CINRA.JOBでは、コロナショックで家にいる時間が増えた人や、自分と向き合う機会が増えた人に向けて、「いま読みたい本特集」を実施。第2弾は、クリエティブ業界で働くデザイナー、カメラマン、エンジニアにおすすめの本を寄稿いただきました。 「不安な気持ちを吹き飛ばしたい」「人に会えなくてさみしい」「本当に大切なものって、なんだっけ……?」。先行きが見えないいまは、どうしたって心が曇ってしまいがちです。この特集をきっかけに、あなたの気持ちを晴らす一冊が見つかることを願っています。
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【脇田あすかの1冊】
ものづくりは「一人じゃない」。創作の孤独を癒してくれる
ものをつくることって基本的にはひとりでないのだと、この本を読んで思い出しました。もちろん一人きりでやるべき場面はあるけれど、人からバトンをもらって、別の人に渡したり、はたまたもらった人に返したり。行き交って創作する、というやりかたがあるんだなと。
本著には、谷川さん、岡野さん、木下さんの3人による詩と短歌の「連詩(詩を順々に読み合ってひとつの作品をつくること)」と、その後の読み合い(発表し合うこと)から読み違いへの気づきや新しい発見などを本人たちが語り合う「感想戦」も収録されています。連詩は、3日以上あいだを空けないというルールでやりとりされたそうです。
詩自体もすてきですが、特に後半の感想戦で創作の内側を知れることが大変興味深いです。お互いに「こういう意味だったんだ!」「別にそういう意図ではなかったけどたしかにそう見えるね」と気づく瞬間の会話があり、そのあとに連詩を読み返すとまた違った印象になります。
勘違いから生まれた作品があったり、ひとりでは出てこなかった言葉が生まれたりすることにハッとしました。岡野さんによるあとがきの一節に、「日常と創作は地続きだ」と語られていたのも、印象に残っています。
私は日々何かをつくり続けなきゃいけないし、つくり続けたいと思っています。だけどここ数か月は、展示を見に行ったり見知らぬ土地に行ったりできず、新しいものに触れる機会がとても減りました。産み出すばかりでインプットできず、さらには、つくったものを受け取った相手の顔すら見られない日々。なんだか自分がすり減ってゆくような感覚があり、精神的に消耗してしまいました。
「ものをつくる」とは、バトンを誰かに届けることなんですよね。直接会いづらいいまだからこそ、ちゃんと人の話をきいたり返事したりしたい。ひとり勝手につくっているだけのものでも、相手を思ってつくったものでも、誰かが受け取ってくれたとわかると嬉しいし、元気がでますよね。そういうものづくりを続けていきたいし、きちんとそれを感じられるような人とのやりとりをこれからも維持していきたいです。
脇田あすか
1993年生まれ。グラフィックデザイナー。東京藝術大学デザイン科修了後、デザイン事務所コズフィッシュに所属。デザイナー、アートディレクターとしてパルコの広告や雑誌『装苑』の表紙などを手がけるかたわら、個人制作も精力的に行う。
https://twitter.com/astonish___
https://www.instagram.com/wakidaasuka/
【玉村敬太の1冊】
何にどうやって向き合うべきか。大切にしたいものに気づかされる
10人の写真家の仕事を紹介している本です。森山大道さん、アラーキーさん、蜷川実花さんなど著名な写真家が登場します。特にぼくが印象に残っているのは、佐内正史さんのパートです。著者が佐内さんに対して、「出版社で写真集を出すことにもう情熱を感じないのか」と尋ねるシーン。佐内さんは「もう感じない。(出版社は)売れるものを売っていこうという考え方になっているが、写真集はもっと人に見せられないものを見せていくものだと思う。個人の愛というか」と答えます。
ぼくは以前から、何においても「いのちがいちばんだいじ」と考えていましたが、コロナによる自粛生活が続いたことでより強く感じています。自分たちの仕事や生き方を振り返り、「本当に大切にしたいこと」について考えた人もいたかもしれません。
自粛期間中、昔のネガを引っ張り出して暗室で焼く人が増えたという話を耳にします。そのプロセスの切実さや手ざわりを楽しんでいるのかもしれません。ほかにも、自分の身の回りのこと、たとえば身近な人を撮ったり家の窓から見える景色を撮ったりする人も増えている気がします。自分が撮った写真がまわりからどう見えるかということよりも、もっと内面的な、いまの自分にしか撮れないものやことと向き合っているように思います。
ぼく自身も、ずっと家族を撮り続けています。身近にある「いのち」や些細な仕草やことに気づかされる毎日です。
忙しく消費される日々のなかでは、「これうけるかな」とかどうしてもキャッチーで誇張気味な表現を選んでしまうことがあります。クライアントワークとなると難しい場面はありますが、自分や被写体のいのちや些細な心の動きを見逃さないようなものづくりをこころがけていきたいです。写真が撮れる、絵が描ける、クリエイターってそれだけじゃないと思うんです。料理をすることもおむつを替えることも、生きることってとてもクリエイティブだと思います。
だからこの本は、写真に興味がある人だけじゃなく、多くの人に読んでもらいたいです。一人の人間が人生をかけて何にどうやって向き合ってきたのか、ものづくりを飛び越えて、「生きるうえで何が大切なのか」を考えさせられる一冊です。
玉村敬太
1988年生まれ。東京電機大学工学部機械工学科入学後、日本大学芸術学部写真学科へ編入。2011年に鈴木陽介写真事務所に所属し、大学卒業などを経て2017玉村敬太写真事務所設立。
http://tamamuraketa.jp/cv/
【濱田智の1冊】
不穏な時代だからこそ、何もかも忘れて没頭できる一冊を
国名シリーズでおなじみのエラリー・クイーンによる短編集である本作は、おなじみコナン・ドイル『シャーロック・ホームズの冒険』に匹敵する軽さ、BPS(Bikkuri Per Seconds。瞬間あたりのビックリ指数)を持った一品。
あからさまにおかしな状況に、あからさまにおかしな言動でボケまくるエラリーが、じつは鋭角に謎に切り込んでいたことが判明するという、推理小説ファンが母親を質に入れるぐらい中毒性のある瞬間が10編も詰め込まれていて至福。
この企画を依頼されたとき、文明世界を覆い尽くす厄災とリンクするような文学作品を挙げようと重い腰を上げて、ボルヘス(※1)とかグラビンスキ(※2)を手に取ったのだけど、ふと思ったんですよね。そんなもんいま、誰が読みたいんだろうって。いま読みたいのは、軽くて、何もかも忘れてしまうぐらい没頭させてくれる何か、なんじゃないかなって。
- ※1 アルゼンチン出身の小説家、詩人。宗教・神をモチーフにした作品などで知られる
※2 ポーランド文学史上ほぼ唯一の恐怖小説を手がけた作家
ぼくが持っているのはAmazonにある新訳版じゃなくて、短編10編しか収められていない旧訳なんですが、この概要文が秀逸なので引用します。
「その男は、なぜひとりだけ色変わりのネクタイをしていたのか?」「なぜ、その猫ぎらいの婆さんは毎週、猫を一匹ずつ買わなければならなかったのか?」「どうしてその男は同じ本を十一冊も買ったり盗んだりしたのか?」「殺された男はなぜ、女の肖像画に口ひげを生やさせたのか?」……など。
知らねーよ、って思いません? エラリー、ボケてるとしか思えないですよね。でもじつは、優れた推理小説に必要なのは「突拍子もない手がかり」と「推理力高すぎてボケ続けてるようにしか見えない探偵」なんです。
「没頭させてくれる何か」に触発されたら、「自分も何かつくりたい」と思うかもしれない。結果、何十年後か何百年後、娘とか孫の代かそれ以上のときに、「2020年頃、宅録、自宅撮影の映画、私小説……諸々の芸術が爆発的に盛り上がってるけど、一体何があったんだろう……?」とか言われる日が来ると思います。
ルネッサンスもペストの流行が発端だった説ありますからね。自宅謹慎がダ・ヴィンチを生むなら最高じゃない?
濱田智
1977年生まれ。CINRA Ownership Companyエンジニアリーダー。震災の年にCINRA入社。以降、「CINRA.JOB」や「CINRA.NET」を含む自社サービスのシステム設計を手がけるのと同時に、早稲田大学の大規模リニューアル構想や、リクルートの新卒サイトなど、数多くの受託案件に携わる。ほどほどのプロップスを獲得しつつ、現在はチームのマネージメントと設計をメインに、日々の糧を得る。
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