突然だけれども、あなたにとって音楽の先輩と呼べるような人はいるだろうか。親兄弟やクラスメイト、部活やサークルの先輩、SNSでフォローしている顔も名前も知らないどこかの誰か、お気に入りのプレイリストやディスクガイド、お店やメディアなど……指針となる人やものが身近にあるだけで、未知の音楽に触れるハードルは格段に低くなる。自分自身の体験を通じてもそう感じる。
遡ること2か月前、ぼくにとって10年来の音楽の先輩(インディレーベルのA&R)から「Subway Daydreamって新人を担当することになったから聴いてほしい」と連絡があった。“Teddy Bear”という曲を聴いてみると、ネオアコ~オルタナティブロックの系譜にあるギターサウンドに1990年代的なJ-POP風味のキャッチーな歌が乗っていて、そのうえ、ただ音楽的な要素を寄せ集めただけじゃないものを感じさせて面白いバンドだなと思った。
その先輩と久しぶりに会って話をし、Subway Daydreamがストリーミング以降の音楽のかたちについて考えていること、洋楽と邦楽の隔たりを強く感じてきた世代の当事者としての言葉を持っていると聞き、すぐに記事をつくろうという話になった。撮影は、10年近く前からTwitter経由でいろんな音楽を教えてもらっている岩元崇さんにお願いすることにした。
スピッツをロールモデルに80~90年代のインディロックを貪欲に吸収するソングライターの藤島裕斗、The Smashing Pumpkinsやハンバート ハンバートに影響を受けたギターボーカルの藤島雅斗(裕斗とは双子)、ドラマーとしてデイヴ・グロールを敬愛するKana、コブクロのようなボーカルの共鳴をバンドサウンドで試みるシンガーのたまみ。
1997~1998年生まれの4人に、学生時代の音楽体験やストリーミングを前提としたバンドの実態について話を聞いた。
共通言語はスピッツ。97〜98年生まれの4人が80~90年代の音楽に惹かれる背景
―Subway Daydreamをはじめるにあたって、バンドの共通言語になった音楽はなんでしょうか?
裕斗(Gt):それでいうとスピッツなんですけど、バンドとしてのそもそものはじまりでいうと、ぼくとKanaが「Snail Mailみたいなオルタナバンドをやろうぜ」みたいな話をしたんですよね。いまは全然違うバンドをやってるんですけど(笑)。
Kana(Dr):あと、Alvvaysみたいなドリームポップをすごく聴いてた時期で。
裕斗:そうそう。シューゲイザーとかオルタナみたいな尖った音楽性とキャッチーなメロディーを融合させたバンドをやりたいよねって話で盛り上がって、Kanaが幼馴染のたまみを、ぼくが双子の雅斗を連れてきて結成に至りました。
―スピッツのことはどんなふうに見ていますか?
裕斗:海外の音楽を吸収して、日本語で、日本独自の音楽に昇華するってことを、メインストリームでやってるのがすごいなと思っています。
スピッツが好きって言ってるからこのバンド聴いてみようって感じで、ぼくらも聴く音楽の幅が広がったところもあるし、ギターも三輪(テツヤ)さんのアルペジオにすごく影響を受けました。
雅斗(Gt,Vo):カラオケでよく歌われてたり、日常のなかでも耳にするJ-POPのバンドって認識から、彼らのルーツにある海外の音楽を知って、じつはすごくかっこいいオルタナバンドでもあるんだってことに気づいて。
裕斗:あらためて聴き返して「これ、めっちゃギターポップやん!」って気づくみたいなことがあって。
雅斗:そうそう。初めて聴いたときと何年か経って聴いたときの印象が全然違うのが面白かったですね。
―スピッツって不思議なバンドですよね。田村(明浩)さんのベースはブラックミュージック由来のグルーヴが効いたものが多かったり、ときにはパンキッシュだったり、テツヤさんとドラムの﨑山(龍男)さんはハードロックとかメタルなども背景にあって、草野マサムネさんも同じようにハードロックを通っていつつも、The Cureをはじめとする1980年代のニューウェーブ / ポストパンクの匂いを感じさせるソングライティングで。そのうえで、日本語の歌としてめちゃくちゃ大衆性があるバンドですよね。
裕斗・雅斗:そう思います。
たまみ(Vo):いろいろなものが混ざっているんだけど、ひとつの音楽になってるところが好きです。初めて“チェリー”のPV見たときに「一人だけめっちゃイカツイ人おるやん」って思って。
一同:(笑)
たまみ:テツヤさんだけ全然違うやんって思ったけど、でもそれがいいって思いました。合わせるんじゃなくて、一人だけああいう格好してるのがかっこいい。
Kana:スピッツみたいに長く続けられるバンドってかっこいいなと思います。私たちも幼馴染同士と双子っていう縁でつながったバンドなんで、長く、楽しくやりたいなと思ってます。
―みなさんがどういったきっかけで海外のギターポップとかインディロックに惹かれたのか理由が気になります。スピッツが好きだからっていうのもひとつの理由だと思いますけど、いかがですかね?
裕斗:ぼくら双子は早生まれの1998年生まれで、80~90年代のロックは国内外問わず後追いで。ロックの入口が中学生くらいのときに聴いたスピッツとかフジファブリックで、そのあとにNUMBER GIRL、スーパーカー、くるりっていう80~90年代の海外の音楽に影響を受けたバンドをSPACE SHOWER TVとかで知って聴いて。
だからこそ、無意識にいまに通じる音楽の性癖が形成されたんだと思うんです。高校生になってディスクガイドを見ながらいろんな音楽を買いはじめたとき、オルタナとかネオアコにすごく惹かれたのは90年代後半から2000年代の日本のオルタナバンドを好きだったからなんだろうなって。
雅斗:すんなり受け入れられたよな。
裕斗:うん。正直、60~70年代のものは音の古さにちょっとびっくりしちゃって。でも80~90年代っていまと地続きみたいな感じがします。
90年代後半に生まれ、大阪・奈良で思春期を過ごした彼らはどんなふうに音楽を聴いていたのか?
―1997年生まれの学年ってことは、みなさんが高校生の時期って2012年~2015年ですよね。そのときはもうYouTubeがあったと思うんですけど、どんなふうに音楽を聴いていたんですか?
雅斗:ぼくらはTSUTAYAとかでCDを借りて音楽を掘っていくってことをギリギリやってきている世代で。
たまみ:私も毎週のようにTSUTAYAに行ってCD借りてた。
裕斗:5枚で1,000円とかな。
Kana:あと1枚で5枚になるからなに借りようみたいな(笑)。
雅斗:そうそう。そういう楽しさはギリギリ味わえているんです。
―中高時代は海外のバンドと並行して当時の日本のバンドも聴いていました?
Kana:私はそのとき、[Champagne](現在は[Alexandros]として活動)がすごく好きで、インタビューでOasisとかRed Hot Chili Peppersに影響を受けてるって話を読んで、それが洋楽の入口になったと思います。でも当時はどっか隔たりがあったというか。
雅斗:たしかに、「洋楽は洋楽、邦楽は邦楽」って感じはあった気がする。
裕斗:ぼくらが中高生だった2010年~2015年ぐらいって、日本のバンドに影響を受けた日本のバンドが普通になってて。そういう時期に中高生だったからこそ、ぼくらの世代で洋楽アレルギーな人って多そうだなと思う。
―先ほど裕斗さんが挙げたNUMBER GIRL、スーパーカー、くるり、あとは中村一義やTHEE MICHELLE GUN ELEPHANT、電気グルーヴ、椎名林檎をはじめ、1990年代末から2000年代初頭に出てきた人たちのなかには、海外のサウンドをすごいクオリティで自分たちの音楽に昇華しているアーティストがたくさんいますよね。
その少しあとに続くBUMP OF CHICKENやASIAN KUNG-FU GENERATIONも独自のかたちで海外の音を昇華していたし、だからこそそれらを聴いているだけで十分すぎるほど満足できた。2010年代前半は、いま挙げたような音楽に影響を受けて独自進化を遂げたアーティストが世代的にも増えてきた、ということですよね(関連記事:今、音楽シーンの先端では何が起こっている? 有泉智子×柴那典)。
裕斗:個人的な体感としてはそうだと思ってます。あと、中高生のときにサビがしっかりしてて音圧もあるJ-POPとか、難しいリフがあったり、スラップが入ってるバンドの音楽を聴いてると、そうじゃない音楽をつまらなく感じちゃうこともあるんだろうなって思います。自分の体感としても周りでもそういう耳になってる人もいて。でも、そういう音楽も好きでしたけどね。
雅斗:実際、流行ってたしな。
裕斗:流行ってるバンドのなかでも、このバンドはいいけどこのバンドはあんまりだなとかは個人的にありましたし、純度100%の邦ロックのなかにも好きなバンドもいっぱいいました。
ぼくの場合、根っこに音楽通でいたい自分がいて、とにかく広く聴きたいタイプだったんで、あまり偏見なく聴いていましたね。ちょっと苦手だと思ってたけどちゃんと聴いてみたら、よかったってことも結構ありましたし。
―ぼく自身、2009年から2014年まで大阪で大学生をやっていたので、なんとなく話している感覚はわかります。「洋楽わからないコンプレックス」はぼくの周りにもすごくあった。2010年代の前半って世代問わず、洋楽と邦楽の壁がめちゃくちゃあった時期だというのは自分の体感的にも思いますね。
「洋楽に影響を受けているバンドは偉い」「音楽が好きなら洋楽を聴かなきゃダメだ」って話ではもちろんなくて、海外からの刺激を受け取らないまま国内だけで回していると自家中毒に陥って、文化全体として見たときに風通しが悪くなってしまう部分もあるんだろうなと思います。どんなものを聴こうが個人の自由で他人がとやかく言えることではないけど、個人の一つひとつの選択によって文化が形成されていることは否定できないわけで。
裕斗:ぼくらが中学生のときって、そもそも洋楽を聴くことのハードルが高かったですからね。親が聴いてない限り、耳に入ってくる機会がないみたいな(笑)。洋楽聴くヤツはかっこつけ、みたいな空気はぼくの周りにはありました。
最近だったらOfficial髭男dismがいい例で、海外の音楽を取り入れたバンドが売れるのは普通になってきてる気はするんですけど、洋楽と邦楽の変な隔たりはなくなってほしいなって思います。あの隔たりって、いま思えば絶対いらなかったから。
「ぼくらの世代では、洋楽とかロックを聴いているのは、わりと大人しめな人が多かった」(裕斗)
―中高生のときに、80~90年代の海外の音楽も聴いていたんですよね?
裕斗:そうですね。ネオアコとかブリットポップとか、ジャンルを判別して聴けるようになってきたのは大学生くらいになってからですけど。
雅斗:Nirvanaも最初に買ってきたCDは『Nevermind』(1991年)でも『Bleach』(1989年)でも『In Utero』(1993年)でもないーー
裕斗:『Incesticide』(1992)。
雅斗:「これがNirvanaか!」と思ってぼくが買ってきたんですけど、「ちょっと難しいな……」みたいな(笑)。
Nirvana『Incesticide』を聴く(Apple Musicはこちら)註:『Bleach』『Nevermind』『In Utero』はNirvanaが残した3枚のオリジナルアルバム。『Incesticide』は、インディーズ時代のシングルとB面曲、未発表曲やカバー曲などを収録した企画盤
―高校生のときは他にどんなものを聴いてたんですか?
裕斗・雅斗:Blur。
雅斗:あとはGreen DayとかWeezerとか。
裕斗:Arctic Monkeys、The Strokes、The Killers、あとはblink-182とか。
雅斗:The Offspringとかも。そのあたりのバンドをBOOKOFFで買ってきてそれを聴かせ合ってました。
Kana:私もArctic Monkeysとか、あとOasisとFoo Fightersを聴いてた。リフがかっこよくて、メロディーのいいバンドは高校生の私にとってすごく聴きやすかったんですよね。
―ジャンルはそれぞれ微妙に違うけど、海外の音楽を聴くための入口になるような、日本人も好きなロックバンドたちですよね。そういうバンドを聴いているのって他のクラスメイトからしてどういうふうに見えていたんですかね?
裕斗:ぼくらの世代からするとGreen Dayが好きなヤツも、Beastie Boysが好きなヤツも、blink-182が好きなヤツもみんな同じというか、洋楽とかロックを聴いているって時点で、わりと大人しめな人が多かったですね。
Kana:教室の端っこにいる感じだったよね。
雅斗:高校生のときに「好きなバンドなんなん?」って聞かれて、Green Dayとかって答えたら、「あー、詳しいな!」みたいに言われたことがあります。
ストリーミング以前と以後の音楽体験について。地方に暮らす学生の体験談
―海外の音楽を聴いているだけで珍しい人という状況から、みなさんはもう一歩踏み出して、いろんな音楽を聴くようになるわけですよね。ポストパンク~ネオアコとかオルタナって普通に生活していても、なかなか触れるきっかけがない音楽だと思いますし。
裕斗:個人的には、大学生になった2016年にストリーミングを使い始めたことがなによりも大きいと思います(註:Apple Musicのサービス開始は2015年6月、Spotifyの国内ローンチは2016年9月)。ぼくらは奈良県に住んでいたんですけど、奈良ってそんなにCD屋がないんですよ。
東京は街中に出ればいっぱいCD屋があるし。地域ごとに音楽が育ちやすい地域とそうじゃない地域ってあると思ってて、東京とか大阪は強くて、地方都市だと、特に奈良なんかは本当に……まあ、奈良にはLOSTAGEがいますけど。
―LOSTAGEの五味岳久さんは、奈良で「THROAT RECORDS」っていうレコード屋さんもやっていますし、『BORN』のエンジニアはLOSTAGEの作品でおなじみの岩谷啓士郎さんですよね。奈良出身の2人にとってLOSTAGEは誇りなんですね(関連記事:サニーデイ×LOSTAGEが腹を割って話す、音楽家兼経営者の胸中)。
裕斗:そうなんです。中学生のときにSPACE SHOWER TVで”NEVERLAND”のミュージックビデオを見て、「奈良公園や!」ってテンション上がったのを覚えてます(笑)。「THROAT RECORDS」に行ったりするようになったのは、大学生になってからですけどね。
地元も奈良市ではなかったので、「音楽のこと知りたい、なるべく安くCDを買いたい」ってなっても行くところはBOOKOFFしかない。でも地元のBOOKOFFなんて、ミリオンヒットのCDくらいしかないって感じで。
裕斗:東京の中古CD屋とかレコード屋行くと掘り出しものがいっぱいありますよね。東京はライブハウスもたくさんあるし、ミュージシャンが手放したようなCDが置いてあるんですよ。
ライブハウスとかレコ屋が周りにない地域だと、ロック好きになるきっかけがそもそも生まれにくいんだろうなと思います。でもストリーミングが上陸したことによってみんなスマホで等しく同じ環境で聴けるようになった。
―ストリーミングサービスによって、文化的なバックグラウンドが限りなくフラットに近づいたと。
裕斗:2015年くらいまでは音楽を掘るってなったらインターネットで探すか、もしくは大阪のTSUTAYAで借りるくらいで。TSUTAYAも大阪と奈良で全然品揃えが違うんですよね。
2015年までは音楽を掘るのにめっちゃ頑張らないといけなかったのが、2015年以降はやっぱりストリーミングが上陸したことで、一気に探しやすくなった。だからオタクになるハードルが下がったのかもしれないと思ってて。
雅斗:あー、たしかにな。
裕斗:ストリーミング以前のオタクって経済力も必要だし、バイトもできない高校生からすると5枚1,000円でも痛かった。でもいまだったら1,000円払うだけで何万曲も聴ける。そういう意味ではオタクになるハードルもどんどん下がってるというか。
ぼくらも本格的に音楽オタクになったのって大学に入って、ストリーミングを使うようになって以降なんで。でも中高でCD買う習慣が根付いていたから、SpotifyとかApple Musicで視聴しつつもCD・レコードを買うことは続けてて。
でも、未知の領域に踏み出すハードルが下がったのは2016年以降で。1,000円払って5枚しか選べないなかで冒険するのは難しかったけど、いまはスマホのなかに試聴機があるみたいな感覚だから。
Subway Daydream“Dodgeball Love”を聴く(Apple Musicはこちら)
裕斗:簡単にスキップしがちとか、音楽に対する思い入れがどうこうって問題はあるとは思うんですけど、全体的に見て音楽オタクは増えたんじゃないかなって。ここ最近の音楽の流行りにもストリーミングの登場は影響してるのかなって思います。
―音楽に対する貪欲さが文化なり創造性を培っていたって言い方ももちろんできるけど、ストリーミング以前にあった生まれ育った家庭の文化資本の度合いによってその人の人生が左右されちゃうみたいな状況は是正されつつある。それはきっといいことですよね。
ストリーミングを前提としたバンドの実態。楽曲にはどのような影響が?
―いまはコロナ禍でライブもままならないですけど、ストリーミングを前提としたバンド活動ってそれ以前と全然違うんだろうなと思います。Subway Daydreamは2020年に結成されたんですよね。それ以前にバンドはやっていたんですか?
裕斗:一応大学のサークルでバンドはやってたんですけど、オリジナルのバンドは4人ともやったことなくて。自分たちで曲をつくったのは“Twilight”が初めててです。“Twilight”も2020年2月にレコーディングして、次の日にリリースしました。
雅斗:早く出したかったよな。
裕斗:早く出そうぜ! みたいな感じでな。2月1日に録ったっけ?
Kana:そう、1日に録って2日にはもうYouTubeとかにあげて。
裕斗:で、3日に配信して。
たまみ:Twitterとかで宣伝して。
裕斗:あのスピード感はストリーミングの時代じゃないとできないと思う。
―海外にもリスナーがすでにいて、Spotifyで見る限りだと日本の次に台北のリスナー数が多いんですね(2021年4月現在)。
裕斗:そうですね。
Kana:嬉しいです。
―活動のスピード感も楽曲が届く範囲もストリーミング以前と以降では全然違うわけですけど、楽曲制作にも影響はあるものですか?
裕斗:ぼくは曲の大枠をつくるんですけど、曲をつくるうえでやっぱりストリーミングは絶対無視できないです。たまたま出会ってくれる人にも刺さるような工夫が大事だなって思います。
ストリーミングで聴くときに、わざわざ「Subway Daydream」って検索してくれる人もいれば、プレイリストなりサジェスト機能でたまたま出会ってくれる人もいる。当然どちらも大事なんですけど、たまたま聴いてくれる人たちは曲をつくるうえで絶対意識しないといけないなと思っています。
―具体的にはどういうこと意識しているんでしょうか?
裕斗:聴く人によって印象はそれぞれだと思うんですけど、わかりやすいインパクトを残すことはストリーミングの時代に音楽をつくるうえでは絶対必要だと思います。
サウンドはルーツの匂いのするものにする一方で、メロディーは普遍的で耳馴染みのいいものに、歌詞も聴く人によって引っかかりそうなワードをあえて入れてみたりとか、そういうのは意識してます。
Subway Daydream“Canna”を聴く(Apple Musicはこちら)
―“Dodgeball Love”に<思い出はモノクローム>って一節があって、こんなふうに大滝詠一さんの“君は天然色”の歌詞を引用するバンドは聴いたことないのでびっくりしました(笑)。あと“Canna”のイントロも、明確にMy Bloody Valentineを意識していますよね。やっぱりそこは狙っていたんですね。
裕斗:あとは“Fallinʼ Orange”だったら、海外の音楽を好きな人には「この曲、ネオアコっぽいな」とか「Primal Screamみたいだな」って思ってもらえるようなサウンドを狙いつつ、一方で、普段J-POPを聴いてる人には「めっちゃいいメロディーだな」って思ってもらえるような歌を意識していて。
―最初にスピッツの話をしましたけど、スピッツはまさにそういうバンドですもんね。
裕斗:まさにそうですね。いくらぼくが海外の音楽好きだからといっても、日本語しかわからないから日本語で曲を書くしかなくて。日本語で歌う以上、どうしても日本のリスナーは絶対無視できないし、だったらメロディーにこだわる必要があるなと。たまたま聴いた人にメロディーいいなって思ってもらいたいし、そこは妥協したくない。
Primal Scream『Sonic Flower Groove』(1987年)を聴く(Apple Musicはこちら)
あえて特定のジャンルに特化しないことが、ストリーミング以降のバンド活動では強みに
―ストリーミングが前提になると、聴き方が想定できないという難しさがありますよね。日本でしか流通しないCDをつくっているんだとしたら、リスナーは基本的に日本に住んでいる人って考えていいと思うんですけど、ストリーミングで配信すれば世界に開かれているわけで。
裕斗:だから、聴きどころは選んでくださいってスタンスですね。従兄弟はKing Gnuがすごく好きなんですけど、LINEのプロフィールミュージックはAdoの“うっせぇわ”なんですよ。
“うっせぇわ”とKing Gnuって全然違うし、なんならKing Gnu、YOASOBI、Official髭男dism、あいみょんとかって全然違うけど、でも全部好きな人もいっぱいいると思うんですよ。リスナーの好みが多様化しすぎて想像つかない。自分がめちゃくちゃいいって思ったものでも、世間的にはそうでもないことっていっぱいあるし、難しいですね。
―あいみょん、Ado、Official髭男dism、King Gnu、YOASOBIって、「日本語のいいメロディーの歌」以外の音楽的な共通点を探すほうが難しいんだけど、並列に聴くことはそこまで珍しくないんだろうなと思います。
裕斗:いまって、Sonic YouthもGreen DayもBUMP OF CHICKENも全部好きって恥ずかしげもなく言える時代なんだと思う。リスナーとしてはすごくいい時代だけど、でも作り手としては「じゃあどこ向こう?」っていう難しさはありますね。
Subway Daydream“Ballad”を聴く(Apple Musicはこちら)
雅斗:でも逆に考えたら、自分たちがいまいいと思うものをなんの気負いもなくできるってことだと思う。
裕斗:そうだね。ぼくらは音楽やるうえでは自由でいたいんです。「ブレたくないけど、変化しないのは嫌だ」みたいな葛藤はありますけど、自分たちが好きなものを全部やるってスタンスが自由でいいかなって思ってて。
“Twilight”をリリースしたとき、Twitterでほんと小さな範囲で話題になったんですけど、シューゲイザーって言う人もいれば、ネオアコって言う人もいて。「次の曲つくるとしたらシューゲイザーにしなあかんのかな?」とか思ったりして。
一同:(笑)
裕斗:一瞬迷ったりもしたんですけど、ぼくが書いたメロディーとたまみと雅斗のボーカルっていうSubway Daydreamらしさを中心に置きつつ、ジャンルの横幅は広げていけばいいなってことを最初から考えていました。
ぼくがあまり特定のジャンルをずっと聴き続けることができない人間で、自分が次になにをしたくなるかもわかってないからこそ、自分たちで自分たちの可能性を狭めたくないなって。
スピッツもSonic YouthもINUもBUMP OF CHICKENもPale Saintsも、Green Dayもblink-182もフラットに聴けるのって、ストリーミングの恩恵をもろに受けたぼくらの世代の強みになると思うんで。
たまみ:“Twilight”を出したとき、当時は「オルタナっぽくしないと」と思いながら歌ってたんですけど、いまの歌い方とそのときの歌い方は違ってて。
裕斗はいろんな曲をつくるんですけど、私に合うようにつくってくれるんです。だから今では、自由に歌ってええんやって思ってます(笑)。
―Subway Daydreamはたまみさんが自分らしく歌える場所として存在しているってことですよね。少なくともバンド内には途中で話したような洋楽と邦楽の隔たりがないというか。すごくいい話ですね。
リスナーにとって、海外の音楽の入り口になるバンドを目指す。洋楽と邦楽の壁を知っているからこそのスタンスを語る
―Subway Daydreamとして活動していくうえでの理想のあり方というか、なにかいまの時点で考えている目標があれば聞きたいです。
裕斗:ゆくゆくは海外バンドの前座をやりたいし、『フジロック』みたいな海外のバンドが来るフェスにも出たい。そういう国境をまたぐ存在になりたいですね。
自分たちの好きな音楽をやることって、わかる人にだけわかる音楽になってしまう側面もありますけど、ぼくらはそうじゃなくて、できるだけ間口は広く構えていたいです。
―それこそKanaさんが[Champagne]をきっかけにOasisを聴いたみたいな、誰かの音楽の視野を広げるような存在になりたいとかも考えますか?
Kana:そう、そういうバンドになりたい!
裕斗:それです! 「“Freeway”を聴いてはじめてDinosaur Jr.を聴いてみました」みたいな声が聞こえてきたらすごく嬉しいなって思います。
Dinosaur Jr.『Green Mind』(1991年)を聴く(Apple Musicはこちら)
裕斗:それはリスナーに対して啓蒙的なスタンスで「俺らこんな音楽やってんだぜ」ってことを言いたいわけじゃなくて、これだけ好きな音楽を自由に探せる時代だからこそ、「一緒に楽しもうぜ」ってことを言いたいですね。
―すごくいいスタンスですね。
裕斗:中学のときは、洋楽どころか英語で歌っている日本のバンドですら自分の生活とは距離があったので、「聴いたらあかんのかな」「英語わからへんからハードル高いな」って思ってて。ぼくらが中高生のときにビビってたような存在になりたくないって思います。
―音楽を教えてくれる人がいること自体が幸福なことだけど、教えてくれる人が嫌な感じの人だったとか、ちょっとしたことで音楽に対するハードルは上がりますよね。
裕斗:日本の音楽のガラパゴス化とかよく言われてるけど、ぼくらの思春期ってちょうどそういう音楽がすごく盛り上がってた時代だったから、海外の音楽に対するハードルがすごく高いと感じている人も周りにいっぱいいて。
そういう状況でぼくらが海外の音楽にも手を出せるようになったのって運がよかったんだなって思います。「お腹のなかからThe Beatles聴いてます」「親はジャズしか聴きません」みたいな家庭に生まれたわけでもなく、ただただフラットに音楽聴いてきた結果こうして海外の音楽にものめりこめたのは幸福だった。
裕斗:「洋楽わからんわ」みたいなロック好きな友達の一番好きなバンドがKing Gnuと羊文学だったりするんですよ。羊文学が好きだったら絶対好きになれるのになって思うけど、洋楽ってだけで遠ざけちゃう。
歌詞の意味なんてわからなくてもいいし、アルバムの何曲目がこうでここのリフがとかいちいち語れなくてもいいし、語れたらそれはそれで楽しいけど、「この曲の歌詞を全部歌えないとファンじゃない」みたいな聴き方がぼくらの中学生の頃にはあった気がして。
雅斗:「にわかファン」って言葉があるくらいだからね。
裕斗:ライブでこの曲のここで手拍子ができなかったり、手を挙げるところで挙げなかったら「にわか」って、よくよく考えればおかしな話で。そういうリスナーの囲い込みが成立するジャンル、それが正解なジャンルもあるとは思うんですけどね。
―ライブにおける一体感を求め過ぎた結果というか。日本は同調圧力が強いってよく言われますけど、人を傷つけたり、迷惑をかけなければ、音楽の場では自由でいいはずなんですけどね。
雅斗:同調圧力みたいなものの怖さって絶対ありますから。その怖さを克服できたからこそぼくらはそういうスタンスでありたいと思うんです。
たまみ:優しくありたいよね。「手、無理に挙げんでええんやで」って。
裕斗:逆に「手、挙げてもいいんやで」って。
雅斗:そうそう。「こういう聴き方してもええんやで」ってな。
裕斗:ロックをやるようなアーティストの聴き方、ライブの楽しみ方はもっと自由でいいなって思います。そういうスタンスで活動していった先で、Subway Daydreamが聴いてくれた人にとって音楽オタクになるきっかけになったらすごく嬉しいですね。
Subway Daydream『BORN』を聴く(Apple Musicはこちら)
- リリース情報
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- Subway Daydream
『BORN』(CD) -
2021年4月28日(水)発売
価格:1,650円(税込)
REP-0561. Freeway
2. Teddy Bear
3. Dodgeball Love
4. Fallin' Orange
5. Canna
6. Ballad
- Subway Daydream
- イベント情報
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- 『"BORN" Release Live -OGYAAAAAAAAA!!!!!!-』
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2021年5月23日(土)
会場:大阪府 心斎橋CONPASS2021年5月29日(土)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
- プロフィール
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- Subway Daydream (サブウェイ デイドリーム)
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2020年、大阪にて双子の藤島兄弟と幼馴染のたまみとKanaによって結成。80~90年代インディ / オルタナティヴの影響を受けたサウンドに、イノセントな男女ボーカルとどこか懐かしいグッドメロディーが魅力の4人組バンド。結成直後の2020年6月にリリースした『Twilight』は、自主盤にもかかわらず、タワーレコードオンラインのJ-POPシングルウィークリーTOP30に28位でランクイン。各店の「Eggs Choice」コーナーにおいても、梅田NU茶屋町店で年間1位、新宿店で年間4位の売上を記録。また関⻄の新人アーティストの登⻯門として知られる『eo Music Try』でも準グランプリを獲得するなど、短い活動期間ながらも早耳リスナーや関係者の間で注目を集めている。上海に拠点を置く「Luuv Label」より中国での楽曲配信がスタートしたほか、アメリカをはじめとする海外のラジオ局でも楽曲がオンエアされるなど、日本国外へもその支持を広げている。2021年4月28日に初の全国流通盤となるEP『BORN』をリリース。
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