古い写真を見て「この景色すごいな!」って思った瞬間、意識は景色の中に飛ばすことができるじゃないですか。そういう意味での想像とか、モノを通じて自分の感覚を震わせるっていうことが今こそ大事なんじゃないかなと思ってて。

「Silent Auction」展示物

マヒト:そうですよね。

田上:実感が薄れていく今こそ、より具体的な想像力が人の可能性になっていく。アンティークとかを通して、普段見ているものを違う角度で見られるようになったら、さっき言ってた幽体離脱の感覚みたいな感覚も生まれてくるはずで。いろんな人がいろんな時代に生きて、いろんな営みがあったこと……人の存在に思いを馳せる想像力は、モノが受け継いできた記憶から受け取ることができるんですよね。

マヒト:一般の会社員の10年分の小遣いを1か月で使って買い付けしてるって言ってたじゃないですか。それって、一生かかって一度出会えるかどうかの宝物に連続して出会っているトランスな状態だと思うんです。で、その旅の中で出会えるモノにもいろんな人の生きた跡が残ってるわけですよね。だから拓哉くんは、ある意味で「記憶を売ってる」というか、媒介者っぽい感覚があるんでしょうね。

俺も、モノ自体が持ってる記憶が絶対あると思うんですよ。たとえば墓石も言ってみればただの石ですよね。だけど、いろんな人が石の前で祈ってきた分、多くの想いが石に宿っていって、ただの石じゃない存在として概念が変わっていく。じゃあ石以上のモノになった存在の前を誰かが歩いたら、違う波動と違う波動がフィーチャリングしてオバケみたいなものを感じたり、石以上の情報を拾ったりっていうことが起こり得ると思うんですよ。それと同じで、骨董も「人が生きていたことの記憶」なわけじゃないですか。

田上:まさにそう。17歳くらいの時に西成の泥棒市に行ったら、スキンヘッドで作務衣を着た仙人みたいなおっちゃんが話しかけてきて。「兄ちゃん、ええ目してるから骨董やったらええわ」って言われたのよ。「モノには湯気があるから、その湯気を感じながら骨董やったらええわ」って言われたのが心にバシーンときたんですよ。モノに湯気があるとか、何かが宿ってるとか、そういう概念自体が衝撃で。

マヒト:目に見えないものの存在を認めてもいいんだっていう話ですよね。

田上:そうそう。価値観とか感覚への概念が変われば、感じることと見えることの間に線がなくなっていくというか。……で、買い物が終わってから仙人のおっちゃんに会った場所に戻っても、どこを見渡してもおらんようになってて。

マヒト:妖精じゃん(笑)。モノの湯気の話は、俺が音楽をやってる時に感じてることと近くて。自分が声とかギターとかベースにこだわって、それを生で感じることをライブと呼んでるのは、ちゃんと存在していることを感じたいからなんですよね。もっと言えば、音楽っていうのは俺が集めてきたメロディや言葉が持ってる記憶を残してるっていうことで。そしたら今度は、歌が人の記憶になって、人それぞれのストーリーになっていくわけだよね。そういう出会いの連鎖とか繋がりに俺は救われてきたなあって改めて思うんですよ。

たとえばパソコン上で作られた音楽は、音を限りなく情報として捉えているもので。打ち込みでギターを鳴らす音楽も、情報としてなら精密なんだろうけど、情報以上に、その場で呼吸して同じ振動の中で存在しているっていうことを感じられるから俺は音楽をやってるんです。

田上:それはやっぱり、コロナ禍で人と人の距離が変化したからこそハッキリしたこと?

マヒト:それはあると思う。きっと、一生パソコンの前でバーチャルな世界を生きる人もいるとは思うんですよ。自粛期間中に、パソコンの前だけで何でもできるじゃんって感じた人も多いだろうし。

だけどさ、どんなにテレワーク最高だって感じてる人でも、人が呼吸して存在してるっていう圧倒的な事実に触れられない違和感には気づいたと思うんだよね。で、その違和感こそが次の時代へのヒントな気がしていて。もしかしたら1年後には世の中が元通りになるかもしれないし、あるいは科学ばかり進歩して、それが未来だよねってことになるかもしれないけど……でも、「情報だけが加速すること」と「確かな体温への実感」の間にある違和感をヒントにしないと前には進めないと思う。

音楽をやってるのも、集めてきたメロディ・言葉が持ってる記憶を残してるっていうことで。そしたら今度は、歌が人の記憶になっていくわけだよね。そういう出会いの連鎖とか繋がりに俺は救われてきたんだよ。(マヒト)

マヒト:人間にしろモノにしろ、効率や利便性だけで成立してるわけじゃないから。揺れてる部分、ある種のカオスを個々が持ってるっていうこと自体が今に対するカウンターになっていくはずで。不都合さとか歪みの部分にこそ「存在」が証明されると思うからね。拓哉くんが提示しているモノに関しても、利便性だけで言ったら低いでしょ(笑)。だけど「なんだこれ!」っていう出会いにこそエネルギーが生まれるのは間違いないんだよね。

田上:それも結局、目に見えてるものを見るだけじゃなく、ちゃんと感じられるかどうかっていう話やと思ってて。僕が20代後半くらいの時かな。龍波動治療院(大田区の気功治療院)の澤井勇人っていう先生に出会ってね。その人が面白くて。当時僕が27歳くらいで、モノ作りのアイデアを求めて遊びまくってるうちに体もメンタルもバランスを崩してしまってね。それもあって通い始めたんだけど、その時に澤井先生に「パワーストーンと呼ばれるものをどう思います?」って訊いたの。

田上:そしたらさ、「パワーストーンを持ってると力が湧いてくるって言う人がいる。それだけパワーがあるなら、たとえば隣の住人がデカいパワーストーンを持ってたら壁1枚くらい突き抜けて影響してくるはずでしょ。でも自分がそのパワーストーンの存在を知らなかったら、何も感じない。結局は自分が自覚するかどうか、それ次第なんだよ」って言われて。うわーって思ってね。「パワーストーンも、土を掘って岩を割って出てくる。つまり地球から生まれてくるよね。じゃあ今、僕らは地球っていう巨大なパワーストーンの上に立ってるってことだよ。それを感じちゃえばいい」って言われたのが衝撃で。

マヒト:あー、なるほどなあ。面白いっすね。

田上:その時から感覚のリミッターが外れてしまって。で、僕もそういうことを伝えられる仕事がしたいと思って、それがEssential Storeのコンセプトのひとつになってるんですよね。だから僕が意識しているのは、有形物を扱いながら、無形物を扱ってるような。言葉では説明しにくいけど、脳内活性みたいに、人の概念とか回路を増やしたいっていうことなのだと思います。

マヒト:結局、元々あるはずの回路が繋がるかどうかってことですよね。きっと人って、元々持ってる感覚でも言語化したり具現化したりするのは体力を要するから、数値化して「わかりやすい」って言っちゃうんだろうね。で、誰しもが社会から値札を貼ってもらうのを待ってる状態でさ。いくら稼いだとか、いくら数字を持ってるとか、それって元々は個人の存在とは関係ないのに。

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マヒト:「Silent Auction」を見ていても、いろんなモノを感じることによって、自分の生活を思うわけですよ。このツボを家に置いたら空間がだいぶ歪むなあ、とかさ。で、基本的に拓哉くんがセレクトするものは、空間を歪ませるものしかない(笑)。

田上:ははははは。そうですねえ。

マヒト:だからこそ自分のドキュメントの中で、「このモノが俺の空間に入ることで、何がどう変わるんだ?」って考えられるんだよ。で、「ステイホーム」って言われる日々は、自分の部屋の景色が基本的に変わらなかったわけで、情報ばかりが加速する社会と変わらない生活の間に歪みが生まれて、「自分の生きてる実感はどこにあるんだろう」っていう思考になるわけでしょ。だけど生活に歪みを与えてくれるモノと出会うことで、生活もまた実感できるし、それはつまり自分の存在がここにあるって感じることに直結するんだよね。

田上:まさに、それを狙ってこのタイミングで「Silent Auction」をやったのよ(笑)。何が好きで生きてるのか、何のために生きてるのかって考える時間が増えたのがコロナ以降やろうけど、そこに活力を生みたいと思って。やっぱり人って、元気のある状態で何かに取り組むとどんどん楽しくなるし、いいものが作れるし、そうなるともっと活力が湧いてくる。活力っていうのは手段やと思われるけど、本当はそれ自体が目標であり、生きる目的のような気がしててね。単純に、モノを置いて「いい感じやな」って思えるのはいい時間やし、元気が出るでしょ。

マヒト:そういう時間があることで免疫が上がったり活力が生まれたりっていうのは実際にあると思うし。で、それは音楽にも言えることだと思うんですよね。音楽を聴きながら街に出て、満員電車でも音楽で自分を防御するとか。守ったり強気になったり、音楽によって生活を自分の形に歪ませることができる。だから、そこに共通したものを感じるし、拓哉くんのやってることは昨今の状況において必然的だなって思うんですよ。

田上:緊急事態宣言も再び出てるタイミングだからこそ、多くの人が静かになってしまってる今やらなアカンって思ったんですよ。実際にモノを見て強烈な感情が生まれたなら、それ自体が活力になると思うし。

バンドってもちろん人間関係の話でもあるけど、だけどそれ以上の繋がりを持ってる。その美しさを夢見てたし、GEZANはそれを実現していくバンドだと思ってたけど……それが一度ぶっ壊れるくらい大変な時代なんだよね。(マヒト)

マヒト:……まあ、俺なんか今一番元気がないタイミングですからね。

田上:古くからの友人でありメンバーが脱退するわけやからね。

マヒト:2021年行ったるぞ、みたいなタイミングで出鼻くじかれたわけですし、とことん凹みましたよね。で、俺にとっては「出会い」っていうのがつまりライブなんですよ。たとえば「Silent Auction」にアイコニックなぬいぐるみがあったけど、あのぬいぐるみだって、ただ透明な入れ物にハメただけで表情も匂いも変わるわけですよね。あれも「モノの湯気」だし、出会いによって景色が変わっていくことの証明だと思うんです。

田上:まさに。しかもあのぬいぐるみの写真が出回って、どんどん人を呼んでくれてね。あのぬいぐるみを見たいっていうだけのお客さんもたくさん遊びに来てくれて。言ったら、「このぬいぐるみをこの入れ物にハメたら違う見え方になるかも」っていう想像力ひとつなわけ。そこでも、モノが持ってる記憶とか出会いが交差して面白いものが生まれてるってことやから。

「Silent Auction」で注目を集めたぬいぐるみ。ぬいぐるみと入れ物は別々に入手されたもので、田上の思いつきでひとつの作品になった

マヒト:たとえば俺の場合、ライブをやっていても目の前の人を見ようっていう意識はないんですよ。だけど、その空間の一番遠くを見ようっていう感覚だけはある。これって逆のことを言ってるようで同じ意味だと思うんですよ。その空間を作っているのは間違いなく一人ひとりなわけで、同じ空気、同じ振動をともに感じて生きてるんですよね。クラブとかもそうですよね。歌詞がなくても何言ってるかわからなくても、圧倒的な体験とピースがあったりするわけですよ。それは、音と人の空間だけで言葉じゃない何かを共有してるってことに尽きると思う。

田上:たとえば水を入れたコップがふたつあって、片方だけに「美味そうな水やなあ!」って語りかけ続けたら、人は語りかけ続けた水を美味く感じるっていうデータが実際に残ってて。言ったらライブハウスって、それのエグいバージョンやと思うんですよ。人はほとんどが水でできているわけで、無形の音楽に全員が集中して、その熱気が水蒸気になって、全員で共有する。人が夢中になる時のポジティブな活力が、水を通じて確実に空気になってるわけですよね。目に見えないものの中で人同士が出会ってるっていうか。

マヒト:……それで言うと、ライブの制作や映像チームも交えて、カルロスが抜ける時にミーティングをしたんですよ。で、bloodthirsty butchersのドキュメンタリー映画(『kocorono』)の監督をやってた川口潤さんがいたから、その映画の話をしたんですね。言ったらその映画って、メンバー同士がギャラのことでモメてるところも映像に収めてて。メンバー同士でモメてるのに、オリジナルメンバーは一切変わらずに続いてるのは何故なんだろうっていう問いに対して、ステージ上のメンバーの表情で回答してくれる映画なんですよ。

田上:ステージ上の表情というと?

マヒト:人間関係がこんなにグチャグチャなのに、ステージ上のグルーヴが離脱させてくれない、脱退を許してくれないっていうのが伝わってくるんです。バンドってもちろん人間関係の話でもあるけど、だけどそれ以上の繋がりを持っていて。その美しさを夢見てたし、GEZANはそれを実現していくバンドだと思ってたんだけど……そしたら川口さんに、「ブッチャーズも、発汗によるポジティブなコミュニケーションを確認できていたから続けられたんだろうね。逆に言えば、ブッチャーズもライブができないこの時代だったら違っていたかもしれないよ」って言われて。その時に、やっぱり俺は大変な時代に生きてるんだなって改めて実感して。

マヒト:GEZANが4人でやった最後のライブが去年の12月31日になったわけだけど、その時にも“absolutely imagination”をやって。どんな時代が来ても想像力さえ持てばサバイブできるってことを話したのね。それが、今の自分への願掛けみたいに跳ね返ってきてて。個人単位でも命を絶ってしまう人もいたし、ギリギリでこの仕事をやってきたけど諦めざるを得ない人もいるし……絶対大丈夫だと思ってきたGEZANがぶっ壊れるくらい強烈な時代なんですよ。で、最後に残ったのがクソガキみたいな3人ですよ。俺、イーグル、ロスカル。

田上:はははははは! 笑えないことやとは思いつつ。

マヒト:でもね、現実的じゃないガキどもだからこそ、体温から生まれる湯気を信じて貫くべきだと思うんですよね。このモノに価値を見出せる自分、好きなものを自覚できる自分。もっと言えば、言葉やメロディがここに至るまでに辿ってきた記憶に思いを馳せる想像力。それが自分を存在させてくれるし、救ってくれると信じてるんですよ。

田上:もっと言えば、この先に出会う人っていうのが、次の時代を生きるヒントをくれるような存在になっていくんやと思うけどね。人それぞれに周期はあると思うし、きっとマヒトくんで言ったらバンドの充電期間なんやと思う。俺で言ったら、逆に今こそ動きまくる周期なんやろうし。ちゃんと今は充電期間やと思って過ごすのと、ただヤバイと思って動いてるだけなのと。それは全然違うことやから。

マヒト:そうですね。ぶっ壊れた成れの果てを超えての出会いだからこそ、新しい時代を生きる仲間になっていくってことですもんね。……うん、そうだな。

GEZAN

「特別」にしろ「オリジナリティ」にしろ、すべては概念の刷り込み。そこを全部フラットにすることが自分を自由にしてくれるし、それこそが自分やから。(田上)

田上:大変な時代になったと思うし、いろんなものが変わってた感覚は現実あるんやけど……でも僕は自分の直感しか信じてこなかったから、ブレなかったんですよ。もちろん喰らってる人もたくさんいるから、自分のことを大きな声で言うつもりはないんやけど。でも、今の社会の混乱にしても、自然のひとつの流れとしか受け止めてなくてね。コロナにかからないようには意識してるけど……個々の役割をみんなが実感した上で一致団結する、そのスタートラインにようやく立っただけっていう感覚がある。

自分にできることに没頭して、結局それが人に活力を与えることになって、個々の活力が束ねられた瞬間に次の時代への一致団結になるんだよ。大変だね、社会がおかしいよねっていう感覚だけで団結するんじゃなくて、今こそ一人ひとりが自分の感覚と役割を見つけ出せるチャンスやと思う。一人ひとりが強く立って団結すれば、それほど強いものはないからね。

マヒト:前回の新井英樹さんとの対談(関連記事:GEZANマヒト×新井英樹対談。絶望が前提になった時代の生き抜き方)でも話したけど、絶望とどう付き合って生きるかが前提になってくるじゃないですか。コントロールできないことがたくさんあるっていうことを、これほど世界中の人々が同時に感じる機会もなかったわけですし。……もちろんコロナなんてないほうがよかったし、音楽なんてやってる場合かよってさらに言われるのかもしれないし、もっとヤバいウイルスが蔓延するかもしれない。だけど、どんなに絶望的な状況でも、その時代と付き合いながらも幸せになっていいんだよ、好きなものを好きと言って自分だけの価値を見出していいんだよって言えることが、その人をその人自身として生かす鍵になっていくと思ってて。

社会が権利を保証して守ってくれるのは当たり前だっていうリベラルの人達も真っ当だけど、それ以前に、自分の幸せくらいは自分で引き寄せるセンスを持つべきで。Essential Storeは、そのセンスを一人ひとりに試してるんだと思う。

田上:笑いながら時代と付き合っていくには、コツってあると思うねん。僕の場合は、モノを買い付けることでコツを得てきたと思っていて。そのコツをみんなにお裾分けできたら面白いなっていうのはシンプルにモチベーションになってるよね。

マヒト:たとえば……Essential Storeにはスクラップブックがたくさんあるじゃないですか。あれがすごく面白いというか、人の息遣いを感じられて感動するんですよ。

田上:各年代の活動家とかが、当時街で撒いてたチラシとかが全部綺麗に残ってるからね。いわばスクラップブックって自分だけのもので、人に見せたいものではないでしょ。だからこそ、その人の息遣いとか存在がくっきりと残るのよね。

マヒト:もちろん自分の作品が芸術として評価されるのは嬉しいことだけど……でも誰に見せるでもない日記とか、誰に見せるでもないブログとかの価値も絶対にあって。ちゃんとその場所に存在したんだっていうこと、その息遣いと記憶が感じられるのはやっぱり美しいことだし、俺はその美しさともっと出会いたい。これをどんな気持ちで作ったんだろうって想像すること……その行為こそが、人の存在を認めるっていうことだと思うから。

―それは、アイデンティティに迷う人が多い今に対しても思うことですか。

マヒト:俺個人は、自分とは何者かって考えたことがないんですよ。だから、アイデンティティクライシスみたいなものが叫ばれる今の状況は正直よくわからないんだけどね。たとえば人を人として判別する情報として顔とか声があるわけだけど、そんなのクソ小さい情報だって思うの。だって俺らを動かしているのは内臓であり脳みそなわけで、内臓の形自体がマジで意味わからないデザインになってるじゃん(笑)。

顔とかをわかりやすいパーソナリティとして置いたとしても、その人をその人たらしめる内臓自体がカオスであり肉の塊なわけだよ。だとしたら、俺とか俺じゃないとか、もう関係ない領域になってくる。ただ血と肉だけがそこにあって、想いや記憶が肉の向こう側で渦巻いてるだけなのが人間であって。

田上:うん。

マヒト:今は特に、自分をオリジナルな存在にするにはどうしたらいいかっていうことに躍起になる人が多いけど、それすら一種の戦争だと思うんですよ。自分の体が持っているカオスをないものとして扱って、軽薄な部分でアイデンティティを競わせて金に変えていく社会が今の情報の回転数を生んでるし、「オリジナルじゃなきゃいけない」っていう縛りが無駄な争いを生んで、欲のループを生んで、悲しみを増やしている。自分は人と違うっていうことを自分だけでは証明できないから、外の世界に投げかけて、外からの評価で自分を測ってて。

だけどそんなことしなくても、ここには自分の肉があって、自分だけのカオスを抱えてるんだから。人に値札を貼ってもらうことでオリジナルになろうとする気持ちがわからないんだよ。

田上:「特別」にしろ「オリジナリティ」にしろ、すべては概念の刷り込みやからね。そこを全部フラットにすることが自分を自由にしてくれるし、それこそが自分やから。これは思い込みと直感の話ですけど、僕はこの10年間、買い付けは8月にアメリカに行くと決めてて。8月は引きが強いって自分で思ってるんですよ。……でも2020年は自粛期間でアメリカに行けなくて、8月も日本にいて。そしたら8月に、10日間で4回も自動販売機のアタリが出たんですよ。

マヒト:ははははははは!

田上:しかもその期間、アメリカに行けないなら本職のアパレルで使う生地の仕入れに行ってみようと思って生地屋に買い付けに行ったんです。で、何故か普段は裏口から入るところを表口から入っちゃったんですけど、入ったすぐのところに、日本に入ってくるはずのないスーパーレアな椅子があって。なんでこんな山奥の生地屋に、なんで東京以外にって思いながら「売ってくれないか」と交渉したら、定価150万円くらいで売れるものを「3万円でええよ」って言ってくれて(笑)。自己暗示かもしれないけど、経験値によるチューニングとかアンテナの立て方によって、引き寄せられる出会いと幸せが絶対にあるんですよね。

マヒト:チューニング整いました。普段は裏口なのに表口から入ったように、今回の突発的な対談自体が自分の表口ですね。四本弦を持った宝人に出会える気がします。出会う必然しかないんで。

プロフィール
マヒトゥ・ザ・ピーポー

2009年、GEZANを大阪にて結成。バンドのボーカル・作詞作曲を担う。自主レーベル「十三月」を主宰し、野外フェス『全感覚祭』も開催。2018年に『Silence Will Speak』をリリースし、2019年6月には、同作のレコーディングのために訪れたアメリカでのツアーを追ったドキュメンタリー映画『Tribe Called Discord:Documentary of GEZAN』が公開された。2019年10月に開催予定だった主宰フェス『全感覚祭』東京編は台風直撃の影響で中止となったが、中止発表から3日というスピードで渋谷での開催に振り替えられた。1月29日に『狂(KLUE)』をリリース。マヒト個人もソロワークを展開し、青葉市子とのユニット・NUUAMM、文筆業など、多方面で活動中。

田上拓哉 (たのうえ たくや)

大阪市福島区の「Essential Store」オーナー。本職ではアパレルメーカーを運営しながら、夏と冬の年2回、期間限定で「Essential Store」を開催する。古道具、アンティークを主として、アパレルなども取り扱う。併設ギャラリーで不定期で主催する「Silent Auction」は、入札用紙だけで価格をつけられる仕組みによって、モノの価値を再考する場所として話題を呼んでいる。



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