Arctic Monkeysの曲名をバンド名に拝借し、The Strokes、The Cribsら2000年前後にシーンを賑わせたバンドのエッセンスを散りばめながら、日本人の琴線にも触れるメロディを英語詞で歌うというユニークなスタイルで活動するNo Buses。ガレージロックをひとつのルーツに持ち、初シングル『Tic』(2018年)でいきなり国境を超えてリスナーを獲得し、現在、国内外で注目を集めている。
結成時からのメンバーである近藤大彗(Vo,Gt)と後藤晋也(Gt)は大学の同級生。ただただ自分たちがやりたい音楽、聴きたい音楽を奏でる目的で始めたバンドが、期せずして海外でも大きな注目を浴びたことを、バンドはどう受け止めているのか。新規メンバーを加えて5人編成で動きはじめ、2枚目のアルバムを完成させたばかりだというバンドの信条とはどのようなものか。
今回、No BusesとコラボしてもらったAVIOTのワイヤレスイヤホン「TE-D01d mk2」の企画で、近藤と後藤にインタビューを実施。CINRA.NET初登場となるふたりに、自身のルーツからバンドの「今」まで詳しく訊いた。
熱心に打ち込んでいた部活をドロップアウト後に、日々のモヤモヤを晴らすようにロックとギターへ。似た者同士の音楽遍歴
―まずは、おふたりの音楽遍歴から教えてもらえますか?
近藤(Vo,Gt):僕らはONE OK ROCK直撃世代というか。ワンオクは『るろうに剣心』(2012年)の映画の主題歌(“The Beginning”)などで知ったと思うんですけど、そのくらいから「バンド」を意識したり、アルバム単位で音楽を聴いたりするようになりました。
海外の音楽が好きになったのも同じ時期で、The StrokesやArctic Monkeysのようなガレージロック、Red Hot Chili PeppersのようなUSオルタナ、今の僕らの音楽に直接的な影響はないけど、ラウドロックやメタルも聴いていましたね。
後藤(Gt):僕は中学生のときにクラスメイトが、ELLEGARDENやサカナクション、[Champagne](現在は[Alexandros])など日本のバンドを聴いていて、その流れでOasisなんかもちょっとだけ聴くようになりました。高校に入ってからは、Rage Against the MachineやMuseあたりを齧っていたんですけど、本格的にガレージロックやインディロックを聴き始めたのは大学で近藤と同じサークルに入ったときですね。
―楽器はいつ頃から始めたんですか?
近藤:僕は高2からです。もともとサッカーをやっていて、高校でも続けるつもりで中高一貫校に入ったんですけど、部活が本当にキツくて……途中で辞めて帰宅部になったので、何もすることがなくなっちゃって「何かやらなきゃ」と思って手に取ったのがギターだったんです。
当時は意識していなかったけど、きっと何か自分の「よりどころ」になるようなものが欲しかったのだと思います。Arctic Monkeysに夢中になったのも、自分のモヤモヤした気持ち、「どうやってこれから生きていけばいいのだろう」という感覚を、彼らの音楽が散らしてくれたようなところもあったのだろうなと。
後藤:僕は中学生の時に友人から「バンドやらない?」と言われて、その年のお年玉を1万円くらい使ってギターの初心者キットを買ったんです。でも、難しすぎてすぐ手放してしまうという「あるある」の顛末を迎えてしまい(笑)。しかも近藤と同じように、僕も小学校の頃からやっていた野球を高校のときに辞めてしまったんですよね。
悪いことは重なるというか、ちょうどその頃、父親の具合が悪くなり、買ったばかりのギターを僕に譲ってくれたんです。長渕剛が好きで、家ではずっとギターばかり弾いていた親父だったのですが、「お前にやる」って。それで「もう一度やってみよう」と思って高校1年の終わりくらいから本腰を入れて始めました。
―2人とも似たような境遇というか。
近藤:そうなんです。大学に入って僕が最初に仲良くなったのが後藤で。「ギターやっている」と聞いて、お互いにONE OK ROCKやレイジが好きだったので意気投合して。僕は大学に入ったら絶対にバンドをやろうと決めていたので、そのときは後藤を誘おうと思いました。
僕、高校の頃からGarageBandを使ってデモ音源を作っていて、「いつかバンドを組んだらやろう」と思ってずっと温めていたんですよね。そのうちの1曲を後藤に聴かせて。その曲は“Rat”という名前で1stアルバム『Boys Loved Her』(2019年)にも入っています。
No Buses『Boys Loved Her』を聴く(Apple Musicはこちら)
No Busesは今も進化と試行錯誤の真っ只中。今後は、ギターの新メンバーを迎えた5人編成での活動を本格化予定
―ひとりでデモを作っていたときは、アレンジの仕方などどうやって学んでいたのですか?
近藤:今でもそうですけど、音楽理論などは知りすぎないように心がけているところもあって。ロジックを知ったうえで音楽を作ることに抵抗があるというか。キレイにまとまっている音楽があまり好きじゃないんです。
作り込まれている音楽は好きなんですけど、「こうすれば、ああなる」みたいなロジックに沿って作られている音楽に興味が持てないし、つまらなく感じてしまうんです。それよりも手探りで作っている音楽のほうが魅力を感じる。何をどう作ったらいいのか、ずっとわからないまま楽しんでいたくて。
―自分で作った曲に、自分で驚きたいというか。
近藤:まさにそうですね。そこが音楽の楽しいところだと思うんです。昔作った曲とか聴き直してみると、当時持っていたありったけの知識を絞り出していて、ちょっと恥ずかしいところもあるのですけど(笑)。
No Buses“Rat”を聴く(Apple Musicはこちら)
―後藤さんは、近藤さんのデモを聴いてどう思いました?
後藤:その頃はコピバンしかやってこなかったし、見てこなかったので、自分でオリジナルの曲を作っているという時点でびっくりしましたね。実際に聴かせてもらったときも、「え、こんなすごいことができるの?」みたいに衝撃を受けました。「俺もやりたい!」と思って、ふたつ返事でバンドに加入しました。
近藤:そのあと、メンバーチェンジを経てベースの杉山とドラムスの市川が加入してから半年くらい経つのかな。最近、ライブサポートをしてくれているギターの和田が入って5人組になる予定なんです。
―No Busesとしてバンドが形になるまではどんな試行錯誤がありました?
近藤:いやあ、1回目とか2回目のライブは酷いものでしたよ(笑)。3~4回目くらいから、ギリギリ人前で見せられるレベルになったというか。
後藤:今って最初から洗練されているバンドが多い気がするんですけど、バンドのよさってヘタクソというか、未完成なところからどんどん進化していく過程にもあると思っていて。
―そういう意味では今も試行錯誤の真っ只中というか。過去のインタビューで近藤さんは、Arctic Monkeysの好きなところは、アルバムごとに変わっていくところだとおっしゃっていましたよね。
近藤:そうなんです。ただ変化するだけなら簡単だと思うんですよ。しかも、ソロのアーティストの場合はもっとフレキシブルに変わっていけると思う。でも、バンドの場合は「こういう道を経てこうなった」みたいなストーリーや必然性が大事というか。
後藤:アルバムって、バンドの成長日記みたいなところがあるし。
近藤:自分はやっぱりバンドが好きなので(笑)、ちょっとそこに執着している部分もあるのですが。
「そもそも僕らガレージロックだけをやりたかったわけではなくて」。2ndアルバムを完成させたばかりの心境を語る
―基本的には近藤さんが曲を作っているのですか?
近藤:1stアルバムくらいまでは、だいたい僕が作って、それをスタジオでメンバーと手直ししながら仕上げていきました。実は最近、2枚目のアルバムを作り終えたんですけど、そこでは僕がデモから作り込んだ曲もありつつ、余白を残してメンバーに考えてもらったり、スタジオで話し合いながら詰めていったりする部分もかなり増えて。なかには後藤が元ネタを持ってきて、そこから発展させていく曲などもあったので、結成当時とは作り方もかなり変わってきましたね。
―昨年リリースしたトリプルA面のシングル『Imagine Siblings / Number Four or Five / Trying Trying』から、すでにサウンドの変化は感じられますよね。
近藤:初期と比べたら全然違うと思います。実は、1stアルバム『Boys Loved Her』を出してすぐ次のアルバムの制作にとりかかったのですけど、コロナで制作がストップしてしまって。
近藤:ぽっかりスケジュールが空いていた時期に、当初作っていたアルバムの方向性とは全く関係ない曲が2曲くらい書けたんです。それをメンバーに送ってからアルバムの方向性が変わっていって。もしかしたら、コロナ禍を経験していなかったら、アルバムのなかにそういう(毛色の違う)曲を入れたいと思わなかったかも知しれない。
後藤:そういう意味では、コロナ禍があったからこそできた作品ともいえますよね。ただ、そもそも僕らガレージロックだけをやりたかったわけではなくて。
近藤:そうだね。僕らが共通して好きだったラウドロックからの影響だって、あからさまに出すことはなくても、どこかで少なからず出ている気はするし。サウンドというより感覚面で、その辺を出してもおかしくないんじゃないかと。
それに日本に住んでいるわけだから、自分たちの音楽にはきっと日本っぽさもあるわけで。よくNo Busesは「洋楽っぽい」と言われるのですが、自分たちではそこまで意識しているわけでもないんですよね。「結構、日本っぽいサウンドなんだけどな」と思うときもありますし(笑)。
洋楽と邦楽の両方の要素を持ちながら、どちらっぽさにも傾かないNo Busesの独自のサウンドの秘密
―実際No Busesの音楽は、洋楽っぽくも邦楽っぽくもない、すごく絶妙なバランスで成り立っていると思います。
近藤:あ、それはすごく嬉しいです。いわゆるJ-POPと呼ばれる音楽は、低音やリズムで引っ張るというよりもメロディや歌詞でリードしていくものが多い気がしていて。僕らの曲も割と歌で引っ張っていく部分はあるんですけど、海外の音楽も好きだから低音やリズムにもこだわっている。
そのバランス感が、おっしゃっていただいたようにNo Busesらしさにつながっている気はしますね。ただ、そこも自分たちで意識してバランスをとっているわけではなくて、あとから聴いてそこに気づくような感覚なんですよね。
―印象的なギターのリフが展開しながら繰り返されていたり、あとは英語で歌っているのは大きいでしょうね。
近藤:そう思います。たぶん外国の方が聴いても一発で日本の音楽だってわかるわけじゃないと思うんですよね。発音から英語圏じゃないことはわかるにしても、どこの国だかわからない音楽だと思ってるんじゃないかな。何だかわからないけど、妙なメロディだから聴いてみるかって感じというか。
―(笑)
近藤:で、よくよく聴いてみると「そういえばThe Strokesっぽいな」みたいな(笑)。あと僕はメロディや声をアンサンブルの一部だと捉えているんですけど、それも大きいのかなと思います。日本語で歌うとその意味がメロディに乗ってちらつくというか、アンサンブルの一部としてのボーカルの役割は薄れてしまう気がするんです。
―耳に「意味」が否応なく入ってきてしまいますからね。
近藤:個人的には、メロディは無機質に漂ってほしいというか。楽器としてメロディをとらえる心地よさを知ってほしいんですよね。僕は、自分が作る歌メロが好きなんですけど、それを心地よく聴きたいという気持ちから英語を使っているところもあるかもしれないです。なので、もし今後日本語がうまくハマっていくのであれば、日本語の歌詞を書いていく可能性も全くゼロではないです。
予期せずして国内外で話題を集めたことがかえって重荷に。近藤がバンドを辞めることも考えた当時の心境を明かす
―No Busesは実際にメキシコやロサンゼルスなどでも聴かれているようですし、YouTubeのコメントも英語のものが大半ですよね。初めて出したシングル『Tic』(2018年)がいきなり国境を超えて聴かれたわけですけど、海外のリスナーの耳にも届いていることに関しては、自分たちではどう捉えていますか?
近藤:率直に嬉しいですね。かといって、特に海外を意識しているわけはないし、海外に出たいと思っていたわけでもなかったんですけど(笑)。
―プレッシャーに感じたり重荷になったりしたところはありましたか?
近藤:それはありました。特に1回目に話題になったときは、「いい」という声もたくさんあったんですけど、やっぱり人の目に付くぶん、僕らのことを嫌いな人もいるわけで。
本当にただ音楽が好きで、自分たちでも音を鳴らしてみたかっただけの大学生バンドだったので(笑)、それがめちゃくちゃキツかったんですよね。正直1年、いや2年くらい、自分たちのYouTubeチャンネルを閲覧するどころか、アプリを起動することすら怖くなってしまって。今のアルバムにとりかかる前までは、自分の曲も聴けなくなって、作品を出すことも嫌になってしまっていた時期がありました。
近藤:しかもそれをメンバーにもうまく言えず、限界までひとりで抱え込んでしまって。一時期は真剣に辞めようかなとも考えていました。でもやっぱり曲を作る楽しさは毎回あったし、作るたびにどんどんいいものができていたので、それで少しずつ自信を取り戻していった感じでしたね。
後藤:僕は最初から「ネットなんてキレイなもんじゃない」と思っていたので(笑)、まあこんなものかなと思っていましたね。
近藤:僕はバンドをやるまでTwitterもInstagramも一切やっていなくて、かなりアナログな生活を送っていたから免疫力がなかったのも大きいです。ネットがキレイじゃないなんて知らなかった(笑)。
後藤:低評価が付いていないコンテンツなんてないと思うし、そこは仕方ないと自分の中で割り切っていました。ただ、近藤がその頃はずっと弱音を吐いてばかりいたので気にはなっていましたね(笑)。もう少し早く気づいて、力になってあげればよかったなって。
近藤:今はもう、だいぶ元気になったから大丈夫(笑)。
「これからもずっと作っていられたら」と語る近藤のバンドで録った音に対するこだわり――「録音の雰囲気まで感じられると、音楽そのものの楽しさも変わってくる」
―次のアルバムはコロナ禍を経たからこその作品になっている、とのことでしたけど、そもそも音楽の聴き方などに変化はありました?
近藤:聴く音楽自体は変わってないと思うんですけど、単純に聴く時間はやっぱり増えましたね。
後藤:僕は、ロックだけじゃなくいろんな音楽を聴くようになりました。これまで自分は、「ロックじゃねえのはダセえ」みたいな(笑)、幼稚な考えがあったんですけど、そういうのを取っ払っていろんな音楽を聴いてみようと。それがコロナによる変化だったのかは、自分でもよくわからないんですけど。
―普段はどういう環境で音楽を聴いていますか?
近藤:たまにスピーカーで鳴らすときもあるけど、基本的にはヘッドホンかイヤホン、特にイヤホンで聴いていることが多いですね。スピーカーで鳴らしているときは、BGM的に空間を埋めてもらってるような感覚があるんですけど、イヤホンで音楽を聴いているときは、集中して聴いていることが多いかもしれないです。たとえば、部屋の掃除をしながら音楽を聴くときはスピーカーで鳴らすけど、音の細かいところまでしっかり聴き込みたいときはイヤホンで、みたいな。
後藤:僕は、家では大抵スピーカーで鳴らしていて、移動中などにイヤホンを使用しています。
―制作のときにリスナーのリスニング環境を意識する場面もきっとありますよね。
近藤:聴き手のことを気にしすぎるのはキリがないとは思いつつ、僕らはミックスダウンをするとき、多くのリスナーが使っているであろうイヤホンで最終チェックをしていて。聴いてくれる人のリスニング環境がよくなっていくことで、僕らのやりたかった細かいニュアンスまで聴きとってもらえるようになるのは嬉しいですね。
BIM“Non Fiction feat. No Buses”を聴く(Apple Musicはこちら)
後藤:「これ、もしかしたら気づかないかも知れないけど、気づいてくれたら嬉しいな」みたいなときが、ミックスダウンでもあるからね。
近藤:そうそう。たとえばスネアの細かいニュアンスの違いとか、そういうのアーティストはみんなこだわっているので、そこを聴くことができるイヤホンは作り手から見ても魅力的ですよね。自分で音楽を聴いていても、安価なイヤホンではのっぺりと聴こえていたギターが、いいイヤホンで聴いて弦の揺れや細かいタッチのニュアンスとか、録音の雰囲気まで感じられると、音楽そのものの楽しさも変わってくるし。
―「音響マニア」になる必要はないけど、聴く音にこだわったりリスニング環境を変えたりすることで、音楽を聴くことそのものの楽しさも増えていきますよね。
近藤:そうですね。ドラムひとつとっても、キックやスネア、ハイハットの叩く位置や強さによって微妙に音は変わっていくわけで。そういった変化をたまにキャッチしてくださる方もいらっしゃって。特に1stアルバムは1曲ごとにドラムセットを組み替えたりしてましたからね。そこに気づいてもらえたときは「細かいところまでこだわって作った甲斐があったな」と思います。
―ギターやベースの音の重なりとかドラムの質感とか、特にバンドサウンドの場合は細かいアンサンブルの妙は聴きどころのひとつでしょうしね。最後に、バンドとしての今後の展望を聞かせてもらえますか?
近藤:正直、特に夢みたいなものはなくて……(笑)。ただただ作ることが楽しいので、これからもそこにフォーカスしていきたいです。これからもずっと作っていられたらいいなと思います。
後藤:この間YouTubeのコメント欄を見てたら、外国人の書き込みがあってそれが面白くて。「なんでこのバンドの再生回数が伸びてないのかよくわからないけど、そんなことはどうでもいい。俺がタバコを吸うときのBGMになってくれている、ただそれだけでいいんだ」みたいな。
近藤:渋いな(笑)。
―(笑)。きっと、その人にとっての「俺の音楽」になったということですよね。
近藤:そうですね、だとしたらそれはとても嬉しいです。
- 製品情報
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- AVIOT「TE-D01d mk2」
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第一線で活躍する日本のサウンドエンジニアやアーティストの意見を取り入れたサウンドチューニングに加え、最大120時間*再生の超大容量バッテリーの搭載やワイヤレス充電対応など、マルチスペックが魅力のAVIOTのベストセラーモデル。
*チャージングケース併用時
- プロフィール
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- No Buses (ノー バシーズ)
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2016年結成。2018年4月に1stシングル『Tic』を発表。そのMVは日本にとどまらず世界中で高い評価を受け、夏には『SUMMER SONIC 2018』出演。2019年8月に初の海外公演を韓国で行う。9月にリリースされた1stフルアルバム『Boys Loved Her』は「タワレコメンオブザイヤー」を受賞した。2020年にはBIM「Non Fiction feat. No Buses」に参加にジャンルを超えたコラボで驚かせた。国境を超えての活動が期待される今最注目のバンド。
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