- プロフィール
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- 河原香奈子
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WEBデザイナーとして制作会社で働いた後、スタートアップの事業会社を経て、2020年1月からデザイン・イノベーション・ファームTakramに入社。これまでの実績に、新型コロナウイルス感染症が地域経済に与える影響をビックデータに用いて可視化する地域経済分析サイト「V-RESAS」、D2Cブランド「KINS」のUI / UXデザインなどがある。
- 篠原友希
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グラフィックデザイナーとして、制作会社で紙媒体を中心に幅広く制作を行ったのち、2018年9月に事業会社メルカリに入社。UI / UXデザイナーとしてフリマアプリ「メルカリ」のデザインを担当。現在はプロダクトデザインチームのマネージャーを務めている。
近年UI / UXデザインの需要はますます高まり、デザイナーにとっても、今後のキャリアを考えたときに「まったく知らない」では通用しなくなりつつあります。そもそもUI / UXデザイナーとは、どのような仕事で、事業会社と制作会社で仕事内容や視点に違いはあるのでしょうか? そこで、事業会社・制作会社それぞれを経験しているTakramの河原香奈子さんと、メルカリの篠原友希さんの元へ。UI / UXデザインの面白さやキャリアステップに迷っているデザイナーへのアドバイスなどを伺いました。
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UI / UXデザイナーは具体的に何をする仕事?
—まず、UI / UXデザイナーとは、どのような仕事なのでしょうか?
河原:一般的に、デジタル上でユーザーとサービスとの接点をつくり、サービスを通して得られる体験を向上させることを、UI(ユーザーインタフェース)/ UX(ユーザーエクスペリエンス)デザインと言います。私はユーザーを含め、いろいろな人の気持ちに寄り添い、生活を良くしていく道具をつくるような仕事だと思っています。
篠原:私も河原さんの考えと一緒ですね。さらに言えば、その「道具」が快適に使えるように、改善もしていきます。つくって終わりではなく、継続的に携わり、ブラッシュアップをし続けるのが大事ですよね。
—お二人はもともと、違う分野でデザイナーをしていたそうですね。
河原:そうですね。私が仕事をはじめた2008年頃は、UI / UXデザインはまだ世の中にあまり浸透していなくて。最初はWEBデザイナーとして、コーポレートサイトやランディングページのデザインを制作していました。その後、2013年からスタートアップの事業会社にUI / UXデザイナーとして入社することになり、キャリアが大きく変わりました。
篠原:私ももともとは制作会社で、紙媒体をメインにグラフィックデザイナーとして働いていました。案件によってはWEBのUIを考えることもありましたが、本格的にアプリのUI / UXデザインを始めたのは、3年前にメルカリに入社してからのことです。
—これまでやっていたデザインと、異なる点はありましたか?
篠原:グラフィックデザインが「道具を売るために何かをつくること」だとしたら、UI / UXデザインは「道具そのものをつくること」なんです。グラフィックデザイナーとしてのスキルが通用しないわけではなかったものの、まったく異なる職種だと思いましたね。グラフィックや広告のお仕事は、人の行動を後押しするために、感情を動かしたり何かを考えさせるためのもので、UI / UXは人がやりたいことをするためのお手伝いをするもの。根底にある人の行動に想像をめぐらすという点では共通な気がします。
河原:わかります。ランディングページなどのWEBデザインも同様に「道具を知ってもらい購入につなげる」ものですが、UI / UXデザインは「使いやすい道具をつくる」という、実際の利用者との距離がより近い仕事だと言えます。
現役の二人が実践する、スキルアップの方法と仕事をするうえでの心がけ
—UI / UXデザイナーのスキルを身につけるために、どのようなことをしてきましたか?
篠原:はじめのころは、メルカリのアプリをトレースするようにしていました。なんせ、アプリのUI / UXに関しては未経験だったので、そもそもデザインの良し悪しが見極められるようにならなければいけない。そう思って、メルカリに入社した当時は空き時間を利用してトレースしてましたね。
河原:いいですね。
篠原:ほかにはいまも続けていることですが、いろんなアプリを触ってみて、たくさんスクリーンショットを撮って分析することもしてきました。
河原:私の場合は、集中してデザインしていると、UIがうまく機能しているかどうかわからなくなることがあるんです。だから寝る前やふとした生活のなかでほかのアプリを使っている途中に、 自分がつくったUIを見返すことで、違和感がないかを調べるようにしています。
篠原:わかります。見方を意識的に変えることが大事ですよね。以前、Takramさんとメルカリとの勉強会で河原さんが、「プロダクトに人格を持たせるとしたら、そのプロダクトがお客さまに対してどう振る舞うかを考えるとよい」というお話をしていたのをよく覚えていて。明確な人格を定めることで、自分の無意識な見方を客観視できるし、ふるまいとして違和感がないかを確認できますよね。
河原:私たちがつくる道具は、無機質なものではなく、人と接するものですからね。ちなみにTakramには同じ専門性を持つ人が集まり学ぶ「Mark@」という仕組みがあるのですが、そこに参加して、仲間とUI / UXに関わる本を読んだり、お題を出して想像上のアプリをつくってみることで、さらなるスキルアップを目指しています。
—仕事ではどのようなことを心がけていますか?
篠原:メルカリの場合、1つのアプリのなかに、フリマアプリの出品者と購入者がいて、スマホ決済のメルペイを使う人もいる。使い方は人それぞれのプロダクトです。そこでたとえば、「出品者の体験を良くしよう」という目標が立てられた場合、UI / UXデザイナーは出品者のための改善をすると同時に、その反対側にいる購入者やサービス利用者全体にどのような影響を及ぼすかまで考える必要があります。だからこそ、とにかくいろんな人になりきってつくることを心がけています。
河原:私は、毎回のプロジェクトのなかで、UI / UXの新しい領域をほんの少しでも開拓できるよう心がけています。最近も、新規事業立ち上げのプロジェクトで、事業の根幹となるコンセプトメイキングからお手伝いしているのですが、そこでコンセプトを考えながら同時進行でUIを考えてみたんです。そうしたら、コンセプトがうまく整理できると、UIもうまく整理できるということがわかりました。いまは、UIに何かを掛け合わせるような仕事に積極的に参加することで、新しいUI / UXのつくり方を生み出せるのではないかと考えて、さまざまなプロジェクトに取り組んでいます。
UI / UXデザインの面白さは、ユーザーからの反応と変化を与えられること
—UI / UXデザイナーになってから、印象に残っている仕事はありますか?
河原:Takramに入ってからすぐに携わった、「V-RESAS」という仕事ですね。新型コロナウイルス感染症が及ぼす地域経済への影響をデータビジュアライゼーション(情報やデータをわかりやすく視覚的に表現すること)し、WEBサイトとして公開するというプロジェクトです。新型コロナウイルス感染症の感染が拡大し、世の中が混乱しているなかスタートしたプロジェクトだったので、日々更新される情報をインプットしながら、急いで手を動かし、チームでゼロからつくりあげていったのを覚えています。Takramにジョインした理由のひとつとして、社会貢献できるプロジェクトに関わりたいという想いがあったので、この仕事は自分にとって大きなチャンスでしたし、大切な仕事になったと感じています。
篠原:私は2020年11月にリリースされた、「ゆうパケットポスト」という新しい配送サービスの仕事が印象に残っています。新しい専用箱を利用することで、郵便ポストから商品を送れるという、いままでの体験を刷新するサービスで、そのUI / UXデザインを担当しました。
お客さまが専用の箱を手にとってから、発送を完了するまでの体験をつくっていたので、アプリ内のことだけでなくオフラインでの行動まで考慮する必要がありました。そこには、お客さまがきちんと商品を送れることはもちろん、荷物を運ぶ日本郵便の方も無事に荷物を届けられる、という体験をスムーズにする必要があります。両者ために、どんな情報が「どこに」そして「どのように」入っていたらいいかをチームメンバーと話し合いながらつくっていきました。難しかったですが、楽しかったですね。
—この仕事の、どんなところに面白みややりがいを感じますか?
河原:私は自分がつくった道具によって、ユーザーの生活が変化し、社会に何らかの影響を与えられたと実感できたときに、やりがいを感じますね。ユーザーの反応があるからこそ、寄り添えていると実感できるところが魅力です。
篠原:良くも悪くも、お客さまの反応がすべてリアルに返ってくるところが面白いですよね。私は多くの人が日々当たり前に使っているものに携われること自体に、喜びを感じています。つくり手側が良かれと思ってやった改修が、結果としてお客さまにとってもよい改修とはならなかった場合もありますが、さらによくすべき課題が見えてくることが、モチベーションにつながっていますね。
事業会社と制作会社でUI/UXデザイナーの役割は異なる
—河原さんは「制作会社→事業会社→制作会社」、篠原さんは「制作会社→事業会社」とキャリアステップを踏んでいますが、それぞれUI / UXデザイナーの役割に違いはあるのでしょうか?
河原:あると思います。事業会社の場合、ユーザーの目線でプロダクトをとらえてつくると同時に、事業を成功させるための確度をデザイン面から最大化していくという、ビジネスの目線も強く求められます。一方で、私が所属しているTakramのようなデザインファームにとっては、事業会社はパートナーのような存在です。そういった立ち位置から、さまざまなパートナーに寄り添いともにつくることで、デザインの力で広く社会貢献していくという役割を担っていると思います。
—事業会社と制作会社では、それぞれどのようなメリット・デメリットがあると思いますか?
篠原:事業会社のメリットは、「このプロダクトが好きだ」「もっとよくしたい」とピュアに思っている人が集まっていることでしょうか。もちろん制作会社がそうではないとは言いませんが、特定のプロダクトに多くの時間と情熱を注ぐことは制作会社と異なる点だと思います。なのでデザイナー、エンジニア、事業開発担当者など異なるバックグラウンドを持っていたとしても、理想や認識を共有しやすく、同じ熱量で業務に携われる点がメリットだと思います。あとは、お客さまと直に関わりながら、プロダクトを我が子のように育てられるところもいいですね。
デメリットは、自社にデザイナーがほとんどいない、あるいはデザイナーと一緒に仕事をしたことがあるという社員が少ない場合は、その人たちに向けてデザインの大切さを伝えなければいけないことです。メルカリの場合、社員数約1,700人に対し、メルカリ(日本版)のアプリに関わっているプロダクトデザイナーが10人と少ない割合ですが、幸いなことにUXに理解のあるメンバーが多いので、同じ目的に対して一致団結しながら業務が進められます。社内の人がデザインに理解があるかどうかで、働きやすさや仕事のしやすさは変わってくると思います。
河原:Takramで感じている魅力としては、さまざまなバックグラウンドを持つクライアントのプロジェクトに参加することで、ゼロからイチのフェーズに繰り返し携われることです。社内にデザイナーがいない・少ない企業も多いので、外部の専門家の視点から提案やアドバイスをすることで、クライアントにとってよりよい意思決定ができるように心がけています。
デメリットは、事業会社と異なり、ひとつのプロジェクトにじっくり取り組むことが難しいという点になります。とはいえ、合うか合わないかはその会社に入ってみないとわかりません。一般的なメリット・デメリットにとらわれすぎず、自分がやりたいことに挑戦できるかどうかという視点のほうが大切かもしれませんね。
奥が深い分野だが、誰でもチャレンジしやすい。UI/UXデザイナーになるためにすべきこと
—今後のキャリアステップに迷うデザイナーに、アドバイスはありますか?
河原:UI / UXデザインは、すでにフレームワークやハウツーが体系化されているので、学びやすく比較的チャレンジしやすい分野だと思います。まずは手を動かしてつくってみて、そこに楽しさを感じられたら、UI / UXデザイナーになればいいのではないでしょうか。
篠原:いまはUI / UXデザイナーを求める会社が増えてきているので、すごくはじめやすい状況だと思います。まだそのスキルや知識がない人でも、グラフィックデザインやWEBデザインのスキルを活かせる場面も多いので、やったことがないからとあきらめるのはもったいない。学びたいという姿勢さえあれば、徐々にスキルは身につくものだと思います。
そして、デザインのスキルだけではなく、人はどう考えて、どう行動するのかという、人の気持ちを汲み取ろうとする姿勢が、UI / UXデザインをするうえでなによりも大切だと思います。
—最後に、これからのキャリアビジョンがあれば、教えてください。
河原:これからもUI / UXデザインに軸足を置きながら、周辺のものごとを統合的に見てつくる力を身につけ、UI / UXデザイナーの仕事の可能性を広げていきたいですね。
篠原:昨年マネージャーになったばかりなので、これからはデザイン組織をどうしていくべきかという視点とプレイヤーとしての視点を両方持って、チームを強くしていきたいと考えています。具体的には、プランニングの段階から議論に入っていけるプロセスの構築、そしてデザイナーにとって働きやすい組織をつくっていきたいですね。デザイナーは、短期的なビジネスKPIには現れない部分をしっかり考慮しながら議論できたり、プロダクトを横断的に見ているからこそバランスをとれたりできるところが強みなので、それが発揮できる環境づくりにチャレンジしたいと考えています。
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