GLIM SPANKYのVR撮影に潜入。VR映像はどうやって作られる?

auの定額制音楽配信サービス「うたパス」が、毎月1組ずつアーティストとコラボレートして360度VR映像を撮り下ろすという、画期的な試み「VROOM」が7月からスタート。第1弾はgo!go!vanillas、第2弾はAwesome City Clubが登場した。アーティストがまるで自分のためだけに歌い、演奏しているような特別な体験は、音楽、そして映像の新たな楽しみ方として各方面から注目を集めている。

そして、第3弾に抜擢されたのは、ロックとブルースとアートを愛する男女2人組ユニット・GLIM SPANKY。これまでの「VROOM」が屋内撮影だったのに対し、今回は屋外ロケという、360度VRにとっては極めてイレギュラーな撮影となった。

今回CINRA.NETでは、その撮影現場に潜入。360度VR映像が一体どのようにして作り上げられるのか、そして、アーティストやクリエイターたちがどれほどの緊張感とこだわりを持って撮影に挑んでいるのかを垣間見た。

撮影は、長野県の山奥にて。なぜそれほど過酷な場所を選んだのか?

GLIM SPANKYの松尾レミと亀本寛貴が、今回360度VR映像を撮り下ろすことに決めたのは“白昼夢”という曲。9月13日にリリースされた3rdアルバム『BIZARRE CARNIVAL』に収録されている、アコギとパーカッションを基軸とするサイケでアコースティックなナンバーだ。なぜ今回、アルバムの表題曲やリード曲ではなく、あえて“白昼夢”をVR映像で作りたいと思ったのだろうか?

松尾(Vo,Gt):“白昼夢”は、私が長野の実家に帰省しているときに作った曲です。レコーディングでは、パーカッショニストのASA-CHANGさんを迎えた3人編成で、一発録りしました。「VROOM」の撮影もテーマが「一発撮り」だと聞いていたので、この曲が合うんじゃないかなって思ったんです。

そうしたら最初の打ち合わせで、撮影スタッフの方からも「“白昼夢”はどうでしょう?」と提案をいただいて。実際、色々と話をしていくうちに、撮影に関するアイデアがどんどん湧いてきたんですよね。

―それは、たとえばどんなアイデア?

松尾:家にあったレインスティックやトライアングル、鈴など小物の楽器を持っていって、アルバムジャケットに登場する妖精たちに、思い思いのタイミングで自由に鳴らしてもらうとか。360度すべてが見渡せる屋外での撮影をしたいというのも、私のアイデアでした。自分たちにとっても、スタッフの方たちにとっても思い入れのある曲だったからこそ、次々とアイデアが生まれてきたんだと思います。

GLIM SPANKY『BIZARRE CARNIVAL』ジャケット。左から:松尾レミ、亀本寛貴
GLIM SPANKY『BIZARRE CARNIVAL』ジャケット。左から:松尾レミ、亀本寛貴

9月某日。朝7時半に都内を出発して、長野県・富士見高原リゾートへ向けて出発する。都内で撮影をするのではなく、この曲が生まれた松尾の地元・長野県まで行くという決断も、アーティストとスタッフのこだわりによるものだ。

現場はそこからさらに車で20分ほど山奥へ入ったところにある、鬱蒼とした木々に囲まれた広場。11時に到着すると、すでにGLIM SPANKYの二人とスタッフはオープニングの撮影準備を進めていた。

GLIM SPANKY
GLIM SPANKY

亀本(Gt):ここ長野県の奥地は、めちゃくちゃ寒い上に足場も悪く、言ってしまえば、都内の撮影スタジオよりも過酷な状況なんですよね。移動も大変だったし……(苦笑)。でも、それだけの苦労をしてここまでやってきた甲斐のある、心から「よかった」と思えるような作品に仕上がる予感がすごくしています。

ジャケットの世界観をVR映像で実現するためのいくつもの工夫

撮影現場に入ると、ディテールまで細かく作り込んだセットに驚く。紙粘土で作った色とりどりのキノコは、細部までリアルに再現されているし、ドリームキャッチャーなどテントの飾り付けも、既製品ではなくほとんどが手作りだという。『BIZARRE CARNIVAL』のアートワークそのままの世界観が、まさに白昼夢のように広がっているのだ。

松尾:キノコは繊維の1本1本まで再現されていて……感激でした。既製品では出せない味が、こういうマジカルな世界観を作る上でとても重要だと思っていて。既製品だとどうしても現実を思い出してしまうし、小さな枠に押し込められた世界観になってしまうじゃないですか。どこにも売っていない手作りの小道具を使うと、一気に「おとぎ話感」が増すんですよね。今回、それができてとても満足しています。

細部まで作り込まれた、手作り感のある撮影セット

細部まで作り込まれた、手作り感のある撮影セット
細部まで作り込まれた、手作り感のある撮影セット

プロデューサーはカタオカセブンで、監督はROBOTの東俊宏。「VROOM」の全シリーズを手がける布陣である。二人によると、PVのストーリーは以下のようなもの。

『BIZARRE CARNIVAL』のジャケットに登場する妖精のような、怪物のようなキャラたちが、森の奥にある小さなステージで楽器を奏でながら遊んでいると、なにやら物音が聞こえる。慌ててテントの中へ隠れる妖精たち。すると、靄の中からGLIM SPANKYの二人が登場し、その小さなステージで“白昼夢”を歌い始めた。最初は警戒していた妖精たちだったが、その美しい演奏につられて一緒に演奏を始めてしまう……。しかしそれらはすべて、視聴者(つまり私たち)が束の間に見た「白昼夢」だった、というエンディング。

“白昼夢”の360度VR映像トレイラー(アプリ「うたパス」で、フルバージョンを視聴する

松尾が「摩訶不思議な仲間たち」と呼ぶキャラクター
松尾が「摩訶不思議な仲間たち」と呼ぶキャラクター

松尾:あの妖精たちは、「摩訶不思議な仲間たち」と私は呼んでいます(笑)。キャンドルを持った修道女や、黒くてトンガリ頭の森の精、仮面を被った少女などいろいろ出てくるのですが、そのゴチャゴチャ感が、たとえばBONZO DOG DOO-DAH BAND(1960年代にイギリスで活躍したバンド)や、GORKY'S ZYGOTIC MYNCI(1991年にウェールズで結成されたバンド)のアートワーク、あるいはTHE BEATLESの『Magical Mystery Tour』や、ジョージ・ハリスンの『All Things Must Pass』っぽい雰囲気というか。サーカスの見世物小屋みたいな、そんな世界観の住人たちなんですよね。衣装は私の私物などを利用して作り、ジャケット撮影のときと同じように、スタッフさんたちに演じてもらいました。

VR映像の撮影方法。マネキンにカメラを取り付ける

オープニングは、妖精たちの演奏シーンを2Dで撮影。2Dによる映像は、作品の中で3Dとの違いを体験するためにも必要な素材となる。それが終わると、いよいよVR撮影へ。

テントに囲まれた円形のスペースの中央にマネキンを置き、その首の部分にVR撮影用のカメラを取り付ける。カメラは球体で、前後左右(及び上下)を撮影できるようにレンズが複数搭載されている。このマネキンの視界が、すなわち視聴者の視界となるのだ。正面にはGLIM SPANKYの二人が演奏するステージがあり、背面と左右には妖精たちが隠れているテントがある。

360度VR撮影用カメラ
360度VR撮影用カメラ

カメラをマネキンに取り付けて撮影する
カメラをマネキンに取り付けて撮影する

360度VRなので、視聴者は空を見上げることもできるが、足元に目を落とすこともできる。そのため、マネキンには服を着せ、靴を履かせなければならない。GLIM SPANKYの音楽や、映像の世界観に合うデザインの服と靴を選ぶなど、ディテールの作り込みも重要だ。

 

VRを外で撮影するのが難題である、2つの理由

今回、撮影を全編屋外ロケにしたのは、かなりチャレンジングな試みだった。まず、一発撮りで撮っているにもかかわらず、空調や音響などをコントロールできる屋内撮影と違い、外だと風向きも変われば陽の光も刻々と変化し、様々な自然音、機械音が混じり合ってしまう。

たとえば、靄を表現するためのスモーク、シャボン玉マシーンによって作り出されたシャボン玉、魚をかたどった風船などは、風向きやその強さによって、全く予想外の動きをしてしまうのだ。しかもスモークを発生させるロスコ(スモークマシーン)や、シャボン玉マシーンの作動音が、思った以上に大きい。そのため、あまりテントに近づけすぎるとマイクに雑音が入ってしまうのである。

ロスコ
ロスコ

森の霧を演出する
森の霧を演出する

魚をかたどった風船
魚をかたどった風船

さらに今回、360度に視界を持つVR専用カメラを用いるため、撮影中は監督、プロデューサー含めて全員がカメラの死角に隠れなければならない。つまり、本番はアーティストを含めたキャストにすべてを任せなければいけないわけだ。

VR専用カメラの設置、妖精たちのアクション、スモークによる演出などがほぼ決まると、アーティストも含めたカメラチェックが行われる。マイクには、風が吹いてもフカレが発生しないようフードが被せられ、松尾のボーカルと亀本のアコギを狙った2本のマイクの他にも、アンビエンス(環境音)を録るためのマイクが10本近く使われた。

 

フード付きのマイク
フード付きのマイク

本番は、凄まじい緊張感が走る

実際にVR専用カメラで試し撮りをして、それをVRスコープでモニターしながらさらに細かく演出の調整をしていく。筆者も視聴させてもらったのだが、屋外ならではの奥行き感、360度見渡せる森の風景、手を伸ばせば届きそうなほど近い距離で、GLIM SPANKYの二人が演奏している映像など、リアリティー溢れる異空間に思わずため息が出そうになった。

VRスコープでモニターする、松尾レミと亀本寛貴

VRスコープでモニターする、松尾レミと亀本寛貴
VRスコープでモニターする、松尾レミと亀本寛貴

時刻は15時をまわり、陽の光も柔らかくなってきた。いよいよ撮影本番である。ミラーで乱反射させた木漏れ日のような陽の光が松尾の顔に落ち、ゆらゆらと動く様子はとても神秘的だ。また、ロスコによって大量に撒かれたスモークに、午後の陽の光が差し込む景色はまさに、おとぎ話の世界のよう。

もう一度、VR専用カメラに余計なものが映らないかを確認し、キャスト以外の人間はすべてカメラの死角を確保したところで本番スタート。カメラが回ってからの数分間は、完全にキャストだけの世界だ。

松尾:今回の撮影は、通常のPV撮影とは違って360度撮られているので、一瞬たりとも気が抜けませんでした。しかも、自分たちだけが映っている角度だけではなく、他の角度にも気を配らなければいけないというのは、これまでにない特別な体験でしたね。

亀本:しかも「当て振り」や「リップシンク」ではなく、「生演奏を一発撮りする」というコンセプトだったので、かなり緊張感がありました。僕らだけでなく、スタッフも大変だったと思います。妖精たちの動きやスモーク、魚の動きなども含めての一発撮りですから。

本番の撮影は、5~6テイクほどで終了。OKテイクは4テイク辺りで撮れていたようだ。他のテイクはいわゆる「おさえ」であり、編集の際の素材として使用する場合もある。ただし、前述したように野外での撮影となると、陽の光やスモークの流れがテイクのたびに違うため、辻褄よく繋ぎ合わせるのは至難の技らしい。

最後に、妖精がトランポリンを使ってジャンプしている様子など、「アザーカット」を幾つか撮影して、本日の作業はすべて終了となった。

トランポリンを使って飛ぶ妖精
トランポリンを使って飛ぶ妖精

撮影が終わり和むGLIM SPANKYと制作スタッフ
撮影が終わり和むGLIM SPANKYと制作スタッフ

撮影場所や、衣装、美術、音響などディテールにとことんこだわって作り上げた、GLIM SPANKYによる“白昼夢”の360度VR映像。後日、完成した作品を見た松尾は「想像していたより何倍もすごい! 遊園地のスペシャルな映像のショーを観に行く感覚というか。1800年代後半から1900年代初頭くらいの移動式遊園地のテントのなかにある、すごく摩訶不思議なマジックショーみたいなイメージで、本当にスペシャルでマジカルな映像です」と表現。

完成試写会で映像に没頭する亀本と松尾
完成試写会で映像に没頭する亀本と松尾

地図にも載っていないような、時空も飛び越えるような場所で、彼らのシークレットギグにお邪魔する。そんな気分にさせてくれる映像体験を、是非とも味わってみてほしい。

“白昼夢”ミュージックビデオ
“白昼夢”ミュージックビデオ VRフルバージョンを見る(アプリ「うたパス」から

サービス情報
うたパス「VROOM」

「特別な空間で、特別な映像体験を」をコンセプトとした、普段決して見ることのできない、アーティスト達の素顔に近づける、auの定額制音楽配信サービス「うたパス」独自の新感覚体験型映像コンテンツです。360度全方位へ自由に視点を動かすことが可能で、まるでその場に自分自身がいるかのような、臨場感溢れる視聴体験をお楽しみ頂けます。また、VRヘッドセットを利用することで、さらに没入感の高い視聴体験を味わうことが可能です。話題のアーティストと最先端のクリエーターが作りあげる『VROOM』は、今後も続々と、アーティストのライブステージや、アーティスト同士のスペシャルコラボセッション等の特別な映像コンテンツの配信を予定しています。

作品情報
『GLIM SPANKY in VROOM』

2017年9月22日(金)11:00から2017年10月23日(月)10:59まで配信
監督:東俊宏
助監督:岡田重人
VR撮影:小竹雪義、阿部田修、深谷昇平
2D撮影・照明:任田辰平、添田康平、朝倉祐三子
録音:高橋勝
音響:橋本真太郎
美術:白田利恵子、古谷野陽子、宇佐美窓里、小林巧実、房佳奈
ヘアメイク:丹羽寛和
スタイリスト:岡村春輝
制作:山本雅美、代田樹未、櫻田真也
コーディネーター:田島満、川崎達哉、辻隆基
撮影協力:安藤誠英、石山岬
衣装協力:HUG、LILY、TUNAGI JAPAN
プロデューサー:谷和博、カタオカセブン
エグゼクティブプロデューサー:八木達雄

リリース情報
GLIM SPANKY
『BIZARRE CARNIVAL』初回限定盤(CD+DVD)

2017年9月13日(水)発売
価格:3,996円(税込)
TYCT-69116

1. THE WALL
2. BIZARRE CARNIVAL
3. The Trip
4. 吹き抜く風のように
5. Velvet Theater
6. END ROLL
7. Sonntag
8. ビートニクス
9. 美しい棘
10. 白昼夢
11. アイスタンドアローン
[DVD]
『GLIM SPANKY 野音ライブ 2017(2017年6月4日日比谷野外大音楽堂)』
・美しい棘
・夜風の街
・怒りをくれよ
・Freeder
・お月様の歌
・闇に目を凝らせば
・ダミーロックとブルース
・褒めろよ
・時代のヒーロー

GLIM SPANKY
『BIZARRE CARNIVAL』通常盤(CD+DVD)

2017年9月13日(水)発売
価格:2,916円(税込)
TYCT-60107

1. THE WALL
2. BIZARRE CARNIVAL
3. The Trip
4. 吹き抜く風のように
5. Velvet Theater
6. END ROLL
7. Sonntag
8. ビートニクス
9. 美しい棘
10. 白昼夢
11. アイスタンドアローン

イベント情報
GLIM SPANKY
『BIZARRE CARNIVAL Tour 2017-2018』

2017年10月14日(土)
会場:長野県 CLUB JUNK BOX

2017年10月15日(日)
会場:長野県 松本ALECX

2017年10月20日(金)
会場:熊本県 B.9 V1

2017年10月22日(日)
会場:福岡県 DRUM LOGOS

2017年10月28日(土)
会場:北海道 札幌 PENNY LANE24

2017年11月3日(金・祝)
会場:京都府 磔磔

2017年11月5日(日)
会場:広島県 広島CLUB QUATTRO

2017年11月11日(土)
会場:石川県 金沢 EIGHT HALL

2017年11月12日(日)
会場:新潟県 studio NEXS

2017年11月17日(金)
会場:宮城県 仙台 Rensa

2017年11月18日(土)
会場:福島県 郡山 HIPSHOT JAPAN

2017年11月23日(木・祝)
会場:大阪府 なんばHatch

2017年11月25日(土)
会場:岡山県 YEBISU YA PRO

2017年11月26日(日)
会場:島根県 松江 B1

2017年12月2日(土)
会場:高知県 X-pt.

2017年12月3日(日)
会場:香川県 高松 DIME

2017年12月9日(土)
会場:静岡県 清水 SOUND SHOWER ark

2017年12月10日(日)
会場:愛知県 名古屋 DIAMOND HALL

2018年1月5日(金)
会場:東京都 新木場 STUDIO COAST

2018年1月6日(土)
会場:東京都 新木場 STUDIO COAST

2018年1月13日(土)
会場:香港 Music Zone@ E-Max, KITEC

2018年1月20日(土)
会場:台湾 THE WALL公館

プロフィール
GLIM SPANKY
GLIM SPANKY (ぐりむ すぱんきー)

松尾レミ、亀本寛貴による、ロック、ブルースを基調にしながらも、新しい時代を感じさせるサウンドを鳴らす男女二人組ロックユニット。アートや文学やファッション等、カルチャーと共にロックはあることを提示している。ハスキーで圧倒的存在感のボーカルと、ブルージーで感情豊かなギターが特徴。ライブではサポートメンバーを加え活動中。



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