- プロフィール
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- 田汲洋
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新卒でちっちゃな広告代理店に入社する。その後、某雑誌主催の大喜利世界大会に出場して優勝。ここで思いっきり進む方向を間違える。2011年に出版社に転職。宣伝部でエロゲー雑誌やラノベ、マンガを担当し、テレビCMやキャンペーン広告ほか、ゲームショウやコミケなど数々のイベントを手がける。2014年にインフォバーングループに入社。2017年10月より新卒採用担当となる。
「うちの会社、働き方改革が推進されている気配がない」「給料ってどうやったら上がるんだろう」など、どこまでも尽きない仕事の悩み。とくに新卒や若手社員は、社会や会社の仕組みがわからず、多くの苦悩を抱えているはず。
そこで、CINRA.JOBでは、クリエイティブ業界の若手が抱くお悩みに先輩がアドバイスする新連載を開始。頼れる先輩は、デジタルマーケティング支援やオンラインメディア運営を行うインフォバーングループの田汲洋さんだ。クリエイティブ業界を渡り歩いた末に、現在人事を担当している彼は、業界屈指(?)のカウンセリング力を持っているとか、いないとか……。
今回寄せられたのは、「時間がないとき、やっつけ仕事になってしまう」というお悩み。「いいかげん」な仕事を「良い加減」にするためのヒントとは?
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「いいかげん」じゃなく「良い加減」なのがプロの仕事
ところで、このDVDジャケットを見たことがありますか?
これはぼくの大好きなDVD。月刊ゲーム雑誌『ファミ通WaveDVD』から生まれた『ボーズの〇〇タイム』というコンテンツのDVDボックスです。いい意味でくだらなくて、最高に面白い。ものすごく無駄な時間を過ごしているなあとわかっていながら、2019年になったいまでも毎日繰り返し見ています。
さて、このDVDジャケットに描かれた文字。まるで左手でテキトーに書いたかのようですよね。はっきり言って、ぼくでも書けそうです。ていうか、絶対に書ける。「時間がなくてテキトーに書いた感」がすごい。
でもなんか、味がありますよね。これは、この作品の制作者である映像ディレクター・山岸聖太さんのオーダーを、グラフィックデザイナーの大原大次郎さんが忠実に再現したもの。大原さんは、「『もっと読めなくしてください』って平然と指示されたのは初めてでした」と語っています。
一見「いいかげん」に見えるこのアートワークは、決して「やっつけ仕事」ではなく、じつは計算された「良い加減」。全力でやった仕事、細部にまでこだわり抜いた仕事なのです。
「いいかげん」に見える「良い加減」の例はまだまだあります。ときおりその画力が話題になる漫画の『HUNTER×HUNTER』も、ファンは誰も「やっつけ仕事」とは思っていないでしょう。ピカソの初期の作品を見たあとに『ゲルニカ』を見て「もっと写実的に描けるくせに、やっつけかよ!」って思いませんよね。まあこれは極論ですけど。
「いいかげん」と「良い加減」の違いは、細かなところまで気を配れているかどうか。「神は細部に宿る」というように、モノづくりにおいては誰も見てないような細部にこそ時間をかけなければいけないと思います。誰も気にしていないのに「キュイの戦闘力は18,000(by『ドラゴンボール』)」と、わざわざキャラ設定することに意味があるのです。
細部にこだわる時間をつくるには、メリハリをつけながら、ほかの作業を消化しなければならない。だから、段取りよく作業することが大切なんです。多くのタスクをこなすことで、スキルも向上していくはず。そうなれば、次第にスピードとクオリティーが上がるようになる。ゆくゆくは、おのずと「良い加減」のものをつくれるようになるのではないでしょうか。
いまは修行だと思ってとにかく手を動かすべし
とはいえ、新卒のハルミさんが段取りよく作業を効率化するにも、「良い加減」なものをつくるにも、まだまだ修行が必要。質を高めるには、量をこなすことがどうしても必要になってくるんです。
それは、歴代の名作マンガたちが証明してくれています。とくに少年マンガの世界では、才能があるうえに努力しまくるやつばかりですから。あの強いルフィ(by『ONE PIECE』)でさえ2年間も修行していたし、流川(by『スラムダンク』)のような天才バスケットマンでさえ誰よりも努力を怠らないし、セルをやっつけて最強の戦士になったあの孫悟飯(by『ドラゴンボール』)でさえ、学者になるために猛勉強したことでしょう。
自分なんかまだまだだと思わざるを得ないことばかりです。努力や練習なしに最強なのは、ぼくが知るかぎり花山薫(by『グラップラー刃牙』)くらいです。ハルミさんは花山薫なんですか? 違いますよね? 絶対に違いますよね? だったら、とにかくいまは修行期間だと思ってがむしゃらに頑張ることが大事。
それでも、タスクオーバーで「やっつけ仕事」になりそうだったら、事前に上司に相談しましょう。自分が担当するからには各案件に妥協せず向き合う。そういった気持ちで努力を怠らなければ、のちによい結果をもたらすと思いますよ。
【まとめ】
・誰も気にしないような細部にこそこだわるのがクリエイティブ。そのためには技術を磨くべし。技術がまだ足りないのであれば作業に集中できる「時間」をつくろう。
・十分な作業時間をつくるためにプロジェクトメンバーや先輩に相談しよう。仕事はひとりだけでやるものではないのだから。
・「やっつけ仕事」と決めるのはあなたではない。それは終わったあと、周りの評価で決まるもの。いまはとにかく前を見て走り続けよう!
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業務内容、職場の環境、働き方、給料、キャリア、人間関係など……些細な相談からディープな話まで、お悩みをメールで募集しています。
※基本的にクリエイティブ業界での経験が浅い方(1日〜3年目くらい)を対象にしています。
※お悩みのメール文には、お名前・性別・所属会社の業界やジャンル・職種・社会人歴をご記載ください。※お悩みは500字以内でお願いいたします。
※いただいたお悩みの内容を掲載する場合があります。その際に文章をこちらで編集させていただきますので、あらかじめご了承ください。以下のアドレスにお悩みをお送りください。お待ちしております!
hiroshi.takumi@infobahngroup.co.jp
「やっつけ仕事」って誰もがやってしまった経験があると思うんですよ
はじめまして。田汲(タクミ)と申します。「誰?」という声が聞こえてきますので、軽く自己紹介しますね。
前職は出版社で、イベント運営したり、テレビCMや雑誌広告などをつくったりしていました。いまの会社(インフォバーングループ)では、デジタル広告をつくったり、メディア運営に携わったりしたあと、2017年10月から採用担当をしています。
しかし、採用担当になったいまでも、クリエイティブ(とくにコンテンツづくり)が大好きなんです! たとえば、採用イベントに僧侶を出したり、
「ロン毛のやつ、心に大事な何かを持ち続けている」というあきらかに破綻したロジックをもとに、日本初の『ロン毛×就活セミナー』を開催したり、
無理やり「働き方」と絡めて、『かすり傷多すぎて死にそう』というどこかで聞いたことがあるようなタイトルの冊子をつくったり、
この冊子がなぜか某新聞社のメディアで取り上げられたり……。自分なりに採用界隈をコンテンツの力で盛り上げようと頑張ってきたつもりです。
そんな私ですが、仕事柄、普段から大学生や新入社員と接していると、とにかく悩みを聞く機会が多いんです。きっとぼくの周辺だけじゃなくて、クリエイティブ業界特有の悩みを持つ若手は全国各地にいるはず。できることなら、救済したい!
ということで、迷える若手クリエイターたちの質問に対して真摯にお答えする連載をスタート。ぼくがこれまで経験したことをもとに、若かりし頃を思い出しながらアドバイスさせていただきます。
早速、下記のお悩みをいただいたので、お答えしていきます!
WEBディレクター1年目です。ものづくりが好きでこの業界に入りました。クライアントやエンドユーザーに満足してもらえるよう、日々頑張っています。
ただ、時間が限られているなかで、クオリティーを高めることが非常に難しいと感じます。忙しいときは、正直「やっつけ仕事」になってしまうことも。納期優先ななかでも、不本意な仕事をしないためにはどうすればよいのでしょうか。
WEB制作会社 新卒2年目ディレクター ハルミ(女性)
いきなり答えづらい質問ですね。答えたくないなあ……。なぜなら、めちゃくちゃ心当たりがあるから(笑)。やっつけ仕事って、誰もがやってしまった経験があると思うんですよ。
とりあえず、「ぼく自身も、やっつけ仕事をしてしまうダメなやつ」という前提でお話しますね。ハルミさんも、王騎(by『キングダム』)のように仕事ができるスーパースターよりも、より身近に感じられる渕さん(by『キングダム』)からのアドバイスのほうが受け入れやすいですよね。
「やっつけ仕事」の意味、調べました
さて、そもそも「やっつけ仕事」とはどういう意味でしょうか。早速、近所の図書館で調べてみました。
ああ、ぼくは①も②もがっつりやってしまっているかも……。ハルミさんの場合は①かな。
質問内容を見るかぎり、ハルミさんは真面目な人なのでしょう。本当はやっつけ仕事なんかしたくないですもんね。本来、やっつけ仕事は、仕事に慣れてきたベテランがやりがちなもの。だから、新卒1年目は「やっつけ仕事になってしまう」とか考えるひまなんてない気がするのですが……。ひょっとすると、すべて全力でやろうという気持ちが強すぎて、うまくメリハリがつけられないのが原因かもしれません。
やっつけ仕事は、受け手の気持ち次第
ぼくがいまやっている新卒採用の仕事では、日々ものすごい数のメールに対応しなければいけません。たった一通のメールでも、それが会社から学生へのファーストコンタクトなので、とても慎重になります。
かといって、慎重になりすぎてお返事ができないのでは本末転倒です。膨大な数のメールすべてに返信するためには、ある程度、共通のテンプレートを使う必要も出てきます。
受け手によっては「やっつけ仕事」に思えるかもしれませんね。ぼくからのメールを見て、こう思う学生もいるはず。「ここの部分はちゃんと打ってるっぽいけど、ほかの文はいろんな人に送っているテンプレじゃん。しかも、ほかの会社の人事ってさわやかな人が多いけど、なんでお前のような『闇金ウシジマくん』みたいな風貌のやつが人事やってるんだよ! クソがっ!」って。
こちらが心を込めて仕事をしようが、そうでなかろうが、すべては受け手次第なのです。つまり、こうしてハルミさんのお悩みに答えているこの文章だって、「やっつけやがって」と思われる可能性はある。キーボードを打つ手が緊張でプルプルと震えております……。
「期限」は迫りくる壁と同じ。乗り越えるには、段取りが重要
やっつけ仕事になってしまう最大の原因、それは「期限」ではないでしょうか。「期限」、それはまるで迫りくる壁のよう(※現実世界で壁が立ちはだかることはあっても、迫ってきたことはないですが)。壁(期限)が迫っているとき、人はとにかく焦ります。
ですが、試しに「FF4 デモンズウォール」と検索してみてください。デモンズウォールとは、1991年(生まれてないですよね?)に発売された『ファイナルファンタジーIV』に出てくる壁です。「迫りくる壁」を想像したとき、ぼくが最初に思い浮かべたのがまさにそれ。スーパーファミコンのグラフィックで見たら意外とかわいい壁でしょ?
振り返ってみるとぼくの経験上、だいたいの壁はとるに足らないキュートなものばかり。そんな迫りくる壁(期限)を冷静にかわすために必要なアビリティーが「段取り」です。まずはハルミさんが作業に専念できる時間をとれるように、制作物のスケジュールについてプロジェクトメンバーや先輩、上司に相談してみましょう。
または、予算の都合が合えば、信頼できる協力会社さんやフリーランサーに相談するのもひとつの手段。だって、『ファイナルファンタジーIV』でも、ひとりでデモンズウォールに立ち向かうわけじゃないですからね。仲間たちとともに戦うんです。ときには周りの人たちを頼っていいんですよ。すべては少しでもハルミさんの作業時間を増やして、制作物のクオリティーを上げるためです。
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