モノブライトは、人生の「迷走」は楽しくて正しいと教えてくれる

人生の迷走を大肯定してくれるバンド

今年結成10周年を迎えるモノブライトに、キャッチコピーを付けるとするならば、「人生の迷走を大肯定してくれるバンド」と呼びたい。彼らほど、世間をざわつかせるような大胆な変化を何度も重ねてきたバンドは、他にいないと言っていい。桃野陽介(Vo)は約2年前に、「もう、永遠に迷走しているバンドっていうね」と発言していたが、彼らは常に自分たちに納得できず、より面白いことを求めて変化し続ける音楽人生を走ってきた。

ざっとモノブライトの変遷を振り返ろう。2006年、北海道にて結成。そのわずか半年後に上京し、白ポロシャツ・黒縁メガネ・スキニージーンズを身にまとった姿で「monobright」としてメジャーデビューを果たす。2年後には、トレードマークだったその衣装から「脱皮」することに。さらに1年後の2010年には、誰も予想しなかった、ヒダカトオル(THE STARBEMS / ex.BEAT CRUSADERS)とmonobrightの「結婚」(彼らは当時メンバー加入をこう呼んだ)を発表、バンド名を「MONOBRIGHT」へ改名する。しかし、結婚生活はたった2年で「離婚」を迎えることに。その数か月後には、再びポロシャツ・メガネ・ジーンズ姿でステージに戻ってきた。続いて2015年6月に、オリジナルメンバーであった瀧谷翼(Dr)が脱退。その4か月後、3人体制で再始動し、自主レーベルを設立すると同時にバンド名を「MONOBRIGHT」から「モノブライト」へ改名することを発表。さらには、2度目の「脱皮」が表明された。

そして2016年1月17日、「モノブライト」として初のワンマンツアーの東京公演が、渋谷CLUB QUATTROにて開催された。桃野、松下省伍(Gt)、出口博之(Ba)のメンバーに加えて、サポートメンバーとしてKENSUKE.A(Dr / SISTER JET)と村上奈津子(Key / WONDERVER)を迎えてのステージ。この日が素晴らしかったのは、自分たちの音楽人生における「迷走」は、すべて正しい選択だったと、自ら大肯定するようなライブだったからだ。

モノブライト 撮影:古渓一道
モノブライト 撮影:古渓一道

能天気さも、悲哀も、より濃密に伝わるようになった桃野の「歌」

いきなり新曲“HELLO”からライブはスタート。前半は主に桃野の「歌」が引き立つセットリストになっていたように思う。特に1曲目や、ギターを置いてハンドマイクで歌った4曲目“夏メロマンティック”から改めて気付かされたのは、モノブライトのサウンドの基盤は、XTCをはじめとするニューウェイヴであることは間違いないが、その中心には、歌謡曲にも通ずるような、あっけらかんとした明るさと同時にどこか悲哀も感じさせる桃野の「歌」が常にあったことだ。昨年12月にリリースされた配信限定シングル“冬、今日、タワー”で桃野が歌う<溢れる愛 溢れる涙>という言葉は、結成から10年の歳月の中で様々な喜怒哀楽とぶつかってきたことを証明しているかのようで、その「愛」や「涙」というありふれた言葉はまったく空虚に響かず、濃い密度でこちらの胸に届く感覚があった。

前半パートにおいて、もうひとつ特筆しておきたいのは、「上京してきてすぐに作って、何度もスタジオに持って行ってアレンジしようとしたけど、その都度『違う』と思ってアルバムに入らなかった曲」と言って演奏された新曲“こころ”についてである。MCから言葉を引用すると、テーマは「真実をぶつけ合うと、誰かを傷つけることがある」ということで、<真実になって 泣きそうになった 真実になって 怒りそうになった>という歌詞で始まり、<真実はきっと最低になった>というフレーズで終わる。この曲がオーディエンスに与えたインパクトは大きかったように思う。ステージパフォーマンスの中でも、楽曲の中でも、おちゃらけた一面を見せる桃野だが、彼はただむやみやたらと能天気に前を向いて突っ走るタイプでは決してなく、あらゆる物事を多角的な視点から凝視する。10年間、1つのバンドに取り組みながら、その都度自分たちの状況を多角的に見てきたからこそ、変わり続けることへの貪欲さが絶えなかったのだろう。

モノブライト 撮影:古渓一道

撮影:古渓一道

モノブライト 撮影:古渓一道

撮影:古渓一道

ホーンアレンジを加えて、自分たちなりの「ダンスロック」を更新

後半は、エンタメジャズロックバンド・カルメラより、辻本美博(Sax)、たなせゆうや(Trombone)、小林洋介(Trumpet)を迎えて、鮮やかな演奏を畳み掛ける。ホーンアレンジを新たに加えた“FUNKTOPIA”が悪くなるはずがないのは、これはもともとウィルソン・ピケット(1941年生まれ、アメリカ出身のR&B / ソウルシンガー)の“ダンス天国”をモチーフにした楽曲であるからだ。

モノブライト 撮影:古渓一道

撮影:古渓一道

ホーン隊が入った“頭の中のSOS”や“踊る脳”といった彼らの初期の代表曲たちは、まったく懐かしさを感じさせず、より楽しさに磨きがかかっていて、フロアにいるオーディエンスも喜びを見せていた。思えば、モノブライトは、フェス全盛期を迎える前、つまり「4つ打ちギターロック」が邦楽ロックシーンにおいて人気を集める前から、自分たちなりの「踊れるギターロック」を奏でてきた(彼らは決して「4つ打ち」に一辺倒だったわけではなく、多様なビートを追究してきた)。実際、否応なしに身体を揺らされる“頭の中のSOS”では、<僕らのダンスミュージック きらめきディスコミュージック 悲しくたって踊るダンスミュージック>と、モノブライトが信じる音楽の価値を高らかに歌うような歌詞が綴られている。トレンドとなる前から「4つ打ちギターロック」でフロアを盛り上げてきた楽曲たちを、30歳を過ぎた今、そしてそのサウンドがもはや時代のど真ん中となってしまった今、管楽器を入れてファンクアレンジに塗り替えたことは、実に賢明な更新であったように思う。また、「ジャズ」の色が強すぎない、ロックにもポップスにも上手く馴染むことのできるカルメラのホーン隊を招いていることも、見事な選択と言えるであろう。“踊る脳”で、ホーン隊の三人とモノブライトの三人がステージの一番前で一直線に立ち、6種類の音でオーディエンスを煽っていた時間はこの日のピークで、渋谷CLUB QUATTROの床が揺れていた。

我々は、どんな選択も「正解」にすることできる

アンコールでは、桃野の誕生日である2月12日に、新曲“ビューティフルモーニング(Wake Up!)”を配信限定リリースすることと、6月から東京・大阪・札幌をまわるワンマンツアーが決定したことを発表。そして、「今までずっと、他がやってないことをやろうとしてきた。そしてこれからも新しいことをやっていく」と、自分たちの過去・現在・未来と向き合った言葉を真摯に吐き出した。

私事だが、ライブの前日、30歳手前の友人から、「転職しようかどうか悩んでいる」という相談を受けた。そのとき私は、当たり障りのない返答をしたのだが、もしその相談を受ける日が1日ずれていたら、迷いなく友人の背中を押していたと思う。なぜなら、人間とは、決断をする前にどれだけ迷っても、自分が選んだ選択肢を常に「正解」にしていくことができる生き物だから。それは、この日、モノブライトの三人が教えてくれたことだった。

モノブライト 撮影:古渓一道

撮影:古渓一道

リリース情報
モノブライト
『ビューティフルモーニング(Wake Up!)』

2016年2月12日(金)から配信リリース

モノブライト
『冬、今日、タワー』
2015年12月11日(金)から配信リリース
イベント情報
『Bright Ground Music ~B.G.M~ Tour』

2016年6月9日(木)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:北海道 札幌 BESSIE HALL

2016年6月15日(水)OPEN 18:15 / START 19:00
会場:大阪府 梅田 CLUB QUATTRO

2016年6月17日(金)OPEN 18:15 / START 19:00
会場:東京都 恵比寿 LIQUID ROOM

料金:各公演3,500円(ドリンク別)

プロフィール
モノブライト
モノブライト

2006年に桃野陽介(Vo)を中心に、松下省伍(Gt)、出口博之(Ba)の北海道の専門学校時代の同級生で結成。UKロックシーンを背景にした、感情と刹那がたたずむ音像は桃野陽介というシンガーソングライターの手によって、ひねくれポップロックへと変遷していく。その象徴ともいえる作品、『未完成ライオット』で2007年にメジャーデビュー。これまでオリジナルフルアルバムとしては2013年にリリースされた『MONOBRIGHT three』などを筆頭にして6作品を発表。さらに、精力的なライブ活動と共に2014年にはZepp Tokyoでのワンマンライブも開催。2015年6月のツアーをもって、結成当初のメンバーでもあったドラムが脱退。夏にはそれぞれのソロ活動を経て、同年10月に新体制での再始動を発表。3人体制となったライブ編成に大きな注目が集まる中、サポートメンバーとして、ドラム、キーボード、そしてホーンセクション3名を加えた8人編成でステージに現れ、今年1月には東阪にてワンマンライブを開催。ライブの勢いそのままに、6月には同編成でツアーを実施することも発表されている。



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