- プロフィール
-
- 松田 直樹
-
1985年、京都市生まれ。同志社大学在学中より、「劇団」という枠を超えた活動を特徴とするヨーロッパ企画に在籍し、京都のインディペンデントフェス“ボロフェスタ”の運営に携わりながら、大学卒業後は映画に俳優として出演。その映画の宣伝をきっかけに映画業界に興味を持ち、映画会社就職のため上京。現在は「リアル脱出ゲーム」などでお馴染みのSCRAPにて企画制作ディレクターを務める。
振り返ってみれば、演劇、音楽、映画など、自分の好きなことを全てやってきたと言う松田直樹さん。現在は、株式会社SCRAPにて、国内外で人気を博すイベント、「リアル脱出ゲーム」の企画制作を行っている。「遊ぶように仕事したい」と言い、それを理想にもわがままにも終わらせずに突き進んできた松田さんのお仕事遍歴と仕事観はどんなものだろう?
- ウェブサイト情報
-
CINRAが提供する求人情報サービスはこちら
「CINRA JOB」はクリエイティブ業界の転職や新たなキャリアをサポートするプラットフォームです。デザイナーや編集者、プランナーなど魅力的な企業のクリエイティブ求人のほか、働き方をアップデートするヒントなど、さまざまなお役立ち情報をお届けします。
サブカル少年が社会へ踏み出した、はじめの一歩。
―経歴を拝見すると、演劇、音楽、映画とカルチャー一色! という感じですが、そういうものが好きになったきっかけは何だったんですか?
松田:部活で仲良かった先輩が音楽好きで、色々教えてもらったのが入り口でした。高校時代にはライブやフェスに行ったり、浪人時代は暇だったので、ひたすら『Quick Japan』や『relax』を読み漁ったりと、いわゆるサブカル少年でしたね(笑)。あんまり演劇に興味があったわけでもないんですが、ヨーロッパ企画は主宰の上田さんが、『Quick Japan』にコラムを掲載していたのを読んで知りました。
―なるほど。そんなヨーロッパ企画に入ったきっかけは?
松田:大学に入ってみたら、ヨーロッパ企画が新入生歓迎の期間に、勧誘していたんです。実は、僕が入った当時はヨーロッパ企画が大学のサークルだったんですよ。既に卒業していたはずの旗揚げメンバーに、入らないかと声をかけられたのがきっかけで演出助手とか、裏方としてツアー公演について回ったりしていました。
—ヨーロッパ企画と言えば、『サマータイムマシン・ブルース』や『曲がれ! スプーン』など、映画化された戯曲を持つ人気劇団ですよね。
松田:ちょうど僕がいた頃、映画化された作品もいくつかあって。関わり始めてからすぐに何も知らずに参加した打ち上げで、映画に出演していた上野樹里さんがいたりして、「すごい所に来てしまった!」と驚きました。今でも鮮明に覚えています(笑)。今まで読んだり聞いたりしていた世界に、大学入学と同時に飛び込んでしまった感じで。
—いきなり世界が開けた感じですね。では、演劇の次は音楽。京都のライブイベント『ボロフェスタ』にはどういう風に関わっていたんですか?
松田:昔から、好きなもの全部に関わりたいという気持ちがあったので、高校時代にお客さんとして参加していたボロフェスタにもスタッフとして関わってみたかったんです。ヨーロッパ企画とも縁があるイベントだったので、ミーティングに参加するようになり、ブッキング等させてもらっていました。
—ブッキング。ここでも早くも大仕事ですね。
松田:手探りな中で自分たちで舞台装飾もするし、アーティストのアテンドもするし、かなりDIYなフェスです。毎年ボランティアスタッフが100人ぐらい集まるんですけど、あえてマニュアルを作らずに毎回全部をゼロから作り上げていたり。効率は悪いけど、だからこそ毎回新しい発見があって、楽しいんです。
毎日ボッコボコに打ちのめされる映画会社時代。
―演劇に音楽にと、好きなことにどっぷり浸かった大学生活だったと思います。卒業後の就職は、どう考えていたんですか?
松田:それが特にあんまり考えていなくて(笑)。映画には興味があったので、就職というわけでもなく、役者として柴田剛監督の京都を舞台にした映画『掘川中立売』に出演しました。柴田監督をはじめ、制作スタッフみんなが京都の町家で一緒に寝泊まりしながら撮影している感じが、なんだかヒッピーみたいですごくカッコ良くって。ヨーロッパ企画経由で出演させてもらえることになったんですが、その後もちょくちょく遊びに行ってました(笑)。
―役者として映画出演……。近そうでまたずいぶんと飛躍している気もします。
松田:そうですね。その後も、小林達夫監督の『カントリーガール』という作品に出演しました。出演をきっかけに、そのまま宣伝も携わっています。そういう経験もあって、映画会社で働きたいなって思い始めたんです。
―俳優ではなく?
松田:俳優っていう「個」の仕事をしてみたら、一人でやる仕事には向いてないって気づいたんです。俳優って、自分や役に向き合う孤独な時間が多いんですよ。そうやって自分のことを考えるよりも、他人のことを考えるのが得意なのかもしれません。高校まではサッカーをずっとやっていたので、チームワークで成し遂げることが好きだったし、そっちの方が向いているな、と。よく考えれば映画に興味を持ったのも、そこがきっかけでしたね。監督がいて、役者がいて、スタッフがいて。決して一人では成し得ないことを作り上げていく。演劇もフェスも、同じ理由で魅力を感じたんだと思います。
―なるほど。それで映画会社へ?
松田:僕は生まれも育ちも京都だったので、東京のカルチャーに興味があって、とにかく東京で働きたいっていうモチベーションもありました。その時、ちょうどTwitterで見かけた映画会社の社員募集に応募して。映画の配給や宣伝がしたくて入ったんです。でも、そこは自社でイベントスペースを持っていて、映画上映やライブイベントも行うちょっと変わった映画会社でした。面接の段階で経歴を見ながら、「じゃあ君はイベントの現場ね」と判断され、結局イベント業務全般を任されることになりました。
―これまで培ってきたノウハウが活かせそうな職場ですね。
松田:それが、ここでは毎日ボッコボッコに打ちのめされていましたね(笑)。現場では僕以外、ほぼ全員がアルバイトスタッフだったので、朝から晩までフラフラになりながら死にものぐるいで毎日働いていました。全般を任されるということは、つまりイベント全部の業務の責任を持つということです。でも僕は音響調整や上映方法、機材の使い方も何も、全然知らない状態だった。会社で必死に機材の説明書を読みながら、経験したことのない業務が次から次へと襲いかかる日々……。かなりキツかったですけど、変わったイベントも行うスペースだったので、来場されるお客さんとの出会いは印象的でしたね。ブッキングから映画監督やイベンターとのやりとり、企画進行や宣伝、精算までイベントに関わる一連の流れを全て一人でやっていたので、ここで学んだことは計り知れません。
- Next Page
- 「予期しないことが起きると、アドレナリンが出ちゃうんですよね(笑)。」
「予期しないことが起きると、アドレナリンが出ちゃうんですよね(笑)。」
—それから現職であるSCRAPへと転職されるわけですが、どういった経緯で?
松田:ボロフェスタの立ち上げに関わっていたのが、SCRAP代表の加藤だったんです。上京してからもボロフェスタの手伝いは続けていたので、学生時代からずっと付き合いはあって。その頃は、ちょうどSCRAPが展開している「リアル脱出ゲーム」の人気が高まり、人が足りなくなっていて。そこで声をかけられたのがきっかけで、入社しました。ここでもやっぱり色々やっています。ゲームの「謎」を作る以外の仕事、たとえば会場とのやりとり、プロモーション、当日の現場仕切りなど、とにかくなんでも。
—「リアル脱出ゲーム」は、会場からストーリーから、毎回とてもユニークですよね? どうやって企画されていくんですか?
松田:次にどんなことをしたいかというのを、社内でいつも話し合っているんです。毎回新しいことに挑戦していきたいなっていう考えは共有しているので、次は1回3000人の公演を行おうとか、病院を舞台に展開しようとか、先行したイメージがある中でピッタリ合う案件があれば企画を具体化していきます。次回の『進撃の巨人』とのコラボでは、ちょうど全国のスタジアムでやりたいなと考えていたので、ドームスタジアムツアーとして企画が進んでいきました。
—これだけ規模が大きくなってくると、リアルなイベントな分、色んなアクシデントもありそうですが……。
松田:もちろんたくさんありますよ。「リアル脱出ゲーム」でも、参加者がみんな同じタイミングで正解してしまい、一つのチェックポイントにお客さんが何百人もたまってしまったり。そんな時、無線で「今、お客さんがチェックポイントでパンク寸前です!」なんてキャッチすると、「しょうがないなぁ」なんて言いながら興奮して駆けつけて、現場の対処にあたりますね。本来ハプニングって起きちゃいけないんですけど、ワクワクするんです(笑)。
—……ハプニングが、嬉しい?
松田:いや(笑)、もちろん予定通りに物事が動く気持ちよさもありますよ。でもやっぱり予期しないことが起きるとアドレナリンが出ちゃうんですよね(笑)。予期せぬことがライブを面白くさせるし、それが現場の醍醐味だと思います。
—それを楽しめるのも、大事な才能なのかもしれませんね。
松田:トラブルを完全に排除しようとしたら、毎回同じものをやって、新しい要素を入れなければいいわけですから、面白いものは作れないと思うんです。もちろん、何か起きたら、それを反省して、次にどう活かすかも考えるし、それもまた本当に楽しいんですよね。演劇と同じで、本番が始まってからもやりながらアドリブを入れたりして、さらに面白くしていく。未完成な状態を完成形に持っていくのが好きなのかもしれません。
—あくなきトライ&エラー、という感じですね。
松田:はい。お客さんが感動して帰ってくれる状態を作るために、ストーリーを追加したり、演出を盛り上げたり、いつも考えています。運営上の待ち時間や、手荷物とか、いろんなストレスをどうやって軽減するかとか、そういった細かいところにも目を配って。お客さんの満足度を高める事が自分の満足にも繋がっている感じです。
「僕にとって、仕事は遊びの延長です。」
—次の試みは何かあるんですか?
松田:個人的に、落語家さんと新しいイベントの準備をしているんです。立川吉笑さんという現在二つ目の落語家さんと進めているんですが、彼は数学をテーマに創作落語を作ったり、ギミックを用いた新しい落語をやっていて。ゲスト講師を呼んでテーマ毎にトークをして、そのお題で創作落語を行う、という試みを予定しています。そのフォーマットがいずれテレビに移行できたらいいなとも思っていて。「リアル脱出ゲーム」もイベントから、映画、テレビへと派生した。だから今度は会社と関係なく自分で立ち上げたイベントが、そんな風に展開していったら嬉しいですね。
—これまで好きなことを全部仕事にしてきた松田さんですが、そのコツってなんでしょう?
松田:僕にとって仕事は遊びの延長なんですよね。一緒にものづくりするチームで遊んでるうちに新しいアイデアが浮かんでくる。ヨーロッパ企画もSCRAPもそういうチームで、そういう中で、ものづくりに関われたことは、ラッキーだなと思っています。テレビや映画を観たり、ライブに行ったりする趣味も全部仕事に繋がっている。エンターテインメントを仕事にしているからこそ、休みの日とかプライベートとか境目なく過ごしています。友達と遊んでいるときも、いきなりレンタカー借りて遠出したり、ちょっと無茶な提案をして楽しんでますね。もちろん、トラブルが起きたときは、対処してます(笑)。
- フィードバック 2
-
新たな発見や感動を得ることはできましたか?
-