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映画ライター、編集者。1987年、福井県生まれ。東京学芸大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション、映画WEBメディアでの勤務を経て、独立。映画・アニメ・ドラマを中心に、本や漫画、音楽などエンタメ系全般のインタビュー、レビュー、コラムなどを執筆するほか、トークイベント・映画情報番組にも出演。猫とカフェに弱い。
Twitter(@SyoCinema) / Instagram(@syocinema)
ほとんどの仕事で必要となる「コミュニケーション」。とはいえ、誰しもが得意とは限らない。上司やクライアントなどを目の前にすると緊張してしまったり、コミュニケーションに苦手意識を持っている人も多いはず。また、聞き手のプロであるライターや編集者でさえ、うまくいかなかったインタビューがたくさんあるはずだ。 そこで今回は、国内の有名な俳優やアーティストだけでなく、キアヌ・リーブス、ハリソン・フォード、トム・ハンクスなど数々の海外大物スターへの取材経験もある映画ライターのSYOさんに、インタビューにおけるコミュニケーション術のコラムを寄稿いただいた。 相手がどんなに大物でも緊張しない秘訣はあるのだろうか。また、インタビューの際に意識していることは? ライターや編集者はもちろん、仕事上のコミュニケーションで悩む方々に参考にしていただきたい。
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じつは、人見知り。それでもインタビューを成功させてきた秘訣とは?
CINRA.JOBをご覧の皆さま、こんにちは。映画ライターのSYOです。映画雑誌の編集プロダクション、映画ニュースサイトの勤務を経て、いまはフリーランスのライターとして映画を中心に、アニメやドラマ、漫画に関する記事などを書いています。
映画ライターの仕事を大きく分けると、「書く」「聞く」「話す」という3種類の業務になります。「書く」はレビューやコラムなどの執筆、「聞く」はインタビューやイベント取材、「話す」はYouTubeなどの動画や、テレビ・ラジオなどの出演です。
今回は「どんな相手にも、緊張しすぎないコツ」というテーマで、主にインタビューにおけるコミュニケーション術について語らせていただきます。
先に言っておくと、ぼくは昔から結構人見知りです。会社員時代、同僚や先輩・後輩とエレベーターなどで一緒になったとき、「今日は寒いですね」みたいな話題すら振ることができませんでした(ぶっちゃけ、いまも人が怖いです)。そんな奴がなんでインタビューなんて人と話す仕事をギリギリできているのかを、今回はお伝えできればなと思います。
大物スターの取材でトラブルも経験。印象的だった2つのインタビュー
まず、これまでのインタビュー実績について軽くお話しします。会社員時代から数えると、映画業界にはかれこれ9年弱います。その間に総勢何人にインタビューさせていただいたかは定かではないのですが、おそらく数百人かと思います。海外の方だと、スティーヴン・スピルバーグ監督やクリストファー・ノーラン監督、ハリソン・フォードさんにウィル・スミスさんなど……。国内外の大物スターへのインタビューを担当してきました。
ぼくは英語を喋れないのですが、通訳さんに入っていただき、なんとかこなしてきました。国内外の大物スターへの取材で、とくに印象的だったインタビューを2つ紹介します。
印象的なインタビュー①:ハリウッドスターとの「デビュー戦」で機材トラブル
まずは会社員時代。初めて自分一人でインタビューする「デビュー戦」の相手が、ケイト・ブランシェットさん(『ロード・オブ・ザ・リング』のエルフの女王などを演じた大物女優)でした。「こんな展開ある!?」と心のなかでツッコみました。映画業界はときどき、そんなミラクルが起こります。
緊張しながら迎えたデビュー戦。なんと、先輩から貸してもらったICレコーダーの容量がいっぱいで、インタビュー中に「これ以上録音できません」という表示が……(頭のなかが真っ白になりました)。心配性なのでいつも録音機器は2台以上回しており、事なきを得たのですが、いまだにあの日のことを思い出すと肝が冷えます。
そのような経験があり、絶対に鉄則としているのが「インタビューに挑む際、録音機器は2つ以上用意しておくこと」です。インタビューは生ものなので、失敗ができません。ICレコーダー用の電池はつねに多めに用意しておきますし、データの空き容量も毎回取材前に確認します。スマートフォンでも録音できるようにモバイルバッテリーを持ち、念のためノートパソコンも持参します(ICレコーダーもiPhoneも使えなくなった場合、パソコンのボイスレコーダーを使うため)。ここまで準備しておけば、さすがに安心。事前準備をすればするほど、本番では目の前の相手との対話だけに集中できます。
印象的なインタビュー②:ライター人生が一変! 独立の契機になった動画出演
もうひとつ印象的だったのは、昨夏、ライターとしてぼくが独立する直前に呼んでいただいた、中村倫也さんのインタビューです。これは媒体に載せる記事ではなく、映画の公式インタビューで、まさかの動画でした。ぼくが中村さんにお話を聞き、その模様が映画館で本編の上映前に流れるという……(震え)。
駆け出しの人間がまずアサインされることはないビッグな案件だったので、前日は緊張と不安で眠れませんでしたし、あの日を境にいろいろな方々に知っていただけてライター人生が180度変わりました。引き上げてくださった配給会社の担当者さんと、当日めちゃくちゃ優しかった中村倫也さんには感謝してもしきれません(好きです)。いまだに思い出しては、夢かと思います。
中村倫也さんとの2ショット…
本日の『水曜日が消えた』舞台挨拶映像付き上映、またレポート記事をご覧いただいた方々、本当にありがとうございました!
倫也さん、収録中もすごく気を遣ってくださって本当にもう……好きです pic.twitter.com/325bVisisG
— SYO(映画ライター) (@SyoCinema) June 20, 2020
ぼくが独立する契機をつくってくれたインタビューとなったわけですが、インタビュアーの候補に選出してくれた理由のひとつは、ぼくが過去に書いた中村倫也さんについてのコラムを担当者さんが読んでくれていたからでした。本件に限らず、「仕事が次の仕事を連れてくる」パターンはものすごく多いです。
それ以来、原稿を書いているときなどに「疲れた……」とちょっとでも気を抜きそうになると「すべての仕事はつながっているんだぞ」と言い聞かせるようになりました。一生懸命頑張ることは当たり前ですが、闇雲に取り組んでいるとパンクしそうになるときもありますよね。そうならないためにも、この「つながっている意識」を持つことがとても大事だと思います。
人見知りでも、緊張しすぎない秘訣は? 3つの「インタビューの心得」
ここからはインタビューに臨むうえで、ぼくが大切にしていることを3つ紹介させていただきます。大事なことなのでもう一度言いますが、ぼくは人見知りです。人と話すのが苦手な「コミュ障」であることは、明確なハンディキャップですが、逆転の発想を持てば心強い味方にもなります。以下に開示するのは正直、「持ってない」人間が戦うためにひねり出した苦肉の策ではあります。それでも、なにかの役に立てばうれしいです。
インタビューの心得①:とにかくLOVE100%で! 対象への愛はコミュ障を救う
まず、ぼくが諦めたこと。それはリア充のふりをしないことです。20云年コミュ障なんですから、もう治らない。だったらそこは受け入れて、どう戦うかを考えたほうが健全です。そうして延々と考えて、トライ&エラーを繰り返して気づいたのは、「好きなものなら殻を破れる」ということ。
ぼくは映画や漫画のオタクですが、不思議なことに好きなコンテンツの話題だとめっちゃ喋れるのです。同僚とする天気の話は広がらないけど、映画なら語れる。だったら考え方は簡単で、インタビューする相手や、作品のことをめっちゃ好きになれば良いのです。取材相手への愛が高まれば、緊張よりも「推しと話せる機会を最高の時間にしたい」というメンタルが勝っていきますから。
「それだけ?」と思うかもしれませんが、これはインタビューに限らず、誰かと仕事をするうえでとても大切な考え方だと思います。やっぱり、興味を持てる案件だとはかどるし、相手も興味を持ってもらえているとわかると嬉しいはず。天気の話で場つなぎ的な会話をするより、最初からちゃんと「好きです」と伝えたほうが結果的に会話もスムーズになる。なにより本気で話せるのです。
インタビューの心得②:相手の立場をとにかく想像! どうしたら嬉しいかを考える
ただし、「インタビューの心得①」で肝心なのは、あくまで仕事である意識を忘れないこと。インタビュアーの本分を忘れてはいけません。愛が強すぎて暴走しないように、リスペクトの精神を持つことが大事です。そこで重要なのが、「相手の立場に立つ」という考え方。
インタビューする相手は、当然ながらほかにもたくさんの取材を受けています。同じような質問をたくさんされたら誰だって疲れるし、飽きますよね。ですから、「自分だったらどんな質問なら新鮮に感じられたり、楽しく思えたりするだろう?」と考えて、質問案を作成します。
「お、こいつ面白いな」と思ってもらうためには、リサーチも重要。俳優さんや監督さんへのインタビューなら、対象となる作品について調べておくことはもちろん、過去のインタビュー記事をいくつか読んでおいたり、自分なりの「その人の特徴」を考えておいたりすると良いと思います。
どんな大物でも、相手も人間。過去の言動を知ることで「大体こういう考え方の人」というのが見えてきます。取材時間は限られていますから、調べたらわかるような質問はすっ飛ばして、より深い話をしたいですよね。そのためにも、こっちの知識量を増やしておくと時間を有効活用できます。
ぼくは人とアドリブ的に話すことが苦手なので、こうした準備が命綱になります。インタビューは一発勝負なので、相手がどんな反応を返してくるかわかりません。だからこそ、どんな答えが返ってきても良いように、質問案は多めにつくって持っていきます。結果的に聞かないものも出てきますが、質問を練る時間を多めにとることで、より相手のことを理解し、一つひとつの質問の質が研磨されていくので、必要な作業といえるでしょう。
インタビューの心得③:過度なリスペクトは緊張の原因に! 仕事であることを忘れない
ここまで、インタビューの心得として、「①愛情を持つこと」、「②相手の立場に立つこと」と話してきました。3つ目は逆説的かもしれませんが、冷静な目を持つこと。これはいわば、緊張しすぎないためのブレーキであり、視野を広げるための考え方だと思ってください。
よくスポーツなどで、「リスペクトしすぎ」という表現がネガティブな意味合いで使われます。これは、相手を大物・強者だと考えすぎて、委縮してしまった結果、自分の本来のポテンシャルを発揮できないことを指します。非常にもったいないですよね。ですから、こう考えてはいかがでしょう。「相手はすごい人だけど、自分がいるから記事が世の中に出るんだぞ」と。それぞれ役割をもってその場にいるわけですから、どっちかが偉いというわけではないのです。
この考え方は、ライターとしてのプライドをもってその場にいるということにもつながります。インタビューの心得①②でこちらにできる努力はちゃんとしてきているわけですから、相手が誰であろうと恐れることなどないのです。それに貴重な機会をフイにしてはもったいないですから、自分が全力を出せる場にもっていくのが合理的。逆にいえば、相手がすごい人であればこそ、全力を出さなければ失礼。そして、その場はあくまで「記事をつくるための取材」です。本来の目的を忘れないようにしましょう。
「インタビューの心得」おさらい
① とにかくLOVE100%で! 対象への愛はコミュ障を救う
② 相手の立場をとにかく想像! どうしたら嬉しいかを考える
③ 過度なリスペクトは緊張の原因に! 仕事であることを忘れない
いちばんの目的は、「良い仕事をする」こと。コミュニケーションの本質とは?
ここまでは主にインタビューの場におけるコミュニケーション術について話してきました。ただ、どんな仕事においても共通して、肝要だと感じていることがあります。それは、「本気で話せる場」をいかにつくるか。
ぼくは、仕事におけるコミュニケーション術と日常におけるコミュニケーション術は似て非なるものだと思っています。後者はいかにお互いに居心地良く過ごせるかが最重要だと思いますが、前者のいちばんの目的は「良い仕事をする」こと。
とくにクリエイティブ系の仕事では、最初は良いものをつくろうと思っていても、ディスカッションを重ねているうちに険悪になったり、余計な感情が入ってきて本来の目的を忘れがちになったりすることが往々にしてあります。そして、その逆も。居心地良く過ごすことが最大の目的にすり替わってしまうと、「良いものをつくる」が背面に隠れてしまうんですね。それでは本末転倒です。
ですので、周囲とのコミュニケーションを円滑にする意識よりも、最終的なゴールをみんなが見失わないように周知することが重要。立場や状況にもよりますが、関係者へ定期的にリマインドすることも大切です。良いものをつくるための最適なコミュニケーションは、温度や熱意、ビジョンを皆で揃えることなのです。自分たちがなんのためにコミュニケーションをとって、どこに向かうのか。これを忘れないようにすれば、真の意味での円滑なコミュニケーションが生まれるのではないでしょうか。
疲れて寝落ちしてたの激写されてた pic.twitter.com/xdrqsjeS8X
— SYO(映画ライター) (@SyoCinema) May 14, 2021
苦手なことは、そのままでも大丈夫。最後に、読者へ伝えたいこと
このCINRA.JOBの記事を読んでくださっている方は、つくり手であったり、クリエイティブ業界に興味を抱いている方だったりが多いのではないかと思います。となると、人より感受性が高い方々のはず。ですから、「他者とコミュニケーションをとる」ことに対して怖さや難しさを抱くこともあるでしょう。
その苦手意識があるという前提で最後に伝えたいのは、「苦手なままでも大丈夫」ということです。だってそのぶん、秀でた芸術性やセンスがあるわけですから。ものをつくる人は、大なり小なり他人と異なる変わった感性を持っていますし、人と違うからこそ面白いものをつくることができる。それは大事な個性です。その長所を活かしたまま、仕事にどう取り組んでいくかを考えてもらえたらなと思います。
ものづくりは第一に、自分を認めることから始まりますし、業界内には同じような苦悩を経験してきた先輩がたくさんいますから、苦手なことがあるあなたでも工夫次第で居場所をつくれるはずです。一緒に、不器用なまま生きていきましょう!
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