東京塩麹、すばらしか、RIDDIMATESらによる異種混合戦をレポ

若者たちの心模様を言葉と音で刻んだ、「すばらしか」という名のブルース

CINRAと音楽アプリEggsの共同主催による無料音楽イベント『exPoP!!!!!』が9月28日に、TSUTAYA O-nestにて開催された。8月に記念すべき100回目を日比谷野外大音楽堂で迎えた本イベント、101回目からは再び、舞台はライブハウスO-nestへ。

この日のトップバッターを飾ったのは、すばらしか。2015年の末に結成された3人組(ステージは主に、サポートを加えた4人編成)。

すばらしか
すばらしか

その音楽性は、はっぴいえんどや村八分といったレジェンドの名が引き合いに出される、純正の「日本語ロック」。しかしながら、すばらしかの本当に「素晴らしか」な点は、彼らが決して1960~70年代のフォロワーでも懐古主義者たちでもない、というところにある。「古きよき日本語ロックをやろうとした」のではなく、「今を生きる自分たちの心象を表現したらこうなった」という切実さと生々しさが、その演奏と言葉にはしっかりと刻まれている。

加藤(Ba)
加藤(Ba)

ロックやリズム&ブルースを基調としながら、ときにレゲエも昇華した熱くグルーヴィーなサウンドに、貫禄ある佇まいのボーカリスト・福田の不遜な禍々しさと、今にも泣きだしそうな切なさを同居させた歌声。その、どこまでもリアルに響く楽曲たちに、今の若者たちのブルースの在り処を見たような気がした。

福田(Vo,Gt)
福田(Vo,Gt)

ギターロックシーンに登場した新たな大器、YAJICO GIRL

2番手は、若き5ピースバンド、YAJICO GIRL。去年、『未確認フェスティバル』や『MASH FIGHT!』『出れんの!?サマソニ!?』といったコンテストで賞を総なめにした期待の新鋭だ。

YAJICO GIRL
YAJICO GIRL

YAJICO GIRLに向けられる「期待」とは何かと言えば、それは「ギターロック」の更新。この日、ボーカル・四方颯人はフランク・オーシャンの『Blonde』(2016年)のマーチを着ていたが、YAJICO GIRLからは、自分たちを育てたロックミュージックへの愛情を抱きしめたうえで、新たな「ポップ」の地平に足を踏み入れようとする野心もヒシヒシと感じる。

四方颯人(Vo)
四方颯人(Vo)

たとえば、この日、1曲目に演奏された“Casablanca”のスムーズなグルーヴ感は一介のギターバンドには出せないものだったし、“いえろう”や“黒い海”が持つスケールの大きなポップネスは、そのまま、バンドとしての懐の大きさを表しているよう。大器の登場を感じさせるステージングを披露した。

YAJICO GIRL

大海のように深く、激しい、ナツノムジナのアート性

3番手は、沖縄出身の4ピースバンド、ナツノムジナ。9月にリリースされたばかりの初の全国流通盤のタイトルが『淼のすみか』なのだが、この「淼(びょう)」という言葉は、「水が果てしなく存在する状態」を意味する。そして、この言葉は見事にナツノムジナの音楽性をも言い表している。

ナツノムジナ
ナツノムジナ

「激しさ」が逆に「静けさ」をも感じさせる、そのノイジーなサウンドスケープが想起させるのは、海。しかし、それは人工的に整備されたリゾートとしてのものではなく、ときに人を死へと引きずり込んでしまう大自然の海だ。

轟々と波のようにうねりながら、ときにメランコリックなメロディーを聴かせるギター、展開を縦横無尽に変えながら躍動するリズム。その演奏は、OGRE YOU ASSHOLEやTHE NOVEMBERSがそうであるように、ギターミュージックというフォーマットで1枚の巨大な抽象画を描くような、アーティスティックな深みに満ちていた。

粟國智彦(Vo,Gt)
粟國智彦(Vo,Gt)

仲松拓弥(Gt)
仲松拓弥(Gt)

熱く、快楽的、そして詩的な、RIDDIMATESのブラスロック

4番手に登場したのは、RIDDIMATES。「ブラスロッカーズサウンド」を掲げるこの6人組が鳴らすのは、スカ、レゲエ、ジャズ、ファンク、アフロビートなどなど、国境もジャンルも超え、様々な音楽性を昇華したダンスミュージックだ。

RIDDIMATES
RIDDIMATES

人と人、国と国、音楽と音楽――そんな様々なものの間に「壁」が存在する時代において、RIDDIMATESのエクレクティック(折衷的)な感性は希望そのものだ。この日も、その快楽濃度の高いグルーヴで、冒頭から一気にフロアを浸食していく。そして、RIDDIMATESのさらに素晴らしいところは、腰にクるグルーヴ感を持つインスト音楽でありながらも、味わい深い詩情や歌心も感じさせるところ。

RIDDIMATES

1音1音が、ただ機能的に鳴らされているわけではない。その音は歌い、笑い泣き、叫んでいる。特に新作『OVER』収録曲を中心としたこの日のステージでは、彼らが本来的に持つ快楽性とポップネスが見事に爆発していた。

CrossYou(T.Sax)
CrossYou(T.Sax)

人の手による微細な「ズレ」も感動に変えた、人力ミニマル楽団・東京塩麹

そして、この日のトリを飾ったのは「人力ミニマル楽団」、東京塩麹。「ミニマルミュージック」とは、往々にして短いフレーズが反復される実験音楽を指すが、東京塩麹の「ミニマルミュージック」はすさまじく躍動感があり、ファンキーだ。

ギター、ベース、キーボード、ドラム、ジャンベ、シンセ、トランペットといった各楽器の奏でる音たちが、絶妙に構築されたアンサンブル。そのなかでズレたり重なり合ったりしながら、「楽曲」に到達するまでの工程、そのなかにある計算、運動、祈り……その全てがあまりに綿密、かつエモーショナル。

東京塩麹
東京塩麹

そのアンサンブルの微細さは、Corneliusの『Mellow Waves』(2017年)の音世界にも通じているが、東京塩麹の場合、それが「人力」の「楽団」によって成されるというのがポイント。複数の人間(パーマネントメンバーは8人だが、この日はサポートキーボードにWONKの江﨑文武が、ゲストボーカルにはermhoiが参加)によって、調和もズレも内包しながら、「楽曲」というひとつの世界を構築していく様は、感動的ですらあった。

ermhoi
ermhoi

額田大志(東京塩麹の主宰)
額田大志(東京塩麹の主宰)

歌詞のメッセージ性云々ではなく、音楽でしか語り得ないものの存在を知っている5組の演奏。この日の『exPoP!!!!!』は、音楽が素晴らしく饒舌に語る夜だった。

イベント情報
『Eggs×CINRA presents exPoP!!!!! volume101』

2017年9月28日(木)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
RIDDIMATES
すばらしか
東京塩麹
ナツノムジナ
YAJICO GIRL
料金:無料(2ドリンク別)

『Eggs×CINRA presents exPoP!!!!! volume102』

2017年10月26日(木)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
MINT mate box
NIHA-C
シュリスペイロフ
羊文学
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プロフィール
すばらしか
すばらしか

2015年末に、福田(Vo,Gt)、加藤(Ba)、中嶋(Dr)で結成。現在はサポートとして、林(Key)を迎えた4人で演奏している。2017年2月に発売した自主盤『灰になろう』はネット上や各地のレコード店で軒並み話題になり、200枚即完売(現在は入手不可)。このたび新たにマスタリング、そして新曲「傘を差したままの心」、「隠そうとしてるだけ!」のライブ音源、萩原健一「お元気ですか」のカヴァーを加えた、計8曲のEPを発売中。

YAJICO GIRL (やじこ がーる)

武志綜真(Ba)、吉見和起(Gt)、四方颯人(Vo)、古谷駿(Dr)、榎本陸(Gt)。『未確認フェスティバル2016』『MASH FIGHT Vol.5』など、2016年各種コンテストを総なめとしたその事実を裏切らない才覚を宿す、希少生命体のような5人組ロックバンド。現在大学3年生。2012年、高校の軽音楽部で結成。くるりやASIAN KUNG-FU GENERATIONを敬愛する四方(Vo)が作詞作曲を務め、独自のフィルターを通してアウトプットされる楽曲は王道とマニアックの間を行き、幅広く支持を集める。これまでMVの制作からデザインまで古谷(Dr)の主導により完全自主制作で行い、その作品の評価も高い。独特の個性とリズムで日々を歩くマイペースなスタイルとは裏腹に、楽曲に込めるメッセージは時代の憂いを的確に捉えて、アンチテーゼをさりげなく放つ。どこか哀愁漂う圧倒的メロディセンスと抒情的な歌詞が秀逸な、2017年バンドシーン最重要な「転がる石」ロックンロールモンスター。

ナツノムジナ

2010年、沖縄にて高校入学を目前に結成。オルタナ、インディー、プログレ、サイケなどメンバーそれぞれが異なる背景を持ち寄り、ある時は水面や靄の中を回遊しながら、ある時は文字とそれに抗う視線のやり取りを用い、独自の音楽を演奏することを心がけている幼なじみ4人組バンド。2017年9月6日には、初の全国流通版である1stフルアルバム『淼のすみか』をリリース。

RIDDIMATES (りでぃめいつ)

ブラスロッカーズサウンドを掲げ、ありふれた音楽ではない、刺激のある音楽を創りだし、日々の喜びに変えるバンド「リディメイツ」。熱くて、男臭くて、音を楽しんでいて、ご飯を良く食べる。生活の一部に音楽が常にある、そんな願いがあるんだかないんだか。本気で遊んで、本気で音楽する、そんなバンドの物語。2014年春に4枚目のアルバムを発売し、リリースパーティーのワンマンを渋谷CLUB QUATTROにて満員御礼の大成功に収め、そのままの勢いで『FUJI ROCK FESTIVAL '14』に出演。その際「来年はもっと上で!」と言ったら2015年はリーダーCrossYouがノエル・ギャラガー(ex.OASIS)のホーン隊として『FFUJI ROCK FESTIVAL '15』に出演しちゃう、飛び級事件勃発。それ以降も『りんご音楽祭2015』出演など各フェスで活躍、2016年はシングルepをリリースし京都FMでパワープレイに選出。6月に待望のニューアルバム『OVER』をリリース。

東京塩麹 (とうきょうしおこうじ)

2012年末に結成された、8人組の人力ミニマル楽団。音楽史上初『ビン詰め音源』の販売や、人力だからこそなし得るグルーヴィーな生演奏が持ち味。ライブ活動、音源制作だけでなく『既存曲の人力Remix公演』や『客席を360°囲んだ人力サラウンドライブ』など、趣向を凝らした単独公演を度々開催。2017年8月、1stフルアルバム『FACTORY』をリリース。同作はNYの作曲家スティーヴ・ライヒ氏にも絶賛される。東京から世界に向けて、新世代のミニマルを発信中。※この日はサポートアクトとして江﨑文武(WONK)、ermhoiが参加



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