2016年のMV監督デビュー以来、[Alexandros]やOfficial髭男dism、ポルカドットスティングレイなど数多くのアーティストのMVを手がけ、最近では初の地上波ドラマ監督にも挑戦している映像作家・かとうみさと。ビビッドな色使いや、牢屋や十字架などの毒々しいモチーフなど、どの作品にも彼女の個性が強く打ち出されているように感じるが、意外にも作品をつくるときはコラボレーション相手の個性を活かし、相手の思いを第一に制作を進めているという。
なぜ彼女はアーティストたちに求められるのか? その作家性に迫るべく、今回、かとうにソロインタビューを敢行。LenovoのPC・Yoga Slim 750i Carbonで実際の編集作業や日々の思いを記録する方法などを見せてもらいつつ、作品の具体的なつくり方や制作現場での立ち回り、作家として大切にしていることまでを聞いた。
「私の考えるMVの役割は、楽曲を拡張させること」
―これまで数多くのアーティストのMVを手がけてきたかとうさん。[Alexandros]の“Feel Like”では、大勢の金髪ダンサーが映像のキーとして使われるなど、ユニークな作品が印象的ですが、MVのコンセプトを決める際はどのようなことを大切にしているのでしょうか?
かとう:曲を聴いたときの、ファーストインプレッションですね。私が考えるMVの役割とは、楽曲を拡張すること。曲とリンクするような表現でありつつ、意外性もあることが重要だと思っています。
曲を聴き込んでしまうと、歌詞のイメージに引っ張られてしまうので、曲を聴いて一番はじめにイメージできたことを軸に、自分が温めていた「アイデア」を組み合わせて、コンセプトを決めるようにしています。
かとう:私の作風は、「エロさと毒っぽさを孕んだポップな映像」と「ドラマ調でエモーショナルな映像」の2軸があるのですが、どちらが当てはまりそうかもコンセプトを決めるときに判断するようにしていますね。
―楽曲を拡張するために、どのようなことを重視していますか?
かとう:作風にもよりますが、例えば「毒っぽいポップな映像」であれば、曲のテーマに対して、真逆の要素やアイテム、全然関係ないモチーフを組み合わせて、曲の世界観を拡げるためのフックにしています。
Official髭男dismさんの“ノーダウト”のMVを制作したときは、ドラマ『コンフィデンスマンJP』の主題歌だったこともあり、「ドラマに関連する要素を入れてほしい」という要望がありました。
それ以外は比較的自由だったので、ドラマの物語や曲の歌詞から着想を得て「牢獄」をテーマに設定し、メンバーが牢のなかで演奏している画を撮ることに決めたんです。
牢獄と聞くと、暗い色のイメージがあると思いますが、そのままMVに反映すると、ハードコアで負の塊のような画になってしまい、曲の魅力が削がれてしまう。そこで、メインカラーを水色、黄色、ピンク、赤というポップな4色に設定することで、牢獄というテーマを表現しつつ、意外性も見せることを目指したんです。
かとう:一方、「ドラマ調でエモーショナルな映像」の作風で制作する場合は、ストーリーが想像でき、感情が湧き上がるような構成や画づくりを重視しています。SHE'Sの“Over You”やGReeeeNの“ゆらゆら”がそうですね。
センスや技術だけではない。作家性を貫くために大切なこと
―アーティストの要望をMVに反映させるために、どのようにコミュニケーションを取りながら制作を進めているのでしょう?
かとう:最初にアーティストの要望をすべて聞き、「私だったらこう表現します」とアイデアを伝える。さらに文章やリファレンスをたくさん共有しながら、アーティストと自分のイメージを合致させていきます。
MVの場合はコンテを描かない監督も多いそうですが、私の場合は認識の相違を避けるためにも、コンテもしっかり描くようにしています。面倒にも見えますが、こうすることで大幅な修正を防ぐことができますし、信頼関係も築けるんです。
―アーティストの気持ちを汲み取るコミュニケーションが作品のクオリティーにつながっているのですね。
かとう:そうですね。だから、「MVはアーティストの作品の一部になるもの」という意識と、相手に対するリスペクトは大切だと思います。それに、自分の作家性を発揮するためにもコミュニケーションは重要なんです。
例えば、アーティストとの打ち合わせでは、相手のやりたいことや構成など要望はすべて聞きつつも、画づくりに関しては余白を残してもらえるように対話を重ねます。撮影現場がピリついた雰囲気になったときは、スタッフやアーティストに自分から積極的に声をかけ和ませるように心がけたりしています。
MVに限らずものづくりの現場はどこでもそうだと思いますが、技術やセンスがあるだけではダメで、関わるみんなに楽しい気分になってもらうことが、自分のクリエイティブを通していくことにもつながると思いますね。
―2020年末に公開された、ニノミヤユイの“痛人間賛歌”のMVでは、かとうさんの持ち味である「毒っぽさを孕んだビビッドでポップな映像」と「ドラマ調でエモーショナルな映像」の両方が盛り込まれていて、作家性がより進化しているように感じました。
かとう:”痛人間賛歌”のMVは、最近の作品のなかで特にお気に入りです。完全お任せでつくらせてもらったのですが、アーティストの魅力と相まって、アヴァンギャルドかつエモーショナルな表現ができ、2軸ある自分の作家性を、ひとつにまとめることができたと思います。ときには、この作品のように思いっきり自由にやれるのも嬉しいです。
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「アイデアをストックするために自分の経験や思い出を日記のように書く」
―映像制作には作業用アイテムも欠かせません。かとうさんは機材をどのように選んでいますか?
かとう:移動が多い仕事なので基本的にはノートPCをメインマシンにしています。なので、軽いに越したことはないんですけど、今回「Yoga Slim 750i Carbon」を使ってみてめちゃくちゃ軽いことに驚きました。
デザインもすっきりしていて、マットな質感がおしゃれですし、カーボン製で強度があるのもいいなと思いました。学生の頃に使っていたWindowsのノートPCは、分厚くてメカ感がすごくあったけれど、Yogaはおしゃれな書類ケースみたい。学生の頃にこんなPCがあったらよかったのにな、と思いました。
―持ち運びやすさはマシン選びのなかでも大切なポイントですよね。
かとう:普段、アイデアをストックするために自分の経験や思い出を日記として書いているのですが、軽いPCはそういった細々した作業にも適していますよね。
Yogaで実際に、アイデアストックの作業をしてみたら本当に書きやすくて。PCの立ち上がりやロック解除などのレスポンスがはやいし、屋外でもどこでも作業ができる。文字も打ちやすくて、タイプ音が全然しない点もスマートですよね。
―PCを選ぶ際のスペック面のこだわりはありますか?
かとう:動画の編集作業がサクサク進むことと、レンダリング作業が早く終わることです。MVは基本的に編集作業も自分でやることが多いので、スピード感は大事にしています。
Yogaで編集作業もしてみましたが、動画の切り出し作業や音合わせの作業などでもサクサク動くし、画面の色味が実物の被写体の色味とほぼ同じで再現度が高いので、カラコレ(色味を調整する作業)にかなり適しています。モニターによって色が違って見えたりすることが多いのですが、届けたい色彩が真っ直ぐ届くんだろうなという安心感がありますね。
ドラマ監督に挑戦して気づいた、自分が本当に好きなこと
―現在放映中の『ホメられたい僕の妄想ごはん』では、初の地上波ドラマ監督をつとめられています。MVとの違いはいかがでしたか?
かとう:今回は、制作の方がGhost like girlfriendのMV“Before sunny morning”の中澤瞳ちゃんを見て、「俳優のこういった表情を引き出せるのなら、ぜひ」ということでアサインしていただいたんです。
かとう:いままでは音楽が好きで、MVやファッション系のムービーをメインに撮ってきたので、30分という尺で、かつ日常が舞台のドラマはとても新鮮でした。
私が担当したのは、5話、6話、10話で、メインの監督とドラマを通して伝えたいことや、表現で大事にしていることを共有し、自分が好きに表現していい部分はどこか、どんな挑戦ができるか、探りながらつくっていきました。
結果的に、ニノミヤユイさんの“痛人間讃歌”のときのように、ドラマでもエモーショナルとアバンギャルドな表現の両方をひとつの映像に落とし込めたと思います。
特にそれができたのが、10話。センチメンタルでありつつギャグ要素が強い回で、主人公がエアベースを弾きながら料理をするシーンがあるのですが、そこだけは照明もこだわってMV風に撮り、MV監督としてのノウハウを全力で注ぎ込みました(笑)。ドラマの表現としてより新しく、攻めたかたちのものができてよかったなと感じていますし、自分の成長を感じた仕事でしたね。
ー最近はMV以外の仕事も増えているそうですね。仕事の幅が広がってきた理由は何だと思いますか?
かとう:ドラマのほか、WEB CMやSNS広告のビジュアル制作も多いです。広告のキービジュアルなど、スチールのアートディレクションの仕事も増えています。
新しいことにも迷わず挑戦してきたのがよかったのだと思います。気になるジャンルがあれば、まずは「やりたい」と声に出して発信する、そして機会をいただけたのなら全力で挑戦してみる。そこで生まれた作品を見て、いいと思ってくれた方がまた仕事をくれる。そういった循環が、仕事の幅を自然と広げてくれたのだと思います。
かとう:それにいろいろなジャンルの仕事にチャレンジしたことでの発見もあって。私はいままで、「音楽を軸にした映像制作がやりたい」と思ってきたし、実際それが活動の中心になっていますが、ドラマや広告の仕事を経て「自分はコンセプトを決める作業がなによりも好きなんだな」と気づきました。
だから映像以外のお仕事も面白がりながらできていますし、自分の固定観念にとらわれずいろんなことに挑戦してみたいという気持ちも強くなりました。
心と心でぶつかり合うような仕事に挑戦し、新たなフェーズへ
―今後、チャレンジしたいことがあれば教えてください。
かとう:私はその時々でやりたいことが変わるタイプなのですが、いまはドラマの魅力に取り憑かれています。
『僕の妄想ごはん』も、大変だったけれどすごく楽しかったんですよ。音楽と映像の掛け合わせも考えられるし、セリフのいい回しひとつで見え方が変わる。いま、また別のドラマの案件のオファーを受けて、制作を進めているところです。
―遠い未来よりも、いまの仕事に集中されているのですね。
かとう:いまに集中できるようになったのは、実写がやりたいとか、MVやドラマを撮ってみたいといった目標をすべて叶えられたからなんです。だから今後は、好きなものを大切にしながら仕事をしていきたいですね。
いま、某案件で女優の松岡茉優さんとお仕事させていただいているのですが、とても魅力的な方で、感情でぶつかってきてくださるので、毎回激しく心を揺さぶられるんです。それは怖くもありますが、乗り越えた先に自分が変わっていく感覚もあって。
いままで映像作家として場数を踏み、修羅場に対処し、乗り越える術は身につけたつもりでしたが、上手にこなすだけがプロフェッショナルの仕事ではないと気づかされました。違うフェーズに行ける実感があったので、体力と気力が持つ限り、もっと心と心でぶつかり合うような仕事もしていきたいですね。
―最後に、かとうさんの考えるクリエイティビティーとは何か、教えてください。
かとう:誰かを救うものだと思います。私自身、思春期は家族との関係が不安定で、辛いことがあったときに漫画や音楽に救われてきた。だからこそ、それができる存在になりたいんです。
実写映像の作家を始めてから6年間、自分のなかにある負の感情までも、恥ずかしがらずに素直にアウトプットしてきました。
創作し、発表したものには評価も伴うので、批判を浴びるのではないかと不安に思うこともありますが、共感してくれたり救われたりする人が必ずいると信じています。
これからも自分自身を変化させながら、アウトプットできるほどの感情を持つことも大切にして、作品をつくり続けたいです。
- 商品情報
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Yoga Slim 750i Carbon
軽量性と堅牢性を兼ね備えた「インテルEvo準拠の」13.3型モバイルPC。第11世代インテルCoreプロセッサー搭載でクリエイティブ作業でのパフォーマンスにも適している。
- プロフィール
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- かとうみさと
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映像監督、アートディレクター、CGデザイナー。東北芸術工科大学を卒業後、CGをデジタルハリウッドにて学ぶ。MVやアートディレクション、企業広告まで数々のクリエイションに携わる。「MTV VMAJ 2018」にて監督したOfficial髭男dism「ノーダウト」MVが「最優秀邦楽新人アーティストビデオ賞」を受賞。第14回ベストデビュー2018グラフィック・アート部門受賞。MVを担当したアーティストには[Alexandros]やOfficial髭男dism、ポルカドットスティングレイ、SILENT SIREN、阿部真央など多数
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