- プロフィール
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- 村越 周
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埼玉県出身。1988年生まれ。開成高校から東京大学へと進学。東京大学文学部卒業後に新卒で集英社に入社。第3編集部に配属され、現在は週刊少年ジャンプで『暗殺教室』、ジャンプ+で『とんかつDJアゲ太郎』の編集を担当。
日本一売れている漫画雑誌としておなじみの週刊少年ジャンプ。その編集部に在籍する漫画編集者として、村越周さんは人気作『暗殺教室』を担当している。その一方で、マンガ誌アプリ『ジャンプ+』ではとんかつ屋の息子がDJに目覚めてクラブシーンで活躍する奇作『とんかつDJアゲ太郎』の担当も。アニメ化や実写映画化までされた人気作と、これからの展開にすべてが掛かっている期待作。そのどちらにも携わることで見えてきたものとは?
村越さんの半生とともに綴る。
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高3夏まで野球漬け。そして友人に支えられながら東京大学へ
―村越さんは新卒で集英社に入社されていますが、小さい頃から漫画が好きだったんですか?
村越:いえ、小さい頃は野球ばかりやっていましたね。小学校3年生のときの担任の先生が近所の野球チームでコーチをやっていて、その人に誘われて友だちと一緒にやるようになって。放課後は、家に帰ったらすぐにグローブを持って学校のグラウンドに行くような日々を過ごしていました。漫画は『スラムダンク』『ドラゴンボール』『ちびまる子ちゃん』あたりの有名な作品をコミックスで読むくらい。あと『ドカベン』とか『キャプテン』とか、野球漫画は読んでました。だから、編集部でたまに「過去のニッチな連載あるある」とかで盛り上がったりするんですけど、全然参加できないんですよ(笑)。
―ずっと野球漬けの毎日だったんですね。
村越:実は高校では野球部と軽音を兼部してたんですけど、特に野球は高三の夏までがっつり頑張って、東東京大会でベスト16まで進みました。開成高校という学校だったんですが、当時の野球部のことが最近ドラマ化された『弱くても勝てます』のモデルになったんですよ。
—開成高校といえば進学校ですが、勉強も得意だったんですか?
村越:いや、地元から出て高校に入ってみたら、僕より出来る人ばっかりで。クラスで自分だけ化学の追試を受けたり、模試もどん底だったり、成績が悪すぎて進学塾の入塾を拒否されたこともありました(笑)。本格的に大学受験をはじめたのは部活を引退した高3の夏から。優秀な友だちに引っ張られて、運よく大学に合格したという感じです。
—とはいえ、東大ですよね(笑)?
村越:その半年間は頑張りましたよ。友達と点数競ったりして。部活が終わってスイッチが切り替わったらやる気が出てきたのと、野球が終わったら他にすることがなかったので、集中できたんでしょうね。なんとか進学できました。と言っても前期入学は5点くらい足りなくて不合格。後期で英作文とすごく長い国語の論述を運よく乗り切って。東大のなかでも一番入りやすいであろう文科三類に滑り込むことができたんです。
「村越の就職をなんとかする会」を先輩に開いてもらって入社した集英社
―大学ではどんなことを学んだんですか?
村越:東大って1、2年の成績で入れる研究室が優先的に決まるんですね。例えば社会学なんかは人気が高いので成績のいい人しか入れないんです。でも僕はそこでも成績がものすごく悪くて、とにかく選択肢がなかった。その中で一番名前がいいなと思った美学芸術学研究室がたまたま定員割れで、入ることができました(笑)。美学って、既にある価値体系を学ぶ美術史と違って、アートの価値が何で決まるのか、みたいなことを学ぶ学問。毎週のゼミがすごく楽しかったですね。あとはバンドでベース弾いてました。こっちもけっこう一生懸命やっていて。
―集英社に入社しようと思ったのはどうしてだったんですか?
村越:とにかくメジャー志向というか、やるなら影響力のあるところがよくて、そこそこ有名なところに行きたいなという(笑)。だから就職活動も出版社にこだわっていたわけでもなかったんですね。自分のなかで決めていたのは、音楽は仕事にしないこと、お金の計算が苦手なので金融系は受けないことという2つだけ。あとは飲料メーカーとか不動産とか、好きな商品やサービスを出しているところを手当たり次第に受けました。
―大学でも音楽をやるくらい好きだったのに、仕事にしようと思わなかったのはなぜだったのでしょう?
村越:音楽に関しては売れるもの=好きなものというのが必ずしもあてはまらなくて。もちろん売れてる音楽で好きなものも沢山あるんですが、自分の仕事にするには何か違和感があり。とはいえ、就活1年目はそんなことすら何も考えてなくて、いくつか受けてみたら全然ダメで、就職浪人したんですけどね。あまりにも僕がもたもたしているから、サークルの先輩がみかねて「村越の就活をなんとかする会」なるものを開いてくれて(笑)。そんなこんなで周りの人のおかげで、就活が何をするものなのか、一年遅れて実感が沸き、次の年に頑張ってなんとか決まったという感じです。大学受験といい就活といい、世話焼かれ体質みたいですね(笑)。いろんな人に感謝してます。
―就職活動でどんなことを話したか覚えていますか?
村越:バイトの話ですね。大学時代4年間、実家から徒歩2分の地元のスーパーでレジを打ってまして。同じ棚でも新商品を投入するタイミングが会社によって違っていて、それがうまい会社とうまくない会社があるんです。たとえばバレンタイン商戦の仕掛け方とか。あとは、大体どの時期にどんな雰囲気の人が何を買っていくかとか、ささいな話ばかりしてました。あとは高校で野球をしていた頃の話はやっぱり男性からの食いつきがよかったので、これは使えると思ってよく話していましたね。集英社が決まった時点で全部辞退してしまったので、最終面接を受けないで終わってしまった会社もあるんですけれど、なんとか滑り込めてよかったです。
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- 漫画編集者は、作家の代理人
漫画編集者は、作家の代理人
—ジャンプ編集部に配属になったのは、村越さんの希望通りだったんですか?
村越:そうですね。最初からジャンプ編集部に希望を出していました。そこもやっぱりメジャー志向でしたし、編集部ってスーツ着なくていいのがいいなぁと。僕、高校生まで学ランだったんです。だからネクタイの結び方とか就職活動するまで知らなかったんですよ。あとスーツが全然似合わなくて、未だに七五三に見えるとか言われたりしますし(笑)。
—編集部に入ってからはどんな仕事を任されたんですか?
村越:研修が終わって6月頃に配属になったのですが、最初の3ヵ月くらいは巻末の予告をつくったり、プレゼントページをつくったり、とにかく雑務をこなして仕事に慣れる感じです。その後、秋から『ぬらりひょんの孫』という作品の担当を引き継いで、2年目の夏から『暗殺教室』です。
—いきなり一人で……?
村越:はい。だから、右往左往しながら作家さんに原稿を仕上げてもらうためにどうすればいいのかを覚えていく感じでした。とはいえ、『ぬらりひょんの孫』でも『暗殺教室』でもいろんなことを勉強させてもらっています。アニメ化や実写映画化までされる作品はなかなかありませんから。
—出版業界ではない人からすると、作家さんの作品を締切に間に合わせるのが漫画編集者の仕事なのかなと思うのですが、そういうわけでもないんですね。
村越:もちろんそれも大事ですが、漫画編集者は作家さんの代理人でもあるので、基本的に作品に関わることはすべて仕事になります。なので、今度公開される実写映画にしても脚本からグッズ、宣伝の方法に至るまですべて打ち合わせに参加しています。あとは、たとえば読者層を広げたいなと思ったらファッション誌の人に企画を持って行ってモデルさんと対談させてもらったり、『リアル脱出ゲーム』のSCRAPさんと一緒に企画を立てたりとか。
—わりと自由に企画を立案してやらせてもらえる感じなんですね。
村越:そうですね。実は『暗殺教室』のコミックスの表紙とかもいわゆるジャンプっぽくないようにしたいなと思って、ジャンプとしては物凄く久しぶりに社外のデザイナーさんにお願いしているんです。そしたら、作品や松井先生のやりたいことと噛み合って、あの表紙が完成して。たまたまそういう作品に携われているというのもあるかもしれないですけど、挑戦できることの幅はとても広いと思います。
—作品の中身に関してはけっこう作家さんにおまかせという感じなんですか?
村越:人によりますね。それこそ『暗殺教室』の松井先生はやりたい展開がかなり固まっているので、毎週の打ち合わせでアイディア出ししながら、筋を具体的に肉付けしていくのを手伝っている感覚です。あとは必要な資料やネタがあれば用意したり、最近だとテスト問題を作ったり。逆に『とんかつDJアゲ太郎』の小山先生の場合は投稿作からの付き合いなので、台詞や構成まで一緒に練ってつくっています。たとえば、「身近にこういう奴がいてさ」っていうところからキャラが生まれたり、打ち合わせ後に一緒にとんかつを食べに行ったりもするんですけど、そのときのエピソードが漫画に活かされたり。なので、そのへんは作家さんの色に合わせて編集者も色を出しています。編集者は、作家さんにしてもデザイナーさんにしても、「誰かにやっていただくことを繋ぐ仕事」だったりするので、 その辺は自分に合っているかなと感じます。
ジャンプ読者なんてほんの一握り。だったら、そこを広げて行く余地はまだまだある
—村越さんは連載作家さん以外にも定期的に連絡を取り合っている新人作家も20名以上いるということですが、連載作家になれる人はどういう特徴があるんですか?
村越:何が何でも続けていく根性とやる気がある人じゃないでしょうか。やっぱり編集者もいろいろ言うので、そこで諦めずに食らいついて、いい作品をつくれるかだと思います。ヒット作を出して長く続けている連載作家さんは、やっぱりハングリー精神がすごいですし。あとは人に見てもらうということを意識できているかとかですかね。自分のやりたいことと、人に喜んでもらうことのバランスが取れているというか。頑固だけど柔軟みたいな。
—すると、持ち込みで持ってきた作品だけでは判断しないんですね。
村越:そうですね。数をこなすことで伸びていく人もいますし、ひとつの作品だけで判断できないこともあると思います。なので、最初で切り捨てるということはあまりありません。もちろんこの人すごい! っていう状態でそのまま連載まで行ってしまう人もいるんでしょうけど。
—なるほど。「売れる」「売れない」の違いもそうなのでしょうか?
村越:それは最初に読者からどうやって認識されるかというのが重要な気がします。よく読めば面白くても、覚えてもらえなければ売れないですし。たとえば『暗殺教室』でやっていることは王道なことなんですが、世界観とキャラは他の漫画にはない魅力や異物感があった。だからすぐに覚えられたと思うんです。まぁこれは松井先生の力なので、僕がこんなことを言うのもおこがましいんですけど。
—最近はテレビも、また盛り返している印象がありますよね。
村越:やっぱテレビはすごいですよ! 僕はテレビ大好きです。この世界にいると「コミックスが100万部売れてすごい!」とかいう話になって、実際にすごいことなんですけど、テレビや映画ってもっと大きな規模を相手にしているわけですよね。それを考えるとジャンプ読者なんてほんの一握り。だからといって簡単に100万部が出るわけではまったくないんですが、そこを広げて行く余地はまだまだあるんだろうなぁと。『暗殺教室』もお茶の間には「暗殺」という言葉だけで敬遠している人がたくさんいると思うんです。そういう人たちにも作品を知ってもらうためのきっかけをもっとつくっていかないといけないと思っています。そのためのひとつがアニメ化だったり、実写映画化なわけですから。僕らはカルチャーではなく娯楽を作っているので、色んな人を受け手として想像しないといけないんですよね。
—『トンカツDJアゲ太郎』でもそういうことは考えたりしているんですか?
村越:そっちはまだその前段階というか、まだ地道に作品を応援してくれる方々を増やさないといけないのかなと。そもそもジャンプ+自体が新しいメディアですし。ただ、それをするときに、果たしてどんな人がこの作品を好きになってくれるんだろう、ということは考えます。たとえば、今月第1巻が発売されたのですが、ありがたいことに帯のコメントをスチャダラパーのANIさんにお願いできたんです。スチャダラパーさんを好きな人達ならアゲ太郎も好きになってくれるんじゃないかなと思って。もちろん作家も僕もスチャダラパーさんが好きというのが一番大きいんですが(笑)。ともかくどういう人に届けるのかというのは大切にしたいと思っています。そして、地盤が固まったらもっと多くの人に知ってもらうための何かをまた考えたいです。
—漫画編集者になったことで、漫画との接し方は変わりましたか?
村越:間違いなく変わりました。売れている漫画は、自分の興味があるものでなくても読むようになりましたし、なんで売れるのかをきちんと言葉にできるよう考えたりするようになりました。それで昔だったら絶対読まないような漫画をきちんと読んでみたら面白かったりもするので、楽しみ方が増えた感じはしますね。
—では最後に、漫画編集者としてこれから先の具体的なビジョンはありますか?
村越:『ぬらりひょんの孫』も『暗殺教室』も先輩から引き継いだ作家さんなので、これまで勉強させていただいたことを糧に自分が持ち込みや投稿から見ている新人作家さんと一緒に、ヒット作を世に送り出したいです。ありがたいことに色々経験させていただいてますが、それがない限り、僕は編集者として成功したとは口が裂けても言えないので、仕事の目標はそれしかないです。あとはやっぱりドラマ化ですね。こっちは単純な興味本位で、自分がドラマ好きなので、仕事で携われたら楽しいだろうなって。だから、1時間でも30分でも15分でもいいので『とんかつDJアゲ太郎』がドラマ化されて、それで結果的に漫画がもっと読まれたらいいなって思います。
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