ニューアルバム『Grower』の冒頭を飾っている“勿忘”は、Awesome City Clubにとってのターニングポイントとなる一曲だ。メンバーが本人役で出演もしている映画『花束みたいな恋をした』のインスパイアソングとして書き下ろされたこの曲は、映画のヒットとも相まって、現在各ストリーミングサービスのランキング上位をキープし続け、バンド最大のヒット曲となっている。作曲とアレンジに関わっているのは、atagiが以前から影響を公言するAPOGEEの永野亮。今回の対談では、“勿忘”の制作秘話をじっくり語り合ってもらった。
そして、このタイミングだからこそ、Awesome City Clubがこれまでどんなことを大切に活動してきたのかを、改めて知ってもらいたい。2019年のマツザカタクミに続いて、昨年はドラマーのユキエが脱退し、バンドが難しい状態に陥っていたのは事実だろう。しかし、それでも三人は音楽への愛情と泣き笑いの記憶を抱きしめながら、オーサムシティで生きていくことを選んだ。さあ、はじめよう。ここから、もう一度。
(坂元裕二さんから)「『東京ラブストーリー』の鈴木保奈美さんみたいだった」とおっしゃっていただいた。(PORIN)
―Awesome City Club(以下、オーサム)と永野さんのコラボレーションは前作『Grow apart』(2020年)からですが、遡れば5年前の自主企画『Awesome Talks Vol.3』(2016年3月17日、渋谷CLUB QUATTROにて開催)にAPOGEEが出演していましたよね。atagiさんにとって、永野さんでありAPOGEEというバンドは、どんな存在だと言えますか?
atagi:APOGEEは日本で一番好きなバンドで、もちろん永野さんのソロ名義の作品も聴いてるし、すごく影響を受けています。とにかく姿勢も音もクリエイティブなんですよね。音源を出すたびに、「今回はこんなアプローチなんだ」という驚きがあって、毎回見たことのないようなふり幅が出てくる。音楽のセオリー的な部分に恋しているというよりは、驚きと発想に毎回感激してますね。
―逆に、永野さんから見たAwesome City Clubはどんな印象ですか?
永野:対バンする前から知っていて、たぶん金子さんと話をしたと思うんだよね。
―あ、そうでしたっけ。
永野:僕らが再始動したタームで、LIQUIDROOMでgroup_inouとの2マンがあって、そのときに「Awesome City Clubというかっこいいバンドがいて、きっと永野さんも好きだと思う」と教えてくれて。で、僕もたまたま車を運転してるときに“Lesson”を聴いてて、いいバンドだと思ったから、「あ、知ってる」と思って。それから少ししてライブに誘ってもらって、音楽がかっこいいのはもちろん、ステージの魅せ方とかも含めて、音楽を単に音楽としてだけで捉えていないバンドで、それがコンセプチュアルにできあがってるのがすごいと思いました。
映画『花束みたいな恋をした』では、麦(菅田将暉)と絹(有村架純)が“Lesson”を聴くシーンがある
―確かに、オーサムはこれまでずっと音楽を音楽としてだけではなく、ファッションやライフスタイルなどその周りにあるものまで含めて大事にしていました。ただ、近年はその土台の上で、改めて楽曲そのものを重視するようになっていたので、そのタイミングで永野さんと一緒に制作をするようになったのは必然の流れだったのかなと。
atagi:APOGEEからは「音楽に対して真摯たれ」という、ミュージシャンシップみたいなものをすごく感じるんです。僕もそういうものは持っていたいと思うので、その意味でも、永野さんと一緒に仕事ができるのは自分にとって大きなことですね。
Awesome City Club 2ndフルアルバム『Grow apart』(2020年リリース)では“トビウオ”と“STREAM”の2曲のアレンジを永野亮が手掛けている(Apple Musicはこちら)<あの鳥のように 大空駆ける日々を描いていた>と歌われる“トビウオ”のテーマは、APOGEE“アヒル”に対するオマージュ。APOGEE“Let It Snow”からリズムが引用されてもいる(Apple Musicはこちら)
―映画『花束みたいな恋をした(以下、はな恋)』のインスパイアソングとして話題の“勿忘”は、アレンジだけでなく、作曲から永野さんが関わられた一曲で、すでにオーサムにとって大事な一曲になっていると思うし、これからますます大きな意味を持つ一曲になっていくのではないかと思います。そもそもは脚本の坂元裕二さんがオーサムのファンで、映画に出演したことから話が進んだそうですが、その経緯を話していただけますか?
PORIN:坂元さんがオーサムのことを好きでいてくださることは知っていたので、2019年8月のマツザカ(タクミ)の脱退ライブにご招待して、後日みんなで食事にも行って。その流れの中で、「今映画を作ってるんですけど、出演に興味ありますか?」というお話をいただいたんです。で、映画を撮り終えて、試写会に行ったときにすごく感銘を受けて、曲を作りたいと思ったのが始まりです。
―出演オファーがあったのは、どんな理由だったのでしょうか?
PORIN:坂元さんからは、ライブで私のパフォーマンスや存在を見たときに、「『東京ラブストーリー』の鈴木保奈美さんみたいだった」とおっしゃっていただいて。
―それはすごい……!
PORIN:もうひとつの理由として、坂元さんはコアなこともやりつつ、ちゃんとマスに向けて発信をして、結果を残してる方じゃないですか? オーサムもオシャレでかっこいいんだけど、やりたいことはマスに向いていて、その姿勢にすごくシンパシーを感じたし、だからオーサムが好きなんだよね、ともおっしゃっていただきました。
試写を観に行ったあと、「こんなこと言いたい、あんなこと言いたい」がまとまらなくなっちゃった。(atagi)
―まさに『はな恋』自体もコアなテーマを扱いつつ、ちゃんとマスに向いている作品ですもんね。「インスパイアソング」という形式になったのは、どんな経緯だったのでしょうか?
atagi:「この映画は主題歌を設けない作りにしたいと思ってるんです」と坂元さんがおっしゃっていたのは知ってたんですけど、試写を観て、映画を題材に曲を作りたくなって。とはいえ無許可で作るわけにもいかないので先方とお話を進めて行く中で、「予告編で使ってもらえるかも」という話になり、より本格的な取り組みになりました。
―結果的には、主題歌と思ってもおかしくないくらいにフィーチャーされていますよね。そもそも試写を観て曲を作りたいと思ったのは、映画のどんな部分に感銘を受けたのでしょうか?
atagi:理由は何階層かあるんですけど、まずは僕らのやりたいことをやってるなと思ったんです。男女の心の声がモノローグ的に表現されていて、それは僕らの曲で言うと“今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる”に近い。なおかつ、映画はものすごくお金がかかっていて、クオリティの細部にまで目が行き届いていて、僕のやりたい理想でもある。
atagi:あとは単純に、あの話自体が僕にはかなりぶっ刺さったんですよ。一人で試写を観に行ったんですけど、帰り道に「こんなこと言いたい、あんなこと言いたい」がまとまらなくなっちゃって、これは曲にしたいと思って。そういう経験は初めてのことでした。
大学のサークルでこがけん(おいでやすこが)と一緒にコピバンをやってました。(永野)
―最初から永野さんと一緒に作ろうと思ったのか、作っていく中で「この曲は永野さんにお願いしたい」と思ったのか、そのあたりはいかがですか?
atagi:最初から永野さんとやりたかったんです。『Grow apart』のときはアルバムの中のビビッドな部分を担っていただいた印象なんですけど、今回は超ド級の勝負曲を永野さんと一緒に作りたくて。映画を観て、自分の中ではBONNIE PINKさんが歌う“Under The Sun”(2002年に公開された窪塚洋介主演映画『Laundry』の主題歌、atami“Under The Sun”。ゲストボーカルがBONNIE PINK)がずっと流れてたんですよ。僕の中では、あのイメージで永野さんと一緒に作ったら、絶対いい曲になると思ったんです。
永野:atagiくんの中で最初から明確なイメージがあったので、すごく作りやすかったです。その上で、より多くの人の心をつかむような曲にしないといけないから、そのためにはある種の瞬発力が必要で、僕はCMの音楽もたくさん作っているから、そういう部分も活かせるんじゃないかなって。今回は特に映像とのマッチングが重要なので、そのトーン&マナーの部分で力を貸してほしいとも言われていましたね。
―今おっしゃっていただいたように、永野さんはご自身のバンドでのクリエイティブと、作家としてのクリエイティブの両面があって、他のバンドに関わるときはそのバランスをどう考えているのかは気になる部分でした。
永野:もともと僕は学校で理論を勉強したわけではなくて、バンドを通じて音楽を勉強してきたタイプで、CMの作家としての活動も、自分の中では結局バンドなんですよね。曲ごとに頭の中で架空のバンドを作って遊んでる感じというか。大学では軽音サークルに入っていて(APOGEEのメンバーである大城、間野も)、そのときもみんなでいろんなジャンルのコピーをしていたので、今もその延長線上にあるんです。ちなみに、これは余談ですけど、そのサークルの先輩に、この間の『M-1』でファイナリストになったこがけん(おいでやすこが)がいたんですよ。こがけん、めっちゃ歌上手くて、一緒にSUPER BUTTER DOGのコピバンやったりして。
atagi:えーーーー!
PORIN:その話ヤバい!
永野:そんな経験もあり(笑)、ずっと脳内でバンドを作ってる感覚だったから、いつか自分以外のバンドとも一緒に何かやってみたいと思っていたんです。なのでオーサムと一緒に曲を作るようになって、やっとやりたいことがやれてるし、しかもそれが自分の好きなバンドというのは本当にラッキーでした。
atagi:泣いちゃいそうですね。嬉しいです。
“勿忘”の最初のバージョンはストリングスが一切入っていない、超ソリッドなものだった。(永野)
―“勿忘”はメロディーと歌詞がしっかり飛び込んでくる直球の名曲であると同時に、独特なタイム感のドラム、フリーキーなギターソロなど、アレンジはかなり作り込まれていて、そこもやはりオーサムと永野さんの組み合わせならではだと感じました。
永野:実は最初のバージョンがあるんですよ。それはストリングスが一切入っていない、超ソリッドなバージョンで、ブラスがちょっと入ってる以外はシンプルなバンド編成でした。ただ今回は映画側の方たちの想いもあるので、映像とのすり合わせが必要だったんですよね。僕もatagiくんも最初のバージョンを気に入ってたから、それを変えるのは気持ち的に決して簡単ではなかったんですけど。
atagi:でも、結果的にはそれがよかったと思っていて。最初のデモは、自分でも永野さんとめちゃめちゃハモった自負があったんですよ。ただ、そこに第三者の目が入って、「これもいいんだけどな」と思いつつ綱引きをしながら作ったのがよかったのかなって。相手の意見も聞きつつ、「でもこの要素は残したいよね」みたいな話をして、楽曲を多角的に見ることで、結果的にどんな人が聴いてもいいと思える仕上がりになったと思います。
―それにしても、このドラムはやっぱり強烈ですよね。
モリシー:アレンジの構築の仕方に関しては、atagiと永野さんはすごく似てると思うんです。ドラムのフレージングにしても、オーサムが結成当初に小っちゃいスタジオでデモを録ってたときと雰囲気が似てるんですよ。atagiはちょっとひねくれた感じを出してくるから、“勿忘”のドラムもそれに近いものを感じました。
―ギターに関してはどうですか?
モリシー:永野さんからデモのデータが届いて、ギターを自分で弾いてみると、めちゃめちゃ弾きやすいんですよ。言葉を交わさずとも「こうしてくれ」というのがわかって、それはきっと永野さん自身がギターを弾くからでもあると思う。永野さんの色は僕にはない色ではあるんですけど、それでもなぜか好きになっちゃうんですよね(笑)。
atagi:僕の中で「はみ出し方」はすごく重要で、APOGEEはその意味では規格外のはみ出し方をしまくってる人たちの集まりだから、そこも魅力的なんです。ただ、“勿忘”を作るにあたっては、APOGEEだけを知ってたら永野さんにお願いしてなかったかもしれない。ソロの『はじめよう』(2012年)を聴くとわかるように、日本人の琴線を刺激する、泣きの要素もしっかり持ってらっしゃる方だと思っていたので、“勿忘”にはAPOGEEの永野さんとソロの永野さんの両方の魅力がちゃんと入っていて、そこもすごく好きなんですよね。
美しい日本語にしたくて、いろいろアイデアを出していく中で、“勿忘”というタイトルに決めた。(PORIN)
―歌詞はatagiさんとPORINさんの共作で、それぞれ自分が歌っている部分の歌詞を書いているそうですが、どういった流れでできていったのでしょうか?
atagi:まず1コーラスを僕が書いたんですけど、最初はそれこそモノローグ的に、台詞が入れ替わるようなものを書いてみようかなとも一瞬思ったんです。でもそれだと劇を観ているような感じになって、大事なところまで踏み込んできてくれない歌になりそうだと思ったんですよね。なので、どちらかというと手紙をしたためるような言葉使いで、願いとも絶望とも取れるような、気持ちのグラデーションをサビで歌えたらと思ったんです。それで最後に、やっと希望に目が向き始めるような作りがいいんじゃないかなって。2番はそのあとに書いてもらったから、すごく難しかったんじゃないかなと思うんだけど。
PORIN:自分の中でテーマがいくつかありました。まずその時点で“勿忘”というタイトルが決まってたから、勿忘草をモチーフにした言葉を絶対入れたいというのと、坂元さんは本当に言葉の使い方が上手な方なので、歌詞もちゃんと日本語の美しい表現にしたかった。あとは、映画を観てくださった方の心に響くものにしたい。そう思って書いていくうちに、絹ちゃん(有村架純)はわりと強くてたくましい女性像だけど、同じくらい弱い部分も持ち合わせてるんじゃないかと思い始めて、内に秘めた想いや願いみたいなものを書きました。
―映画には描かれていない絹ちゃんの心の内を想像して書いたと。
atagi:あと僕は歌詞以上に物を言ってるのがギターソロだと思ってて、2番のサビに当たる部分でギターソロに行くのが、すごくエポックメイキングだと思ってるんです。言葉とは別の形で気持ちを表現できるのがギターで、それはバンドだからこそできることだと思う。いろんな気持ちが駆け巡るパートになってるから、めちゃめちゃカタルシスを感じるし、感じてほしいですね。
―そもそも“勿忘”というタイトルはどのように決まったんですか?
atagi:サビで<春の風を待つあの花のように>と歌っているので、そこから「勿忘草」というモチーフを思いついたんです。春の花だし、花言葉は「真実の愛」や「私を忘れないで」なので、映画ともすごくリンクするなって。
PORIN:歌詞と同じで、英語や片仮名ではなく、美しい日本語にしたくて、いろいろアイデアを出していく中で「勿忘草」が一番いいねって。じゃあ、それをどう表記するか考えたときに、「草」を取って「勿忘」がいいんじゃないかなって。
atagi:どこか執念みたいなものも感じるし、いろんな感情が湧きあがる言葉だと思ったんですよね。
(涙をこぼしながら)最近心が忙しくて。すごく複雑なんです。(PORIN)
―『はな恋』は語りたくなるテーマや刺さるポイントが人それぞれであるがゆえに口コミで広がっているとも言えますが、atagiさんはどのように感じられましたか?
atagi:「ヤマアラシのジレンマ」という言葉が好きで、僕はそれを『新世紀エヴァンゲリオン』で知ったんですけど(笑)、温め合おうと思って近づくんだけど、お互いの針で傷つけ合ってしまう。つまり、よかれと思ってやったことで、いろんな崩壊を招くこともあるんだという意味で。恋愛におけるそういうすれ違いを描いているのが『はな恋』だと思うし、僕らもメンバーが離れ離れになったりして、そこにはもちろんいろんな理由がある。そういう大人の葛藤を自分も感じているからこそ、正直な気持ちを曲に落とし込めたのかなと思っています。
―映画の中ではオーサムの5年がいくつかのシーンで描かれていますが、そもそも麦くんと絹ちゃんのすれ違いはいろんな人間関係に置き換えられるものであって、オーサムの5年ともリンクするなと思いました。
PORIN:映画には自分たちが出演していて、実際の遍歴が描かれてるわけじゃないですか? それでいろんな思い出がフラッシュバックしてきて、胸が熱くなりました。すごくリアルなので……いろいろ考えちゃいましたね。
―途中で演奏シーンも出てきますが、まだユキエさん脱退前の映像ですよね(ドラム担当・ユキエは2020年8月に脱退)。
PORIN:ユキエちゃんの脱退前だし、フライヤーにはまっつん(マツザカタクミ)も写ってるし……(涙をこぼしながら)……そこから今こういう状況になってるっていうのが……。
PORIN:最近心が忙しくて。すごく複雑なんです。
―“勿忘”が完成する手前には、苦楽をともにしてきたメンバーとの別れがあったわけですからね。
PORIN:今の状況はめちゃくちゃ嬉しいんですけど……心のリミッターが外れたのかもしれない。ずっと蓋をしてたのが、この曲をきっかけに。でもモリシーもね、悩んでたよね。
モリシー:ちょうど“勿忘”のレコーディングをしてる頃が悩みの真っ只中だったかもしれない。ユキエちゃんがやめるってなって、俺ももう音楽やめてもいいかなと思ったりもして。でも、コロナの影響もありつつ、「一つの道じゃなくてもいいんじゃないか?」とかいろんなことを考えた中で、今までやってきたバンドを抜ける必要はないんじゃないかと思って、それで今は音楽をやりながら、その一方でコーヒースタンドをやったりもしていて。二人がそれをオーケーしてくれたことにはすごく感謝してるし、あの悩みの時期があってよかったなって、今となれば思いますね。
モリシーが2020年12月にオープンさせたコーヒースタンド「MORISHIMA COFFEE STAND」
atagi:一つひとつの選択がよかったと思えるかどうかは、みんながその先でそれぞれ幸せになれるかどうかだと思っていて。僕らもメンバーが抜けたことによってバンドの勢いがなくなって、リリースできなくなる可能性もあったかもしれないけど、今こうして活動ができていることによって、過去を肯定できるなって思うんですよね。
―APOGEEにも約20年の歴史の中で本当に様々な変遷があって、メジャーからのリリースを経て、休止期間があり、復活したと思ったらメンバーのうち二人が学生になっていて、それでもLIQUIDROOMやCLUB QUATTROでライブをしてきた。他ではなかなか聞いたことのないキャリアですよね。
永野:意味が分からないですよね(笑)。でも「やめたい」みたいな話はもはや日常茶飯事というか、いろんな時期にそれぞれが何回も口にしていることなんです。ただ、そのたびに誰かが誰かを止めて、ステージでカタルシスを得て、それでまたやっていく、その繰り返しなんですよ。僕はライブ本番前の時間がすごく好きで、いろんなことがあるんだけど、お互いの持ち場を守らないと演奏が崩壊するから、それでもやるんです。あの感じがすごく好き。うっちー(内垣洋祐。2019年3月に脱退)は物理的な理由で抜けることになってしまったけど、残った三人はそれぞれと向き合って、ちゃんと次のステージに進んでます。
atagi:“勿忘”がいろんな方に聴いてもらえる状況になって、「五人のときにこうなってたらな」という声が耳に入ることもあるんです。もちろんそれはよくわかるし、でも不思議なもので、五人だったら絶対にこの曲は生まれてなかったと思うんですよね。運命の巡り合わせというと簡単に聞こえてしまうかもしれないけど、でもそういうものが重なって今に繋がってると思うんです。
当たり前がこんなに幸せだったんだということを気づかせてくれる映画でもある。(PORIN)
―そうやってバンドを続けてきて、育て上げてきたものが詰まっているのが最新アルバム『Grower』だと思うんですけど、その中でも特に印象的なのがPORINさん作詞の“僕らはこの街と生きていく”でした。この曲は2020年の風景と、オーサムの現在を重ね合わせて描いている曲だと思うんですけど。
PORIN:これから三人でやっていくんだという覚悟を見せたかった曲です。コロナ禍の中でユキエちゃんが脱退することになって、ライブもできなかったから(ファンに)直接言葉を届けることもできなくて、いろんな捉え方をされたと思うんです。それに対するアンサーをしたかったんですよね。あとコロナ禍を生きてみて、抗うのではなく、いろんなことと共存して、しなやかに生きていくことが大事なんだと気づかされたので、そのことも書きたくて。
―ちなみに、映画のことも少し意識しましたか?
PORIN:いや、してないです。
―<手を振っている彼らを見送れば あらがえない運命を想う>という箇所が、映画のラストシーンともリンクするなと思って。
PORIN:確かに! 怖い!(笑)
―オーサムのことを歌った歌であり、映画の二人のことを歌ったようにも聴こえるし、聴き手自身の歌だとも思える。だからこそ、これからの未来に思いを馳せるような、最後の<それでものぞく晴れ間の方へ 最高の絶景を>という部分がすごくグッと来るんですよね。
PORIN:映画の脚本は3年前に書き始めたとおっしゃっていたんですけど、図らずも今の時代を反映しているのがすごいですよね。当たり前がこんなに幸せだったんだということを気づかせてくれる映画でもあるじゃないですか。私はコロナ禍を生きて、考え方がすごくシンプルになった気がします。大事なものが見えやすくなった気がする。
Awesome City Club『Grower』を聴く(Apple Musicはこちら)
―“勿忘”がたくさんの人に聴かれている現状に対しては、率直にどんな心境ですか?
atagi:思ったより精神状態は落ち着いていて、可愛げないですけど「これだけで浮かれるほどもう若くねえな(笑)」って自分としては思っていて。でも、この状況は本当にありがたいことだし、自他ともに認めるキャリアハイを作れたとは思っています。
PORIN:文化が盛り上がりにくくなってる時代に、この映画がヒットして、楽曲が多くの人に聴かれている。しかも、若い世代に届いてるというのは、本当に素晴らしいことだと思っています。これからの日本を作っていくのは、若い人たちじゃないですか? オーサムを好きになってくれる人たちと一緒になって、日本の文化を盛り上げていけたらなって思いますね。
- リリース情報
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- Awesome City Club
『Grower』(CD+Blu-ray) -
2020年2月10日(水)発売
価格:6,050円(税込)
CTCR-96010/B[CD]
1. 勿忘
2. tamayura
3. Sing out loud, Bring it on down
4. ceremony
5. 湾岸で会いましょう feat. PES
6. 記憶の海
7. Nothing on my mind
8. Fractal
9. 僕らはこの街と生きていく
10. 夜汽車は走る[Blu-ray] 『Welcome to Awesome City – We are in our house -』他
- Awesome City Club
『Grower』(CD) -
2021年2月10日(水)発売
価格:3,190円(税込)
CTCR-960111. 勿忘
2. tamayura
3. Sing out loud, Bring it on down
4. ceremony
5. 湾岸で会いましょう feat. PES
6. 記憶の海
7. Nothing on my mind
8. Fractal
9. 僕らはこの街と生きていく
10. 夜汽車は走る
- Awesome City Club
- イベント情報
-
- 『Awesome Talks - One Man Show 2021 -』
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2021年5月7日(金)
会場:東京都 中野サンプラザ
- 作品情報
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- 『花束みたいな恋をした』
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2021年1月29日(金)からTOHOシネマズ日比谷ほか全国で公開
監督:土井裕泰
脚本:坂元裕二
音楽:大友良英
出演:
菅田将暉
有村架純
清原果耶
細田佳央太
韓英恵
中崎敏
小久保寿人
瀧内公美
森優作
古川琴音
篠原悠伸
八木アリサ
押井守
Awesome City Club PORIN
佐藤寛太
岡部たかし
オダギリジョー
戸田恵子
岩松了
小林薫
配給:東京テアトル、リトルモア
- プロフィール
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- Awesome City Club (おーさむ してぃ くらぶ)
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2013年に東京で結成された男女ツインボーカルのグループ。ポップス、ロック、ソウル、R&B、ダンスミュージックなど、メンバーそれぞれの幅広いルーツをミックスした音楽を発信している。2015年4月にデビューミニアルバム『Awesome City Tracks』をリリース。さまざまなアーティストへの楽曲提供やプレイヤーとしてライブに参加するなど、メンバーはAwesome City Club以外での個々の活動も盛んに行っており、クリエイターやファッションブランドとのコラボレーションでも注目されている。メジャーデビュー5周年となる2020年に、バンドのさらなる飛躍を目指し、レーベルをavex / cutting edgeに移籍。映画『花束みたいな恋をした』にPORIN・メンバーが本人役で出演し、さらに映画のインスパイアソング『勿忘』をリリースすると各配信サイトでは上位にランクインするなど話題を呼んでいる。2021年2月10には“勿忘”を含む10曲を収録した、3枚目となるフルアルバム『Grower』をリリース。
- 永野亮 (ながの りょう)
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広島県出身、慶應義塾大学卒。2006年にAPOGEEのVocal&Guitarとしてデビュー、音楽活動を開始。2010年以降、CMなどの映像音楽作家としても活躍中。2011年6月6日にソロデビューアルバム『はじめよう』をリリース。APOGEEとしての最新アルバムは2018年3月にリリースされた『Higher Deeper』。
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