3分前の自分はもう別人。デジタルネイティブ世代のブロガーが、ネット記者になるまで。

プロフィール
山崎 春奈

1989年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、アイティメディアに新卒入社。大学時代からTwitter・ブログを始め、就活時には自分のブログのエントリを提出して採用が決まった。入社後の1年間は企画営業、2年目からは「ITmediaニュース」の編集記者として活躍している。

最新のデジタルニュースやネット上の話題を伝える「ITmediaニュース」。インターネット黎明期から今に至るまで、人気を博し続けるネットメディアだ。そこで編集記者として働く山崎春奈さんは、小学生の頃から自分でサイトを作って運営してきたバリバリのデジタルネイティブ世代。ブロガーとしての一面も持っており、「ネットに最適化した文章の書き方を自然と身につけてきた」と言う。一方で、現職であるネットメディアの記者とブロガーの違いに苦しんだ時期もあったとか。「今の仕事がとにかく好き」と語る山崎さんの仕事観とは?

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レゴ感覚でサイトを作っていた小学生時代

―以前から、山崎さんのTwitterやブログはかなり多くの人に読まれていたんですよね。アイティメディアに就職したきっかけは?

山崎:昔からインターネットで文章を読むのが大好きなので、アイティメディアには親近感がありました。採用の方法がユニークで、エントリーシートの代わりに自分がネット上でやってきた活動を提出するというものだったんですね。私のときは自分のブログのURLを提出したら最終的に内定をもらえて。昔から文章を書くこととインターネットが好きで、そのまま今に至ってるという感じです。

―そもそも、インターネットと出会ったのはいつ頃だったんですか?

山崎 春奈

山崎:父親の影響で小学1年生の頃からタイピングゲームをやったりとか、パソコンには触れていました。毎月『りぼん』を買って読んでいたけど、ネットなら毎日カラーのイラストが見られる! なんてワクワクしたのも覚えていますね。本格的にネットにハマったのは5年生くらいの頃。好きな小説や漫画のファンサイトを見たり、同年代で遠方にいる子とチャットで話したりするのが楽しかったんです。小学生の自分にとってはリアルでは絶対に会えないような距離にいる人たちと話してる、という感覚がとても新鮮でした。自分で初めてサイトを作ったのもその頃ですね。

—小学生でもう自分のサイトを! まさにデジタルネイティブですね(笑)。

山崎:トップページに日記や掲示板のリンクを載せる程度でしたけど、レゴとかシルバニアファミリーの感覚で遊んでました。色々なコードをコピペして組み合わせるだけでサイトが出来上がっていくのが楽しかったんです。検索すると新しいモジュールやデザインがたくさん出てきて、「インターネットって新しいことがこんなにできるんだ」って感動しました。

—そのサイトはいつごろまでやってたんですか?

山崎:今考えると、私の「サイト管理人」時代は小学校くらいで終わってますね(笑)。中学に入るとケータイを持つようになって、自然とPCからはフェードアウトしていきました。その頃は友達とひたすらメールばかりしてて、依存症ってくらいケータイをいじってましたね。授業中も机の下に隠しながらずっと何かしてて、バッテリーが熱くなりすぎるからハンカチで包んでたくらい。勉強中分からないところを2ちゃんねるの世界史板で質問していた覚えもありますね……。

「ネットに文章を書くことに、頭が最適化されているのかもしれません(笑)。」

―当時はまだ今ほど2ちゃんねるまとめサイトとかも流行ってなくて、「ネットをやってる」ってあまり友達には言いにくい雰囲気がありましたよね。

山崎:そういう意味では大学に入った頃から意識が多少変わったかもしれません。慶應義塾大学のSFC(湘南藤沢キャンパス)に進学したんですが、そこでは皆がノートPCを持ち込んで授業を受けるのが当たり前。授業でTwitterを使って先生に質問したりする場所だったんです。一緒に授業を受けてる学生と、まずTwitter上で仲良くなってからリアルで知り合って遊ぶようになるとか、もう学内にいるだけで「オフ会」みたいな。そういう環境のおかげでネットに対する意識が、友人同士のメールでも2ちゃんねるでもない、もっとオープンなものに変わっていきました。

―Twitterも最初は大学内での交友関係に使っていたんですね。今や9000人を超えるほどのフォロワーがいるそうですが、それだけ注目を集めるきっかけってなんだったんでしょう?

山崎 春奈

山崎:1つは2009年の衆議院選挙ですね。政治について普通の人が考えていることを読む経験って今までほとんどなかったので、Twitterを見てるのが面白くて。自分も少しだけ意見を書いてみたら、それが予想外に多くの方に読まれて驚いたのを覚えてます。ここに書いたことは思ったより遠くまで届くんだと気付いて、もっと色んなことを書いてみようと。それで、Twitterに書ききれないことを書くためにブログも始めたんです。140字では足りなくなってきちゃって(笑)。

―でも、普通の女子大生がブログを始めてもそんなに話題になることはないと思うんです。山崎さんの場合は何故多くの人に読まれたんでしょう?

山崎:そもそも当時、私の年代で「アメブロ」的なものとは異なる外向きの文章を書いてる人が少なかったんですよね、きっと。自分には当たり前のことでも少し年代が違ったり育った環境が違う人の目に触れると、面白がってもらえるんだなぁってことはありました。あと、言い方が難しいですけど、ネットで文章を書くことに頭が最適化されてるんだと思います。“釣りタイトル(記事をクリックされるために誇大なタイトルにすること)”ってほどじゃなく、もっと無意識に。ずっとネットで文章を読んでくる中でうまいなぁ、真似したいなぁ、と思うようなフレーズにたくさん出会ってきて、そのデータベースが蓄積されている感じでしょうか。自分の文章を紙に印刷したら印象が変わるだろうなってよく思います。

―ネット上で話題になると、叩きコメントなどネガティブな反応もあると思います。そういうのを見て嫌な思いはしませんでしたか?

山崎:炎上的な経験もありましたけど、そんなに傷ついたことはないような気がします。同世代がすごく共感してくれる一方で、他の大人たちの常識とは全く違った、とかもありました。それは驚きもあったけど、言葉は厳しかったり強かったりしても、納得できる意見が多かったので勉強になりましたね。ネットを長く見てきたのもあって、煽りに対する耐性は最初からそこそこあったのかもしれません。

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得意なはずだったのに全然できない。苦しかった「ブロガー」から「記者」への矯正

得意なはずだったのに全然できない。苦しかった「ブロガー」から「記者」への矯正

—アイティメディアに入社してからはどんな仕事をしているんですか?

山崎:アイティメディアは入社してから配属先が決まるんですけど、実は最初の1年は記者ではなくて、企画営業でした。タイアップ記事を受注して、その制作進行を記者と営業とクライアントとの間に入って管理する仕事です。記者は取材に行って記事を書くところまで自分一人で完結しますが、色んな人がメディアに関わっているんだということを最初に知れたのはよかったですね。

—人気ブログを書いてきた経験があるのに最初は記者じゃなかったっていうのは意外です。

アイティメディア株式会社 オフィス風景

アイティメディア株式会社 オフィス風景

山崎:でもブログが書けるからってニュース記事がうまく書けるわけじゃないんです。文体の癖がついてる分、ニュース記事のような形の決まった文章を書くのはかえってすごく苦労しました。入社後すぐの研修でニュース記事を書いた時、全然ダメで。今まで書いてきた文章と違うのはわかるけどどう書けばいいのかわからない。参考になりそうな文章をたくさん読んで勉強しましたけど、とにかく苦しかったのを覚えています。だから、企画営業から編集に異動になったときにはその苦しみが少しよぎって……。

—記者の仕事内容としてはどんなものがあるんでしょう?

山崎:家電やPC、スマートフォンなどの新製品発表会に行ったり、WEBサービスのベンチャー企業の記者会見に行ったり、日々取材に行って記事にするのが基本です。製品の紹介から1対1のインタビューまで形式は様々ですが、私のいる「ITmediaニュース」はインターネットに関することならなんでもOKってスタンスです。社内にあるいろんな媒体の中でも自由度は高いほうで、自分の趣味をどうやって記事にするか考えろということもよく言われますね。

—では、記事のネタは山崎さんが選ぶんですか?

山崎:そういうことも多いです。最近書いた中で気に入ってるのは動画サービスの「Vine」で話題になった女子高生を取材した記事。高校生の女の子へのインタビューって、例えば年が離れた男性がやるともう少し違う内容になると思うんですよね。私は歳が近いのもあってフランクに話してもらえたのがよかったなぁと。Vineの人気ユーザーとしてはもちろんですが今の女子高生のリアルな声にも興味があったので色々と質問してみたんです。iPhoneの使い方、気に入ってるアプリ、好きなアーティストや進路の話など……。厳密に言えば本筋と関係のない話も交えて、等身大の姿も伝えられるような記事にしたかったんです。自分が面白いと思ったことを人に伝えたいという「布教欲」みたいなものが強いんでしょうね。

—ブロガーにしても、文章を発信したい人って「自分はこう考えてる」って自己顕示欲や承認欲求が出発点になる人が多いですが、山崎さんは面白い物事をただ単に伝えたいという気持ちが出発点になっているような気がします。

山崎:それはあるかもしれません。ブログも自分が面白いと思ったことをまとめる観察記録だと思って書いてました。文章を書くことは好きだったし、書くときにはたくさんの人に読まれたら嬉しいと思って書いているけど、自己顕示欲は特になくて。何かに触発されたり、自分で見たこと聞いたことをまとめるってやり方のほうが書けるので、記者の仕事は自分の思考回路に合ってると思いますね。たった3分でも過去の自分はもう別の人だと思っているので、「自分が一番初めの読者」という気分になれるんです。文章と自分が別物、という意識はわりと強くあるので、もしかするとブログ書いて叩かれてもへこまないのは、こういう理由なのかもしれないですね(笑)。

「私の世代から見えるリアルなことを発信していきたい」

—これまでにブログを続けてきた経験は、記者になって生かされていますか?

山崎:ネット上で拡散する型がどういうものかについては、昔からネットを見ていく中で身についたものだと思います。ネット上の横書きの文章と紙媒体の縦書きの文章では、視線の流れが違うので選ぶ言葉も変わってきますし、そういう部分の経験は役に立っているかなと。でも今の仕事を始めてから、ブロガーってどちらかというとライターに近くて、記者とは全然違うことが分かりました。

—ライターと記者の違い、ですか。

山崎 春奈

山崎:記者は情報を簡潔に伝えるのが至上命題なので、まずは必要な要素をコンパクトにまとめる必要があります。だから型はわりと決まっていて、ニュース文体というのは各社大きくは異ならないですよね。記者で楽しいのは会見や取材で、どこよりも早く一次情報を聞けること。集めた情報のどこを削るかが記者の仕事だと思っています。普段なかなか興味を持ちづらいジャンルの会見でも、情報の優先順位を考えながら聞いていると結構楽しめます。

—なるほど。ではライターは?

山崎:ライターは自分の個性や文体を出して面白く読ませるということがすごく大事ですよね。どっちも楽しいんですよ。ブログやライター仕事は自分でネタを膨らませていく感覚だけど、記者職は削っていく。その違いは面白いです。

—山崎さんは、なんにでも面白さを見つけるのがすごく得意なんでしょうね。そのコツってどういうところにあるんでしょう?

山崎:何かにハマってる人から話を聞くのが昔からすごく好きなんです。そういう人たちの話す専門用語って大体意味がわからなくて外国語みたいに聞こえてくるんですけど(笑)、それを自分でも理解したくなるんですよね。だから気になった言葉をWikipediaで読み込むのが楽しくて。仮に皆が楽しんでるのに自分は全然面白いと思えなかったら、どうして自分は面白いと思えないんだろうって考える。それはそれで面白いので、結局なんでも面白がれるんですよね。自分でもちょっと病気だと思うんですけど(笑)。

—記者としては天性の才能だと思います(笑)。今後の仕事の目標はありますか?

山崎:まだわからないことや落ち込むことも多いです、戻ってくる原稿が真っ赤だったりすると悔しくなります。でも、もっとできるようになりたいって気持ちがなければ悔しいとも思わないんでしょうね。私に才能があるかはわかりませんが、少なくともそういう気持ちはあるから、この仕事が合ってはいるんだろうなと思っているし、好きです。ネットの世界って長くいるから見えてるものが多いというわけでもなくて、見えてる側面が人によって違っているんですよね。だから上司の見てきたインターネットと私の見てきたインターネットは全然別の物。今自分が見えてるリアルな部分をちゃんと面白がって、たくさん記事にしていきたいです。



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