私たちの世界はデザインに満ちている。たとえば、誰もが何気なく使っている日用品や店舗。高名な賞を受賞したり、専門誌に取り上げられたりすることはなくとも、確かな目的のもとで「デザイン」されているものだ。そんな日常に溶け込むデザインの秘密を紐解いていくのが、新連載「あなたの知らないデザインの世界」。第1回は、あらゆるサブカルチャーが集う「遊べる本屋」ことヴィレッジヴァンガードにフィーチャー!
秘密基地のようなフロアに隠された店舗デザインのキモを、下北沢店の長谷川朗さんに聞いてみた。これを読めばきっと、ヴィレヴァンに寄って帰りたくなるはず!
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「サブカルのメッカ」下北沢店で売れる意外な商品とは?
—売れる商品を見極めるコツはあるのですか?
長谷川:勘と経験ですかね。それから、店舗によっても売れ方が違います。じつは地方は、ヴィレッジのような商品を扱っている場所が少ないからか、いろいろな商品が売れるんですよ。都会からUターンした感度の高い人も多いですし、ちょっとマイナーな商品を仕入れてもすぐヒットします。逆に東京はお店がたくさんあるから、サブカルっぽいものがあまり売れないという側面もあって。
—下北沢店にはどのような傾向があるのでしょうか。
長谷川:学生やひとり暮らしの社会人のお客さんが多いので、じつは生活雑貨がめちゃくちゃ売れます。サブカルのメッカだと思われていますが、売上の土台をつくっているのは平凡な商品だったりします。
飲み屋も多いので、お酒の入ったお客さんもたくさんいらっしゃいますね。財布の紐が緩むらしく、コミックの全巻買いが増えます(笑)。じつは22時台が客足のピークなんですよ。
—店舗ごとの特徴を探してみるのもおもしろいですね。
長谷川:いまでも「もっと店舗の色を出さなければ」という使命感があります。高円寺店にいたときは、ヤン・シュヴァンクマイエル(映像作家)の作品がリバイバル上映されるタイミングにあわせて、入り口でDVDを流したりしました。するとめちゃくちゃ売れたんです。「この土地のお客さんなら買ってくれる!」という発想で仕入れることもありますよ。いかに「ヴィレッジ、わかってるじゃん」と思ってもらうかですね(笑)。
アーティストやアイドルでも、「世間的にブレイクする一歩手前」の方の商品が売れます。ほかの店でも大々的に扱い始めると、ヴィレッジではストンと売れなくなってしまう、なんてこともあります。
商品をヒットに導く黄色いPOP。コツは「素直な心の声を書く」こと
—ヴィレッジヴァンガードが、ほかの小売店と違うところはどこなのでしょうか。
長谷川:「これを買おう」と思ってヴィレッジに来る人って、あんまりいないと思うんですよ。そこで何が求められているかというと、「何かあるだろう」という期待感だと思います。「普通のプレゼントじゃつまらないな」とか、「おもしろいマンガがないかな」というときの出会いや「宝探し感」がヴィレッジの強さです。
—宝探しをしてもらうための店舗づくりの工夫はありますか?
長谷川:やっぱり、POPですかね。置く場所やディスプレイも重要ですが、お客さんが知らない商品を知ってもらい、少しでも付加価値をつけるのがPOPの仕事。ぼく自身、働き始める前はしょっちゅうヴィレッジに通っていたのですが、知らないマンガでもPOPでアツく語られていると「読んでみようかな」という気持ちになりますよね。
—そもそも、なぜPOPをつけるようになったのですか?
長谷川:創業者である現会長が1号店をやっていた時代は、大手業者とのつながりもなく、いい商品をなかなか仕入れられなかったそうです。そこでPOPが生まれたと聞きました。ほかの店では絶対売れないマズいジュースを大量に仕入れ、「マズい!罰ゲーム用」と書いたらバカ売れしたと(笑)。
見方を変えると売れるものは実際にあります。それはPOPがなかったらただの「売れない商品」ですが、キャッチコピーのひとことでヒット商品になる。
—お客さんに「買ってみようかな」と思わせるPOPをつくるのは難しそうです。
長谷川:難しいですよ。POPづくりも経験が大事です。ぼくも入社して2か月くらいで「とりあえず書いてみろ」と言われたのですが、おもしろく書かなきゃいけないというプレッシャーが強すぎた結果、つまらないPOPしか書けなくて(笑)。店長にひとこと「おもんな!」って言われるんですよ。それがストレスで、一時期は辞めたいと思うこともありました(笑)。
そのとき言われたのは、「商品名を書かない」「説明しない」「長く書かない」ということ。当時の店長は「『TV Bros.』の目次をよく見る」って言ってました(笑)。「あそこには短くてセンスのいい言葉が詰まってる!」って。
—長谷川さん流の「POPのコツ」は見つかりましたか?
長谷川:経験を重ねるなかで、「あまり考えず、自然に思ったことがいちばんおもしろいんだな」と思うようになりました。心のなかでツッコミを入れるイメージですね。
ぼくたちが商品を見て最初に思うことは、おそらくお客さんと同じはず。それを書くとお客さんが共感してくれるんです。POPは、「素直な心の声」と「ちゃんとした説明」のバランスが大切なのではないでしょうか。
—先輩からダメ出しされることもあるのですか?
長谷川:ダメ出しというより、背中を見て学んでくれという感じですね。書いたPOPをとりあえず売り場につけておくんですが、ちょいちょい先輩が見ているらしく、気づいたら剥がされていることも多いです(笑)。スタッフからしたら、下手な人のPOPほど逆におもしろいというのもありますけどね。「全然合ってねぇな!」みたいな。そういうのは剥がさずにそっとしておきます(笑)。
注目されないところにも「何かある」のがヴィレッジヴァンガード!
—それでは最後に、ヴィレッジヴァンガードの通な楽しみ方を教えてください!
長谷川:上のほうや下のほうに、お宝が眠っているかもしれません。……売れ残りとも言いますが(笑)。新潟店では、東京ならすぐ売れそうな『AKIRA』のフィギュアが数年間残っていたこともありました。数年前につくって、当時は売れなかったけど、ファンからしたらレアなオリジナルグッズが眠っているかもしれない。
売れ筋商品は目線と同じ位置に並べることが多いのですが、それ以外の注目されづらいところにも「何かある」のがヴィレッジヴァンガード。お目当てのコーナー以外にも、あなたの将来の趣味になるものが隠れているかもしれません!
—いい意味で雑多な品揃えが、ヴィレッジヴァンガードらしさにつながっているんですね。
長谷川:それが長所でもあり、ときとして短所でもありますけどね(笑)。
ヴィレヴァンは「興味が連鎖的につながる」お店。扱うジャンルは何でもアリ
—ヴィレッジヴァンガードといえば、いい意味で雑然とした店内のレイアウトを思い浮かべる人も多いと思います。そもそも、「何をどこにどう置くか」は、どうやって決めていくのですか?
長谷川:新店舗を立ち上げるときは、本部の立ち上げ部隊を中心に、いままでのノウハウを更新しながらつくっていきます。ぼくが入社した10年くらい前は、壁のまわりは基本的に全部本棚というのがルールでした。その本棚のジャンルと関係する雑貨を近くに置いていく感じですね。たとえば料理の本棚があったら、その近くにはキッチングッズを置いて、隣の島には生活雑貨を置く、というように。
区画ごとに、そのジャンルに興味のあるお客さんが自然と隣の棚にも手を伸ばしたくなるようなつくりになっています。
—ジャンルの入れ替えもあるのですか?
長谷川:はい。じつは最近、本やコミック売り場のスペースは減っています。空いたスペースに何を置くかというと、ここ数年で需要が上がっているアイドルや声優、YouTuberの関連商品。そういうふうに、需要があるものを増やして、少ないものを減らしていく。時代にあわせて更新していくのが基本ですね。
長谷川:お客さんの目に触れやすいメイン導線には、その時期に売れるものや旬なものを置く。そこに食いついたお客さんが一歩入り込んだら、次に好きそうなものがある……というように、連鎖的につながる売り場づくりを心がけています。
—さまざまなジャンルの商品があるだけに、ひとつの店舗にまとめ上げるのは大変ですね。
長谷川:パズルですよね。もちろんうまくハマらず強引な部分も生まれるのですが、その強引さが「ヴィレヴァン、バカだよな〜」とお客さんに笑われてしまうような、ある種の魅力に通じているのかもしれません(笑)。
—逆に、ヴィレッジヴァンガードで取り扱わないものってあるんですか?
長谷川:……ないんじゃないかな(笑)。単価が高いものは売れづらいので、ショーケースで飾るような万単位の商品は少ないかもしれません。お客さんから求められているものや、スタッフが取り扱いたいものであれば、なんでもアリですよ。
—店員さんの趣味も反映されているんですね。
長谷川:そうですね。ぼくは主に書籍担当ですが、『ストレンジャー・シングス』というNetflixのドラマがめちゃくちゃ好きで。日本じゃあまり知られていませんが、世界的には大ブレイクしてるんですよ。夏から始まるシーズン3にあわせてコラボ商品がどんどん出ているので、いままさに商品をかき集めている最中です(笑)。
ぼくが今日着ているTシャツも、海外の在庫を180枚抑えてもらいました! 「POP!」というフィギュアシリーズとのコラボも、ぼくの『ストレンジャー・シングス』好きを知ってくれている担当者さんが、「ヴィレッジだけ独占で卸します!」と言ってくれて(笑)。発売される商品を片っぱしから仕入れているので、品揃えはほかの店舗に負けません!
仕入れにまつわる悲喜こもごも。店舗同士の争奪戦も勃発
—それでは、ジャンルごとに担当スタッフがついているのですか?
長谷川:そうですね。小さい店舗だとひとりでいくつものジャンルを担当しますが、スタッフが多い店舗は細かく担当が分かれていて、担当者が在庫管理や発注、ディスプレイまで全部やります。慣れてくると「今月はいくらで回してね」という感じで、月の予算から補充分と新しい商品をやりくりするんです。責任も大きいですが、仕事がおもしろくなる第一歩でもあるんじゃないでしょうか。
—仕入れも、本部ではなく店舗の担当者が行うのですね。
長谷川:失敗も多いですけどね(笑)。本来は売れている商品をリピートするべきなのに、業者さんと商談が盛り上がって「いい!」と思った新商品を仕入れすぎた結果、売れないものがいっぱい並んでいる、なんてこともたまにあります(笑)。
新商品は、最初は入荷数も少なめにして、売れ始めたなと感じたら増やしていくことが多いです。その見極めがけっこう重要で、躊躇しているとほかの店舗が在庫を確保しちゃったりする。「イケる!」と思った段階で踏み込まないといけないんです。
ーなるほど、系列店同士の駆け引きもあると。
長谷川:10年くらい前に、レゴがデジカメを出したときがあったんですよ。それをテレビでタレントさんが紹介したのをきっかけに、系列店同士で取り合いになった時期がありました。ぼくはその数か月前にたまたまネットで見つけて、「絶対イケる!」と思って業者さんに探してもらっていたんです。業者さんも「仕入れたきっかけは長谷川さんだから、融通利かせますよ」と言ってくれて。広まる前に仕入れていたので、おいしい思いができました(笑)。
—アンテナを張っておくことも重要なのですね。
長谷川:ヒット商品といえば、2、3年前に日本でブームになった、フェールラーベンの「カンケン」というバッグ。わからないですけど、そのブームのきっかけはぼくだと思ってます。
—……と、言いますと?
長谷川:10年ほど前、新潟店にいたときに、カバン業者から3つだけ仕入れて自分でも使っていたんです。当時は業者さんも全然オススメしてこなかったのですが、カラーバリエーションも豊富でかわいいなと思って。新潟店で売れたので、数年前に赴任した高円寺店でも大々的に展開していました。その直後くらいに『モテキ』のドラマが始まって、「N’夙川BOYSのメンバーが使っている」と雑誌に載り始めたんですよ! そこからブームが始まったので、内心「ぼくじゃないかな」って……(笑)。
—可能性はありますね……!
長谷川:誰も言ってないけど、密かに思ってます(笑)。そういう流れを感じると嬉しいですね。もしかしたらホントにぼくだったかもしれないし(笑)。どこから火がつくかわからないです。
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