『未確認フェス』のグランプリ。17歳のリツキの荒々しくも繊細な歌
12月21日、音楽アプリ「Eggs」とCINRAの共同主催による無料音楽イベント『exPoP!!!!!』が、TSUTAYA O-nestで開催された。『exPoP!!!!!』といえば、毎度、ジャンルも世代もバラバラなメンツが揃うイベントだが、2017年最後の開催となったこの日は、登場した5組全員がソロ名義の「シンガーソングライター」であるという、珍しく統一感のある夜。
トップを飾ったのは、埼玉出身の17歳、リツキ。去年、10代限定の音楽コンテスト『未確認フェスティバル2017』でグランプリを受賞した青年だ。
ギターを掻き鳴らしながら矢継ぎ早に言葉を乗せていく、そのスタイルに宿る速度とメロウネスは、どこか小山田壮平(AL)を想起させる。ステージの中央に立ちながら、それでも「片隅にいる」――そんな印象を与える彼の佇まいには、若さゆえの荒々しさと繊細さが同居しているようで、その「若さ」はとても生々しく、その音を通して聴き手にもダイレクトに響いてくる。
ときに地面に叩きつけるように、ときに虚空に向けて呟くように、独特の詩情を宿した楽曲たちを立て続けに披露した。
幼い子どものような無邪気さと、全てを包み込む母性を宿すシンガー・高井息吹
続いては、1993年生まれのシンガーソングライター、高井息吹。2ndアルバム『世界の秘密』リリース直後の出演となった彼女は、音大を卒業し、多くのCM楽曲も手がける才女だ。
キーボードの前にひとり鎮座した高井。彼女の柔らかく豊かな歌声、饒舌に躍動するメロディーは、幼い子どもが世界中の全ての謎と秘密に向かって「ねぇ、なんで?」と問いかける無邪気さを持ちながら、謎も秘密も全て「そのままでいいんだ」と包み込むような母性も宿している。高井がステージにいる間は、とても深く大らかな時が流れる感じがした。
歪で、自由で、過剰。入江陽の圧倒的な個性
3番手に登場したのは、入江陽。岡村靖幸やFISHMANSにも通じるソウル / ファンクの遺伝子を持ちながら、それをさらに歪に、さらに自由に、さらに過剰に展開する、圧倒的な個性を持つシンガーだ。
今回は、ギターとドラムを加えた3ピースのバンドセットで登場。笑えばいいのか、泣けばいいのか。踊ればいいのか、立ちすくめばいいのか……きっと、初めて入江陽の演奏を観た人は、一瞬、自分がいま、どう反応すればいいのかわからなくなったことだろう。
でも、「わからない」からこそ、次の瞬間から、人は彼の奏でる音に全細胞を委ねるしかなくなる。ダンスとノイズと歌謡が混ざり合う、独特の空間と化したフロアは、「音」と「人」の関係が潔くて、心地よかった。
「カクバリズム」が送り出す才女・mei eharaの気だるくも凛とした歌
4番手は、mei ehara。2017年に、キセルの辻村豪文プロデュースによる1stアルバム『Sway』を名門「カクバリズム」からリリースしたシンガーソングライターだ。
『Sway』より、“戻らない”を試聴する(SoundCloudを開く)
照明が暗く落とされたフロアのなか、ステージの上から立ち昇ってくる彼女の歌は、まるで暗闇のなかで揺らめく炎を灯す蝋燭のよう。
アルバム『Sway』では様々な音が重ねられたサウンドアレンジによって色彩豊かに彩られていた歌声が、この日、「弾き語り」というダイレクトな表現方法によって、その凛とした孤独を一層、露わにしているように感じられた。彼女が歌い爪弾く、その気だるくも心地よいメロディーが、じんわりと空間全体に染み渡るような時間が流れた。
あどけなくも色気のあるシンガー・大比良瑞希、チェロ含む5人編成で登場
そして、トリを飾ったのは、大比良瑞希。ブラックミュージック、クラシック、エレクトロニックミュージック……様々なサウンドエッセンスを飲み込み、独自のポップスへと昇華するシンガーソングライター / トラックメイカーだ。
この日は、大比良のプロデューサーでもあるチェリストの伊藤修平を含む四人のバックバンドを従えて登場。メロウかつグルーヴィーなバンドサウンドの中心で、華やかに、舞うようにギターを弾き歌う大比良。
その表情と歌声は、ある瞬間は少女のようなあどけなさを、ある瞬間は大人の女性の色気を見せ、見るものを惹きつける。クリスマス直前の夜とあって“Good Night - Xmas Remix”もバンドバージョンで披露。深く甘いワインのような豊潤な音楽が、溢れんばかりにこの夜を満たした。
さて、この文章の始めには「珍しく統一感のある夜」と書いたが、蓋を開けてみれば、同じソロ名義のシンガーソングライターと言えど、そのアウトプットは五者五様、全く異なるもので、いつもの『exPoP!!!!!』らしい、いい意味で雑多な夜となった。やはりこれだけの音楽家が揃えば、そこから生まれる音楽の可能性は無限に広がっていくものなのだ。
- イベント情報
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- 『Eggs×CINRA presents exPoP!!!!! volume104』
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2017年12月21日(木)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
mei ehara
入江陽
大比良瑞希
高井息吹
リツキ
- 『Eggs×CINRA presents exPoP!!!!! volume106』
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2018年2月22日(木)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
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TENDRE
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- プロフィール
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- リツキ
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10代アーティスト限定『未確認フェスティバル2017』にて突如現れた17歳のシンガーソングライター。人生2回目のライブを満員の新木場STUDIO COASTで披露し、見事グランプリを受賞!審査員や関係者を騒然とさせた奇跡の歌声は、未来の音楽シーンを開く鍵となる!
- 高井息吹 (たかい いぶき)
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1993年生まれ。5歳からクラシックピアノを始める。幼い頃から自分で聴いた音楽をピアノでアレンジし弾いていた。その後、吹奏楽やバンド等、様々なスタイルの音楽に触れる。日本のポップスやロックを中心に、クラシックやジャズ、オルタナティヴミュージック等に音楽的な刺激を受け、本格的に作詞・作曲・弾き語りを始めたのは19歳の頃。現在はバンド形態も含め、都内を中心にライブ活動を行っている。昨年12月にアルバム『世界の秘密』をリリースしたばかり。
- 入江陽 (いりえ よう)
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1987年生まれ。東京都新宿区大久保出身。歌手。最新アルバムは『FISH』。映画音楽の制作も行う。最新作は映画『最低。』(原作:紗倉まな、監督:瀬々敬久)。2017年11月25日(土)より角川シネマ新宿ほか全国公開。
- mei ehara (めい えはら)
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1991年愛知県生まれ。学生時代、自主映画のBGM制作のため宅録を始める。その後、歌唱を入れた音楽制作に移行し、may.eという名義で、これまでに計5作の自主制作作品を発表。Yogee New Waves、nakayaan(ミツメ)などのアルバムにゲストコーラスで参加。音楽活動のほか、文藝誌『園』主宰、写真やデザインなどの制作活動も行う。活動名をmei eharaと改め、2017年11月、カクバリズムより本格デビュー。
- 大比良瑞希 (おおひら みずき)
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東京出身のシンガーソングライター/トラックメイカー。作曲家/チェリストの伊藤修平をプロデュースに迎え、2015年ミニアルバム『LIP NOISE』のリリースでソロ活動をスタート。2016年、アルバム『TRUE ROMANCE』をリリース。2017年8月より3か月連続シングルのデジタルリリースを発表。Bjorkのカバーが話題になる他、エレキギターの演奏スタイルや歌声、サウンドからは、Feistや Lianne La Havas、ROOS JONKERと比較されることも。『FUJI ROCK FESTIVAL』のほか、『SUMMER SONIC』、『りんご音楽祭』、『音泉温楽』などフェスへの出演も多数。歌とギターのほか、企業CMへの楽曲提供や様々なアーティストのサポートワークでも注目を集めている。コーラスワークでは過去にtofubeatsやLUCKY TAPES、Alfred BeachSandal×STUTSなど多数の作品に参加。
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