地味でハードでも構わない。やっと手にしたファッション業界の仕事

プロフィール
清水 真奈美

滋賀県出身。2012年にグループ会社であるマッシュスタイルラボにプレスアシスタントとして入社。ミラオーウェンのデビューと同時にマッシュライフラボに転籍し、現在はチーフプレスとして活動している。

キラキラしたイメージを抱かれがちなファッション業界。特にプレスは、雑誌のスナップに掲載されることもあり、華やかな印象が強い。ところが「実際は地味でハードな仕事ばかり」と株式会社マッシュライフラボで「ミラオーウェン」のチーフプレスを務める清水真奈美さんは答える。だが、その言葉とは相反するように、清水さんの表情からは笑顔があふれていた。その理由とは?
外からではなかなか見えないファッション業界の内側について聞いてみた。

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自分に合ったものじゃないと、一番にはなれない

―清水さんは小さい頃どんな女の子だったんですか?

清水:とにかく目立ちたがり屋でしたね。しかも負けず嫌い。当時の写真を見ると絶対に真ん中にいるんですよ(笑)。学校の学芸会とかも主役じゃなきゃ嫌、みたいな。すごい生意気だったと思います。でも、中学生くらいになると反抗期に入って、素直になれないから端の方に行くようになっていました。内心では真ん中に行きたいのに(笑)。

―なるほど(笑)。その頃から洋服は好きだったんですか?

清水 真奈美

清水:そうですね。百貨店に勤めていた母親の影響も強くて、とにかく自分で洋服を選んで着るのが大好きでした。母は気に入った靴を見つけると全色買うような人だったんです。小さい頃って「ママのマネしたい!」ってなるじゃないですか。だから私も幼稚園生のときから、帰宅すると制服からすぐに私服に着替えていましたね。今でも覚えているんですけど、お気に入りの赤いスカートがあって。毎日着たいけど同じ格好も嫌だから、そのスカートに合わせてどれだけたくさんコーディネートを考えられるかを、とても楽しんでいたことを覚えています。

—ちなみにどんな服を着ていたんですか?

清水:可愛い系の服を好んで着ていましたね。友だちに「それどこの? 可愛いね!」って言われるのが嬉しくて、靴とか小物とかにもこだわりつつ、トータルでどう可愛く見せるかを常に考えていました。高校も制服の可愛さで決めたくらいですから(笑)。

—徹底的ですね。偏差値とか進学率とかじゃないんですね(笑)。

清水:はい。親も「あそこの制服かわいいよ」って情報くれたりして。今思えば、就職も進学もどっちもきちんとできるような学校だったので、親は勧めてくれたと思うんですけどね。私は本当になんにも考えていませんでした(笑)。

意外と地味だった? 未経験で始めたプレスの仕事

―高校卒業後は進学せずに就職されたんですよね?

清水:はい。進学も考えたのですが、いろいろ考えた末にアパレル系の商社のミセス向けに毛皮を扱う部門に就職しました。その時に気付いたのは、ヤングの流行から一周遅れてミセスの流行がくるということ。去年の若者の流行などを踏まえて商品を提案すると、お客様から「さすがねぇ」と喜んで頂けることもありました。当時、趣味でたくさん読んでいた雑誌から得た知識が、初めて仕事に活かせた気がします。自分が好きなファッションでお客様に喜んでいただけることがすごく嬉しかったのをよく覚えています。

―その後、今のお仕事に?

清水 真奈美

清水:いえ、その前に一度、何か変化が欲しいと思って司法書士事務所に転職しました。でも、働き始めてみたら定時で帰宅しても大丈夫って言われて、「え、本当に帰っていいの?」って逆に思ってしまったんです。いわゆる9時5時の生活が全然合わなかったんですね。

―もっとがむしゃらに働きたいと。

清水:勤務時間はさておき、もっとやりがいがあり、夢中になれて、なおかつ大好きなものに関わる仕事に就きたいなと思ったんです。そんなときにマッシュスタイルラボという弊社のグループ企業の求人を見つけました。もともとスナイデルというブランドが大好きで、スナイデルと関わることがキラキラしていると感じ、履歴書を送りました。

―やはり服に関わる仕事をしたい、と。

清水:はい。当時は滋賀県に住んでいたんですけど、親には反対されると思って、「じゃあ、仕事行くね」と言いつつ、新幹線に乗って東京まで面接を受けに行きました。ディストリビューターの募集だったんですけど、最終面接で社長に「プレスの仕事もあるよ」って言われたんです。でも、当時はプレスがどんな仕事をするのかも全然わからなかったので、そのことを正直に伝えたら「うちの会社はみんな未経験でスタートしているから大丈夫」と言われて。それを聞いて安心した部分もあり、だったら頑張ってみようと、プレスとして入社することに決めました。

―実際にプレスになってみてどうでしたか?

清水:予想以上に大変でしたね(笑)。ファッション業界って外から見たらキラキラしていて、私もそれに憧れた部分もあったんですけど、実際はすごいハードで地味な仕事が多いんです。日中は席にいる時間が無く、力仕事も多かったりします。カタログの制作をしているときは、撮影も朝早くからだし、体力的にもきつくて何度も嫌だって思うんです。他にもリースの手配やファッションショーの準備などもありますし、雑誌の撮影の立ち会いなどが重なることも。オフィスにいられないため事務作業がまったくできず、数百というメールが受信フォルダに貯まっていることや、土日がイベントで潰れることもあります。

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チャレンジと反省を繰り返し、徐々につかんできた手応え。

チャレンジと反省を繰り返し、徐々につかんできた手応え。

—聞く限り、かなりお忙しいように思います。何か気をつけていらっしゃることはあるんですか?

清水:プレスという職業柄、人前に出る機会も多いんです。だから、服をうまく見せると同時に、自分もうまく見せないといけないかなって思っています。たとえばネイル。展示会でいろんな方にご挨拶する機会も多いのですが、名刺交換のときって絶対に親指が目に入りますよね。だから親指のネイルに特に気合いを入れたりとか、そういうことを意識的にしているんですが、自分磨きは趣味に近いというか、好きなことでもあって。休日もエステに行ったりウォーキングをしたり。そういうことはもちろん仕事にも繋がるけれど、むしろプライベートとして美容を楽しんでいます。

—雑誌やカタログづくりなど、かなり広範囲なお仕事をされていると思います。実際、どういうときに達成感を得られるのでしょう?

清水 真奈美

清水:そうですね、販売スタッフのようにノルマの金額でラインを引くということがないから、基本的には自分たちで達成感を図ることになります。雑誌やカタログの反響がよくて、問い合わせが増えたとか。あとはお客様の生の声を拾ったりもしますね。まだまだ立ち上がったばかりのブランドなんで、最初はTwitterで検索しても全然お客さんの声が聞こえてこなかったんです。それが最近では毎日何十件もミラオーウェンに関するつぶやきを見つけられるようになって。アップされた写真を見たりすると、自分の仕事がお客さんの手に渡っていると実感できます。「これがかわいかった」とか「店員さんがとても親切だった」とかネットで書かれているのを見つけると、やっぱり嬉しいですよ。

—逆に、何か苦労している部分や失敗してしまうことなどは?

清水:たとえば雑誌やカタログが完成して実際に手にするときは、その過程がどんなに辛くても、涙が出そうになるほど嬉しくなるんです。でも「この雑誌の読者層だったら、もっと可愛い系のアイテムを売り込んだ方が良かったな」など、たくさん考えているつもりなのですが、形になってから気付く反省も毎回必ずあって。その中で「次はこうしよう」「もっとよくできるはず!」っていう目標ができてくるような気がします。そういった悔しさは、次の仕事へのモチベーションになりますね。

—失敗を重ねる中で、やりたいことが明確になっていく感じですね。

清水:そうですね。入社したての頃はわからないことも多かったので、カタログのデザインとかにしてもアートディレクターにお任せしてしまうだけだったんです。でも徐々にたくさんのスタイリストや編集者、デザイナー、モデルの方々と働く中で、私からも積極的に意見を言えるようになってきました。今は自分の意見をアートディレクターに反映してもらい、相談しながら作り上げています。そこはスキルアップしているのかなと思いますし、やりがいも感じられています。

仕事の根底にあるのは、守りたいブランドの“らしさ”

—他には仕事をするうえで意識していることはありますか?

清水:やはりブランドらしさでしょうか。ミラオーウェンには、シーズンコンセプトの軸となる架空の女性が2人いて、彼女たちならどうするか? というのがひとつの指針になっています。「31歳、グリニッチ・ヴィレッジ在住でIT企業で働いている」とか「週数日パートで働いているブルックリン在住の主婦」のように具体的な人物像を作り、それぞれのワードローブを想像しながら一つ一つの服が生まれているんです。また、テーマとして「ハッピー」も掲げているので、そのイメージに合った見せ方を意識しています。ベーシックな服が多い分、全体的にネイビーなど落ち着いた色の商品が多いからこそ、どうやって楽しげな雰囲気を伝えるかが重要で。

—具体的には、どんな工夫を?

清水 真奈美

清水:例えば、カタログ撮影でモデルを決めるときも笑顔はとても大事にしていて、選定の際には全身の写真に加えて必ず笑顔の写真も見てから決めるようにしています。コンサバな服をコンサバな顔立ちのモデルさんで表現しても、なかなか印象に残りづらくなってしまうんですよね。だから、はにかんだ笑顔ではなく、あえてくしゃっとした満面の笑みが印象的なモデルさんにこだわったり。あとは写真の撮り方もライフスタイルを感じるように、動きを多めにした写真を増やしたりと、様々な工夫を凝らしています。

—それはカタログや雑誌以外の仕事にも活かされているんでしょうか?

清水:はい。たとえばファッションショーで流す音楽とかも絶対に暗い曲はかけません。弊社のブランドは各プレスと社長で決めているんです。デスクワークしているときはひたすらYoutubeで普段聞かないジャンルの音楽も広げて聞くようにしていて。「この曲はイメージに合うな」とか考えながらセレクトしています。

—ミラオーウェンを今後こうしていきたいというビジョンもありますか?

清水:現在、ミラオーウェンは5シーズン目で、試行錯誤しながらどんどん良くなっている実感があるんです。おかげさまで徐々にブランドの認知度は上がってきています。でも、世の中にはまだまだミラオーウェンのことを知らない方がたくさんいるのも事実。グループ会社で展開しているルームウェアブランド「ジェラートピケ」は女性だけでなく、男性でも知っている人が増えてきました。だから、あと3年でそのくらい認知度があがるようにしていきたいと思っています。



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