社会現象を巻き起こした『GIRLS』のクリエイター レナ・ダナム
「私は私の世代の代弁者かもしれない。少なくともある世代の1人の代弁者だと思う」。レナ・ダナムが製作・監督・脚本・主演を務めたドラマ『GIRLS』シーズン1の第1話でレナ演じる主人公・ハンナは両親に向かってそう口にした。
そこから5年。ニューヨークに住む四人の女子のうだつのあがらない日常を通して、親世代との収入差や就職難、うまくいかない恋愛など、ミレニアル世代の本音を代弁したこのドラマはシーズン6をもって今年4月にフィナーレを迎えた。
『エミー賞』8部門ノミネート、『ゴールデングローブ賞』コメディードラマ部門主演女優賞および作品賞に輝くなど、大きな話題を呼んだこの作品。日本でもHuluやスターチャンネルで放送され、先月にスターチャンネルでファイナルシーズンの最終回が放送された。
そんな『GIRLS』の原点とも言うべきレナ・ダナム監督・脚本・主演の映画『タイニー・ファニチャー』が、10月22日にキネカ大森で行なわれた『ほぼ丸ごと未公開! 傑作だらけの合同上映会』内で日本初上映され、レナのエッセイ『ありがちな女じゃない』の訳者である山崎まどかがアフタートークに登壇した。
『GIRLS』の原点、レナ・ダナムの監督映画が7年ごしの日本初上映
2010年に公開された『タイニー・ファニチャー』は、大学卒業後に恋人と別れてニューヨークの実家に戻ってきた主人公オーラが、家族や再会した幼なじみ、居候させてしまった男、アルバイト先のシェフらと接しながら自分のやりたいことを模索する様を描いている。
低予算で作られたインディペンデント映画で、主人公の母親と妹はレナの本当の母親でアーティストのローリー・シモンズ、妹でモデルとしても活動するグレース・ダナムが演じているほか、撮影もレナが実際に子供時代を過ごしたニューヨーク・トライベッカの家で行なわれた(現在は売却されている)。
左がレナ・ダナムの母親ローリー・シモンズ 『タイニー・ファニチャー』より
レナ・ダナムの妹グレース・ダナム 『タイニー・ファニチャー』より
上映会は台風が猛威を振るう悪条件にもかかわらず、ほぼ満席。登壇した山崎まどかが客席に「『タイニー・ファニチャー』面白かったですか?」と聞くと拍手が巻き起こった。
『タイニー・ファニチャー』は、レナが23歳の時に『SXSW』でプレミア上映されて賞を獲得。コメディー界のヒットメイカーであるジャド・アパトーはこの作品を見てレナにドラマの製作を持ちかけ、それが『GIRLS』の誕生へと繋がったという。
山崎によればこのアパトーからのオファーは「夢みたいな話」。「コメディーをやりたい男の子たちは、いつか白馬にのったジャド・アパトーが現れて、僕と一緒にコメディー番組を作ろうと言われることを夢見ている。それを彼女が射止めた」と説明した。
レナ・ダナムに実際に会った、山崎まどかが語る魅力
『GIRLS』の主人公ハンナも、『タイニー・ファニチャー』の主人公オーラも、何者かになりたい思いをくすぶらせながら、努力もせず甘えている「どうしようもない女の子」として描かれているが、実際のレナとレナが演じている役には乖離があると山崎は語る。
日本でいち早くレナ・ダナムに注目し、紹介してきた山崎は、実際にレナに会った時の経験を振り返り「すごくカリスマ性がある」「実際に会うとみんながメロメロになる魅力の持ち主。彼女と向かい合うと、自分がすごく重要な人だと思わせてくれる人」と明かした。だからこそ『タイニー・ファニチャー』という1本の作品から驚くべき出世を遂げたのも頷けるのだという。
レナ・ダナムの方法論が発火点となった1つのムーブメント
『タイニー・ファニチャー』でも『GIRLS』でも主演から監督までをこなしているレナ・ダナムだが、山崎はイッサ・レイが主演・製作を手掛ける『インセキュア』などを例に挙げながら、このように作家が主演もこなすというスタイルが映画だけでなくドラマにまで広まったのは、レナ・ダナムが発火点となったムーブメントだと話す。
「こういう方法でやっている人はたくさんいたが、ちゃんと話題になる、お金になることがわかったので、放送局が(企画に)GOを出すようになったという点でも画期的。(『タイニー・ファニチャー』は)この映画で完結するのではなく、この映画の方法論が世間的に通用することがわかったという意味でも、ものすごく大きな作品だと思います」と分析した。
また「自分で主演して、自分の話をしていて、誰でもできると思うかもしれないけど、実際は誰もやっていなかったし、彼女のようなやり方でやった人は1人もいなかった」「そういう意味でコロンブスの卵」と評した。
「新しい映画のようでいて女性映画の系譜にきちんとはまっている」
山崎が「新鮮だった」と語るのは、劇中で主人公のオーラが母親の日記を見つけて読むシーン。この日記はレナの母ローリー・シモンズが実際につけていた日記だそうだ。
この日記には20代が抱く様々な渇望と日常の些細なことが同時に綴られている。山崎は、その日食べたものなども細かく記録されている随筆家・武田百合子の『富士日記』を読んだ女性たちが、同書の中に決まった物語のドラマツルギーやナラティブではない、「女の人の語り方」を発見したように、レナは映画の中で同じことを読者の立場からやっていると指摘する。
「自分たちの物語をどう語るか、という時にお手本がない。でも昔から女性たちは自分の葛藤もごはんの話も日記などに書き付けてきた。そういう感じが映画の中にフィードバックされていて、ある種すごく新しい映画のようでいて、女性映画の系譜にきちんとはまっているところが素晴らしい」と話した。
「今日この作品を観たことは自慢になる」
『タイニー・ファニチャー』には、アレックス・カルポブスキーやジェマイマ・カークなど、『GIRLS』でおなじみのキャストも出演しているが、2人とも『タイニー・ファニチャー』や『GIRLS』の出演を契機にキャリアをさらに発展させている。
『GIRLS』にジェッサ役で出演しているジェマイマ・カーク(右) 『タイニー・ファニチャー』より
『GIRLS』にレイ役で出演しているアレックス・カルポブスキー(右) 『タイニー・ファニチャー』より"
トークの最後を山崎はこう締めくくった。「この映画は1人の女の子が将来に迷っているという映画だけど、結果的にそこから新しい表現や仕事が生まれ、色んな人がこういうことをやるようになったことで映画の文法も変わってきた。あと10年、20年経つと映画の評価も変わるはず。今日、日本の初上映をここで観れたことは自慢になると思います」。
『ほぼ丸ごと未公開! 傑作だらけの合同上映会』とは?
今回『タイニー・ファニチャー』の上映が実施されたのは、10月21日と22日に東京・キネカ大森で行なわれ、12月2日に渋谷のユーロライブでも開催される『ほぼ丸ごと未公開! 傑作だらけの合同上映会』の一環。
『タイニー・ファニチャー』の上映を担当したGucchi's Free Schoolをはじめ、After School Cinema Club、naito cinema、飯野絢平、岡俊彦、宮本泰輔の6組の団体および個人が、権利交渉から字幕付まで全てを独力で行ない、日本未公開作などを上映した。
- 作品情報
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- 『タイニー・ファニチャー』
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監督・脚本:レナ・ダナム 出演:
レナ・ダナム
ローリー・シモンズ
グレイス・ダナム
ジャマイマ・カーク
アレックス・カルポブスキー
デヴィッド・コール
メリット・ウェヴァー
- イベント情報
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- 『ほぼ丸ごと未公開! 傑作だらけの合同上映会』
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2017年10月21日(土)、10月22日(日)、12月2日(土)
会場:東京都 キネカ大森、渋谷 ユーロライブ
上映作品:
10月21日
『サマーズ・タウン』(監督:シェーン・メドウズ)
『ベアフット』(監督:アンドリュー・フレミング)
『呼吸―友情と破壊』(監督:メラニー・ロラン)
『ミュージック・オブ・チャンス』(監督:フィリップ・ハース)
10月22日
『フォー・ライオンズ』(監督:クリス・モリス)
『ニュー・カントリー』(監督:ジェリ・ハンスティーン・ヨーゲンセン)
『タイニー・ファニチャー』(監督:レナ・ダナム)
12月2日
『ノーザン・ソウル』(監督:エレイン・コンスタンティン)
『ラサーン・ローランド・カーク The Case of the Three Sided Dream―過去・現在・未来そして夢』(監督:アダム・カーン)
料金:
前売1,300円 10月21日券5,200円 10月22日券3,900円 12月2日券2,600円 全日券10,000円
当日1,500円
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