- プロフィール
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- 田汲洋
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新卒でちっちゃな広告代理店に入社する。その後、某雑誌主催の大喜利世界大会に出場して優勝。ここで思いっきり進む方向を間違える。2011年に出版社に転職。宣伝部でエロゲー雑誌やラノベ、マンガを担当し、テレビCMやキャンペーン広告ほか、ゲームショウやコミケなど数々のイベントを手がける。2014年にインフォバーングループに入社。2017年10月より新卒採用担当となる。
クリエイティブ業界の若手が抱くお悩みに先輩がアドバイスする連載企画の第2弾。頼れる先輩は、デジタルマーケティング支援やオンラインメディア運営を行うインフォバーングループの田汲洋さんだ。クリエイティブ業界を渡り歩いた末に、現在人事を担当している彼は、業界屈指(?)のカウンセリング力を持っているとか、いないとか……。
今回寄せられたのは、「会社の先輩が『このマンガを読め』と強要してくる」という若手のお悩み。先輩の一方的なコミュニケーションにも、きっと意図があるはず。その強要を受け入れた先に待っているかもしれない、新たな世界とは?
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ぼくの「強要」で後輩がベトナム人化!? 受け入れることで人生が好転した実話
アラキさんからいただいた質問で、いろいろ思い出しました。じつは、ぼくも後輩に強要してしまった過去があるんです。しかも、それがきっかけで彼の人生が大きく好転したんです。
かつて会社の後輩だったHくん。ぼくが社会人になって、初めてできた後輩です。彼は瀬戸内海の島出身で素朴な雰囲気の男でした。
最初は普通の先輩・後輩という関係だったHくんとの距離が急接近したのは、ある日のこと。ぼくが会社でトイレに行ったらその日にかぎって残尿がハンパなくて、スーツがびしょびしょになってしまったことがありました(ツッコミどころの多いエピソードですが気にしないでください)。翌日、先輩としての威厳が失墜したぼくに、Hくんは「残尿MIX」と書いたCD-Rをくれたのです。「先輩! いろいろあるけど、おいら残尿くらい気にしないでやんす。元気だしてほしいでやんす〜!」というメッセージが込められたお手製のリミックスCDでした。
それからというもの、マンガ・映画・音楽・雑誌などのあらゆるジャンルにおいて、ぼくらは好きなものをレコメンドし合える仲になりました。
ベトナムフェスでベトナム人と化したHくん。「グエン」に改名
その数か月後、代々木公園で開催されていたベトナムフェスに一緒に行きました。この日のできごとがHくんの運命を大きく変えることになるとは、二人ともまだ知りませんでした。
ぼくがそこで売っていたノンラー(ベトナムで伝統的な、円錐形の帽子)を、何気なくHくんにかぶせたのです。すると、彼の素朴なルックスと相まって現地人のように見えました(そもそもベトナムに行ったことないので想像ですが)。
ぼくは「めちゃくちゃ似合ってる! ベトナム人として活動したほうがいいよ」となかば強要し、ぼくのなかでのステレオタイプなベトナム人と化したHくんの写真を撮り続けました。
ぼくはあまりにその姿が気に入ったので、週末になるとどこかにでかけてはHくんの写真を撮るようになりました。ぼくは彼に「グエン」という名を授けました(グエンとは、ベトナム人に多い名前です。国民の約4割が「グエンさん」らしいです)。
原宿、千駄ヶ谷、三茶、東京タワー、横浜、元町中華街……ぼくらはさまざまな場所で写真を撮りました。
「ベトナムからスターが来た」という設定で街の人に話しかけると、いろんな人が一緒に写真を撮ってくれました。
最終的には、原宿のギャラリーを借りて、撮りためた写真で『グエン展』を開催しました。当時、ぼくのプライベートな時間はほぼ彼のために使っていました。
これぞ「Connecting the dots」。目の前のことを一生懸命やれば、いずれ線でつながる
月日は流れ、ぼくは一足先に会社を辞め、出版社に転職。グエンは、その数年後に海外マーケティングの会社に転職しました。
しかし、彼は英語をまったくしゃべれないし、そもそも、ほとんど海外に行ったことがありません。そんなグエンが、なぜ海外マーケティングの会社に転職したのか疑問でした。それを本人に聞いてみると、こう答えました。
「ベトナム人の格好をして写真撮られているうちに、海外に興味が出てきたんです。『地球の歩き方 ベトナム編』も買って熟読したのに、いまだに行ったことないのも、さすがにまずいなと感じ始めて……。海外に関わる仕事なら、ベトナムにも行けるかもと思って」と。面接試験では、都内近郊でベトナム人に扮していたぼくとの日々をアピールしたそうです(謎のアピールすぎるし、絶対に間違っている)。
いま、グエンはその会社の取締役として活躍しています。海外を飛び回る彼のFacebookには、ベトナムのハノイでノンラーをかぶった写真がありました。そこには「ドラゴンフルーツいりませんか〜」というコメントが書いてありました。ちなみに市内でノンラーをかぶっている人なんて全然いないそうです。それでも、ベトナム人の友達がたくさんできたそうです。
ぼくはこの投稿を見て号泣しました。映画『スパイ・ゲーム』で「ディナー作戦」という言葉を聞いたときのブラッド・ピットなみに号泣しました(昔からぼくが使っている「嬉し泣き」の最上級です。マンガで例えなくてすみません)。
まさに「Connecting the dots(点と点をつなげ)」だと感じたんです。これはスティーブ・ジョブズの名言で、「目の前のことを一生懸命やれば、いずれ線でつながる」という意味。あのときのあれがこうなって……あ、これぞConnecting the dotsだと。Dotsがconnectingしてる瞬間だと。
ぼくがあのとき、ノンラーをかぶせなければ、グエンの「いま」はなかったかもしれません。あの行動は彼にとって「強要」だったでしょうか? たとえ当時はそうだったとしても、グエンはそれを受け入れて楽しんだ。そして、海外マーケティング会社の取締役という「いま」につながったんです。
強要すら受け入れて楽しんでしまうのも、人生をエンジョイするコツ
あれ……長くなりましたが、これって質問に対しての回答になっていますかね(笑)? まあいいや。
とにかく、先輩からマンガを強要されることも、先輩と仲良くなるチャンスであり、「自分が知らなかった世界」を知るきっかけになるかもしれないのです。今後は自分の好きなマンガも先輩にレコメンドするなどして、ぜひ良好な信頼関係を築いていってください。
そのうえで、グエンのように強要(そうでなかったことを願う)すら受け入れて楽しんでしまうのも、人生をエンジョイするコツなのではないでしょうか。
PS:この原稿をグエンに確認してもらったら、こんなメッセージをいただきました。
どうも、グエンことHです。いまの会社に転職してから、仕事で行った外国の数が11か国になりました(ちなみにベトナムは、3回行きました)。なぜあのとき、タクミさんからの無茶ぶりを受け入れたのか。当時を振り返り、その理由を考えてみると、シンプルに「おもしろそう」だったからだと思います。未知のゾーンに連れて行かれる感覚で、何をやっているのか自分でもわからないときもありました。でも、それが派生して「いま」につながったんだと思います。やってよかったですー(いまだに英語はほとんど話せません)。
【まとめ】
・先輩はあなたと共感し合いたいだけ。温かい目で見守ってあげて。
・「自分が知らない世界を知る」ことは、クリエイティブの仕事にもきっと役立つはず。
・先輩からのレコメンドを受け入れたら世界が広がるかもよ(まれにね)。
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※いただいたお悩みの内容を掲載する場合があります。その際に文章をこちらで編集させていただきますので、あらかじめご了承ください。以下のアドレスにお悩みをお送りください。お待ちしております!
hiroshi.takumi@infobahngroup.co.jp
なぜクリエイティブ業界の人は、「このマンガを読め」と強要してくるのでしょうか。
どうも。タクミです。
現在、企業のデジタルマーケティング支援を行うインフォバーングループで採用担当をしています。ちなみに、前職は某出版社の宣伝部などで働いていました。
迷える若手クリエイターたちの質問に対して、真摯にお答えする連載第2弾。曲がりなりにもクリエイティブ業界で経験を積んできたぼくが、これまで経験したことをもとにアドバイスさせていただきます。
第1弾は、「時間がないとき、やっつけ仕事になってしまう」というお悩みでした。「『いいかげん』な仕事を『良い加減』にする方法」という「それっぽい」ことを伝授していますので、まだ読んでいない方はこちらからぜひ!
前回の記事では、ことあるごとに「漫画のキャラ」に例える手法を試みました。ぼくはマンガが大好きなので。そしたら、こんなお悩みをいただきました……。
広告営業2年目のアラキと申します。会社の先輩と飲みに行くと、たまに「『キングダム』読んでないの?」とか「『うしおととら』くらいは読んでないとダメだね」とか、「『火の鳥』は必修科目だ」とか言われます。なぜクリエイティブ業界の人は、「このマンガを読め」と強要してくるのでしょうか。あと、チョイスもだいたい古い! 一方で、後輩が目上の人にマンガをおすすめすることはあまりない気がします。この一方通行のコミュニケーションは、いったいなんなのでしょうか?広告代理店 新卒2年目 アラキさん(男性)
これはひょっとすると「クリエイティブ業界あるある」かもしれませんね。わかります。わかりますよ、アラキさんの先輩の気持ち(そっち側ですみません)。
ぼくは普段多くの学生さんと接していますが、広告やマーケティングの本じゃなく、『グラップラー刃牙』を読んだほうがいいって勧めています。「これこそリアルだから。アリゾナ州立刑務所とか出てくるから」って。もちろん勧める相手は選んでいますけどね。
「一方通行のコミュニケーション」と感じているなら、それはたぶん先輩が悪い
ですが、アラキさんの気持ちもわかります。一方通行のコミュニケーションは、鬱陶しいですよね。ぼくがその先輩の立場なら、アラキさんのおすすめマンガも聞きます。ぼくの場合、いまの若い人がどんなコンテンツを好きなのか、純粋に興味があるんです。
先日、マンガではありませんが、新卒1年目(温かいメシをこれまで食べたことがなさそうな風貌の子)の家で最新版のスマブラのレクチャーを受けましたよ。めっちゃ面白かったです。やはり、一方的ではなく、お互いに好きなものを共有し合うことで、信頼関係につながっていくと思うんです。
だから、アラキさんが先輩の行動を「一方通行のコミュニケーション」と感じているなら、それはたぶん先輩が悪い! 「自分のことを知ってほしい」だけで、「相手のことを知ろう」としないのは、間違いなく「強要」ですからね。
そんな先輩は、心のなかでぶん殴ってよし! コツとしては、砲丸投げや円盤投げなど、陸上の投てきをイメージして勢いをつけて殴ってみると花山薫(by『グラップラー刃牙』)のような威力になるかも(※実際に殴ってはいけません)。
まあ、その先輩はコミュニケーションの仕方に問題がありましたが、本当はアラキさんと「共感」したいだけなんでしょうね。映画・音楽・マンガなど、好きなモノが同じなら手っ取り早く距離を縮められるじゃないですか。
そうすると、アラキさんとの仕事もやりやすくなるんです。アラキさんもビジネス書や哲学書を読むより、マンガのほうがとっつきやすいですよね。マンガは、ぼくらの言葉を遥かに超越する力を持つコンテンツですから。
好きなマンガは山ほどあるけど、人におすすめする作品は厳選しているはず
質問文にあったマンガのチョイスだと、先輩は30代後半から40代前半ですかね? たぶんアラキさんの先輩は、世代的に『キン肉マン』『魁!!男塾』なども好きなはず。ほかにもハマったマンガは、山ほどあるのではないでしょうか。でも、おそらく人におすすめするものは厳選していると思いますよ。
だから、「この人、いろいろ読んだなかからオレのためにマンガをチョイスしてくれてるんだろうな。仕事は厳しいけど、なかなかかわいいやつだな」くらいに思って聞いてあげてください。ちなみに40代後半から50代に差し掛かると急激に『機動戦士ガンダム』好きが増えるので予習しておくと会話のきっかけになるかも。いまならネトフリなどで気軽に見ることができますよ。
「自分が知らない世界を知る」ことは、クリエイティブの仕事で役に立つ
マンガは、年齢の壁を乗り越えてコミュニケーションを生むための武器です。もちろんイヤイヤ読む必要はありません。ですが、先輩は「こいつならその試練を乗り越えてくれるはず」というやつにしか勧めないと思います。
ぼくは、「人が好きなものを好きになってみる」という意識が大事だと思います。ぼくの経験上、「自分が知らない世界を知る」ことは、クリエイティブの仕事で結構役に立つ。とにかく、試してみることで何かしら得られるものがきっとあるはずです。
まずは、なぜそれを勧めるのか、なぜ好きなのかなど、突っ込んで聞くところから始めてもよいと思います。そうすることで、結果的にそのマンガに興味を持てなくても、先輩の価値観を知ることはできると思いますよ。
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