- プロフィール
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- 佐藤慶一
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編集者。1990年生まれ。新潟県佐渡島出身。出版社で編集者をしながら、海外メディアの動向を伝えるブログ「メディアの輪郭」を運営中。将来は地元に帰りたいと思っています。http://media-outlines.hateblo.jp
ときどき、メディアについてインタビューを受けたり、イベントに出たりすることもあるのですが、新潟の佐渡島出身ということもあり、たびたび地域・地方(ローカル)とメディアの関係について発言していました。今回お声がけいただいたことで、「地方にゆっくり馴染むシゴトをつくる」というテーマでミニ連載をはじめます。
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はじめまして。佐藤慶一です。WEBメディアの編集者をする傍ら、個人で海外メディアについて調べて書くブログ「メディアの輪郭」を運営しています。ときどき、メディアについてインタビューを受けたり、イベントに出たりすることもあるのですが、新潟の佐渡島出身ということもあり、たびたび地域・地方(ローカル)とメディアの関係について発言していました。今回お声がけいただいたことで、「地方にゆっくり馴染むシゴトをつくる」というテーマでミニ連載をはじめます。
東京にいながらも、「ローカル」な情報を目にする機会が増えました。東京におけるファスト消費とは違い、地方においては情報発信も働き方も、淡々と、じっくりと、時間をかけて溶け込んでいくものなのかもしれません。でも、実際はどうなのでしょうか? 地方に馴染むべく挑戦と試行錯誤を繰り返す注目のメディアやプロジェクトを取材していきたいと思います。
地域に特化したクラウドファンディングサービス「FAAVO」とは?
第1回目に取り上げるのは、2012年6月28日にスタートした地域に特化したクラウドファンディングサービス「FAAVO(ファーボ、運営:株式会社サーチフィールド)」です。事業責任者の齋藤隆太さんにお話を伺いました。FAAVOは齋藤さんの出身である宮崎からはじまり、いまでは全国46エリアで展開しています。実は3年前、新潟エリアへの進出にあたり、お話する機会がありました。
FAVORITE(好き)とFAVOR(えこひいき)、そしてACTION(行動)――。そんな思いが込められたサービス。自分の出身地を「えこひいき」したい、というのはなんともローカルな価値観なような気がしていました。当時はクラウドファンディングという言葉もあまり知られていなかったものの、ローカルに向けて挑戦しはじめたFAAVOには、この3年で大きく進展もあり、今回改めて掘り下げようと思ったのです。
「もともと、クラウドファンディングをやろうというよりは、なにか地域ビジネスをやりたいと思っていたんです」
地元が嫌いで大都市に出てきた地方出身者は、次第に地元のことが気になり、さらには好きになることがあります。齋藤さんがまさにそうだったのでした。しかし、その思いをアクションに移す場やサービスがなかなかありません。
「たとえば飲み会なんかはよくありますが、それ以外にもアクションポイントをいくつかつくりたいと考えました。そのうちのひとつがクラウドファンディングだったんです。都市部に出てくる人には家族や就業などそれぞれに理由があります。だから都市部にいながら地方と気軽に関われる、新しい関係値を築けるようなサービスを作りたいと思いました」
成功するかどうかよりも、理念ありきではじめたクラウドファンディング
当時、クラウドファンディングというと、IT業界や東京に住む感度の高い人が知るようなサービスだった気がします。地域に特化したFAAVOの登場は、各地に散らばる名もないプロジェクトを拾い上げていく役割を果たすことになりました。
「クラウドファンディングは手数料ビジネスのため、いかに大きいプロジェクトを、多く、短期間で実施できるのかがビジネスの拡大としては勝負所になります。つまり、運営側の視点からすれば、地域の小さなプロジェクトに対する支援者は少ないので、手をつけても仕方がありません。ビジネスとしてはそのほうが正しいと思います。
でもFAAVOの意義は、地域に対するアクションポイントを増やすことです。だからこそ、大手のクラウドファンディング事業者が狙っていない位置づけにあるプロジェクトを掲載してきました。理念ありきでクラウドファンディングをはじめたので、成功かどうかよりも、小さくとも各地で活動する人たちを扱いたいんです」
それでも、地方への仕組みの理解浸透には苦労したそうです。クラウドファンディングに掲載されたプロジェクトへの流入経路はSNSが多く、サービス開始時は地方ではまだフェイスブックなどを活用する人があまりいませんでした。当時は拡散に苦労したものの、逆にSNS利用が盛んでない地方でなぜかクラウドファンディングが流行り出すような動きが起こせたらおもしろいという捉え方をしていたとのこと。
たった4年で全国46エリアに展開できた、「エリアオーナー制」
ところで、FAAVOは地方への展開に向けて、「エリアオーナー制」という仕組みを採用していきました。つまり、運営をその地域の法人に任せる、ということです。
「最初から自分たちだけじゃなく、現地のことは現地に任せようと思っていました。地域コミュニティに入り込むことを考えても、そのほうがやりやすく、自然だと思ったからです。また、東京にいるFAAVOチームとしても、自分の地元やゆかりのある地域でないとなかなか気持ちが上がらないということもありました。それならば、同じような思いを持つ現地の人に任せたほうがいいと思い、エリアオーナー制を開始したんです」
この仕組みの貢献もあり、FAAVOは4年目を迎え、全国46エリアに拡大(30以上の地域にエリアオーナーがいる)。このフランチャイズ的な展開のやりがいは「全国のエリアオーナーさんが同じ理念・気持ちで動いてくれること」だそう。「同志が増える感覚に近いです。自分たちのまちが好き、という誇らしい気持ちを支援していきたいです」。プロジェクトのクオリティが一定にならないことは課題だといいますが、権限委譲を進めているそうです。
行政にとっても嬉しい、クラウドファンディング
FAAVOの地域展開のなかには、行政がパートナーという事例もあります。島根県、福井県鯖江市、鳥取県鳥取市、さらには岐阜県関市・美濃加茂市・各務原市の広域連携などが代表例です。自治体がクラウドファンディングを活用するのには2つ理由があるといいます。
「ひとつは税金を使わずに、市民活動の支援や意義ある支援ができること。オールオアナッシングのため、いいプロジェクトにちゃんとお金が流れる仕組みを評価いただいています。地方では若者が都市部に出ていくだけ、納税者がいなくなることを意味するため、税金ゼロというのは自治体の方に響いていると感じます。
もうひとつは、地方の総合(成長)戦略を描くなかで、クラウドファンディングを利用しようという機運が高まりつつあることです。たとえば、福井県鯖江市ではクラウドファンディングで得た資金を自治体の財源として歳入処理したり、老朽化しためがね広告塔を建て替える資金を集めたり、利用にも工夫がみられます」
自分一人でなく、サービスの理念を共有できるメンバーを集めて成長を加速
現地の法人や行政も巻き込み展開してきたFAAVOですが、実は当初といまではコンセプトが変わっています。「出身地と出身者をつなぐ」とのキャッチコピーを掲げスタートしましたが、今年、 「地域の『らしさ』を誰もが楽しめる社会をつくる」と変更。ここには、都市部ならではの意図がありました。
「特に関東1都3県では、地元意識が希薄で、『出身者』という概念にしっくりきていない部分がありました。もともと関東に生まれたメンバーからすると、ちょっと違和感があるみたいで。そこで、もっと領域を広げて、単純に地元でも自分が好きなエリア・地域でも応援できる、楽しめる社会になったらいいね、と改めて方向を定めました。
また、コンセプトを変えたのは、チームビルディングの側面もあります。これまでは宮崎出身のぼくが3年ほどリードして運営してきましたが、メンバーみんなでつくるFAAVOにしていきたいと思いました」
実はFAAVOのメンバーは、会社名であるサーチフィールドとしてではなく、サービスに紐づく形でFAAVOとして募集。FAAVOの理念に共感し、齋藤さんと話をして入ってきたメンバーが集まっているのです。現在、常駐スタッフが6名、業務委託やインターンを含めると総勢10名ほどの運営チームとなっています。その多くがコミュニティマネジメントを担当しており、単にプロジェクトをつくるというよりは、各地のエリアオーナーとの関係構築やモチベーション向上などにコミットしています。
チームメンバーも増え、エリア数も増え、プロジェクトの数は370件以上、これまでの支援総額は2億4600万円以上になります。そんななか、ひとつのビッグプロジェクトが生まれています。
岐阜県美濃加茂市の「蛍丸伝説をもう一度!大太刀復元奉納プロジェクト始動!」というプロジェクトです。
「あれ本当にすごいんです。全然仕込んでいなくて」
クラウドファンディングといえば、テストマーケティング的に利用する人もいるため、支援を集めるためにある程度の戦略を練る必要があります。それがこのプロジェクトでは、「刀剣乱舞」というブラウザゲームの利用者から火が着きました。ゲーム内で「蛍丸」という伝説の刀との設定で、戦場から帰ってきた武将が寝て夢を見て、その間に蛍が寄ってきて、起きたときには刃こぼれが直っていたエピソードがあるのです。
ゲーム利用者がツイッター上で、その蛍になろうと呼びかけた結果、2500名以上の支援者、3600万円を超える支援額(目標金額は550万円)を集めています。すでにFAAVOの最大プロジェクトとなっており、まだ60日以上残されているため、どのように着地するのか楽しみです。
「地元で仕事をしたい人がFAAVOに多く集まってくれたらいい」
最後に、FAAVOの運営を通じて、齋藤さんと地元・宮崎との関係性がどう変わってきたのか聞くと、「むっちゃ変わりましたね」とのこと。
「やっぱりアクションすることが大切だと思います。宮崎のことをぼんやり考え、地域ビジネスをやりたいと思っていた頃といまではまったく違っていて、実際動いたことで地元の知り合いがかなり増えました。もっと多くの人がこういう体験をすると、たとえば、移住はぐっと増えると確信しています。
地方のいちばんの問題は、18~20歳の進学や就業のタイミングで地元との関係値がバサッと切れてしまうことです。地元との関係値が乏しく、出てきた先のコミュニティが大きくなればなるほど、UIターンもしづらいと思います。
ぼくの場合は、強制的にFAAVOという手段を用いて、地元との関係をつくることになりました。地元に行き、知らない人に声をかけて、サービスを説明する。その繰り返しを通じて、共感してくれる人や相談できる環境になってきました。より地元にコミットしたい、チャレンジしたいと思えるようになったのは本当によかったと思います」
齋藤さんは「地元については、安請負してもなにかやりたいと思うのではないか」といいます。つまり、金銭的な価値ではない、ほかの価値を求めているということです。たとえば、FAAVOはクラウドファンディングだけでなく、クラウドソーシングの国内最大のプラットフォームである「クラウドワークス」と提携し、「仕事」の領域にも関わりはじめています。先日話題となった大阪の「痴漢抑止バッジ」のデザインもクラウドワークスとの協働によるものでした。
その先には当然、UIターンをはじめとする雇用や移住といった文脈を編んでいくのでしょう。「地元で仕事をしたい人がFAAVOに多く集まってくれたらいいなと思います。どの自治体も移住・定住者の獲得に四苦八苦しているので、そこに貢献できそうな気がします。なぜならFAAVOにはお金だけじゃない感情が乗っていますから」。
自分にまつわる地域が好きな人にアクションしてほしい――。その思いが根底に流れるFAAVOはまだ完成形ではありません。クラウドファンディングとして地方に根差し拡大しつつ、今後どのような展開を見せていくのでしょうか。地方出身者としてすでに実践者のポジションにいる齋藤さんのお話はとても染みました。次回もお楽しみに!
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